認知症による口座凍結とは?銀行の判断基準と防ぐ7つの対策

「親が認知症になったら、銀行口座からお金を下ろせなくなるって本当?」——答えは本当です。金融機関が名義人の判断能力の低下を把握すると、口座は事実上「凍結」され、たとえ家族であっても預金を引き出せなくなります。介護費用や医療費、施設の入居費用を子どもが立て替え続けて家計が苦しくなるご家族は、相続相談の現場でも決して珍しくありません。

厚生労働省研究班の推計(2024年公表)では、認知症の高齢者は2040年に約584万人に達すると見込まれています。軋前の軋前となるMCI(軽度認知障害)を含めれば、高齢者の3人に1人が該当する計算です。口座凍結はもはや他人事ではありません。本記事では、銀行が凍結を判断する基準とタイミング、凍結された場合の解除方法、そして凍結が起こる前にできる7つの対策を、中立の立場から費用も含めて徹底的に解説します。

目次

認知症になると銀行口座が凍結される理由と判断基準

なぜ凍結されるのか:預金の引き出しには本人の意思確認が必要

預金の引き出しや解約は、法律上「本人の意思に基づく取引」であることが大前提です。認知症が進行して意思能力が失われた状態での取引は無効とされる可能性があり、金融機関は本人の財産を不正引出しや使い込みから守る責任を負っています。だからこそ、名義人の判断能力に疑いが生じた時点で、銀行は取引を制限せざるを得ないのです。これは家族への嫌がらせではなく、本人保護の仕組みです。

銀行はなぜわかる?凍結される3つのタイミング

「認知症と診断されたら自動的に凍結される」という仕組みはありません。病院の診断情報が銀行に自動連携されることはなく、実際には次の3つのタイミングで金融機関が把握します。

  1. 窓口でのやりとり:同じ質問を繰り返す、暧証番号を何度も間違える、書類に同じ箇所への記入を繰り返すなど、行員が様子の変化に気づくケース
  2. 家族からの申し出・相談:「親が認知症なので代わりに手続きしたい」と家族が相談した結果、凍結に至るケース(実は非常に多いパターンです)
  3. 手続きに伴う把握:施設入所に伴う住所変更、成年後見登記の確認など、他の手続きがきっかけになるケース

つまり「いつ凍結されるかは予測できない」のが実情です。軽度のうちは従来どおり使えていた口座が、ある日突然使えなくなる——この予測不能性こそが口座凍結問題の最大のリスクです。

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口座凍結されるとどうなる?できること・できなくなること

できなくなること:引き出し・解約・値卸し

ATMや窓口での預金の引き出し、定期預金の解約、振込、定額自動送金の設定変更などができなくなります。見落とされがちですが、預金だけでなく株式や投資信託の売却・解約もできなくなります。証券口座も同じく本人の意思確認が必要だからです。相場が下がる局面でも売りたくて売れない、という事態は資産運用上の大きなリスクです(詳しくは相続財産の運用で失敗しない!認知症リスクを避ける方法6選)。

維持されること:年金の受け取り・自動引き落とし

一方で、口座自体が閉鎖されるわけではないため、年金の受け取り(入金)や、公共料金・クレジットカードなどの自動引き落としは原則として維持されます。電気・ガス・水道がすぐに止まることはありません。困るのは「新しくまとまったお金を動かすこと」です。介護施設の入居一時金や自宅のリフォーム費など、数百万円単位の支出が必要になったときに家族が立ち往生します。

特に深刻なのは定期預金

定期預金は解約に本人の意思確認が必須のため、認知症になると満期が来てもそのまま「塩漬け」になります。最悪の場合、本人が亡くなって相続が発生し、相続人全員での遺産分割協議がまとまるまで、数年〜十数年にわたって誰も手を付けられません。詳細は定期預金は認知症になると解約できない?対処法と事前の備えをご覧ください。

すでに凍結された場合の解除方法

原則:成年後見制度(法定後見)の利用

凍結後に預金を動かす正式な方法は、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選任してもらうことです。ただし、申立てから審判まで1〜3か月程度かかること、財産額や親族関係によっては司法書士や弁護士などの専門職が後見人に選ばれること、専門職後見人には月額2〜6万円程度の報酬が本人が亡くなるまで継続することなど、負担の大きさは必ず知ったうえで利用すべき制度です。手続きの流れ・費用・注意点は凍結された銀行口座を解除するには?成年後見制度の手続き・費用・注意点で詳しく解説しています。

