親の通院の付き添いも、ケアマネジャーとの連絡も、役所の手続きも、気づけばいつも自分がやっている。兄弟姉妹は「ありがとう」と言ってくれるものの、実家に来るのは年に数回。お金の話は切り出しにくい。介護が長引くほど、こうした不公平感はたまりやすくなります。
この記事では、兄弟姉妹で負担を分ける話し合いの進め方と、お金の記録の残し方、そして相続のときに関わる「寄与分」「特別寄与料」の仕組みを整理します。2026年10月8日時点の、民法の条文と裁判所の案内にもとづく一般的な説明です。個別のケースで、認められるかどうかや金額を判断するのは弁護士の仕事です。そこは弁護士に相談する前提で読んでください。
この記事の結論
- 介護の負担は、同居している人や近くに住む人に偏りやすいものです。「時間」「お金」「気持ち」に分けて書き出し、きょうだい全員が同じ紙を見るところから始めます。
- 親のお金から払ったもの、自分が立て替えたものは、日付・金額・使い道・領収書を記録します。あとで話し合うときの土台になり、疑いを招かない備えにもなります。
- 相続のとき、介護を取り分に反映させる制度が「寄与分」です。ただし「特別の寄与」が必要で、認められるかは事情しだいです。相続人以外の親族には「特別寄与料」があり、請求できる期限は短くなっています。
介護の負担は一人に偏りやすい
厚生労働省の「2025(令和7)年国民生活基礎調査」で、介護が必要な人の主な介護者を見ると、同居している家族が最も多くなっています。
主な介護者になっている人のうち、別居の家族は13.4%です。同居や近所に住む人が日々の介護を担い、離れて暮らす兄弟からは様子が見えにくい。距離や仕事、家庭の事情が重なると、そうなりやすい面があります。「何もしてくれない」と感じるのは、負担が偏りやすい仕組みがあるためで、あなたが気にしすぎているからとは限りません。
一方で、離れて暮らす兄弟にも、遠方であること、仕事、自分の家族のことといった事情があります。相手を責める前に、お互いに見えていない部分があると考えると、話し合いを始めやすくなります。
まず見える化する:時間・お金・気持ち
「不公平」は感覚なので、そのままだと話が平行線になります。1か月分でよいので、誰がどれだけ担っているかを紙に書き出してみてください。
離れて暮らす兄弟にできることもあります。手続きの電話やオンライン申請を引き受ける、費用の一部を持つ、月に一度は帰省して交代する、定期的に親へ電話をする、などです。「同じことを同じだけ」ではなく、できることを分ける考え方なら、話し合いが前に進みやすくなります。
兄弟での話し合いの進め方と文例
- 資料を1枚つくる:親の状況、いまの担当、月にかかる費用、困っていること。
- 全員で集まる:オンラインでも構いません。ケアマネジャーから親の状況や今後の見通しを聞いておくと、認識がそろいやすくなります。
- 責めずに、困りごとから話す:「あなたは何もしていない」ではなく、「私はこれだけ担っていて、続けるのが難しい」と伝えます。
- 担当・費用・見直しの日を決める:3か月後など、見直す日を最初に決めておきます。
- 決めたことは文字で残す:きょうだいのLINEグループやメールに、決定事項を書いて送ります。
切り出すときの文例です。そのまま写して使えます。
短めのメッセージで
「お母さんの介護のことで、一度みんなで話したい。今月は通院に6回付き添った。これからの分担を相談させてほしい。」
丁寧に伝える
「いつも気にかけてくれてありがとう。実は、通院の付き添いや手続きで、私の負担がだいぶ大きくなっています。責めたいのではなく、これからも続けられるように、役割を分け直したいと思っています。」
遠くに住む兄弟姉妹へ
「帰れない分、できることを教えてほしい。手続きの電話をお願いしたり、費用を少し持ってもらったりできないかな。」
親しい兄弟姉妹へ(LINEなど)
「毎月かかっている費用をまとめた表を送るね。見てもらってから、電話で話そう。」
お金の記録:何をどう残すか
親の介護では、お金の流れが三つあります。親のお金から親のために使うもの、自分が立て替えるもの、自分の時間や交通費として持ち出しになるものです。記録するときは、次の5つを残します。
- 日付
- 金額
- 何のための支払いか
- どのお金から払ったか(親の口座、親の現金、自分の立て替え)
- 領収書やレシート(封筒にまとめて保管)
守りたい原則は、「親のお金は親のために使う」「自分の生活費と混ぜない」の二つです。親の通帳やカードを預かっているときは、そのことを兄弟にも伝えておきます。使い道が見えない状態が続くと、実際は親のために使っていても、疑われやすくなります。
立て替えた分は、あとで親の財産から精算するのか、兄弟で分けるのか、相続のときに考えてもらうのか、先に整理しておきます。介護にかかる費用の目安は親の介護費用の平均と介護休業給付金でまとめています。なお、親の判断能力が下がってからの預金の引き出しには、銀行の対応など別の注意が必要になります。
寄与分と特別寄与料:相続のときに介護をどう考えるか
相続になったとき、親の介護を担った人の働きをどう扱うか。民法には二つの仕組みがあります。相続人が使うのが「寄与分」、相続人ではない親族が使うのが「特別寄与料」です。
寄与分は、民法904条の2に定めがあります。共同相続人の中に、亡くなった人の事業を手伝った、お金を出した、療養看護をした、といった方法で、財産の維持や増加に「特別の寄与」をした人がいるとき、その人は寄与分を加えた相続分を受け取れます。まず相続人どうしの協議で決め、まとまらなければ家庭裁判所が、寄与の時期や方法、程度、相続財産の額などを考えて定めます。
