『もう5年、母の介護を続けています。仕事を時短にして、休日もほとんど実家に通っています。正直、金銭的にも精神的にも限界に近いです。ネットで調べたら「寄与分」という言葉が出てきて、介護を頑張った分は相続で多くもらえるらしいと知りました。でも、具体的にどうすればいいのか、本当にもらえるのか、よく分かりません。』
※上記は、当窓口によくお寄せいただくご相談内容を、典型的なパターンとして再構成したものです。特定の相談者様の実際のご相談内容ではありません。
「これだけ頑張ったのだから、相続で報われたい」というのは、決して欲張りな考えではありません。実際に、そのための制度は用意されています。ただし、期待と実務のギャップを知らないまま進めると、想定外の結果に苦しむこともあります。この記事では、寄与分・特別寄与料の仕組みと、実務上の限界、そして確実に報われるための生前対策を、行政書士法人が中立的な立場からやさしく解説します。
この記事は、寄与分と特別寄与料の制度の違い・期限・金額の計算に絞っています。介護をしない兄弟がいるときの相続の割合と話し合いの進め方は親の介護をしない兄弟と相続の割合、家庭裁判所で認められるかの見通しは親の介護の不公平は裁判で認められる?で説明しています。
30秒でわかる結論
- 介護を頑張った相続人は「寄与分」(民法904条の2)、相続人でない親族は「特別寄与料」(民法1050条)という制度で、相続でお金を受け取れる可能性があります。
- ただし「介護をした」というだけでは認められません。「通常期待される範囲を超えた特別の貢献」であることの主張・立証が必要で、実務上のハードルは高めです。
- 認められても、算定される金額は主張額より低くなる傾向があり、過度な期待は禁物です。
- 特別寄与料には、相続開始を知った時から6か月、相続開始から1年という請求期限があります。寄与分も、相続開始から10年を過ぎた遺産分割では原則として考慮されません。
- 最も確実なのは、親が元気なうちに遺言や生命保険の受取人指定で、あらかじめ形にしておくことです。
寄与分とは――相続人が受け取れる「上乗せ」の制度
民法904条の2は、相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加について「特別の寄与」をした人がいる場合、その相続人が相続財産に上乗せして受け取れる「寄与分」という制度を定めています。介護のために療養看護に努めたことや、介護費用を継続的に負担してきたことは、この寄与分の対象になり得ます。
ここで重要なのが「特別の寄与」という言葉です。親子や兄弟姉妹の間で通常期待される範囲の世話——たとえば同居して食事の世話をした、たまに通院に付き添った、といった程度では「特別」とは評価されにくく、寄与分の対象外とされることが少なくありません。認められるためには、無償性(対価を得ていないこと)、継続性、専従性(片手間ではなく相当な負担を継続していたこと)といった要素を、具体的に主張・立証する必要があります。
実務上のポイント
寄与分は「主張すれば認められる」ものではありません。金額の算定も、介護報酬の相場などを参考にしつつ、実際に認められる額は主張額より低くなる傾向があります。「介護を頑張ったのだから当然多くもらえるはず」という期待だけで進めると、想定と現実のギャップに苦しむことになりかねません。他の相続人との合意が得られなければ、家庭裁判所の調停・審判という時間のかかる手続きになります。
特別寄与料――相続人でない親族(長男の配偶者など)を守る制度
「介護をしてきたのは長男の妻(お嫁さん)で、自分は相続人ではない」というケースもよくあります。この場合、2019年の民法改正で新設された特別寄与料(民法1050条)の対象になる可能性があります。相続人ではない親族が、無償で被相続人の療養看護等を行い、それによって被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合、相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求できる制度です。
ただし、この請求には期限があります。相続の開始及び相続人を知った時から6か月、または相続開始の時から1年を経過すると請求できなくなります。介護を担ってきたご家族に相続人でない方がいる場合は、この期限を意識しておく必要があります。
寄与分と特別寄与料の違い|使える人・期限・上限・費用の早見表
どちらを使うかは、介護をした人が相続人かどうかで決まります。迷ったら、次の表で自分の立場を探してみてください。
| 見比べるところ | 寄与分(民法904条の2) | 特別寄与料(民法1050条) |
|---|---|---|
| 対象になる人 | 相続人(子、配偶者など) | 相続人でない親族(長男の妻など) |
| よくある場面 | 長男が実家で親を介護した | 長男の妻が義父母を介護した |
| お金の受け取り方 | 遺産の分け方の話し合いの中で、取り分に上乗せ | 相続人へ、お金(特別寄与料)を請求 |
| 話し合いがまとまらないとき | 家庭裁判所の調停・審判(遺産分割) | 家庭裁判所の「特別の寄与に関する処分調停」 |
