四十九日の法要を終えた週末、実家の座卓に父の通帳と、税務署から届いた封筒を並べる。中の案内には「相続税の申告期限は10か月」とあります。けれど、いつから数えて、いつが最後の日なのか。兄弟の話し合いもまだ途中です。
相続税の申告期限は、日付を一度はっきりさせてしまえば、そこから逆算して動けます。この記事では、期限の数え方を例で示し、10か月までの流れを表にまとめます。あわせて、遅れたときにかかる税金と、遺産の分け方がまとまらないときの申告のしかたを整理します。内容は2026年10月時点で、国税庁の公表内容を確かめたものです。
この記事の結論
- 申告と納税の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。ふつうは亡くなった日の10か月後の同じ日で、土日祝に当たるときは休み明けの日になります。
- 遅れると、遅れた日数に応じた延滞税(2026年は年2.8%、2か月を過ぎた分は年9.1%)と、無申告加算税(自分から出せば原則5%)がかかります。
- 分け方がまとまらなくても期限は延びません。法定相続分で申告し「申告期限後3年以内の分割見込書」を付けておけば、あとで配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使えます。
申告期限は「知った日の翌日から10か月」|数え方の例
相続税の申告期限は、亡くなった方(被相続人)が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。同居の家族なら、知った日はふつう亡くなった日と同じです。
実際には「亡くなった日の10か月後の同じ日」と覚えておけば足ります。国税庁の例では、1月6日に亡くなった場合の期限は11月6日です。期限の日が土曜・日曜・祝日に当たるときは、休み明けの日が期限になります。
| 亡くなった日(知った日) | 10か月後の同じ日 | 実際の期限 |
|---|---|---|
| 1月6日 | 11月6日 | 11月6日(国税庁の例) |
| 2026年1月7日(水) | 2026年11月7日(土) | 2026年11月9日(月) |
| 2026年4月11日(土) | 2027年2月11日(木・建国記念の日) | 2027年2月12日(金) |
(国税庁 No.4205 の考え方をもとに作成。2026年10月時点)
離れて暮らしていた親族が亡くなり、しばらくたってから知らせを受けた場合は、知らせを受けた日が起点です。いつ知ったかを後で説明できるよう、手紙や電話の日付をメモに残しておくと安心です。
もう一つ間違えやすいのが提出先です。申告書は、相続人の住所ではなく、亡くなった方の住所地を受け持つ税務署に出します。税金を納める期限も、申告と同じ日です。
10か月までのスケジュール表|途中にある別の期限
10か月は長く見えますが、途中に別の期限がいくつかあります。目安を表にすると次のとおりです。
| 時期の目安 | やること | この時期にある期限 |
|---|---|---|
| 〜1か月 | 死亡届、葬儀、遺言書があるかの確認、戸籍を集めて相続人を確かめる | ― |
| 〜3か月 | 預金・土地・借金などの洗い出し | 家庭裁判所での相続放棄の手続き(相続の開始を知った時から3か月以内) |
| 〜4か月 | 亡くなった方の所得税の申告 | 準確定申告(知った日の翌日から4か月以内) |
| 4〜8か月 | 財産の評価、分け方の話し合い、税理士への依頼 | ― |
| 8〜9か月 | 遺産分割協議書の作成、申告書の確認、納税のお金の準備。分割払い(延納)を考えるなら申請書類の準備 | ― |
| 10か月 | 相続税の申告と納税。延納・物納の申請もこの日まで | 申告・納税の期限 |
(裁判所「相続の放棄の申述」、国税庁 No.4205・No.4211 などをもとに作成。時期の目安は一般的な流れで、ご家庭により前後します)
4か月の準確定申告は、相続税とは別の手続きです。年金だけの親でも出したほうがよい場合があり、準確定申告の記事で詳しく説明しています。3か月の相続放棄は相続放棄の期限の記事をご覧ください。
そもそも申告が要りそうかどうかは、財産の合計と基礎控除を比べると見当がつきます。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。目安の出し方は相続税はいくらからかかるかの記事にまとめました。
期限に遅れたら|延滞税と無申告加算税の早見表
