10月の初め、通院の帰りに薬局の領収書を財布にしまいながら、「8月から医療費の上限が変わったらしい」というニュースを思い出す。自分は1割なのか2割なのか、上限はいくらなのか。資格確認書を出して見ても、多くの場合、上限額までは書いてありません。
この記事では、70歳以上の方の医療費の窓口負担と、高額療養費を取り上げます。高額療養費は、1か月の医療費の自己負担に上限を設けるしくみです。2026年10月時点で「決まって始まったこと」と「まだ検討中のこと」を分けて整理します。
2026年の見直し:決まって始まったことと、まだ決まっていないこと
高額療養費の上限の引き上げは、もともと2025年8月から始める予定でした。しかし患者団体などから強い反対があり、2025年3月に実施が見送られています。その後、厚生労働省の専門委員会で一から議論し直し、2025年12月に見直し案がまとまりました。
この案にもとづいて2026年7月に政令(国の決まり)が公布され、2026年8月1日から実施されています。整理すると次のとおりです。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 実施済み 2026年8月〜 | 月の上限額を引き上げ。4回目以降の上限(多数回該当)は据え置き。8月〜翌年7月で見る世帯の「年間上限」を新設し、外来の年間上限も引き上げ。 |
| 決定済み 2027年8月〜 | 所得の区分をさらに細かく分ける。年収200万円未満で住民税がかかる世帯は、4回目以降の上限を引き下げ。 |
| 検討中 | 70歳以上の窓口負担割合の見直し(年齢ではなく負担できる力に応じた負担へ)。外来特例を使える年齢の引き上げ。 |
「検討中」の2つは、厚生労働省の資料で「高齢者の窓口負担の見直しと併せて具体案を検討し、一定の結論を得る」とされたものです。窓口負担については、年齢ではなく負担できる力に応じた形にするため、2026年度中に制度の設計を行うとされています。2026年10月時点では、割合も時期も決まっていません。報道で具体的な割合が出ることがあっても、決まった内容ではありません。決まれば、加入先から案内が届きます。
自分の窓口負担は1割・2割・3割のどれか:確かめ方
窓口で払う割合は、年齢と所得で決まります。2026年10月時点の区分は次のとおりです。
| 年齢 | 原則 | 所得が多い方 |
|---|---|---|
| 70〜74歳 | 2割 | 3割(現役並み所得の方) |
| 75歳以上 | 1割 | 2割(一定以上の所得の方)/3割(現役並み所得の方) |
75歳以上で2割になるのは、住民税の課税所得が28万円以上で、年金収入とその他の所得の合計が単身で200万円以上(夫婦など2人以上の世帯は合計320万円以上)の方です。3割は課税所得145万円以上が目安です。会社の健康保険(協会けんぽ等)に入っている70〜74歳の方は、標準報酬月額28万円以上で3割です。標準報酬月額は、給与をもとにした保険料計算の額のことです。
なお、2割になった方の外来の負担増を月3,000円までに抑える「配慮措置」は、2025年9月30日で終わっています。
ご自分の割合は、手元の書類で確かめられます。
- 資格確認書:マイナ保険証を使っていない方などに届く、保険証の代わりのカードです。負担割合が書かれています。
- 資格情報のお知らせ:マイナ保険証を使っている方に届く紙です。これにも割合が載っています。
- マイナポータル:マイナ保険証を使っている方は、スマートフォンで割合や所得区分を見られます。
割合は毎年8月ごろ、前の年の所得をもとに見直されます。世帯の人数が変わったときも変わることがあります。新しい書類が届いたら、古いものと見比べておきましょう。
1か月の上限額の早見表(70歳以上・2026年8月から)
高額療養費の上限は、月の1日から末日までの自己負担で計算します。70歳以上の方には、通院だけの上限(外来特例)と、入院も含めた世帯の上限の2本があります。2026年8月から2027年7月までの金額は次のとおりです。
| 区分(年収の目安) | 外来だけ(個人) | 外来+入院(世帯) | 4回目以降 | 年間上限 |
|---|---|---|---|---|
| 現役並み3 約1,160万円〜 | 270,300円+(医療費−901,000円)×1% | 140,100円 | 168万円 | |
| 現役並み2 約770万〜1,160万円 | 179,100円+(医療費−597,000円)×1% | 93,000円 | 111万円 | |
| 現役並み1 約370万〜770万円 | 85,800円+(医療費−286,000円)×1% | 44,400円 | 53万円 | |
