葬儀から一週間ほどたった夜、台所のテーブルに夫の年金の通知書と通帳を並べてみる。「来月から、わたしの年金はいくらになるのだろう」。夫を亡くした方から、いちばん最初に出てくる心配がこれです。
夫が亡くなると、夫の年金は止まり、条件を満たせば妻に「遺族年金」が支払われます。ただ、受け取れる種類も金額も、妻の年齢や自分の年金の有無で大きく変わります。この記事は、子どもが成人している60〜80代のご夫婦が前提です。受け取れる年金の種類、金額の目安、65歳以上の妻の調整、手続きと期限を順に整理します。数字は2026年10月時点で、日本年金機構と厚生労働省の公表内容を確かめたものです。
この記事の結論
- 子どもが成人している60〜80代の妻が主に受け取るのは「遺族厚生年金」です。夫に会社員や公務員として厚生年金に入っていた期間があることが前提で、額は夫の厚生年金(報酬比例部分)の4分の3が基本です。
- 65歳以上で自分の厚生年金もある妻は、自分の老齢厚生年金が先に全額支払われ、遺族厚生年金はそれを上回る差額だけになります。自分の厚生年金が多い方は、遺族厚生年金がゼロになることもあります。
- 請求先は年金事務所で、受け取る権利は原則5年で時効になります。2028年4月からの見直しは、60歳以降に夫を亡くした方や、すでに受け取っている方の遺族厚生年金には影響しません。
夫が亡くなったとき、妻が受け取れる年金の種類
遺族年金には、国民年金から出る「遺族基礎年金」と、厚生年金から出る「遺族厚生年金」があります。60〜80代のご家庭で大事なのは、遺族基礎年金は「子のある配偶者」しか受け取れないことです。ここでいう子は、18歳になった年度の3月末までの子(障害がある場合は20歳未満)です。子どもが成人していれば、多くの場合は遺族厚生年金だけが対象になります。
| 年金・加算の種類 | 主な条件 | 60〜80代の妻の場合 | 2026年度の額 |
|---|---|---|---|
| 遺族厚生年金 | 夫が厚生年金に入っていた、または老齢厚生年金を受け取っていた。妻が夫に生計を維持されていた | 主にこれを受け取る | 夫の報酬比例部分の4分の3が基本(65歳以上は次の章の調整あり) |
| 遺族基礎年金 | 18歳年度末までの子などがいる配偶者 | 子が成人していれば対象外 | 年847,300円+子の加算(昭和31年4月1日以前生まれは844,900円) |
| 中高齢寡婦加算 | 夫が亡くなったとき40歳以上65歳未満で、子がいない妻など | 60〜64歳で夫を亡くした妻が対象になりうる | 年635,500円(65歳になるまで) |
| 経過的寡婦加算 | 昭和31年4月1日以前生まれの妻 | 65歳以降の遺族厚生年金に上乗せ | 生年月日によって異なる |
| 寡婦年金 | 夫に自営業などで国民年金の保険料を納めた期間などが10年以上ある | 60〜64歳の妻が対象になりうる | 夫の国民年金の期間で計算した老齢基礎年金の4分の3 |
(日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」「寡婦年金」「遺族年金ガイド 令和8年度版」をもとに作成。2026年10月時点)
遺族厚生年金は、夫が次のどれかに当てはまると支払われます。厚生年金に入っている間に亡くなった。老齢厚生年金を受け取っていた。または受け取る資格(加入期間などの合計25年以上)があった。退職して年金暮らしだった夫の場合は、後の2つに当たるのが一般的です。
「生計を維持されていた」とは、暮らしを共にしていたこと(別居でも仕送りがあるなどを含む)です。あわせて、妻の年収が原則850万円未満であることが条件です。年金暮らしのご夫婦なら、多くの方が当てはまります。
遺族厚生年金はいくら?計算式と目安の出し方
遺族厚生年金の額は「夫の老齢厚生年金の報酬比例部分×4分の3」です。報酬比例部分とは、働いていたときの給与と加入期間で決まる厚生年金の中心部分のことです。夫が厚生年金に加入中に亡くなった場合などは、加入期間が300月(25年)に満たなくても300月あるものとして計算します。
