定年を迎えて、夫と一日中顔を合わせる毎日になった。このまま続けるのか、別々に暮らすのか。そう考え始めたときに頭に浮かぶのは、「離婚したら、私の年金はどうなるのか」という心配です。
この記事では、離婚のときに年金を分け合う「年金分割」の仕組みと、2026年4月から2年が5年に延びた請求の期限を整理します。内容は2026年10月時点の、日本年金機構と裁判所の案内にもとづきます。離婚するかどうかの判断や、離婚の条件の交渉は扱いません。
この記事の結論
- 離婚しても、夫の年金が自動で半分になるわけではありません。年金分割は、結婚していた間の厚生年金の記録(保険料を納めた記録)を分ける制度です。分けられるのは給与に応じて決まる「報酬比例部分」だけで、国民年金(基礎年金)は対象外です。
- 方法は2つあります。話し合いか裁判所で割合を決める「合意分割」(上限は50%)と、2008年4月以降の夫の扶養に入っていた期間を、相手の同意なしに半分ずつ分ける「3号分割」です。
- 請求先は年金事務所です。期限は、2026年4月1日以降に離婚した人は離婚の翌日から5年、それより前に離婚した人は2年です。過ぎると請求できません。
年金分割は、夫の年金を半分もらう制度ではありません
会社員や公務員として働いた人の厚生年金は、働いていた間の給与や賞与をもとに額が決まります。この「給与や賞与をもとにした記録」を、離婚のときに夫婦で分け合うのが年金分割です。お金そのものを分けるのではなく、記録を分けて、そのうえで年金額を計算し直します。
分けてもらった人は、自分の記録に分けてもらった分が足されて、年金額が計算されます。分けた人は、その分が引かれた記録で計算されます(日本年金機構)。つまり夫の年金は、分けた分だけ減ります。
分ける割合のことを「按分割合(あんぶんわりあい)」と呼びます。分けてもらう側の持ち分の上限は50%、つまり半分までです。
国民年金は、一人ひとりが自分で納めた期間(夫の扶養に入っていた期間も含む)で決まるため、分けることはできません。2026年度の満額は、昭和31年4月2日以降に生まれた方で月70,608円です(日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」)。年金額の全体像は2026年度の年金の変更点まとめで整理しています。
分け方は「合意分割」と「3号分割」の2つ
まず、2つの違いを表で見てください。「第3号被保険者」とは、会社員や公務員の夫の扶養に入り、自分で国民年金の保険料を納めなくてよかった人のことです。
結婚して20年以上たつ夫婦では、2008年3月以前の期間と、4月以降の期間の両方が含まれることが多くなります。2008年3月以前の分は3号分割の対象外なので、合意分割で割合を決めます。結婚していた期間に3号分割の対象期間が含まれるときは、合意分割の請求が3号分割の請求とみなされます(日本年金機構)。
共働きで、夫婦ともに厚生年金に入っていた場合も、合意分割の対象です。この場合は、夫婦それぞれの記録を合わせた中で割合を決めます。
請求の期限は、2026年4月から「5年」に延びました
年金分割の請求には期限があります。見落としやすいところなので、離婚した日を基準に表で確かめてください。
期限を数え始めるのは、離婚が成立した日の翌日です。婚姻の取り消しや、事実婚の解消も同じ扱いです。たとえば2026年10月に離婚した場合、期限は2031年10月ごろまでです。正確な日付は年金事務所で確認してください。
5年に延びたとはいえ、離婚後は資料がそろいにくくなります。戸籍謄本の取り方は戸籍謄本の取り方【2026年】にまとめています。離婚が決まったら、早めに「情報通知書」だけでも請求しておくと安心です。
手続きの流れは4段階
- 情報通知書を請求する:「年金分割のための情報提供請求書」を年金事務所に出します。離婚の前でも後でも請求でき、夫婦どちらか一人だけでも請求できます。基礎年金番号が分かる書類と、婚姻期間が分かる戸籍謄本(または抄本)が要ります。
- 情報通知書を確認する:分割の対象になる期間と、割合として決められる範囲(上限50%)が書かれています。この請求だけでは、年金は分割されません。
- 割合を決める:3号分割の期間は半分で決まっています。合意分割は、夫婦で話し合って決めます。まとまらないときは家庭裁判所に決めてもらいます。
- 請求書を出す:「標準報酬改定請求書」(年金額の計算のもとになる給与や賞与の記録を、分け直してもらう書類)を年金事務所に出します。合意分割では、夫婦が一緒に窓口へ行く(代理人でも可)か、公正証書など割合を決めた証明書類を付けます。
50歳以上の人は、情報提供請求書に希望を書くと、分割後の年金見込額も出してもらえます。上限の50%で分けた場合、分けない場合、自分が希望する割合の3通りです(日本年金機構)。
話がまとまらないときは、家庭裁判所へ
割合の話し合いがつかないときは、家庭裁判所に「年金分割の割合を定める調停」を申し立てられます。離婚の話し合いと一緒に、夫婦関係調整調停(離婚)の中で進めることもできます(裁判所)。
- 申立先:相手の住所地の家庭裁判所、または夫婦で合意して決めた家庭裁判所。
- 費用:収入印紙1,200円分と、連絡用の郵便切手(金額は裁判所ごとに異なります)。