期限に遅れたときにかかるものは2種類あります。一つは、納めるのが遅れた日数分の利息にあたる「延滞税」。もう一つは、期限までに申告書を出さなかったことに対する「無申告加算税」です。
延滞税は、期限の翌日から納めた日までの日数で計算します。割合は毎年見直されます。2026年の割合は次のとおりです(国税庁 No.9205)。
| 遅れた期間 | 2026年1月1日〜12月31日の割合 | 法律上の原則の割合 |
|---|---|---|
| 期限の翌日から2か月以内 | 年2.8% | 年7.3% |
| 2か月を過ぎた分 | 年9.1% | 年14.6% |
(国税庁 No.9205 をもとに作成。原則の割合と、毎年決まる基準の割合をもとにした割合の、低いほうが使われます。2026年10月時点)
無申告加算税は、いつ申告書を出したかで割合が変わります。割合は国税共通のルール(国税通則法)で決まっており、相続税にも同じ割合が使われます(国税庁 No.2024)。
| 申告書を出した時期 | 無申告加算税の割合(納める税額に対して) |
|---|---|
| 税務署から調査の連絡が来る前に、自分から出した | 5% |
| 調査の連絡が来たあと、調査で指摘される前に出した | 50万円までの部分10%、50万円を超え300万円までの部分15%、300万円を超える部分25% |
| 調査を受けたあと、または税務署に税額を決められたあと | 50万円までの部分15%、50万円を超え300万円までの部分20%、300万円を超える部分30% |
(国税庁 No.2024 をもとに作成。申告期限が2024年1月1日以後の分。2026年10月時点)
この表のとおり、遅れたと気づいたら、調査の連絡を待たずに出すほうが負担は軽くなります。さらに、期限から1か月以内に自分から出し、税金は期限までに全額納めていた、などの条件を満たせば、無申告加算税はかかりません。申告書だけが少し遅れた場合の救済です。
逆に、申告書は期限内に出したものの、納めるのが遅れた場合は、無申告加算税はかからず、延滞税だけがかかります。
注意したいのは「家族で揉めていたから」という事情です。国税庁の取扱いでは、相続人の間の争いで遺産分割の話し合いができなかったことは「正当な理由」に当たらない、とされています(国税庁 事務運営指針)。正当な理由とは、期限に遅れても加算税がかからない事情のことです。話し合いがまとまらないときこそ、次の「未分割申告」を考えます。
分け方がまとまらないとき|未分割申告と「3年以内の分割見込書」
遺産をだれが何を受け継ぐか決まっていない状態を「未分割」といいます。未分割でも、申告と納税の期限は延びません(国税庁 No.4208)。この場合は、法定相続分(民法で決まっている取り分の割合)どおりに受け継いだものとして税額を計算し、期限までに申告して納めます。
このとき気をつけたいのが、税金を軽くする2つの特例です。配偶者の税額軽減と、自宅の土地などの評価を下げる小規模宅地等の特例は、分け方が決まっていない段階の申告では使えません。そのため、未分割申告の税額は高めに出ます。
あとで特例を使うための手続きは、次の流れです(国税庁 No.4208 Q&A)。
- 期限内の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を付けて出す。3年以内に分け方を決めるつもりであることを示す書類です。
- 申告期限から3年以内に分け方を決める。話し合いがまとまったら遺産分割協議書を作ります。
- 分けた日の翌日から4か月以内に「更正の請求」をする。特例を使って税額を計算し直し、納めすぎた分を返してもらう手続きです。分けた結果、税額が増える人は「修正申告」で追加分を申告します。
裁判になっているなど、やむを得ない事情で3年たっても分けられないときは、別の手続きがあります。3年を過ぎた日の翌日から2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署に出し、承認を受けます。
未分割のままでは、亡くなった方の預金をすぐに動かせないこともあります。納税のお金を相続人の手元から立て替えるのか、分割前でも一定額を払い戻せる制度を使うのか、分割払い(延納)を申請するのか。期限の2〜3か月前には、家族で方針を決めておくと慌てずに済みます。署名を頼まれた側の確認点は遺産分割協議書に判子を押す前の記事で取り上げています。
納める方法|原則は一括、延納・物納は期限までに申請
相続税は、原則として期限までに現金で一度に納めます。納め方は主に次の4つです(国税庁 No.4205)。