報酬比例部分そのものは、2003年3月までの期間と4月以降の期間に分けて、平均の給与に決まった率と加入月数をかけて出します。ご家庭で一から計算するのは難しいので、夫が年金を受け取っていた場合は、手元の通知書から見当をつけるのが近道です。
計算の例(前提つき)
前提:夫は年金を受け取っていた。夫の老齢厚生年金のうち、報酬比例部分が年120万円(月10万円)。妻は65歳未満で、自分の年金は選ばずに遺族厚生年金を受け取る。加算は考えない。
計算:120万円×4分の3=年90万円(月7万5,000円)
※年金額改定通知書などに書かれた夫の厚生年金の額には、報酬比例部分以外の加算が含まれていることがあります。正確な額は年金事務所で確認できます。
夫が受け取っていた年金のうち、老齢基礎年金(国民年金の部分)は妻には引き継がれません。夫婦2人分の年金で暮らしていたときより、世帯の年金の合計は減るのが普通です。なお、遺族年金には所得税がかかりません(日本年金機構)。そのため、源泉徴収票も届きません。
65歳以上の妻は「自分の年金が先、遺族年金は差額」
65歳以上の妻は、自分の老齢基礎年金と遺族厚生年金を一緒に受け取れます。自分にも老齢厚生年金がある場合は、2段階で考えます。
- 遺族厚生年金の額を決める:「①夫の報酬比例部分の4分の3」と「②夫の報酬比例部分の2分の1+自分の老齢厚生年金の2分の1」を比べ、高いほうが遺族厚生年金の額になります。
- 自分の年金を先に支払う:自分の老齢厚生年金は全額支払われます。遺族厚生年金は、そのうち自分の老齢厚生年金に当たる額が止まり、残りの差額だけが支払われます。
前の例と同じく、夫の報酬比例部分を年120万円として、妻の厚生年金の額ごとに並べると次のようになります。妻の老齢基礎年金は、この表とは別に全額受け取れます。
| 妻自身の老齢厚生年金 | ①夫の4分の3 | ②夫の2分の1+自分の2分の1 | 実際に入る遺族厚生年金(差額) | 厚生年金の合計 |
|---|---|---|---|---|
| 年10万円 | 90万円 | 65万円 | 80万円 | 90万円 |
| 年50万円 | 90万円 | 85万円 | 40万円 | 90万円 |
| 年80万円 | 90万円 | 100万円 | 20万円 | 100万円 |
| 年130万円 | 90万円 | 125万円 | 0円 | 130万円 |
(日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」「年金の併給または選択」「遺族年金ガイド 令和8年度版」の計算方法に、仮の数字を当てはめた例。加算や端数処理は考えていません)
表を見ると、妻自身の厚生年金が増えるほど、遺族厚生年金として入る分は小さくなります。いちばん下の行のように、自分の厚生年金のほうが多ければ遺族厚生年金は全額止まります。「夫の年金の4分の3が、自分の年金にそのまま上乗せされる」わけではない点は、知っておくと慌てずに済みます。
昭和31年4月1日以前に生まれた妻(2026年に70歳以上の方)は、条件を満たすと遺族厚生年金に「経過的寡婦加算」が上乗せされます。額は生年月日で変わるため、年金事務所で確かめてください。
60〜64歳で夫を亡くした場合の注意点
65歳になる前は、仕組みが少し違います。押さえておきたいのは次の3つです。
- 中高齢寡婦加算がつくことがある:夫が亡くなったとき40歳以上65歳未満で、子のいない妻には、65歳になるまで年635,500円(2026年度)が遺族厚生年金に上乗せされます。年金を受け取っていた夫の場合は、夫の厚生年金の加入期間が原則20年以上あることが条件です。
- 自分の年金とはどちらか一方を選ぶ:65歳前は「1人1年金」が原則です。自分の特別支給の老齢厚生年金や、早めに受け取り始めた老齢年金と、遺族厚生年金は両方は受け取れません。高いほうを選び、「年金受給選択申出書」を出します。
