月末の午後、近所のスーパーにあるATMで、孫への入学祝いを振り込もうとした。カードを入れて振込を選ぶと、取り扱いができないという表示が出て先へ進めない。引き出しはいつもどおりできるのに、振込だけが使えない――。愛知県内では、こうした場面が珍しくありません。
これは故障ではなく、特殊詐欺の被害を防ぐために金融機関が設けている「ATMの利用制限」です。この記事では、愛知の銀行・信用金庫・JAで何が制限されるのかを公式の案内をもとに表にまとめ、対象かどうかの確かめ方、窓口での再開の方法、困ったときの代わりの方法、家族が手伝うときの注意を整理します。
ATMで振り込めないのはなぜ?特殊詐欺の被害を防ぐしくみ
還付金詐欺では、「医療費の払い戻しがある」といった電話でATMへ行かせ、携帯電話で操作を指示して、実際には相手の口座へ振り込ませます。ATMの振込を止めておけば、こうした被害はATMの前で止まります。
対象が「ふだんATMで振込をしていない人」に絞られているのは、そのためです。ふだん使わない人が急にATMで振り込む場面は、電話で操作を指示されているおそれがある、という考え方です。年齢だけで「だまされやすい」と決めつける制度ではありません。
名古屋銀行は2017年4月3日から「警察当局からの要請もあり」この制限を始めたと案内しています。JAバンクあいちも、愛知県警の要請を受けて、2018年4月27日から70歳以上の一部の人のATM利用限度額を引き下げました。県内の各金融機関は、それぞれの判断で条件を決めて実施しています。
愛知県警は、高額の現金を引き出そうとする高齢の人に金融機関が理由を尋ね、警察へ通報する取組みも進めています。2025年中は、金融機関の声かけで220件の被害を防いだとしています。いま多い詐欺の手口と、電話での決まり文句は高齢者を狙う詐欺の手口2026の記事にまとめています。
愛知の銀行・信金・JAで何が制限されるか(早見表)
公式の案内で条件を確認できた金融機関を並べます。年齢、「何年使っていないか」、止まるのが振込だけか引き出しもか、が少しずつ違います。
| 金融機関 | 対象になる人 | 制限される取引 | 開始 | 再開・引き上げの方法 |
|---|---|---|---|---|
| 名古屋銀行 | 70歳以上で、過去3年間ATMでの振込の利用がない人 | ATMでの振込(利用停止) | 2017年4月3日 | 窓口へ申し出 |
| あいち銀行 | 70歳以上で、過去3年間キャッシュカードでの振込の利用がない人 | ATMでのキャッシュカード振込 | 公式ページに記載なし | 平日の営業時間内に本支店の窓口へ申し出 |
| 豊田信用金庫 | 65歳以上で、豊田信金と他の金融機関のATMで、カード振込を3年以上利用していない人 | ATMでのキャッシュカード振込 | 2019年5月20日(65歳以上に拡大。70歳以上は2016年12月1日から) | 平日の営業時間内に窓口で申し出、本人確認 |
| 知多信用金庫 | 振込:65歳以上で、知多信金のATMでカード振込を3年間していない口座 引き出し:70歳以上で、過去1年間ATMで現金を引き出していない口座 | 振込:限度額0円(できない) 引き出し:1日10万円まで | 振込:2019年5月31日 引き出し:2024年9月9日 | 平日の営業時間内に店舗の窓口で申し出、本人確認 |
| JAバンクあいち(愛知県内のJA) | 満65歳以上で、一定期間ATMでの出金・振込がない人 | 引き出し:1日20万円まで 振込:0円(できない) | 2022年4月20日 | 平日の営業時間内に、通帳またはキャッシュカード、届出印、本人確認書類を持って、カードを作ったJAの窓口へ |
(各金融機関の公式ページ・お知らせをもとに当社が整理。2026年10月時点で確認できた範囲です。豊田信金は2019年4月、JAは2022年の案内(JAなごや掲載)によります。現在の扱いは各窓口でご確認ください)
表から分かることが二つあります。ひとつは、多くの金融機関で止まるのは「ATMでの振込」で、預け入れや窓口の取引はそのまま使えることです。もうひとつは、「3年間」の数え方が違うことです。豊田信金は他の金融機関のATMでの振込も含めて数え、知多信金は知多信金のATMでの振込で数えると案内しています。
