6月の半ば、定年から2か月たった家に、市役所から住民税の納税通知書が届いた。もう給料は入っていないのに、第1期の納付書には、給与から引かれていた頃よりずっと大きな数字が並んでいる。「退職したのに、なぜ」と手が止まる方は少なくありません。
この記事では、退職した翌年の住民税が高く感じる理由と、退職した月ごとの払い方を整理します。あわせて、65歳からの年金天引きの始まり方と、年金生活で住民税がかからなくなる目安も見ていきます。数字は2026年10月時点で、総務省・名古屋市・国税庁の公表内容を確かめたものです。
この記事の結論
- 住民税は前の年の所得にかかり、6月から翌年5月に納めます。退職した翌年は、働いていた年の給与で計算された額が納付書で届くので、高く感じます。
- 退職した年度の残りは、1〜4月の退職なら最後の給与などからまとめて差し引かれます。6〜12月の退職なら、まとめて払うか納付書で払うかを選べます。退職金の住民税は、受け取るときに差し引き済みです。
- 65歳以上は条件を満たすと年金から天引きになり、初めての年は10月から始まります。名古屋市でひとり暮らし、収入が年金だけなら、年金収入155万円以下が非課税の目安です。
退職した翌年の住民税が高いのはなぜ?|前の年の所得にかかる税
住民税は、前の年の1月から12月までの所得をもとに計算されます。住民税をかけるのは、その年の1月1日に住んでいる市町村です。納める期間は、その年の6月から翌年5月までです。
つまり、退職した翌年の6月に届く通知書は、まだ働いていた年の給与で計算されています。収入が年金だけになっても、その年度の住民税は「働いていた頃の額」です。高く感じるのはこのためで、計算の間違いではありません。
もう一つの理由は、払い方が変わることです。在職中は、1年分を12回に分けて毎月の給与から差し引かれていました。これを「特別徴収」といいます。退職後は、市から届く納付書で自分で納めます。こちらは「普通徴収」です。名古屋市の普通徴収は、6月・8月・10月・翌年1月の4回払いです。
仮に1年分が24万円なら、給与天引きでは月2万円ずつでした。納付書になると1回6万円ずつです。1年の合計は同じでも、1回の額が3倍に見えます。
住民税が下がるのは、収入が減った年の「次の年度」からです。2026年3月に退職して年金生活に入った方なら、2026年度(2026年6月〜)は2025年の給与で計算されます。2026年の収入で計算されるのは、2027年度(2027年6月〜)からです。
退職した月で変わる払い方|一括徴収と普通徴収の早見表
退職した年度は、在職中に毎月引かれていた住民税の「残り」をどう納めるかが決まります。名古屋市の資料では、退職した時期で次のように分かれます。
| 退職した時期 | その年度の残りの払い方 | 補足 |
|---|---|---|
| 1月〜4月 | 5月分までの残りを、最後の給与や退職金からまとめて差し引く(一括徴収)。本人の希望にかかわらず行われる | 再就職先で続けて給与天引きにする場合や、5月31日までに支払われる給与などが残りの税額以下の場合は、納付書で納める |
| 5月 | 5月の給与で最後の月の分が引かれれば、その年度の分は納め終わる | 給与からの天引きは6月から翌年5月までの毎月のため |
| 6月〜12月 | 本人が申し出れば、残りを最後の給与や退職金からまとめて差し引ける。申し出なければ、後日届く納税通知書で自分で納める(普通徴収) | 再就職先で続けて給与天引きにすることもできる |
(名古屋市「特別徴収のしくみ」「令和8年度 給与所得等に係る特別徴収のしおり」をもとに作成。2026年10月時点)
6月から12月に退職する方は、どちらにするか選べます。まとめて差し引くと、退職月の手取りは減ります。そのかわり、あとで納付書を管理する手間がなくなります。普通徴収にすると、退職してしばらくたってから市の通知書が届きます。退職前に勤め先の担当者へ「住民税の残りはどうなりますか」と聞いておくと安心です。
気をつけたいのは、どちらを選んでも翌年度の住民税は別に届くことです。上の表は「退職した年度の残り」の話です。退職した年の1月から退職日までの給与にかかる住民税は、翌年6月に新しい通知書として届きます。
退職金の住民税は、受け取るときに精算済み
退職金にかかる住民税は、ほかの所得とは分けて計算します。受け取るときに勤め先が差し引き、市町村に納めます。これを「分離課税」といいます。翌年の住民税に退職金の分が上乗せされることはありません。
名古屋市の案内では、税率は市民税6%・県民税4%です。この税率を「退職所得の金額」にかけます。退職所得の金額は、退職金から退職所得控除を引いた額の、原則2分の1です。
- 勤続20年以下:退職所得控除は40万円×勤続年数(80万円に満たないときは80万円)
- 勤続20年超:退職所得控除は800万円+70万円×(勤続年数−20年)
- 勤続年数の端数:1年未満は1年に切り上げ(例:2年1か月は3年)
