母がひとり暮らしになって、もうすぐ一年。「うちに来たら?」という一言が、のどまで出ては引っ込む。同居は、気持ちだけで始めると、あとからお金や家事のことで行き違いが出やすい話です。
この記事では、同居を始める前に紙に書き出して決めておきたいことを、5つに分けてまとめます。内容は2026年10月時点の公的機関の情報によります。
内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、65歳以上の人がいる世帯のうち、令和5年に三世代世帯は7.0%、親と未婚の子だけの世帯は20.2%でした。夫婦のみの世帯は32.0%、一人暮らしは31.7%です。同居は多数派ではないからこそ、始める前の決めごとが大切になります。
この記事の結論
- 同居の前に、「お金・家事・介護・住まいの名義・きょうだいへの説明」の5つを、紙に書いて決めておくと、あとからの行き違いが減ります。
- 生活費を渡すときは、「必要な都度、実際の生活費に充てる」形なら、贈与税はかからないのが原則です(国税庁)。数年分をまとめて渡して、貯めてしまった分は課税の対象になります。
- 同居の経緯や、誰がいくら出したかの記録は、あとで「どうしてこうなったか」を説明する材料になります。相続での扱いは家庭ごとに違うので、きょうだいには決める前に伝えておくと安心です。
同居の前に決める5つのこと
話し合いは、気持ちの話から入ると、どうしても長引きます。次の5つを、1枚の紙に書いてみてください。
お金:生活費の出し方と、贈与税の考え方
同居では、毎月の生活費をどう分けるかが、いちばん揉めやすい部分です。決まった正解はありません。家庭の事情に合わせて、ざっくりでも金額と払う人を決めます。
親と子は、お互いに「扶養義務者」にあたります。国税庁の案内では、扶養義務者から生活費に充てるために受け取った財産のうち、「通常必要と認められる範囲」で、「必要な都度、直接その費用に充てる」ものには、贈与税がかかりません。逆に、数年分をまとめて渡され、生活費に使わず預貯金にしている部分には、贈与税がかかります。
親のお金を子が使うときは、手続きや銀行の対応にも注意が必要です。くわしくは、親が認知症なのに家族が預金を引き出すとバレる?をご覧ください。
住民票を同じ世帯にするか、分けるかで、国民健康保険料や介護保険の負担の計算のしかたが変わる場合があります。どちらが有利かは家庭で違うため、同居を始める前に、市区町村の窓口で確認してください。
家事と暮らし方、そして「合わなかったとき」の逃げ道
家事は、「できる人がやる」にすると、気づかないうちに偏ります。次のように、具体的に分けておくと気持ちが楽です。
- 食事の担当と、食べる時間(一緒に食べる日、別々の日)
- 洗濯、掃除、ごみ出しの担当(曜日で決めると続けやすい)
- 個室、台所、風呂、洗面所の使い方と、来客のときのルール
- 親が自分でできることは、できるだけ親に任せる(役割があると張り合いが出る)
同居は、やってみて初めて分かることが多いものです。最初から「ずっと続ける」と決めず、見直す日を決めておくと、お互いに気が楽になります。
- 3か月後、半年後など、「一度、話し合う日」を決める
- 合わなかったときに、親の家を残すか、貸すか、売るかを考えておく
- 同居をやめたときの、費用の精算の考え方を決めておく
介護が必要になったときのこと
介護は、始まる時期が読めません。同居していても、家族だけで抱えない前提で、窓口を知っておくと安心です。
- 相談先:地域包括支援センターです。市区町村が設置する高齢者の総合相談窓口で、全国のすべての市町村にあります(厚生労働省、2025年4月末時点で5,487か所)。名古屋市の案内では、相談は無料です。
- 介護保険のサービスを使うには:市区町村の窓口に、要介護(要支援)認定を申請します。
- 家族の役割:誰がどこまで担うか、仕事との兼ね合いを、きょうだいも含めて話し合っておきます。
同居の家族がいると、ホームヘルパーによる掃除や調理などの生活援助が使えない、と思われがちです。厚生労働省は2009年12月の通知で、「同居家族等がいることのみを判断基準として、一律機械的に」決めないよう、都道府県に周知を求めています。ただし、実際の判断は市区町村とケアプランで行われるため、窓口に確認してください。
費用の目安は、親の介護費用の平均と介護休業給付金にまとめています。
住まいと名義:登記は専門家に
同居の形は、大きく3つに分かれます。形ごとに、確認しておきたい点が変わります。