年齢に関係なく、2026年に見直された上限もある
年齢の条件とは別に、ATMの1日の上限そのものを下げる動きもあります。ゆうちょ銀行は2026年8月17日から、暗証番号で使うキャッシュカードの1日の引き出し上限を0〜50万円の範囲にしました。対象は、この日以降に口座を作る人と、50万円を超える額への引き上げを希望する人です。すでに決めてある上限額は自動では変わりません(ゆうちょ銀行のお知らせ)。なお、ゆうちょ銀行に年齢による制限があるかは公式ページで確認できなかったため、表には載せていません。
JAあいち中央は2026年6月1日から、ICキャッシュカードの1日の利用限度額を100万円から50万円に変えました(自分で限度額を変えている場合は対象外)。
全国の動き:「75歳以上は1日30万円」はまだ検討・調整の段階
2025年春、警察庁が75歳以上のATMでの引き出しと振込を1日30万円までにする案を検討し、全国銀行協会と調整していると報じられました。ただし2026年10月時点で、警察庁や全国銀行協会から、全国一律で始める日の公式な発表は確認できていません。
香川県の百十四銀行は、75歳以上の出金と振込を1日合計30万円までにする対応を2025年8月1日に始める予定でしたが、開始を延期し、新しい時期は未定としています(百十四銀行のお知らせ)。全国ルールの形は、まだ固まっていないと見てよいでしょう。
一方で、個別の金融機関の見直しは続いています。全国に店のある三菱UFJ信託銀行は、70歳以上で過去3年間ATMでの振込や口座振替がない人を対象に、2026年3月16日からATMの1日の利用限度額を下げました。次の対象の人は、2027年1月25日から1日10万円になります(三菱UFJ信託銀行のお知らせ)。
自分が対象か確かめる方法と、振込を再開する方法
対象かどうかを確かめる
- ここ3年を思い出す:その口座のカードで、ATMから振り込んだことがあるか。通帳の記録も手がかりになります。
- 確実なのは窓口か電話:通帳とキャッシュカードを持って取引店へ行くか、金融機関の問い合わせ窓口に電話で聞きます。番号は、通帳やカード、公式ホームページに載っているものを使います。
- 口座ごとに違う:同じ人でも、A銀行は使えてB信金は止まっている、ということがあります。よく使う口座から確かめます。
振込を再開する(制限を外す)
表のとおり、どの金融機関も「平日の営業時間内に窓口で申し出て、本人確認を受ける」形です。本人確認書類(運転免許証や健康保険証など)を持って行きます。JAは通帳またはキャッシュカードと届出印も必要と案内しています。
窓口では、何に使うのかを聞かれることがあります。たとえば三菱UFJ銀行は、ATMの限度額を引き上げるときは目的を聞き、場合によっては断ることがあると案内しています。疑われているわけではなく、詐欺の電話が裏にないかを確かめるためのものです。
なお、愛知の各金融機関の案内では、制限を外すのは窓口での手続きです。電話で「ATMで制限を解除できます」「解除するので暗証番号を」と言われたら、いったん切って家族か、通帳に載っている金融機関の番号にかけ直してください。
制限で困る場面と、代わりの方法
困りやすいのは、次のような「たまにある振込」です。
- 遠くに住む子や孫への仕送り、お祝い
- 介護施設や病院から「指定口座へお振込みください」と言われた支払い
- 自治会費や習いごとの会費など
代わりの方法は、主に三つです。制限を外すかどうかは、使う頻度で決めてかまいません。
- 窓口で振り込む:制限がかかっていても、窓口からの振込はできます。手数料はATMと違う金額のことが多いので、先に確かめておきます。
- 口座振替(自動引き落とし)にする:施設の利用料や公共料金など、毎月決まった支払いは、支払先に頼めば口座振替にできることがあります。一度手続きすれば、毎月ATMへ行かずに済みます。