例外:全国銀行協会の指針による柔軟対応(生活費・医療費・介護費)

全国銀行協会は2021年に、本人の意思確認ができない場合でも、本人の医療費・介護費・生活費など、本人の利益に資することが請求書等で確認できる支出については、親族による払い出しに柔軟に対応するとの考え方を示しました。病院や介護施設の請求書を持参すれば応じてもらえる可能性があります。ただしこれはあくまで例外的な取扱いで、対応の可否や条件は金融機関ごとに異なります。確実な方法ではないことに注意してください。

やってはいけないこと:キャッシュカードでの無断の引き出し

暗証番号を知っている家族がATMで引き出し続けるケースは実際にありますが、おすすめできません。本人の意思に基づかない引き出しは、相続発生後に他の相続人から「使い込み」を疑われ、遺産分割トラブルの火種になります。使途の記録と領収書の保管を徹底し、早めに正式な制度に移行すべきです。

口座凍結を防ぐ7つの生前対策を徹底比較

凍結対策はすべて「本人に判断能力があるうち」にしか実行できません。まずは7つの選択肢の全体像を比較表で把握してください。

対策できること費用の目安向いている人
①代理人カード・代理人指名日常の引き出しを家族が代行ほぼ無料まず手軽に備えたい人
②財産管理委任契約財産管理を契約で家族に委任契約書作成費用(公正証書推奨)身体の衰えにも備えたい人
③任意後見制度本人が選んだ人が将来後見人に公正証書作成+発効後は監督人報酬(月額1〜3万円程度)信頼できる家族がいる人
④家族信託預金・不動産の管理・処分を家族に幅広く委託専門家報酬含め30〜100万円程度が目安自宅や収益物件の管理・売却まで任せたい人
⑤生前贈与財産を先に移して凍結対象から外す年110万円の基礎控除超は贈与税時間をかけて計画的に移せる人
⑥信託銀行の認知症サポート商品予め預けた資金を手続きに応じて家族が引出可信託報酬・管理手数料(商品による)制度設計を金融機関に任せたい人
⑦生命保険(一時払い終身など)死亡保険金を凍結・遺産分割の外で受取人に直接届ける。指定代理請求制度も活用可保険料として資金を移す(掛け捨てではない)亡くなった後に家族が確実に使えるお金を残したい人

①代理人カード・代理人指名手続き:まずやっておきたい無料の備え

多くの銀行では、本人の判断能力があるうちに申請すれば、家族用の代理人カードの発行や代理人の指名登録ができます。費用がほぼかからない反面、本人の判断能力が失われた後は使えなくなる銀行が多いという限界があります。あくまで入口の対策と考え、他の対策と併用しましょう。対応の可否・条件は取引銀行に確認が必要です。

②財産管理委任契約:判断能力があるうちの代理の根拠づくり

本人と家族の間で財産管理を委任する契約を結ぶ方法です。身体が不自由になった場合の代理権限を明確化できますが、認知症で意思能力が失われた後は効力に疑義が生じるため、③の任意後見とセットで設計されることが一般的です。

③任意後見制度:「誰に任せるか」を自分で決められる

将来判断能力が低下したときに後見人になってほしい人を、公正証書であらかじめ契約しておく制度です。法定後見と違い「誰が後見人になるか」を自分で決められるのが最大の利点です。一方、発効すると家庭裁判所が選ぶ任意後見監督人が必ず付き、監督人報酬が継続的に発生します。

④家族信託:不動産も含めて柔軟に管理できる

信頼できる家族に財産の管理・処分権限を信託契約で移しておく方法です。預金だけでなく自宅の売却や賃貸など不動産の活用まで任せられる自由度の高さが魅力で、近年注目されています。一方、契約設計に専門知識が必要で、専門家報酬を含めた初期費用は比較的高額です。また金銭信託用の口座開設に対応する金融機関が限られる点も実務上のハードルです。

⑤生前贈与:凍結対象から財産を外す

元気なうちに財産を子や孫に贈与しておけば、その分は凍結の影響を受けません。年110万円の基礎控除内での暦年贈与が基本ですが、渡しすぎるとご自身の老後資金・介護費用が不足するリスクがあります。相続開始前7年以内(段階的に延長中)の贈与は相続財産に加算されるルールにも注意が必要です。