亡くなった親が住んでいた土地は、一定の条件を満たすと、相続税の計算で土地の評価額を減らせる特例があります(小規模宅地等の特例。居住用は330平方メートルまで、80%減額)。同居していた親族については、相続の直前から申告期限まで、その家に住み続け、土地を持ち続けることなどが条件の一つです(国税庁)。
ただし、この特例のために同居を決めるものではありません。自分の場合に使えるかどうかは、税務署や税理士などの専門家に確認してください。住み替えを含めた選択肢は、高齢者の住み替え費用も参考になります。
きょうだいへの説明:決める前に伝える
同居を決めたあとの報告より、決める前の相談のほうが、あとから揉めにくくなります。伝える内容は、次の5つです。
- 同居したい理由と、親の希望
- いつから、どのくらいの期間を想定しているか(見直す時期も)
- 生活費や住居の費用を、誰がどう出すか
- 親の財産(預金、家)をどう扱うか
- 介護が必要になったときの役割分担と、お願いしたいこと
1. 短め(電話で)
「お母さんの同居を考えてる。決める前に、一度みんなの意見を聞かせて。費用の分け方も、先に相談したいの。」
2. 丁寧め(LINEやメールで)
「お母さんと同居する方向で考えています。理由は、一人暮らしが心配になってきたことです。費用や介護の役割を、まず紙にまとめます。来週の日曜に、30分ほど電話で話せますか。」
3. 集まったとき
「同居をやるかどうかは、みんなで決めたい。同居したあとの費用は、毎月メモを取って共有するね。見直す日も決めておこう。」
介護や費用の負担をきょうだいでどう分けるかは、親の介護で兄弟が不公平…どう話し合う?で詳しく書いています。
今日できる一歩
- 「お金・家事・介護・住まい・きょうだい」の5つを、1枚の紙に書き出し、まだ決まっていない項目に印をつける。
よくある質問
同居したら、親の年金や預金から生活費を出してもいいですか
親の暮らしにかかる分を、親の年金や預金から出すこと自体は、珍しくありません。大切なのは、親の暮らしの分と、子の暮らしの分を分け、領収書やメモを残すことです。親の判断力に不安があるときは、地域包括支援センターに相談してください。
同居を始めたあと、やっぱり別居に戻せますか
戻せるように、始める前に「見直す日」と「親の家の扱い」を決めておくと安心です。住民票や名義を動かす場合は、元に戻すときの手間も確認しておきます。
配偶者が同居に反対のときは、どうすればいいですか
まず、反対の理由を聞きます。家事の負担、プライバシー、お金など、中身は人によって違います。この記事の5つの項目に沿って、具体的に決めていくと、不安が見えやすくなります。
同居すると、相続で有利になりますか
同居したことだけで、相続の取り分が自動的に決まるわけではありません。同居の経緯や、誰がどれだけ負担したかの記録を残しておくと、話し合いのときに説明しやすくなります。個別の判断は、弁護士などの専門家に確認してください。
あわせて読みたい
参考にした公的情報
- 国税庁「No.4405 贈与税がかからない場合」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4405_qa.htm
- 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
- 厚生労働省「同居家族等がいる場合における訪問介護サービス等の生活援助の取扱いについて(老振発1224第1号)」 https://www.wam.go.jp/wamappl/bb05kaig.nsf/0/d3ec13682c2d3634492576dd0020e135/$FILE/20100305_3shiryou8_4.pdf
- 内閣府「令和7年版高齢社会白書」家族と世帯 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/html/zenbun/s1_1_3.html
- 厚生労働省「地域包括支援センターについて」 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001671185.pdf
- 名古屋市「いきいき支援センター(地域包括支援センター)」 https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/koureisha/1016496/1016502.html
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報にもとづく一般的な整理です。税や保険料、登記、相続の個別の判断は、税務署、市区町村の窓口、税理士・司法書士・弁護士などの専門家にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