| 請求の期限 | 遺産分割の中で主張。相続開始から10年を過ぎた遺産分割では、原則として考慮されない(民法904条の3) | 相続開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年 |
| 認められる条件 | 無償・継続・専従などの「特別の寄与」 | 無償で療養看護などをし、財産の維持・増加に貢献した |
| 金額の上限 | 遺産の額から遺贈の額を引いた残り(民法904条の2第3項) | 遺産の額から遺贈の額を引いた残り(民法1050条4項) |
| 家庭裁判所の費用 | 寄与分を定める処分調停:収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手 | 特別の寄与に関する処分調停:収入印紙1,200円分(相手方や被相続人が複数のときは、相手方の人数と被相続人の人数を掛けた額)と郵便切手 |
| 注意点 | 調停が不成立で審判に移るとき、遺産分割の審判の申立てがないと却下される | 2019年7月1日より前に始まった相続には使えない |
特別寄与料だけを詳しく知りたい方は、特別寄与料の条件と期限のくわしい解説もあわせてどうぞ。介護が決まった段階でのお金の備えは、介護と相続のつながりの記事で整理しています。
金額の計算:寄与分と特別寄与料の決まり方と計算例
寄与分・特別寄与料の金額は、法律で一律に決まっているわけではなく、介護の内容・期間・専従性の程度、介護報酬の相場などを踏まえて個別に判断されます。実務上は、介護保険の訪問介護報酬の基準額などを参考にしつつ、実際に第三者に依頼していたら発生したであろう費用から、被相続人と同居していたことなどによる利益分を差し引いて算定する考え方が一般的です。金額の見立てだけでも専門家に相談することで、現実的な着地点が見えてきます。
一方で、寄与分や特別寄与料の「額」が決まった後の分け方には、民法に計算のルールがあります。ここを知っておくと、兄弟や親族と話すときに「結局いくらずつになるのか」を同じ数字で確かめられます。下の金額はすべて仮の数字です。
寄与分の計算式と計算例
寄与分がある場合は、まず遺産から寄与分を引いた額を「相続財産」とみなし、それを法定相続分で分けます。介護をした相続人は、その取り分に寄与分を足した額を受け取ります(民法904条の2第1項)。
| 手順 | 計算式 | 例:遺産3,000万円、相続人は子2人(長女が介護)、寄与分300万円 |
|---|---|---|
| 1. みなし相続財産 | 遺産 − 寄与分 | 3,000万円 − 300万円 = 2,700万円 |
| 2. 法定相続分で分ける | みなし相続財産 × 法定相続分 | 2,700万円 × 2分の1 = 1,350万円ずつ |
| 3. 介護をした人に寄与分を足す | 2の額 + 寄与分 | 長女 1,350万円 + 300万円 = 1,650万円、長男 1,350万円 |
寄与分の額は、遺産の額から遺贈(遺言で渡す財産)の額を引いた残りを超えることはできません(民法904条の2第3項)。また、相続開始から10年を過ぎた後の遺産分割では、原則として寄与分は考慮されなくなります(民法904条の3)。10年が過ぎる前に家庭裁判所へ遺産分割を請求していた場合などは例外です。
特別寄与料の計算式と計算例
特別寄与料は、相続人がそれぞれの相続分の割合で負担します(民法1050条5項)。額の上限は、遺産の額から遺贈の額を引いた残りです(同条4項)。
| 項目 | 計算式 | 例:長男の妻が特別寄与料300万円、相続人は長男と長女(相続分は2分の1ずつ) |
|---|---|---|
| 各相続人の負担 | 特別寄与料 × その相続人の相続分 | 長男 150万円、長女 150万円 |
| 上限 | 遺産 − 遺贈 | 遺産3,000万円・遺贈なしなら、3,000万円が上限 |
この例では、夫である長男も負担する側に入ります。話し合いでまとまらないときは、家庭裁判所が寄与の時期・方法・程度、相続財産の額などの事情を考えて額を決めます(民法1050条3項)。介護の内容ごとに認められやすいか・認められにくいかの見通しは親の介護の不公平は裁判で認められる?で整理しています。
親が生きているうちに受け取れるお金はあるか
相続まで待てない、というのが正直なところだと思います。いま受け取れる、あるいは今の持ち出しを減らせるお金には、次のようなものがあります。
- 親の預貯金・年金から介護費用を出す――親の介護費用を親のお金でまかなうのが本来の形です。子が立て替えている場合は、領収書と振込の記録を残したうえで親の口座から精算しておくと、家計の持ち出しが減り、あとの相続でも説明がつきます。
- 介護休業給付金――雇用保険の被保険者が介護休業を取得した場合、休業開始時賃金日額の67%が支給されます。対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して取れます。勤務先を通じてハローワークに申請します。
- 家族介護慰労金――市区町村によっては、介護サービスをほとんど使わずに在宅で介護している家族に慰労金を出す制度があります。要介護度や課税状況などの要件が厳しく、実施していない市区町村もあります。親の住所地の高齢福祉の担当課で確認してください。