所得税も、勤め先に「退職所得の受給に関する申告書」を出していれば、受け取るときに精算されます。その場合、原則として確定申告は要りません。出していないと、支払額の20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算します。源泉徴収票の見方や、ご自身に申告が要るかどうかは、提携の税理士が確認します。
定年から年金生活までの住民税カレンダー(例)
65歳で2026年3月末に定年退職し、4月から年金で暮らす方を例にします。退職の時期や年齢、ほかの収入で変わるので、流れをつかむ目安としてご覧ください。
| 時期 | 起きること |
|---|---|
| 2026年3月(退職時) | 2025年度分の残り(4月・5月分)を、最後の給与か退職金からまとめて差し引き。退職金の住民税も、受け取るときに差し引き |
| 2026年6月 | 2026年度分の納税通知書が届く。2025年1〜12月の給与で計算。名古屋市なら6月・8月・10月・翌年1月の納付書で納める |
| 2027年6月 | 2027年度分の通知書が届く。2026年1〜3月の給与と、4月からの年金で計算。給与の分は納付書。年金の分は、条件を満たせば6月・8月が納付書、10月から年金天引き |
| 2027年10月・12月・2028年2月 | 年金の振込額から住民税が差し引かれる |
| 2028年4月から | 前年度から続けて年金天引き。4月・6月・8月は仮の額、10月・12月・2月で1年分の額にそろえる |
(総務省「個人住民税」、名古屋市「特別徴収のしくみ」「公的年金からの特別徴収」「市税の納期一覧」をもとに作成した例。2026年10月時点)
この例でいちばん負担が重く感じやすいのは、2026年6月からの1年間です。収入は年金だけなのに、前の年の給与で計算された住民税を納付書で納めます。退職金を受け取ったら、この1年分の住民税と、健康保険料などの支払いの分を、使うお金として分けておくと慌てずにすみます。
年金天引きはいつから?|仮徴収と本徴収のしくみ
65歳以上で年金を受けている方の住民税は、年金から差し引かれる仕組みがあります。正式には「公的年金からの特別徴収」です。名古屋市の案内では、対象は4月1日時点で65歳以上の公的年金の受給者です。次のどれかに当てはまる方は対象外で、納付書などで納めます。
- 介護保険料が年金から天引きされていない
- 天引きの対象になる年金が、年18万円未満
- 住民税の額が、年金から引ききれない
60歳から64歳で年金を受けている方は、年金からは引かれません。また、年金から引かれるのは年金の所得にかかる分です。再就職先の給与など、年金以外の所得の分は、給与天引きや納付書で別に納めます。
| 月 | 初めて対象になる年度 | 前年度から続けて対象 |
|---|---|---|
| 4月 | ― | 前年度の1年分の6分の1を年金から(仮徴収) |
| 6月・8月 | 1年分の4分の1ずつを納付書などで | 前年度の1年分の6分の1ずつを年金から(仮徴収) |
| 10月・12月・翌年2月 | 1年分の6分の1ずつを年金から | (1年分−仮徴収の合計)の3分の1ずつを年金から(本徴収) |
(名古屋市「公的年金からの特別徴収」2026年4月1日更新をもとに作成)
4月・6月・8月は、その年度の税額がまだ決まっていません。そこで、前年度の額をもとにした仮の額を引きます。これが「仮徴収」です。年度の税額が決まったあと、10月からの3回で差を調整します。これが「本徴収」です。前の年より所得が下がった年は、10月以降の天引き額が小さくなることがあります。逆に、上がることもあります。
年度の途中で市外へ引っ越したり、税額が変わったりすると、年金天引きが止まり、納付書に切り替わることがあります。届いた通知書に、どの月にいくら、どの方法で納めるかが書かれています。
年金生活で住民税が非課税になる目安|名古屋市の場合
住民税には、所得にかかわらず一律の「均等割」と、所得に応じた「所得割」があります。前の年の所得が一定以下なら、どちらもかかりません。これが「住民税非課税」です。
名古屋市の基準では、扶養する家族がいない方は、前の年の合計所得金額(収入から給与や年金の控除などを引いた「所得」の合計)が45万円以下なら非課税です。扶養する家族がいる方は「35万円×(扶養家族の数+1)+10万円+21万円」以下です。所得割だけがかからない基準は、最後の21万円が32万円になります。
65歳以上で収入が公的年金だけの方は、年金収入から110万円を引いた額が所得です(年金収入が330万円未満の場合)。これを名古屋市の基準に当てはめると、次のようになります。
| 世帯の形(65歳以上・収入は公的年金だけ) | 住民税がかからない(均等割も所得割も) | 所得割だけがかからない |
|---|---|---|