- 夫が国民年金だけだった場合:自営業などで厚生年金の期間がない夫だと、子が成人していれば遺族基礎年金は出ません。代わりに、夫の保険料を納めた期間などが10年以上、婚姻期間が10年以上などの条件で、60〜65歳の間「寡婦年金」が出ることがあります。夫が老齢基礎年金を受け取ったことがある場合や、妻が老齢基礎年金を早めに受け取っている場合は対象外です。
中高齢寡婦加算は65歳で終わります。65歳からは自分の老齢基礎年金を受け取り始めるので、内訳が変わります。合計が増えるか減るかは、ご自身の加入期間しだいです。65歳を迎える前後に届く書類は、捨てずに見比べてください。
請求の手続きと必要書類、期限は原則5年
遺族厚生年金は、待っていても自動では始まりません。妻が請求書を出して、初めて支払いが決まります。窓口は、お近くの年金事務所か「街角の年金相談センター」です。対面の相談は予約ができるので、電話で日時を取ってから出向くと待たずに済みます。
使う請求書は「年金請求書(国民年金・厚生年金保険遺族給付)」です。主な添付書類は次のとおりです。
- 戸籍謄本(記載事項証明書)または法定相続情報一覧図の写し
- 世帯全員の住民票の写し、夫の住民票の除票
- 妻の収入が分かる書類(所得証明書、課税・非課税証明書、源泉徴収票など)
- 死亡診断書(死体検案書)のコピー、または死亡届の記載事項証明書
- 年金を受け取る妻名義の口座の通帳など
請求書にマイナンバーを書くと、戸籍・住民票・収入の書類は省略できる場合があります(戸籍は請求者が配偶者か子の場合)。交通事故など、第三者の行為で亡くなった場合は別の書類も要ります。何が要るかは家庭ごとに違います。予約の電話で「夫が亡くなったので遺族年金を請求したい」と伝え、持ち物を聞いておくと確実です。
夫が年金を受け取っていた場合は、あわせて「年金受給権者死亡届(報告書)兼 未支給年金・未支払給付金請求書」も出します。日本年金機構に夫のマイナンバーが登録されていれば、死亡の届出そのものは原則省略できます。ただ、次の章の未支給年金は請求しないと受け取れません。
期限にも触れておきます。年金を受け取る権利は、権利が生まれてから5年たつと時効で消えます(国民年金法・厚生年金保険法)。遺族年金なら、夫が亡くなった日の翌日が起点です。四十九日や相続の手続きが落ち着いてからでも間に合いますが、後回しにしすぎないことです。
年金以外に確かめたいお金
夫が亡くなったあとは、遺族年金とは別に、請求しないと受け取れないお金や、名義を変えないと困るお金があります。
| お金 | 中身 | 手続きの先・期限の目安 |
|---|---|---|
| 未支給年金 | 夫の年金のうち、亡くなった月の分までで、まだ振り込まれていない分。生計を同じくしていた遺族が請求する(配偶者が最優先) | 年金事務所。時効は5年 |
| 葬祭費 | 夫が後期高齢者医療(75歳以上)に入っていた場合、葬儀を行った人に5万円(愛知県)。国民健康保険にも市町村ごとの制度がある | 市区町村の担当窓口 |
| 死亡保険金 | 夫の保険で妻が受取人になっている場合、妻が単独で請求できる | 保険会社。請求権は原則3年で時効 |
| 夫名義の預金 | 銀行が亡くなったことを知ると、口座の取引が止まる。公共料金の引き落とし先も変更が要る | 各銀行の相続窓口 |
(日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」、愛知県後期高齢者医療広域連合「葬祭費」をもとに作成。2026年10月時点)
未支給年金と遺族年金は、名前が似ていても別のものです。未支給年金は「夫の年金の払い残し」を一度だけ受け取るもの、遺族年金は「妻自身の年金」としてこの先も続くものです。未支給年金の請求できる人の順番や書類は、未支給年金の案内が届いたらの記事にまとめています。葬儀代の払い方は葬儀費用の相場の記事、保険金の請求は死亡保険金の請求手続きの記事、銀行の手続きは銀行から相続手続きの書類が届いたらの記事をご覧ください。
2028年4月からの遺族年金の見直しは、60代以上に関係ある?
