親が認知症なのに家族が預金を引き出すとバレる?銀行の対応と正しい方法

親の入院費の支払期限が近いのに、親は通帳のしまい場所も暗証番号もはっきり思い出せない。キャッシュカードは財布にあり、暗証番号は自分も知っている。「少し引き出して払えば済むのでは」と考えたくなる場面です。

この記事では、親が認知症のときに家族が預金を引き出すと何が起きるのか、銀行は認知症の人の預金をどう扱うのかを整理します。そのうえで、正しい方法として成年後見制度、任意後見、銀行の代理人制度、家族信託などを比べます。違法な方法や、見つからないようにする方法は載せません。2026年10月8日時点の、全国銀行協会・裁判所・法務省などの公開情報にもとづく一般的な説明です。

この記事の結論

  1. 預金は親本人のものです。全国銀行協会の2021年の考え方でも、預金の払出しには本人の意思確認が必要とされ、判断能力が落ちた人には、成年後見制度などの利用を促すのが一般的とされています。
  2. 「バレるか」より、「記録が残る」と考えてください。引き出しは取引の履歴に残り、相続のときには、相続人の一人が他の相続人の同意なしに、その履歴を銀行へ求められます。
  3. 正しい方法は、成年後見制度のほか、元気なうちの任意後見・銀行の代理人制度・家族信託などです。本人の判断能力が前提の方法は、認知症が進むと選べません。入院費など急ぎの支払いは、まず取引銀行に相談してください。
目次

家族が引き出すと何が起きるか:「バレる」より「記録が残る」

窓口やATMでの引き出しは、いつ、いくら引き出されたかが、通帳や取引明細に残ります。銀行が認知症に気づくきっかけは、窓口での受け答えや、家族からの相談、診断書の提出などです。全国銀行協会の考え方では、判断能力の低下が疑われるとき、本人との面談、診断書、担当医への聞き取りなどで確認する例が挙げられています。

認知症と分かったときの対応は、銀行ごとに違います。全国銀行協会の考え方は、会員の銀行に一律の対応を求めるものではなく、より厳しい対応をとる場合や、リスクが大きいとして取引を断る場合もあり得るとしています。

もう一つ、見落としやすいのが相続のときです。2009年(平成21年)1月22日の最高裁判決は、共同相続人の一人が、他の共同相続人全員の同意がなくても、亡くなった人名義の預金口座の取引の経過を開示するよう、銀行へ単独で求められると判断しました。数年前の引き出しも、相続のときに他の相続人の目に触れる可能性があります。

成年後見人が付いた場合は、後見人が本人の財産を管理するため、それまでの収支も確認の対象になり得ます。入院費や施設費のために使ったお金でも、領収書などの記録がなければ「使い込みでは」と疑われやすくなります。家族間のトラブルになれば、返還を求められることもあります。どう評価されるかは事情しだいなので、悩んだときは弁護士に相談してください。

ここまでは、見つからないための話ではありません。記録に残る前提で、親のために使い、使い道を説明できる形にしておくことが、親にも家族にも安全だ、という話です。

なお、この記事は「親が生きている間の預金の引き出し」の話です。相続人の中に認知症の人がいて、遺産分割協議の署名が問題になる場合は別の話になります。署名の代筆が無効になる理由や、成年後見を使った正しい進め方は、相続で認知症の相続人はバレる?代筆は無効・犯罪になり得ます|正しい進め方にまとめています。

銀行は認知症の人の預金をどう扱うか:全国銀行協会の2021年の考え方

2021年2月18日、全国銀行協会は「金融取引の代理等に関する考え方」を公表しました。窓口で高齢の顧客や代理人と取引するときの、会員の銀行向けの参考資料です。状況別の考え方を、要点だけ表にしました。

