日曜の午後、母が入院している病院の相談室で、施設のパンフレットを3冊渡されました。「退院後は施設も考えてください」。帰りの車の中で、実家の引き出しにある父の年金の通帳を思い浮かべた方もいると思います。
この記事では、老人ホーム・介護施設の費用を、施設の種類ごとの中身から確かめます。特別養護老人ホーム(特養)は、2026年8月からの国の基準額で月額の目安を計算しました。そのうえで、親の年金と預金で何年払えるかの計算の仕方と、親の口座から払い続けるための準備をまとめます。
老人ホーム・介護施設の種類と、費用の中身
「老人ホームの費用」と一口に言っても、中身は施設の種類で違います。介護保険の施設は、国が決めた料金と基準額が土台です。民間の有料老人ホームやサ高住は、家賃や管理費を施設が自由に決めます。まず全体の地図を見ておきましょう。
| 施設 | どんな所か | 介護の費用 | 住まい・食事の費用 | 負担限度額認定 |
|---|---|---|---|---|
| 特別養護老人ホーム(特養) | 介護保険の施設。新たに入れるのは原則要介護3以上 | 介護保険の1〜3割 | 居住費・食費(国の基準額が目安) | 対象 |
| 介護老人保健施設(老健) | 介護保険の施設。リハビリをして自宅に戻ることを目指す | 介護保険の1〜3割 | 居住費・食費(国の基準額が目安) | 対象 |
| グループホーム | 認知症の人が5〜9人の少人数で暮らす。要支援2以上 | 介護保険の1〜3割 | 家賃・食材料費など(施設ごとに決める) | 対象外 |
| 介護付き有料老人ホーム | 民間の住まい。ホームの職員が介護をする | 介護保険の1〜3割(定額) | 家賃相当・管理費・食費。入居一時金がある所も | 対象外 |
| サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)・住宅型有料老人ホーム | 見守りや生活相談がある住まい。介護は外の事業所と別に契約 | 使った介護サービスの1〜3割 | 家賃・管理費・食費など。敷金がある所も | 対象外 |
介護の費用の目安も、国が公表しています。介護付き有料老人ホームの介護分は、1割負担で1日あたり要介護1が542円、要介護5が813円です。グループホームは、住居が1つの場合で要介護1が765円、要介護5が859円です。いずれも加算が別にかかります。
民間の住まいの家賃や食費には、国の基準額がありません。参考になるのは、厚生労働省の補助事業として行われた全国調査(2023年度、約2,900施設が回答)です。介護保険の自己負担を除いた月額の平均は、次のとおりでした。介護付き有料老人ホームが約26.5万円、住宅型有料老人ホームが約12.1万円、サ高住が約15.8万円です。
これは全国の平均で、愛知県の相場ではありません。入居一時金も、0円の所から高額な所まで施設ごとに大きく違い、公的な調査で示された目安は見当たりませんでした。気になる施設があれば、重要事項説明書で「月額の内訳」と「一時金が戻る条件」を確かめるのが確実です。
特養の費用の目安|2026年8月からの基準額で計算
特養の毎月の支払いは、主に「介護サービス費の自己負担」「居住費」「食費」の3つです。居住費と食費は施設との契約で決まりますが、国が「基準費用額」という目安を示しています。2026年8月1日から食費の基準額が1日100円上がり、1,545円になりました(厚生労働省 介護保険最新情報Vol.1506)。
| 特養の部屋 | 居住費(日額) | 食費(日額) | 介護サービス費 1割(要介護3/4/5) |
|---|---|---|---|
| ユニット型個室 | 2,066円 | 1,545円 | 815円/886円/955円 |
| ユニット型個室的多床室 | 1,728円 | 1,545円 | 815円/886円/955円 |
| 従来型個室 | 1,231円 | 1,545円 | 732円/802円/871円 |
| 多床室(相部屋) | 915円 | 1,545円 | 732円/802円/871円 |
この表から、30日分を計算してみます。要介護4で相部屋なら、802円+915円+1,545円=1日3,262円で、月に約9.8万円です。同じ要介護4でユニット型個室なら、1日4,497円で月に約13.5万円になります。
実際の請求は、これより高くなることが多いと考えておきましょう。施設の体制に応じた加算や、地域による単価の違いがあるためです。理美容代や日用品などの日常生活費も別にかかります。所得によって介護保険の負担が2割・3割の人は、介護サービス費の部分が2倍・3倍になります。
年金が少ない親は「負担限度額認定」で居住費・食費が下がる
特養・老健・介護医療院と、ショートステイには、居住費と食費の軽減があります。市町村で「負担限度額認定」(居住費と食費の上限を下げてもらう認定)を受けると、上限を超えた分を介護保険が負担します。補足給付とも呼ばれます。
対象になるのは、世帯全員が住民税非課税の人です。別の世帯にいる配偶者も非課税である必要があります。さらに、本人と配偶者の預貯金などが段階ごとの基準以下であることが条件です。
| 段階 | 主な条件(世帯全員が住民税非課税) | 預貯金など 単身(夫婦) | 食費 | 多床室 | 従来型個室 | ユニット型個室 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 第1段階 | 生活保護を受けている、または老齢福祉年金を受けている | 1,000万円(2,000万円)以下※ | 300円 | 0円 | 380円 | 880円 |