「遺族年金が5年で打ち切りになる」という話を見て、心配になった方もいると思います。これは2025年(令和7年)の法改正で決まった遺族厚生年金の見直しで、2028年4月から施行される予定です。
- 変わるのは20〜50代で死別した、子のない配偶者:原則5年間の有期の給付になり、その間の額は今の約1.3倍になります。収入が少ない人などは5年後も受け取れる仕組みがあります。女性は2028年4月から20年かけて段階的に進みます。
- 60歳以上で死別した場合は今までどおり:厚生労働省は、60歳以降に遺族厚生年金を受け取る権利が生まれる人、すでに受け取っている人は影響を受けないとしています。
- 中高齢寡婦加算は少しずつ縮小:2028年4月以降に新たに受け取り始める人の加算額は、2053年度(令和35年度)までの25年かけて段階的に小さくなります。すでに受け取っている人の額は、65歳まで変わりません。
つまり、60〜80代の妻が受け取る遺族厚生年金そのものは変わりません。2028年4月以降に60〜64歳で夫を亡くした場合に、中高齢寡婦加算が今の額より少し小さくなる、というのが主な影響です。このほか、65歳前に遺族厚生年金を受け取る権利がある人の、老齢年金の繰下げ(受け取り開始を遅らせて増やすこと)のルールも変わります(2028年3月31日時点で65歳未満の人が対象)。
夫婦が元気なうちにしておくこと
遺族年金の額は、あとから増やせるものではありません。元気なうちにできるのは、見込みを知っておくことと、手続きで困らない準備です。
お互いの年金の額を確かめる。年金を受け取っている方には、毎年6月上旬に「年金額改定通知書」が届きます(2026年は6月3日〜10日に発送)。夫と妻、それぞれの厚生年金の額を見比べると、先ほどの表のどの行に近いか見当がつきます。まだ年金を受け取る前の方は、誕生月に届く「ねんきん定期便」(50歳以上は見込額つき)や「ねんきんネット」で確認できます。
お金の置き場所を夫婦で共有する。どの銀行に口座や定期預金があるか。年金証書や通帳、保険証券をどこにしまっているか。保険があれば、受取人が今も希望どおりになっているか(受取人の見直しの記事)。夫名義の預金は、相続の手続きが終わるまで動かせないことがあります。当面の生活費をどこから出すかも、決めておくと安心です。
今日できる一歩
1. 6月に届いた年金額改定通知書を2人分探す。厚生年金の額にしるしをつけて並べておくと、この記事の表で目安を当てはめられます。
2. 年金証書と基礎年金番号の分かる書類の置き場所を、お互いに伝える。請求のときや年金事務所への電話で、最初に聞かれる番号です。
3. 口座・定期預金のある銀行と、保険証券の場所を1枚の紙に書き出す。金額まで書かなくても、銀行名と置き場所だけで、あとの手続きがずっと楽になります。
相談現場から
よく伺うのは「夫の年金の4分の3が、自分の年金にそのまま足されると思っていた」というお話です。65歳以上でご自身の厚生年金がある方は、自分の年金が先に払われ、遺族年金はその差額になります。もう一つ多いのが、夫名義の定期預金がすぐには引き出せず、葬儀代や当面の生活費の置き場所に困る場面です。年金の見込みと、すぐ動かせるお金の場所を、ご夫婦で一度並べておくと落ち着いて動けます。
あわせて読みたい
- 2026年度の年金の変更点まとめ|年金額・在職老齢年金・振込日カレンダー
- 年金事務所から未支給年金の案内が届いたら|死亡届の要否・請求できる人・5年の期限と一時所得の扱い
- 葬儀費用の相場2026|誰が払う?親の口座から払う方法と生前の準備
- 死亡保険金は何日で振り込まれる?|請求手続き・必要書類と時効3年
- 銀行から相続手続きの書類が届いたら|相続届の書き方・印鑑証明の期限・戻ってくる典型例と入金までの日数
- 年金の繰下げは得か|損益分岐点の年齢・増額率早見表と繰下げ中に亡くなったら
参考にした公的情報
- 日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
- 日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」
- 日本年金機構「遺族年金ガイド 令和8年度版」(PDF)
- 日本年金機構「遺族厚生年金を受けられるとき」
- 日本年金機構「年金の時効」
- 厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」
※本記事は2026年10月時点の一般的な情報の整理です。受け取れる年金の種類や額は、夫と妻それぞれの加入記録、生年月日、家族の状況で変わります。実際の額や手続きは、年金事務所またはねんきんダイヤルでご確認ください。表の計算例は仕組みを説明するための仮の数字です。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
