引き出しの奥から、数年前に書きかけた遺言書の下書きが出てきた。鉛筆で書いてあって、日付も入れていない。清書するなら、ボールペンでよいのか。印鑑は、何を押せばよいのか。
内容は、2026年10月8日時点の法務省と裁判所の案内にもとづきます。遺言の中身や、有効かどうかの判断は、弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。
この記事の結論
- ボールペンで書いて大丈夫です。民法968条は、全文・日付・氏名を自分で書いて、印を押すことを求めています。法務局の案内は「消えにくい筆記具」を求めているので、こすると消えるペンや鉛筆は避けます。
- 日付は「令和8年10月8日」のように、具体的な年月日で書きます。「10月吉日」は使えません。印鑑は認印でもよく、スタンプ式は避けます。
- 書き間違えたときの直し方は決まりが細かく、修正テープは使えません。迷うときは、新しい紙に書き直すのが安全です。
ボールペンでよいのか:筆記具の早見表
結論から言うと、ボールペンで大丈夫です。法務省の案内にも、「消えるインク等は使用せず、ボールペンや万年筆などの消えにくい筆記具を使用してください」とあります。
民法の条文には、筆記具の種類までは書かれていません。それでも消えにくいもので書くのは、あとから書き換えられたと疑われて、家族が争うことのないようにするためです。
清書の前に、同じボールペンで別の紙に試し書きをして、インクのかすれやにじみがないか見ておきます。下書きを一度、通しで書いてみると、清書での書き間違いが減ります。
自分で書く決まり:全文・日付・氏名・押印
自筆証書遺言(自分で書く遺言書)の決まりは、民法968条にあります。要点は、全文・日付・氏名を自分で書いて、印を押すことです。
財産目録は、預金や不動産の一覧のことです。2019年1月13日から、目録だけは自分で書かなくてもよくなりました。目録は本文とは別の紙に作ります。
書き方の手順と例文は、遺言書の書き方【手書き】にまとめています。
日付と印鑑で迷いやすいところ
日付:「何年何月何日」まで書く
「令和8年10月8日」のように、どの日か分かる書き方にします。「令和8年10月吉日」は、どの日か決まらないため、遺言書の日付として認められません(法務省)。
印鑑:認印でよい。ただしスタンプ式は避ける
実印でなくても、認印で問題ないとされています。インクがしみこむスタンプ式の印は、避けましょう。朱肉をつけて押すものが安心です。
氏名:戸籍や住民票のとおりに
普段使っている通称ではなく、住民票などの記載どおりに書きます。
書き間違えたら:直し方と、書き直し
民法968条は、直し方も厳しく決めています。決まりどおりに直していないと、その直しは効力が出ません。
- 間違えた所に二重線を引きます。
- 直した場所を示して、「○行目、○字削除、○字加入」のように、変更したことを書き添えて、署名します。
- 変更した場所に、印を押します。
修正テープ、修正液、修正インクは使えません。法務省の案内も、直すより書き直すことをすすめています。
新しく書き直したときに、古い遺言書がどう扱われるかは、中身によって変わります。古い遺言書を捨てる前に、専門家に確認すると安心です。
家で保管するか、法務局に預けるか
書き終えた遺言書は、自宅で保管する方法と、法務局に預ける方法があります。
検認は、遺言書の存在と中身を相続人に知らせて、形や日付、署名をはっきりさせ、偽造や書き換えを防ぐ手続きです。遺言が有効か無効かを決める手続きではありません(裁判所)。封印のある遺言書は、勝手に開けず、家庭裁判所で開けます。
公正証書遺言と比べたいときは、公正証書遺言と自筆証書遺言はどっちがいい?をご覧ください。
法務局に預けるときの様式ルール
保管制度を使うときは、民法の決まりに加えて、法務省の様式ルールを守ります。
- A4サイズで、文字が読みにくくなる地紋や色のない用紙を使います。
- 片面だけに書きます。裏には何も書きません。
- 余白は、上に5mm以上、下に10mm以上、左に20mm以上、右に5mm以上あけます。
- 複数ページのときは、各ページに通し番号を書きます。1枚なら不要です。
- ページをとじ合わせません。封筒にも入れません。
- 財産目録は別の紙にして、すべてのページに署名と押印をします。
申し込みには、本人の顔写真付きの身分証、本籍と筆頭者が載った住民票の写し、3,900円分の収入印紙などが必要です。予約制で、当日の予約はできません。
書いたあとの置き場所と、家族への伝え方
遺言書は、亡くなったあとに家族が見つけてくれなければ、役に立ちません。自宅で保管するときは、信頼できる家族に、置き場所だけは伝えておきます。中身まで話さなくても構いません。
封のしてある遺言書は、家庭裁判所で開ける決まりです。そのことも、あわせて伝えておくと、家族が間違って開けてしまう心配が減ります。
法務局に預けた場合は、通知の仕組みがあります。相続人の1人が遺言書を見たり、証明書をもらったりすると、ほかの相続人全員に知らせが届きます。また、遺言者が希望すれば、最大3名まで、亡くなったことが確認されたときに知らせが届く人を決められます(法務省)。
今日できる一歩
普通の紙に、消えにくいボールペンで、自分の氏名を住民票どおりに書いてみます。そのあと、「誰に何を渡したいか」を1行ずつ書き出します。日付と印は、清書のときで構いません。
よくある質問
夫婦で1枚の紙に、連名で書いてもよいですか?
遺言は、2人以上が同じ書面ですることはできません(民法975条)。夫と妻、それぞれ別の紙に書きます。
パソコンで書いて、印刷したものに署名すればよいですか?
本文は、自分で書く決まりなので、使えません。パソコンで作ってよいのは、財産目録だけです。目録のすべてのページに、署名と押印が要ります。
封筒に入れて、封をしたほうがよいですか?
自宅で保管する場合、封筒に入れる人は多いです。ただし、封のしてある遺言書は、亡くなったあとに勝手に開けられず、家庭裁判所で開けます。法務局に預けるときは、封筒に入れずに出します。
書き直したいとき、古い遺言書は捨ててよいですか?
古い遺言書との関係は、中身によって変わります。捨てる前に、専門家に確認すると安心です。
参考にした公的情報
- 法務省「遺言書の様式等についての注意事項」 https://www.moj.go.jp/MINJI/03.html
- 法務省「自筆証書遺言に関するルールが変わります」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00240.html
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度」 https://www.moj.go.jp/MINJI/01.html
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度ガイドブック(令和7年)」 https://www.moj.go.jp/MINJI/common_igonsyo/pdf/guidebook_r7.pdf
- 裁判所「遺言書の検認」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報にもとづく一般的な情報です。遺言が有効かどうかなど、個別の判断は弁護士・司法書士などの専門家にご確認ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