状況銀行の考え方(要旨)
本人に判断能力がある通常どおり取引する
本人の判断能力が低下した本人の財産を守るため、親族などに成年後見制度等の利用を促すのが一般的。手続きが終わるまでやむを得ず取引するときは、本人のための費用の支払いであることを確認するなどして対応するのが望ましい
成年後見人など(法定代理人)がいる代理権を確認したうえで、各行の手順で取引する
本人が親族に代理権を与え、銀行に届け出ている(任意代理人)届出を受けていれば、その代理人と取引できる
代理権のない親族(無権代理)が頼んでくる成年後見制度を利用していない(できない)場合に限る、極めて限定的な対応。本人の利益に適合することが明らかな場合(例:本人に判断能力があれば本人が払っていたはずの医療費)に限り、応じることが考えられる。リスクがあるとも明記されている。成年後見人などが決まったあとは、親族からの払出しには応じず、後見人からの依頼を求める
※全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方」(2021年2月18日)をもとに要点を整理。会員各行に一律の対応を求めるものではなく、実際の対応は銀行ごとに違います。

注目してほしいのは、最後の行です。親族が代わりに払い出す対応は、成年後見制度を使っていない場合の例外で、使い道も「本人の利益に適合することが明らか」なものに絞られています。引き出しが通るかどうかは銀行の判断で、通る保証はありません。

医療費など至急の支払いが必要なときについては、同じ資料が、家庭裁判所の「審判前の保全処分」を使うことも考えられる、としています。成年後見の申立てをしたうえで、審判が出る前に必要な手当てを家庭裁判所に求める手続きです。また、全国銀行協会は2020年3月26日の案内資料で、生活費や入院・介護施設の費用などで資金が必要なときは、まず取引銀行に相談するよう呼びかけています。

正しい方法を比べる

親の預金を守りながら、必要なお金を使えるようにする方法は、いくつかあります。いつ使えるかが違うので、親の状態に合わせて選びます。

方法使えるときできること気をつけたいこと
成年後見制度(法定後見)本人の判断能力が低下したあと。本人、配偶者、四親等内の親族などが、本人の住所地の家庭裁判所に申し立てる後見人が、本人の預貯金などの財産を管理する。銀行へも届け出る後見人を選ぶのは家庭裁判所で、家族が選ばれるとは限らない。申立費用は収入印紙800円分、登記手数料の収入印紙2,600円分、郵便切手。鑑定が必要なら鑑定費用も。診断書などの書類が要る
任意後見本人に判断能力があるうちに、公正証書で契約する。判断能力が低下したら、家庭裁判所が任意後見監督人を選んでから始まるあらかじめ選んでおいた人が、後見人として財産を管理する判断能力が落ちてからは契約できない。始まると、監督人がつく
銀行の代理人制度・財産管理サービス銀行が用意している場合のみ。内容は銀行ごとに違う届け出た代理人が、決まった範囲の取引をできる手続きに時間がかかるため、早めの検討が勧められている(全国銀行協会)。取り扱いの有無は取引銀行に確認する
家族信託本人に意思能力があるうちに、信頼できる家族に財産の管理を託す契約を結ぶ契約の内容に沿って、財産を預かった家族(受託者)が管理する意思表示のときに意思能力がなければ、その契約は無効になる(民法3条の2)。口座の扱いは金融機関で違う。契約の作成は司法書士や弁護士などの専門家に
日常生活自立支援事業判断能力が不十分でも、契約の内容を判断できる人。窓口は市区町村の社会福祉協議会福祉サービスの利用の手伝いや、預金の払い戻し・預け入れなど日常的な金銭管理の手伝い契約できる能力が必要。利用料がかかる(訪問1回あたり平均で約1,200円)
急ぎの医療費・施設費支払期限が迫っているときまず取引銀行に相談する。急ぐ場合は、成年後見の申立てと、審判前の保全処分の活用も考えられる応じるかどうかは銀行の判断。応じる場合も、本人のための費用に限られる
※2026年10月時点の一般的な整理です。費用は裁判所の案内(後見開始の申立て)、日常生活自立支援事業は厚生労働省の案内によります。

成年後見制度は、2026年6月に法改正が成立しています(施行はまだ)

成年後見制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が、2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されました。成年後見制度に関する部分の施行は、公布から2年6か月を超えない範囲で政令が定める日で、遅くとも2028年12月24日までです。2026年10月時点では、まだ現行の制度が使われています。