| 一般 〜約370万円 | 22,000円 (年21万6,000円まで) | 61,500円 | 44,400円 | 53万円※ |
| 住民税非課税(区分2) | 11,000円 (年9万6,000円まで) | 25,700円 | 24,600円 | 29万円 |
| 住民税非課税で所得が一定以下(区分1) | 8,000円 | 15,700円 | ― | 18万円 |
「医療費」は窓口負担ではなく、10割分の医療費の総額です。年間上限は8月〜翌年7月の合計で見ます。
出典:厚生労働省「見直しについて(令和8年8月診療分から)」、愛知県後期高齢者医療広域連合「自己負担限度額」(2026年7月15日更新)
7月までと比べると、一般区分は外来が1万8,000円から2万2,000円へ、世帯が5万7,600円から6万1,500円へ上がりました。区分2は外来が8,000円から1万1,000円へ、世帯が2万4,600円から2万5,700円へ。区分1は外来の8,000円が据え置きで、世帯は1万5,000円から1万5,700円になりました。
例を一つ挙げます。75歳以上・1割・一般区分の方が入院し、その月の医療費が100万円だったとします。窓口の1割は10万円ですが、上限は6万1,500円です。差の3万8,500円は払わずに済むか、あとで戻ってきます。入院中の食事代や個室の差額ベッド代は、この計算に入りません。
2027年8月からは、一般区分が年収に応じて細かく分かれます。年収約260万〜370万円の方は外来の上限が2万8,000円に、区分2の方は1万3,000円になる予定です。ただし外来の年間上限は、それぞれ年21万6,000円・年9万6,000円のままです。詳しい金額は、2027年に加入先から届く案内で確かめてください。
世帯合算・4回目以降・年間上限:負担を抑える3つのしくみ
世帯合算は、同じ世帯で同じ医療保険に入っている人の自己負担を、1か月分まとめて上限と比べるしくみです。たとえば75歳以上の夫婦が2人とも後期高齢者医療に入っていれば、夫の入院と妻の通院を合算できます。70歳以上の方は、1回の支払いが少額でも合算の対象です。ただし、子どもが会社の健康保険に入っているなど、保険が違う人とは合算できません。
4回目以降の上限(多数回該当)は、過去12か月に世帯で3回以上上限に達していると、4回目からさらに低い上限になるしくみです。一般区分なら6万1,500円が4万4,400円になります。この金額は今回の見直しでも据え置かれました。
世帯の年間上限は、今回新しくできたしくみです。毎年8月から翌年7月までの世帯の自己負担(外来+入院)の合計が年間上限を超えたら、超えた分が戻ります。一般区分なら年53万円です。外来だけの年間上限は以前からあり、一般区分は年14万4,000円でしたが、8月からは年21万6,000円に上がりました。
最初の集計期間は2026年8月〜2027年7月です。払い戻しの方法は加入先によって違い、申請が要る場合もあります。案内が届いたときに確かめられるよう、領収書はまとめて保管しておくと安心です。
入院が決まったら、事前にしておくこと
マイナ保険証で受付をすれば、事前の手続きなしで、窓口の支払いが上限額までになります。病院が所得区分をオンラインで確認するためです。
マイナ保険証を使わない方は、区分によって手続きが変わります。
- 一般区分・現役並み3の方:資格確認書を出せば、窓口は上限までになります。追加の申請はいりません。
- 区分1・2、現役並み1・2の方(75歳以上):市区町村の窓口に申請すると、資格確認書に区分を書き添えてもらえます(限度区分の併記)。これがないと、窓口では一般や現役並み3の扱いになり、いったん多めに払うことがあります。区分1・2の方は、入院中の食事代の減額もこの手続きで受けられます。
- 会社の健康保険に入っている70〜74歳の方:現役並み1・2や住民税非課税の方は、加入先に「限度額適用認定証」を申請します。窓口の支払いを上限までにする証明書です。
後期高齢者医療では、2024年12月2日から、以前の「限度額適用認定証」「減額認定証」は交付されなくなりました(名古屋市の案内より)。今は資格確認書に区分を書き添える方式です。病院の入院窓口でも、どれを出せばよいか教えてもらえます。
もう一つ、入院の前に家族と決めておきたいのが、お金の出し入れです。本人が入院中に銀行へ行けないと、支払いが滞ることがあります。誰が、どの口座から払うか。通帳やカードはどこにあるか。これを一度話しておくだけで、入院当日の慌ただしさがずいぶん違います。
高額療養費の申請と、亡くなった後でも請求できること
窓口で上限を超えて払った月があると、診療の数か月後に加入先から申請の案内(はがき等)が届きます。名古屋市の後期高齢者医療では、一度申請して口座を届け出れば、2回目からは自動で振り込まれます。