⑥信託銀行の認知症サポート商品

信託銀行などが提供する、あらかじめ預けた資金を医療費・介護費の領収書などと引き換えに家族が引き出せる商品です。仕組みは安心感がある反面、管理報酬・手数料がかかり、引き出せる用途も限定されます。

⑦生命保険:「凍結されない現金の置き場所」としての活用

見落とされがちですが、生命保険には口座凍結対策として固有の強みがあります。死亡保険金は受取人固有の財産とされ、遺産分割協議を待たずに受取人が単独で請求でき、通常は請求から数営業日で支払われます。葬儀費用や当面の生活費、相続税の納税資金といった「すぐ必要になるお金」を確実に届けられるのです。さらに「500万円×法定相続人の数」までの相続税の非課税枠が使えるため、凍結対策と節税対策を同時に兼ねられます。

また、存命中の備えとしては指定代理請求制度も重要です。あらかじめ代理請求人を指定しておけば、本人が認知症などで請求できない状態になっても、家族が代わって保険金を請求できます。一方で、加入には年齢・健康状態の条件があり、商品によっては途中解約で元本割れするものもあるため、全財産ではなく「遺したいお金」の範囲で活用するのが原則です。商品選びの注意点は一時払い終身保険のデメリットとは?で詳しく解説しています。

どの対策を選ぶべき?典型例でわかる選び方

当相談窓口に寄せられるご相談をもとにした典型例で2パターンを紹介します(個人が特定されないよう内容を再構成した典型例です)。

典型例1:預金中心・70代後半のお母様と長女
財産は自宅と預金2,000万円(うち定期1,500万円)。物忘れが増え始めた段階でご相談いただき、まず定期預金を普通預金化して代理人指名を登録。そのうえで、葬儀費用と納税資金相当分を一時払い終身保険(受取人:長女)に組み替え、残りを生活費口座に集約する形で整理しました。信託までは不要と判断したケースです。

典型例2:自宅+アパート保有の80代のお父様と長男
賃貸物件の管理・将来の売却まで見据える必要があったため、家族信託で長男に管理権限を移し、金融資産の一部は非課税枠の範囲で生命保険を活用。信託と保険の併用型です。このように「不動産の有無」と「誰に何を残したいか」で最適な組み合わせは変わります

よくある質問

Q1. 認知症と診断されたらすぐに凍結されますか?銀行はなぜわかるのですか?

診断と同時に自動凍結される仕組みはありません。窓口での様子、家族からの申し出、手続きの過程などで金融機関が把握した時点で取引が制限されます。タイミングは予測できないため、早めの備えが重要です。

Q2. 口座が凍結されても年金は受け取れますか?公共料金の引き落としは?

年金の入金や、すでに設定済みの公共料金・クレジットカードの自動引き落としは原則として維持されます。できなくなるのは引き出し・解約・新規の振込など、新たにお金を動かす取引です。

Q3. 口座凍結されない方法はありますか?

凍結そのものを回避する方法はなく、「凍結されても困らない仕組みを先に作っておく」のが正解です。本記事の7つの対策のうち、まずは費用のかからない代理人指名と定期預金の整理から始め、財産規模と家族構成に応じて信託や保険を組み合わせてください。

Q4. すでに認知症が進んでいる場合、生前対策はもう無理ですか?

意思能力が失われている場合、選択肢は法定後見制度にほぼ限られます。ただし軽度(MCI含む)で意思能力が残っていると判断されれば、公正証書遺言や信託契約が可能なケースもあります。医師・公証人・専門家を交えて早急にご相談ください。

Q5. 対策の相談は誰にすればよいですか?

家族信託・任意後見など契約書類の作成は行政書士・司法書士、登記が絡む場合は司法書士、保険の活用は保険募集人のいる窓口と、内容によって窓口が分かれます。当サイトのように複数の専門家と連携した窓口であれば、全体設計から相談できます(相続の相談はどこに?も参考にしてください)。

まとめ:凍結対策は「元気なうち」にしかできない

口座凍結は、起きてからでは成年後見制度という負担の大きい選択肢しか残りません。一方、元気なうちなら7つの選択肢からご家族に合う組み合わせを選べます。親の物忘れが気になり始めた今が、家族で話し合う最後のチャンスかもしれません。関連記事:認知症の親の相続:注意点と合法的な手続き相続時の預金名義変更:完全ガイド


本記事は提携行政書士監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。費用・制度の詳細は各機関にご確認ください。個別の税額計算や税務判断は税理士にご相談ください。

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