- 納付書を添えて、金融機関や税務署の窓口で納める
- インターネットバンキングなどで電子納税する
- 口座から引き落とす「ダイレクト納付」(事前の届け出が必要)
- クレジットカードで納める(1,000万円未満。決済手数料がかかる)
一度に納めるのが難しいときの方法が、延納と物納です。どちらも申告期限までに申請し、税務署の許可を受ける必要があります。
- 延納(何年かに分けて納める):相続税額が10万円を超え、現金で一度に納めるのが難しい場合に使えます。原則として担保が必要です(延納する税額が100万円以下で、期間が3年以下なら不要)。分けて納める間は、利息にあたる利子税がかかります(国税庁 No.4211)。
- 物納(土地などの財産そのもので納める):延納でも現金で納めるのが難しい場合に限られます。納めに使える財産には順番があり、不動産や上場株式などが先になります(国税庁 No.4214)。
延納も物納も、申請の書類をそろえるのに時間がかかります。「足りなければ後で分割払いにすればよい」と考えず、10か月の期限の中に申請の準備も入っていると考えておきます。
税理士に頼むタイミング|財産の全体が見えてきたら
相続税の申告書は自分で作ることもできます。ただ、土地の評価や特例を使うかどうかで税額が大きく変わるため、税理士に頼む方が多い手続きです。頼むなら、財産と借金の洗い出しが終わり、相続放棄をするかどうかが決まったころ、つまり3〜4か月目あたりが一つの目安です。
次のような場合は、もう少し早めに相談しておくと安心です。
- 自宅以外にも土地がある、土地の形が複雑で評価に手間がかかりそう
- 分け方がまとまらず、未分割申告になりそう
- 納税のお金が足りず、延納を考えている
- すでに期限が過ぎている、または残りが2か月を切っている
当社にご相談いただいた場合は、財産の一覧や期限の整理を一緒に行い、申告が要るかどうかや税額の確認は提携の税理士が行います。税理士の費用の考え方は相続税の税理士報酬の相場の記事で一般的な目安をまとめています。税務署から「お尋ね」や申告の案内が届いている方は、「相続についてのお尋ね」が届いたらの記事もあわせてご覧ください。
今日できる一歩
1. 期限の日をカレンダーに書く。亡くなった日(知った日)の10か月後の同じ日です。土日祝に当たれば休み明けの日にします。
2. 同じカレンダーに、3か月(相続放棄)と4か月(準確定申告)の日も書く。手前の期限から順に片づけていきます。
3. 相続人どうしで「いつまでに分け方を決めたいか」を共有する。期限の2〜3か月前に決まらない見込みなら、未分割申告と分割見込書の準備に切り替えます。
相談現場から
よく伺うのは「兄弟で話し合いがまとまっていないから、申告は待ってもらえるはず」という思い込みです。期限は延びず、争いがあることも遅れてよい理由にはなりません。一方で、未分割のままでも申告はでき、3年以内に分ければ特例をあとから使える、とお伝えすると、気持ちが少し落ち着く方が多いと感じます。まず期限の日を確定させ、そこから逆算するのがいちばんの近道です。
あわせて読みたい
- 相続税はいくらから?基礎控除の早見表と目安の出し方|愛知は約6人に1人
- 準確定申告が必要な人と4か月の期限|年金だけの親の場合と還付【2026年】
- 相続放棄の期限3か月はいつから?手続き・費用・してはいけないこと|愛知・岐阜
- 税務署から「相続についてのお尋ね」が届いたら|なぜ届くのか・回答義務・申告要否検討表の書き方と10か月の期限
- 相続税理士報酬相場:最新データで見る報酬の相場と節約方法5選
参考にした公的情報
- 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」
- 国税庁「No.4208 相続財産が分割されていないときの申告」(Q&A)
- 国税庁「No.9205 延滞税について」
- 国税庁「No.2024 確定申告を忘れたとき」(無申告加算税の割合)
- 国税庁「相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」
- 国税庁「No.4211 相続税の延納」・「No.4214 相続税の物納」
※本記事は2026年10月時点の一般的な情報の整理です。延滞税の割合は毎年見直されます。申告が要るかどうか、税額、特例が使えるかどうかは、財産の内容や家族の状況で変わります。個別の判断は、税務署または税理士にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