請求できる期間は、診療を受けた月の翌月1日から2年です。2年を過ぎると時効で受け取れなくなります。
相続の場面で気をつけたいのは、ここからです。入院して亡くなった場合、最後の数か月分の高額療養費が、支給前のまま残っていることがあります。払い戻しは診療の数か月後になるためです。この払い戻しは、亡くなった後でも相続人が請求できます。
- 案内の宛先:はがきは亡くなった方の住所に届きます。実家が空き家になっていると、誰も気づかないまま2年が過ぎることがあります。実家に届く郵便物をこまめに確かめるか、郵便局で転送の手続きができるか聞いておくと、見落としを防げます。
- 振込先:本人名義の口座が相続の手続きで止まっていると、振り込めないことがあります。その場合は相続人が自分の口座を指定して申請します。
- 必要なもの:一般には、申請する相続人の本人確認書類、亡くなった方との関係が分かる書類(戸籍謄本など)、振込先の通帳などを求められます。必要なものは市区町村や加入先によって違うので、申請の前に窓口で確かめてください。
受け取ったお金は、亡くなった方の権利から出たものなので、遺産の一部として扱われます。遺産分けの話し合いでは、ほかの預金と同じように一覧に載せておくと、あとで行き違いが起きにくくなります。相続税の申告が必要なご家庭かどうかの判断は、提携の税理士が確認します。
医療費に備えるお金の置き場所
上限があるとはいえ、入院すると上限額のほかに、食事代、差額ベッド代、日用品やおむつ代など、保険のきかない費用もかかります。払い戻しが来るのも数か月後です。一時的に立て替えるお金は、すぐ引き出せる普通預金に置いておくのが基本です。
目安は、ご自分の区分の「世帯の上限額」に、保険のきかない費用を足した額の数か月分です。一般区分なら、月6万1,500円に食事代などを足して考えます。それ以外のお金は、定期預金のままでかまいません。定期預金は解約や引き出しに手間がかかるので、当面の分だけを分けておくのがポイントです。
入院給付金のある保険や共済がお手元にある方は、入院や手術のたびに請求漏れがないか確認しておきましょう。請求できる人や期限は契約によって違います。ご本人が請求できないときに家族が代わりに請求できる届け出(指定代理請求人)が付いているかも、証券で見ておくと安心です。
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参考にした公的情報
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(2026年7月31日更新)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html - 厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001726232.pdf - 厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」(2025年12月25日 社会保障審議会医療保険部会・専門委員会資料)
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621874.pdf - 愛知県後期高齢者医療広域連合「自己負担限度額」
https://www.aichi-kouiki.jp/iryou/1001922.html - 厚生労働省「後期高齢者の窓口負担割合の変更等(令和3年法律改正について)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/newpage_21060.html - 全国健康保険協会(協会けんぽ)「限度額適用認定証」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3020/r151/ - 名古屋市「高額療養費(後期高齢者医療)」
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/hoken/1016449/1034710/1016466.html
本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な説明です。上限額の区分や払い戻しの手続きは、加入している医療保険や市区町村によって異なる場合があります。検討中の制度は今後変わることがあります。病気や治療についての判断は医師に、ご自身の区分や手続きは加入先の窓口に、税金の個別の判断は税理士にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