- 親から現金を受け取る場合――親が元気で判断能力があるうちなら、労いとしてお金を受け取ること自体はできます。ただし贈与にあたり、暦年課税の基礎控除は年110万円です(2026年9月時点)。他のきょうだいに黙って動かすと、あとで「使い込み」を疑われる原因になります。
今日の一歩:使える制度をまず窓口で確認する
行き先は、家族介護慰労金なら親の住所地の市区町村・高齢福祉の担当課(実施していない自治体もあります)、介護休業給付金なら勤務先の担当窓口を通じてハローワークです。
窓口で伝えることは2点です。①親の要介護度と、介護サービスをどのくらい使っているか(家族介護慰労金は「介護サービスをほとんど使っていない」ことが条件になる自治体が多いです)②仕事を休んで介護をしている、または休んでいた期間。
持ち物に特に指定はありませんが、介護保険証と、休業期間が分かる資料があるとスムーズです。雇用保険の給付は時効があるため、休業から時間が経っている場合も、まずは勤務先かハローワークに相談してください。
相続後に主張するより、相続前に形にするほうが確実です
寄与分も特別寄与料も、いずれも相続が起きた「後」に、相続人同士で主張し合う制度です。裏を返せば、親が元気なうちに次の2つを準備しておけば、こうした事後的な争いを避けられる可能性が高くなります。
遺言――寄与分の争いを避ける最も確実な方法
親が元気なうちに遺言を作成し、「介護を担ってくれた子に多く相続させる」という意思をあらかじめ明確にしておけば、相続開始後に寄与分を主張・立証する手間そのものが不要になります。遺言には、財産の配分だけでなく、付言事項として「なぜこの配分にしたのか」「介護をしてくれたことへの感謝」を書き添えることもでき、遺された家族の受け止め方は大きく変わります。
生命保険の受取人指定――遺産分割の対象外という性質を活かす
生命保険の死亡保険金は、受取人が指定されている場合、原則として受取人固有の財産となり、遺産分割の対象には含まれません。この性質を利用し、介護を担ってくれた子を受取人に指定しておくことで、遺産分割協議を経ずに実質的な上乗せをする方法もよく使われます。ただし、他の相続人との差があまりに大きいと、遺留分侵害額請求など別の形で争いになる可能性もあるため、バランスを考えた設計が必要です。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の税額計算や保険商品の推奨を行うものではありません。保険の比較は、当社と提携する生命保険募集人(乗合代理店に所属)が担当します。
立替費用の記録――主張の土台になる「証拠」
寄与分・特別寄与料のどちらを主張する場合も、共通して重要になるのが記録です。いつ、何をしたか、いくら立て替えたか。通帳のコピー、領収書、介護日誌のようなメモを日頃から残しておくことで、いざという時の主張の土台になります。何をどう残すか(介護日誌、ケアプラン、要介護認定の通知、領収書など)は、親の介護をしない兄弟と相続の割合の記録の表にまとめています。
無料・1分・入力は選択式です
親が元気なうちにできる生前対策3つ
- 介護日誌・立替記録をつける――寄与分・特別寄与料、どちらを主張する場合にも欠かせない土台です。
- 遺言書を作成しておく――事後の争いを避ける最も確実な方法です。付言事項で気持ちを添えることもできます。
- 生命保険の受取人指定を検討する――遺産分割協議を経ずに実質的な上乗せができる方法として、専門家と一緒に検討しておきます。
セルフチェック――当てはまる項目はいくつありますか
- 介護のために、仕事を減らす・休むなど、生活の一部を犠牲にしてきた
- 介護費用を継続的に立て替えている、または多く負担している
- 介護日誌や立替記録などの証拠を残していない
- 親の遺言や、生命保険の受取人が誰なのかを把握していない
- このまま何も対策しなければ、相続で報われないのではという不安がある
0〜1個――今のところ大きなリスクは低い状況です。記録を残す習慣だけは続けておきましょう。
2〜3個――寄与分の主張だけに頼るのはリスクがある状況です。記録に加えて、遺言など事前の備えを検討し始める時期です。
4個以上――相続後の主張だけに頼ると、想定より報われない可能性が高い状況です。遺言や保険の受取人指定など、生前のうちに形にしておくと、あとで報われやすくなります。
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こんな方には専門家は不要です
当社は「不要なサービスは不要」とお伝えする方針です。上のチェックで該当が0〜1個だった方は、ご自身での記録管理だけで対応できる可能性が高い状況です。費用をかけて専門家に依頼する必要はありません。判断に迷う点がある場合は、30分の無料相談でご一緒に確認できます。
当社は手続きそのものをお受けしていないため、「いまは何もしなくて大丈夫です」という結論をお伝えしても困りません。ご相談を無料にしているのは、そのためです。ご自身やご家族だけで判断がつかない場合は、まずは無料のお問い合わせ窓口からご相談ください。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 介護をしただけで、相続で法律上当然に多くもらえますか?