法務省の資料によると、改正の主な内容は次のとおりです。

  • 後見と保佐をなくし、「補助」に一元化する。後見に相当する場合は「特定補助」を選べる
  • 判断能力が回復していなくても、制度を使う必要がなくなれば、終了できる
  • 補助人は本人の意向をつかむ義務を負い、選ぶときも本人の意見が重んじられる
  • 任意後見では、監督の簡略化や、補助が始まったあとも契約が続くことなどを認める

施行前から制度を使っている人は、基本的に現行の法律のまま利用を続けられます。新しい制度に移りたいときは、補助の申立てをする形になります。いまの制度は、いったん始まると続くのが基本で、全国銀行協会の資料も、家族が資産を第三者に委ねることへの抵抗感から利用を断るケースがあると書いています。改正で「終われる後見」に変わる点は、この迷いに関わります。ただし、施行日はまだ決まっていません。改正を待つかどうかは、親の状況によって違うので、専門家に相談してください。

利用者の数も押さえておきます。法務省民事局の資料(令和8年7月)では、2025年12月末時点で、後見が18万0828人、保佐が5万8162人、補助が1万8078人です。

いまのうちにできること

  • 親と話しておく:切り出し方は年末年始の帰省で親とお金の話にまとめています。
  • 口座の一覧をつくる:銀行名、支店名、通帳の置き場所を書き出します。暗証番号は書かず、保管場所を決めます。
  • 取引銀行に聞く:代理人制度や財産管理サービスがあるかを、親と一緒に確認します。
  • ATMの制限を確認する:高齢者のATM引き出し・振込の制限は、70歳以上のATM振込・引き出し制限で説明しています。
  • 任意後見や家族信託を考えるなら早めに:判断能力が前提の方法なので、契約書の作成は専門家に相談します。

今日できる一歩:親の取引銀行を書き出し、窓口で「代理人制度はありますか」と聞く

親が判断できる状態なら、親と一緒に取引銀行へ行き、代理人制度や財産管理サービスがあるかを聞いてください。電話での問い合わせでも構いません。すでに親が内容を理解するのが難しい状態なら、引き出す前に、市区町村の地域包括支援センターへ「成年後見制度を考えている」と相談してください。

どちらの場合も、引き出したお金の使い道は、日付・金額・領収書を残します。

よくある質問

親に頼まれて、親のカードで引き出すのは問題ありませんか

親がはっきり頼み、内容を理解していて、引き出した分が親のために使われ、記録も残る場合と、親が内容を理解できない状態で引き出す場合とでは、事情が大きく違います。後者は本人の意思に基づくとは言いにくく、避けてください。カードや暗証番号を家族が使うことを銀行がどう扱うかは、銀行の規定で決まります。どちらの場合も、個別の判断は弁護士にご相談ください。

認知症と診断されたら、口座はすぐに凍結されますか

全国銀行協会の考え方は、判断能力がある場合は通常どおり取引し、低下した場合の対応を状況別に整理しています。診断名だけで一律に止めるとは書かれていません。実際の対応は銀行ごとに違うため、取引銀行に確認してください。

入院費や施設費の支払いが迫っています。どうすればよいですか

まず取引銀行に相談してください。全国銀行協会の案内資料でも、生活費や入院・介護施設の費用が必要なときは、まず取引銀行に相談するよう書かれています。銀行の判断になりますが、本人のための医療費などで、明らかに本人の利益になる場合は、応じる余地があるとされています。急ぐ場合は、成年後見の申立てと審判前の保全処分も選択肢です。

成年後見人には、家族がなれますか

申立書に候補者を書けますが、選ぶのは家庭裁判所です。本人の財産の内容や必要な援助に応じて、適任者が選ばれます。家族が選ばれるとは限らず、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることもあります。

制度の中身をもう少し詳しく知りたい方は、成年後見制度のデメリット、元気なうちに備える任意後見監督人の役割と申立て費用、任意後見の代理権目録の決め方、賃貸経営や会社の株が止まる心配についてはアパート経営と家族信託・自社株の家族信託もあわせてご覧ください。


参考にした公的情報

※本記事は2026年10月時点の一般的な情報です。銀行の対応は銀行ごとに異なります。個別の判断は、取引銀行、家庭裁判所、弁護士などの専門家にご確認ください。

本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。

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この記事を書いた人

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