| 第2段階 | 年金収入とその他の所得の合計が82万6,500円以下 | 650万円(1,650万円)以下 | 390円 | 430円 | 480円 | 880円 |
| 第3段階① | 同じ合計が82万6,500円超120万円以下 | 550万円(1,550万円)以下 | 680円 | 430円 | 880円 | 1,370円 |
| 第3段階② | 同じ合計が120万円超 | 500万円(1,500万円)以下 | 1,420円 | 530円 | 980円 | 1,470円 |
| 第4段階 | 上記にあてはまらない | ― | 軽減なし(基準額1,545円) | 軽減なし(915円) | 軽減なし(1,231円) | 軽減なし(2,066円) |
軽減の効き方を、要介護4・相部屋で比べます。第2段階なら802円+430円+390円=1日1,622円で、月に約4.9万円です。軽減がない場合(約9.8万円)の半分ほどになります。
申請は、住んでいる市町村の介護保険の窓口です。名古屋市なら区役所福祉課か支所区民福祉課で、申請書に本人と配偶者の通帳の写しを添えて出します。電子申請もできます。有料老人ホームやサ高住、グループホームはこの軽減の対象外なので、施設を選ぶ段階で知っておくと見通しが立てやすくなります。
高額介護サービス費と医療費控除で戻るお金
介護保険の自己負担が1か月の上限を超えると、超えた分が「高額介護サービス費」として戻ります。上限は所得で決まり、課税所得380万円未満の世帯は月44,400円、世帯全員が住民税非課税なら月24,600円です。そのうち年金収入などが82万6,500円以下の人は、個人で月15,000円です(名古屋市の案内、2026年10月8日確認)。
ただし、対象は介護サービス費の自己負担だけです。居住費・食費・日常生活費は含まれません。初回は市町村から案内が届くので、申請書を出しておくと、その後は上限を超えた月ごとに口座へ振り込まれます。
確定申告の医療費控除で対象になる部分もあります。国税庁の案内では、特養は介護費・食費・居住費の自己負担の2分の1、老健と介護医療院は全額が対象です。日常生活費は対象外です。介護付き有料老人ホームの介護分やグループホームは、対象外とされています(国税庁 タックスアンサーNo.1125・No.1127、2026年4月1日現在の法令)。親の場合に申告したほうがよいかは、提携の税理士が確認します。
親の年金と預金で何年払えるか|計算の仕方
「親のお金で払い続けられるか」は、次の式で目安が出ます。紙と電卓、親の年金の通帳、施設の見積もりを用意してください。
施設代にあてられる預金 ÷ 1年の不足額 = 払える年数の目安
| 記号 | 項目 | 記入欄 |
|---|---|---|
| A | 施設への1か月の支払い(介護の自己負担+居住費・家賃+食費+管理費+日常生活費) | 円 |
| B | 施設以外の1か月の支払い(病院代、薬代、携帯電話、保険料の引き落としなど) | 円 |
| C | 1か月の年金の手取り(通帳の年金の振込額 ÷ 2) | 円 |
| D | 1か月の不足額(A+B−C) | 円 |
| E | 1年の不足額(D×12) | 円 |
| F | 施設代にあてられる預金(全部の預金から、入居一時金や葬儀など別に残したい分を引く) | 円 |
| G | 払える年数の目安(F÷E) | 年 |
年金は2か月分がまとめて振り込まれます。振込額は、介護保険料などが引かれた後の金額です。通帳の振込額を2で割れば、そのまま1か月の手取りとして使えます。
たとえば、仮にAが12万円、Bが2万円、Cが9万円なら、Dは5万円、Eは60万円です。Fが600万円なら、Gは10年になります。ここから、施設の料金改定や介護度の変化に備えて、少し余裕を見ておくと安心です。
特養などでは、預金が減って基準を下回ると、途中から負担限度額認定の対象になることもあります。逆に、Gが短く出た場合は、施設の種類や部屋の選び方を見直す材料になります。親が民間の介護保険に入っている場合は、受け取れるお金も書き足しておきましょう。この表を1年に1回つくり直すと、きょうだいへの説明にも使えます。
数字を入れてみて判断に迷う方は、30分の無料相談で一緒に表を埋めることもできます。
親の口座から施設代を払い続けるための準備
施設代は、毎月必ず出ていくお金です。親の口座から自動で払える形にしておくと、子が立て替える場面が減ります。親が元気なうちに、次の3つを確かめておきましょう。
- 口座振替にする:施設の支払いを、年金が振り込まれる親名義の口座からの引き落としにします。口座をまとめておくと、残高の確認も1冊で済みます。
- 銀行に代理人を届け出る:銀行によっては、家族を代理人として登録し、代理人のカードを作れる仕組みがあります。手続きには本人の意思確認が必要なので、元気なうちにしかできません。
- 定期預金を確かめる:施設代にあてる分が定期預金に入っていると、解約に本人の手続きが要ります。満期の時期と金額を書き出しておきます。
心配なのは、認知症で判断が難しくなったと銀行が知り、口座が動かせなくなることです。全国銀行協会は2021年2月に、銀行向けの考え方を公表しました。本人の医療費の支払いなど、本人の利益にかなうことが明らかな場合に限り、家族の払い出しに応じることが考えられる、という内容です。ただし「極めて限定的な対応」とされ、成年後見制度の利用が基本です。扱いも銀行ごとに違います。
定期預金の解約や普通預金への移し方は親の定期預金を解約・普通預金に移すにはで、口座が止まる仕組みと前もってできる対策は認知症による口座凍結とは?で詳しくまとめています。