当然には認められません。寄与分は、家庭裁判所が「通常期待される範囲を超えた特別の貢献」と評価した場合に限って認められるものであり、介護をしたという事実だけで自動的に相続分が増えるわけではありません。
Q2. 寄与分は、どのくらいの金額になるのが一般的ですか?
介護の内容・期間・専従性の程度によって個別に判断されるため、一律の相場はありません。実務上は、介護報酬の基準額などを参考にしつつ算定されますが、主張額よりも低くなる傾向があります。具体的な見立ては専門家への相談をおすすめします。
Q3. 長男の妻など、相続人ではない親族が介護をした場合はどうなりますか?
2019年の民法改正で新設された特別寄与料の対象になる可能性があります。相続人でない親族が無償で療養看護等を行い、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合、相続人に対して金銭を請求できます。ただし、相続開始及び相続人を知った時から6か月、相続開始から1年という請求期限があるため注意が必要です。
Q4. 寄与分を主張したら、他の相続人と揉めませんか?
可能性はあります。寄与分の主張は、他の相続人の取り分を減らすことにもつながるため、感情的な対立に発展することがあります。だからこそ、相続が起きる前に遺言で形にしておくほうが、家族関係への負担が小さく済む場合が多いといえます。
Q5. 生命保険の受取人を介護を担った子だけにすると、後で問題になりませんか?
死亡保険金は原則として受取人固有の財産で、遺産分割の対象にはなりません。ただし、他の相続人との差があまりに大きい場合は、遺留分侵害額請求など別の形で争いになる可能性があります。保険を活用する際は、全体のバランスを見ながら設計することが大切です。
Q6. 寄与分はどうやって計算しますか?
遺産から寄与分を引いた額を相続財産とみなして法定相続分で分け、介護をした相続人の取り分に寄与分を足します(民法904条の2第1項)。たとえば遺産3,000万円、子2人、寄与分300万円なら、2,700万円を2人で分けて1,350万円ずつ、介護をした子は1,350万円+300万円=1,650万円です(仮の数字)。寄与分の額そのものは、まず相続人の話し合いで、まとまらなければ家庭裁判所が決めます。
介護を頑張った分が報われる制度は、確かに存在します。ただし、相続後に主張するだけでは、想定より少なく、また時間のかかる結果になりがちです。記録を残すこと、そして親が元気なうちに遺言や保険の受取人指定で形にしておくことが、確実に報われるための一番の近道です。
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金額は書かない、A4・1枚の終活きっかけシート。帰省のときに親子で書き込むだけで、遺言や保険の受取人の話につながる会話が始めやすくなります。
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介護とお金の話は、親本人より先にご家族が動くことがほとんどです。いま何を確認しておくべきか、親への切り出し方も含めて30分で整理します。オンライン・お電話でも可能です。
お電話でも:052-766-5650(相談中の場合は折り返しご連絡します)
参考にした公的情報(2026年10月時点)
- e-Gov法令検索「民法」(第904条の2、第904条の3、第1050条)
- 裁判所「寄与分を定める処分調停」
- 裁判所「特別の寄与に関する処分調停」
- 法務省「相続に関するルールが大きく変わります」(特別の寄与の制度)
- 厚生労働省「Q&A~介護休業給付~」
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