注意したいのは「特別」の部分です。親子の通常の助け合いを超えるかどうかが問われ、介護をしたから自動的に認められるわけではありません。どんな介護が、どの程度の金額になるのかは、一つひとつの事情で判断されます。見通しを知りたいときは、弁護士に相談してください。
家庭裁判所では「寄与分を定める処分調停」を使います。申し立てるのは寄与をした相続人で、相手方は他の共同相続人全員です。調停が不成立になって審判に移るときは、遺産分割の審判の申立てがないと却下されます。この点は見落としやすいところです。
期限にも気をつけてください。相続開始から10年が過ぎたあとの遺産分割では、原則として寄与分は考慮されなくなります(民法904条の3)。10年が過ぎる前に家庭裁判所へ遺産分割を請求していた場合などは例外です。親の相続が数年前に始まり、話し合いが止まっているときは、相続が始まった日から数えて確認しておきましょう。
特別寄与料は、民法1050条の仕組みです。相続人ではない親族が、無償で療養看護などの労務を提供して、財産の維持や増加に特別の寄与をしたとき、相続人に金銭の支払いを請求できます。たとえば、亡くなった長男の妻が義理の親を介護していた場合です。請求できる期限は、相続の開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年で、どちらかが過ぎると請求できません。期限が短いので、相続が始まったらすぐに確認してください。
親が元気で判断できるうちに、介護をしてくれた子への気持ちを遺言で形にしてもらう方法もあります。ただし、ほかの子には遺留分という最低限の取り分があります。「遺言があるからお前の取り分はない」と言われたらで、遺留分の考え方と手順を説明しています。
こじれそうなときは、誰に相談するか
- 介護のやり方やサービスのこと:担当のケアマネジャー、市区町村の地域包括支援センター。
- 兄弟で話がまとまらないとき:家庭裁判所の調停(寄与分を定める処分調停、遺産分割の調停)。
- 寄与分や特別寄与料が認められるかどうか、金額の見通し、兄弟との交渉:弁護士。
今日できる一歩:今月の介護の記録を1枚つくる
紙かスマホのメモに、「日付」「した内容」「かかった時間」「かかったお金」を、思い出せる範囲で書いてください。領収書は封筒にまとめます。兄弟に見せるのは、あとで構いません。まずは自分の分だけで十分です。
一度つくっておくと、話し合いでも、相続のときの資料としても使えます。
親の判断能力が下がってから家族が預金を引き出すときの注意点は、親が認知症なのに家族が預金を引き出すとバレる?にまとめています。
よくある質問
介護をした子は、相続で必ず多くもらえますか
必ずではありません。寄与分には「特別の寄与」が必要で、通常の助け合いを超えるかどうか、期間や内容などの事情をふまえて決まります。相続人どうしの話し合いで合意できれば、その内容で進められます。
親の口座から介護費用を出してもよいですか
親の意思に沿って、親のために使い、記録を残す形が基本です。親の判断能力が下がっている場合は、銀行が本人の意思確認を重くみるため、引き出しが難しくなることがあります。親の財産を守る方法として成年後見制度などもあるので、早めに確認してください。
長男の妻が義理の親を介護していました。何か請求できますか
相続人ではない親族が、無償で療養看護などをした場合は、特別寄与料を相続人に請求できる仕組みがあります。期限は、相続の開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年です。対象になるかどうかは、弁護士に確認してください。
親が元気なうちに、介護の話をしておくべきですか
できれば、親本人の希望を聞いておくと役に立ちます。どこで暮らしたいか、誰に頼みたいか、費用はどこから出すか。親の考えがわかっていれば、兄弟で意見が分かれたときも、「親はこう望んでいた」を共通の物差しにできます。
参考にした公的情報
- 厚生労働省「2025(令和7)年国民生活基礎調査の概況」介護の状況https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/dl/05.pdf
- e-Gov法令検索「民法」(第904条の2、第904条の3、第1050条)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 裁判所「寄与分を定める処分調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_23/index.html
- 裁判所「特別の寄与に関する処分調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_25/index.html
- 法務省「相続開始から10年を経過した後にする遺産分割」に関する資料https://www.moj.go.jp/content/001372212.pdf
※本記事は2026年10月時点の一般的な情報です。寄与分や特別寄与料が認められるか、金額がいくらになるかは、個別の事情で変わります。個別の判断や兄弟との交渉は弁護士にご相談ください。
関連:話し合いで決まらないときの裁判・調停については、親の介護の不公平は裁判で認められる?兄弟間の寄与分・扶養調停の現実で、手続きの種類、費用、期限、認められやすい介護と認められにくい介護を整理しています。制度の違いは寄与分と特別寄与料の違い・期限・金額で表にしています。長男の妻など相続人でない方の場合は特別寄与料の条件と期限も確認してください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