きょうだいでの費用分担の話し方
施設の費用で、きょうだいの間がぎくしゃくすることは珍しくありません。話し合いは、次の順番で進めると落ち着いて決めやすくなります。
- まず「親のお金で払う」を共通の前提にする:上のワークシートを全員に見せ、親の年金と預金で何年払えるかを共有します。
- 不足が出るなら、金額と期間を決める:「誰が・月いくら・いつから」を紙に書きます。お金を出す人と、面会や手続きで時間を出す人がいることも話題にしておきます。
- 通帳を管理する人を1人決め、年に1回報告する:領収書と通帳の写しを見せる約束があるだけで、疑われる場面がぐっと減ります。立て替えたお金も、日付と金額を記録しておきます。
使える制度と家族での分け方は親の介護でお金がない…そんな時に使える公的制度と家族での分担の整理術、介護を担った人の取り分の考え方は介護を頑張った分、お金をもらうことはできる?にまとめています。話し合いがこじれて相手と交渉する段階になったら、弁護士の領域です。
実家を売る・貸すで施設代にあてる場合
親が施設に移ると、空いた実家を施設代にあてたいという話が出てきます。ここで知っておきたいのは、実家が親名義なら、売るか貸すかを決めるのは親本人だという点です。認知症で判断が難しくなると、親だけでは売買や賃貸の契約ができません。成年後見人が住まいを売る場合も、家庭裁判所の許可が要ります。
売る場合は、税金の特例の期限にも気をつけます。住んでいた家を売ったときには、3,000万円の特別控除という特例があります。国税庁の案内では、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが、条件の一つです(2026年4月1日現在の法令)。親の場合に使えるかどうかは、提携の税理士が確認します。
もう一つの見落としが、軽減との関係です。売ったお金が預金に入ると、負担限度額認定の預貯金の基準を超えることがあります。貸して家賃が入ると、親の所得が増えて住民税がかかり、軽減の段階が変わることもあります。売る・貸すの前に、施設代の計算をもう一度してみてください。
実家の選び方は実家を売る・貸す・住み続ける、どう選ぶ?、進め方の順番は実家じまいは何から始める?で詳しく扱っています。
今日できる一歩
1. 親の年金の通帳を開き、直近の振込額を書き写す。2で割った額が、ワークシートのCになります。
2. 親の住民税が課税か非課税かを確かめる。市町村の窓口で課税(非課税)証明書を取ると分かります。世帯全員が非課税なら、負担限度額認定の対象になるかもしれません。
3. 施設のパンフレットがあれば「月額の内訳」に印をつける。介護保険の自己負担が含まれているか、日常生活費は別か、の2点だけで十分です。
相談現場から
よく伺うのは「パンフレットの月額で計算していたら、実際の請求が数万円多かった」というお話です。介護保険の自己負担や日常生活費が、パンフレットの月額に入っていないことがあります。もう一つ多いのが、施設が決まってから親の口座が動かせないと分かる場面です。費用の計算と、口座の準備は、同じ日に始めておくと慌てずに済みます。
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参考にした公的情報
- 厚生労働省「令和8年8月からの特定入所者介護(予防)サービス費の見直し等に係る周知への協力依頼について」(介護保険最新情報Vol.1506、2026年5月29日)
https://www.mhlw.go.jp/content/001706483.pdf - 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」介護老人福祉施設の解説
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group14.html - 名古屋市「居住費・食費の利用者負担(負担限度額)」「高額介護(介護予防)サービス費」
https://www.kaigo-wel.city.nagoya.jp/view/kaigo/seido/hutan/gendo.html - 国税庁 タックスアンサー No.1125「医療費控除の対象となる介護保険制度下での施設サービスの対価」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1125.htm - 厚生労働省「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」第2回資料(PwCコンサルティング「高齢者向け住まいにおける運営形態の多様化に関する実態調査研究事業」令和5年度老人保健健康増進等事業の集計を掲載)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001481735.pdf - 全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方」(2021年2月18日)
https://www.zenginkyo.or.jp/news/2021/n021801/
※本記事は2026年10月時点の一般的な情報です。施設の費用は施設ごと・地域ごとに異なり、表の金額は国の基準額や公表資料をもとにした目安です。軽減や払い戻しの対象になるかは市町村の窓口で、税金や相続の個別の判断は専門家にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
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