- インターネットバンキングを使う:自宅から振り込めます。ただ、詐欺でも「ネットバンキングを新しく開かせて送金させる」手口があります。始めるなら、自分で必要と考えたときに、家族と一緒に設定するのが安心です。
振込だけが止まる金融機関なら、ATMで現金を引き出すことはできます。知多信金やJAのように引き出しの上限も下がる場合は、まとまった現金が必要なときに窓口を使う形になります。
家族が代わりに手続きするときの注意
親の支払いを子がまとめて振り込んでいる家庭は少なくありません。ここで気をつけたいのは、親のカードと暗証番号を預かって使うやり方です。キャッシュカードは本来、本人が使うためのものです。
家族が手伝うなら、金融機関に届け出る形にしておきます。家族用の「代理人カード」を作れる銀行や、代わりに手続きする人を前もって決めておく「代理人指名」の手続きがある銀行もあります。使い方と限界は銀行の代理人カード・代理人指名手続きの記事にまとめています。
もうひとつ考えておきたいのが、認知症などで本人の意思が確かめにくくなったときです。ATMの制限を外す手続きも、本人の申し出と本人確認が前提です。意思確認ができないと、窓口でも手続きが進まなくなることがあります。
定期預金は、満期が来ても家族が解約できないことがあります。詳しくは定期預金は認知症になると解約できない?の記事を、口座が使えなくなったあとの手続きは認知症で凍結された口座を解除するには?の記事をご覧ください。元気なうちに、口座の数を整理し、毎月の支払いを口座振替にしておくと、家族の手間はかなり減ります。
今日できる一歩
1. 手元の通帳とキャッシュカードを並べ、どこの金融機関のものか、ここ3年でATMから振り込んだかを紙に書き出す。
2. 毎月振り込んでいる支払い(施設・会費など)があれば、支払先に「口座振替にできますか」と電話で聞いてみる。
3. 親のことが気になる方は、次に話すときに「ATMで振込ができなくなっていない?」と一言たずねてみる。
相談現場から
よく伺うのは「年金の口座から引き出しはできるので、振込も使えると思っていた」というお話です。止まるのが振込だけの金融機関もあり、気づくのは急ぎの送金のときになりがちです。また、親の施設の支払いを子が親のカードで振り込んでいて、カードが使えなくなって初めて、代理人の届け出をしていなかったことに気づく場面もあります。
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参考にした公的情報
- 愛知県警察「被害防止に向けた取組み」https://www.pref.aichi.jp/police/anzen/tokusyusagihigaiboushi.html
- 名古屋銀行「ATMご利用時間・手数料」https://www.meigin.com/tesuryo/atm.html
- あいち銀行「あいち銀行カードのご利用」https://www.aichibank.co.jp/atm/using/
- 豊田信用金庫のお知らせ(2019年4月26日付・ATM振込制限の対象年齢の引き下げ)https://www.shinkin.co.jp/toyota/important/documents/20190426.pdf
- 知多信用金庫「65歳以上および70歳以上のお客さまによるATMを利用した振込機能の一部利用制限について」https://www.chitashin.co.jp/personal/service/furikome.html
- JAなごや(JAバンクあいち)「特殊詐欺被害の未然防止に向けた65歳以上のお客さまのATMご利用限度額の引き下げについて」https://www.ja-nagoya.or.jp/wp/topics/16050
※本記事は2026年10月時点で各金融機関・警察が公表している情報をもとにした一般的な内容です。対象の条件や判定の時期、再開の手続きは金融機関ごとに異なり、変更されることがあります。ご自身の口座の扱いは、取引先の金融機関の窓口でご確認ください。個別の判断は専門家にご相談ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