- 期限:離婚の翌日から5年(2026年4月より前の離婚は2年)。
- 主な書類:申立書と、離婚後に交付された情報通知書の原本など。
注意したいのは、裁判所で割合が決まっても、自動で年金が分割されるわけではないことです。決まったあとに、当事者のどちらかが年金事務所で請求の手続きをします。離婚の条件そのものがこじれているときは、弁護士に相談してください。
分割した年金は、いつから変わるのか
- すでに老齢厚生年金を受け取っている人:手続きをした月の翌月分から、年金額が改定されます。
- まだ受け取り始めていない人:分けてもらっても、自分の受給開始年齢(生年月日で決まります)になるまでは受け取れません。夫がすでに年金を受け取っていても同じです。
- 分けた側(夫):分けた分だけ、年金が減ります。
実際に増える額は、結婚していた期間の長さと、夫婦の給与の差で大きく変わります。数字を想像で決めず、情報通知書と見込額で確かめるのが確実です。
離婚を決める前に、確かめておきたいこと
情報提供の請求は、離婚の前でもできます。迷っている段階で「分割したらいくらになるか」を知っておくと、考える材料が増えます。
年金分割で動くのは、年金の記録だけです。貯金や退職金、自宅の扱いは別に決める必要があります。分割したあとの年金で暮らしが成り立つかも、あわせて見ておきたい点です。
離婚だけが道ではない、と感じる方もいます。夫との距離のとり方を見直す方法は定年後の夫とずっと一緒がつらい…「夫源病」って?でまとめています。
今日できる一歩:結婚してからの記録を1枚に書き出す
結婚した年月、自分と夫が勤めた期間、夫の扶養に入っていた期間を、分かる範囲で紙に書き出してください。基礎年金番号が分かる書類(年金手帳やねんきん定期便など)も一緒に置いておきます。
この1枚があると、年金事務所で情報通知書を請求するときに、話が早く進みます。
よくある質問
離婚の前に、一人で情報通知書を請求してもよいですか
請求できます。夫婦が共同で請求しなくても、一人で請求できます。離婚していないときは、請求した本人にだけ通知書が届きます。離婚したあとに一人で請求すると、本人と元の配偶者の両方に通知書が届きます(日本年金機構)。
パートで働いていました。3号分割は使えますか
3号分割の対象は、夫の扶養に入っていた第3号被保険者の期間です。パートで働いていても、扶養に入っていた期間は対象になります。自分で厚生年金に入って働いていた期間は第3号被保険者の期間ではないため、合意分割で割合を決めます。
離婚して3年たちました。今から請求できますか
離婚した日で答えが変わります。2026年4月1日以降の離婚なら5年以内なので、請求できます。2026年3月31日までの離婚は2年以内のままです。離婚した日と、期限の特例に当たるかは、年金事務所で確認してください。
事実婚でも、年金分割はできますか
一定の要件を満たせば、対象になることがあります。たとえば、2007年4月1日以後に事実婚が解消し、その間に一方が第3号被保険者として認められていた期間がある場合です(日本年金機構)。個別のケースは年金事務所に確認してください。
割合を決めたあとで、元夫が亡くなったらどうなりますか
割合を決めたあと、分割の手続きをする前に一方が亡くなったときは、亡くなった日から1か月以内に請求すれば手続きができます。割合を明らかにする書類が必要です。期限が短いので、年金事務所にすぐ問い合わせてください。
参考にした公的情報
- 日本年金機構「離婚時の年金分割」https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/rikon/20140421-04.html
- 日本年金機構「合意分割制度」https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/rikon/20140421-02.html
- 日本年金機構「3号分割制度」https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/rikon/20140421-03.html
- 日本年金機構「年金Q&A(離婚時の厚生年金保険の分割制度)」https://www.nenkin.go.jp/section/faq/jukyu/seido/kyotsu/rikonbunkatsu/index.html
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/kojin/2026/202604/0401.html
- 裁判所「年金分割の割合を定める調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_17/index.html
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報にもとづく一般的な整理です。年金分割の対象になるか、いくら変わるかは、結婚していた期間や夫婦の記録で異なります。個別の手続きは年金事務所または街角の年金相談センターへ、離婚の条件の話し合いは弁護士へご相談ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