| ひとり暮らし・扶養家族なし | 年金収入155万円以下 | ―(同じく155万円以下) |
| 配偶者を扶養している(扶養1人) | 年金収入211万円以下 | 年金収入222万円以下 |
(名古屋市「市民税・県民税・森林環境税が課税されない方(非課税)」2026年5月28日更新の基準に、公的年金等控除110万円を当てはめて当社が計算した目安。年金以外の収入があると変わります)
表を見るときは、次の点に気をつけてください。
- 遺族年金や障害年金は税金のかからない収入なので、年金収入には入れません。
- パートの給与や家賃収入があれば合わせて考えます。退職した年の給与も、その年の所得に入ります。
- 配偶者を扶養に入れられるのは、配偶者の前の年の合計所得金額が58万円以下の場合です(令和8年度)。名古屋市は、令和9年度(2027年度)分から62万円以下に変わると案内しています。
- 「住民税非課税世帯」は、世帯の全員が非課税という意味です。夫は課税で妻は非課税、という世帯は非課税世帯ではありません。
- 均等割の基準は、市町村によって少し違います。名古屋市以外の方は、お住まいの市町村の案内で確かめてください。
名古屋市の案内では、令和9年度分も「扶養家族がなければ合計所得金額45万円以下で非課税」という基準は同じです。給与収入だけの方の目安は、控除の見直しで110万円以下から119万円以下に変わります。
住民税が非課税かどうかで変わる制度
住民税が非課税かどうかは、税金だけの話ではありません。保険料の段階や、受け取れるお金の判定にも使われます。退職して収入が下がると、収入が下がった年の翌年度から、こうした判定が変わることがあります。
- 65歳以上の介護保険料:本人や世帯が住民税非課税かどうかで段階が分かれます。名古屋市など愛知の金額は65歳以上の介護保険料の記事で整理しています。
- 75歳以上の後期高齢者医療の保険料:住民税と同じく前の年の所得で決まり、所得の低い世帯は均等割が軽くなります。後期高齢者医療の保険料2026の記事をご覧ください。
- 年金生活者支援給付金:老齢基礎年金を受けている65歳以上の方は、世帯全員が住民税非課税であることが条件の一つです。条件と金額は年金生活者支援給付金2026の記事にまとめています。
- 医療費や介護施設の負担:70歳以上の高額療養費の上限額や、介護施設の食費・居住費の軽減には、住民税非課税の区分があります。高額療養費の記事、老人ホーム・介護施設の費用の記事もあわせてどうぞ。
子世代の方に知っておいてほしいのは、「世帯全員が非課税」という条件です。親の年金が少なくても、同じ世帯に住民税のかかる人がいると、非課税世帯にはなりません。同居を始めた、あるいは別の世帯に分かれた、という変化で、給付金や保険料の結果が変わることがあります。
今日できる一歩
1. 退職前なら、勤め先に聞いておく。「住民税の残りは、最後の給与からまとめて引きますか。納付書になりますか」と確かめます。6〜12月に退職する方は、どちらにするかをここで伝えます。
2. 届いた通知書の納期をカレンダーに書く。名古屋市の令和8年度の普通徴収は、残りが第3期(11月2日)と第4期(2027年2月1日)です。年税額と各回の額を書き写しておきます。
3. 65歳以上なら、10月の年金の振込通知書を見る。住民税が差し引かれているか、いくらかを確かめます。非課税かどうか気になる方は、前の年の年金の額を上の表と見比べてください。
相談現場から
よく伺うのは「退職金の住民税が、翌年にまとめて来た」という受け止め方です。実際には退職金の分は受け取るときに引かれていて、翌年に届くのは働いていた年の給与の分です。もう一つ多いのは、年金天引きが始まって「税金が増えた」と感じるお話です。払い方が納付書から天引きに変わっただけのことも多く、通知書の年税額を前の年と並べると落ち着いて確かめられます。
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参考にした公的情報
- 総務省「地方税制度|個人住民税」
- 名古屋市「特別徴収のしくみ」(令和8年度 給与所得等に係る特別徴収のしおり・PDF)
- 名古屋市「退職所得の分離課税」/退職所得の課税についてよくあるご質問
- 名古屋市「公的年金からの特別徴収」/市税の納期一覧
- 名古屋市「市民税・県民税・森林環境税が課税されない方(非課税)」/令和9年度以降適用される市民税・県民税に関する主な税制改正
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」/No.1600 公的年金等の課税関係
※本記事は2026年10月時点の一般的な情報の整理です。住民税の額や非課税かどうかは、ほかの収入や世帯の状況で一人ひとり異なります。ご自身の税額はお住まいの市町村の通知書と窓口で、申告や税の判断は税理士にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
