10月の週末、孫の大学受験の話になった食卓で「入学金くらいは出してあげたい」と思った。数年前に銀行で聞いた「教育資金の一括贈与」を思い出して窓口に電話すると、「新しい受付は3月で終わりました」と言われた。では、孫や子にお金を渡すとき、今は何が使えるのでしょうか。
この記事では、孫や子への贈与に関わる3つの非課税の特例を取り上げます。教育資金・結婚子育て資金・住宅取得等資金が2026年10月時点でどうなっているかを、国税庁と財務省の公開情報をもとに整理します。決まったことと、まだ検討中のことは分けて書きます。
2026年10月時点の早見表:使える特例と終わった特例
祖父母や親から孫・子へお金を渡すときに使われてきた非課税の特例は、主に3つです。いずれも期限つきの制度で、税制改正のたびに延長するかどうかが決められてきました。
| 特例 | 非課税の上限 | 対象になる贈与の期限 | 2026年10月時点の状況 |
|---|---|---|---|
| 教育資金の一括贈与 | 受け取る人1人につき1,500万円 | 2026年3月31日まで | 延長されずに終了。新しく始めることはできない(入金済みの分は契約終了まで続く) |
| 結婚・子育て資金の一括贈与 | 受け取る人1人につき1,000万円 | 2027年3月31日まで | 使える(2025年度の税制改正で2年延長) |
| 住宅取得等資金の贈与 | 省エネ等住宅1,000万円、それ以外500万円 | 2026年12月31日まで | 使える。2027年以降は国土交通省が要望を出している段階で、未決定 |
| (参考)暦年贈与の基礎控除 | 受け取る人1人につき年110万円 | 期限なし | 使える |
| (参考)生活費・教育費の都度の支払い | 上限額の定めはなく「通常必要と認められるもの」 | 期限なし | 使える |
(2026年10月時点/国税庁タックスアンサーNo.4510・No.4511・No.4508・No.4405、財務省「令和7年度税制改正の大綱」「令和8年度税制改正の大綱の概要」、国土交通省「令和9年度税制改正要望」をもとに整理)
表の下2行は特例ではなく、ふだんから使えるルールです。教育資金の特例が終わっても、孫の学費を援助する道がなくなったわけではありません。この点は後で詳しく書きます。
教育資金の一括贈与:2026年3月31日で終了、延長なし
教育資金の一括贈与は、祖父母などが孫名義の専用口座にまとめてお金を入れる制度でした。口座は信託銀行や銀行などで作り、学費に使った分は贈与税がかかりません。上限は孫1人につき1,500万円、契約するときに30歳未満であることが条件です。
2025年12月26日に閣議決定された「令和8年度税制改正の大綱」で、期限の2026年3月31日を延長しないことが決まりました。国税庁のタックスアンサーでも「延長されずに終了することとされた」と書かれています。2026年4月1日以後に新しく始めることはできません。
すでに口座を作っている方は、慌てなくて大丈夫です。2026年3月31日までに入金した分は、契約が終わるまで引き続き非課税で学費に使えます。ただし、4月1日以後に追加で入れたお金は、この特例の対象になりません。
すでに口座がある方が知っておきたい点を、文部科学省のQ&Aから一般的な形でまとめます。
- 契約は原則として孫が30歳になると終わります:30歳の時点で学校に在学中などの場合は続けられ、最長で40歳までです。続けるには届け出が要ります。
- 使い残しには贈与税がかかることがあります:契約が終わったときに残っているお金は、その年の贈与として扱われます。申告するのは受け取った孫の側です。
- 途中で祖父母が亡くなると、残高が相続税の計算に入ることがあります:孫の年齢や在学の状況によって扱いが分かれます。
残高の確認や領収書の出し方は、口座を作った金融機関が案内しています。使い残しが出そうか、亡くなったときにどうなるかは家ごとに違うので、気になる方は税理士に確認するのが確実です。
結婚・子育て資金の一括贈与:期限は2027年3月31日まで
「結婚・子育て資金の一括贈与も2025年3月で終わった」と思っている方がいますが、これは延長されています。2024年12月に閣議決定された「令和7年度税制改正の大綱」で期限が2年延びました。今は2027年3月31日までの贈与が対象です。
仕組みは教育資金と似ています。父母や祖父母が子や孫名義の専用口座にまとめてお金を入れ、結婚や出産・子育ての費用に使った分は非課税になります。
- 上限は受け取る人1人につき1,000万円
- 受け取る人は、契約する日に18歳以上50歳未満
- 受け取る人の前の年の合計所得金額が1,000万円を超えると使えない
- 契約の途中で贈与した人が亡くなったときや、契約が終わったときに、相続税や贈与税がかかることがある
2027年3月31日の期限を延ばすかどうかは、2026年10月時点では決まっていません。教育資金のように延長されずに終わる可能性もあります。使うかどうか考えている方は、今の期限を前提に早めに税理士へ相談しておくと安心です。
教育費は「必要なときに、その都度」なら贈与税はかからない
教育資金の特例が終わっても、孫の学費を援助できなくなったわけではありません。国税庁は、家族の間で生活費や教育費に充てるために渡したお金について、「通常必要と認められるもの」には贈与税はかからないとしています。
ここでいう家族は「扶養義務者」です。夫婦・親子・兄弟姉妹などがあたり、民法では祖父母と孫のような直系の血族も、お互いに扶養する義務があると定められています。
大事なのは、渡し方です。国税庁の説明では、非課税になるのは「必要な都度直接これらに充てるためのもの」に限られます。一般的には、次のような違いになります。
| 渡し方の例 | 一般的な扱い |
|---|---|
| 入学金や授業料の請求が来たときに、その金額を学校へ振り込む | 「その都度」の支払いとして、贈与税がかからない扱いになりうる |
| 学費の請求額を、そのときに孫の親へ渡し、すぐ支払いに使う | 同上(支払いに使ったことが分かる記録を残しておく) |
| 「将来の学費に」と数百万円をまとめて孫の口座へ入れ、貯めておく | 預金した時点でふつうの贈与。年110万円を超えれば贈与税の対象 |
| 「学費に」と渡したお金で、株や不動産を買った | 贈与税がかかる |
(2026年10月時点の一般的な仕組み/国税庁タックスアンサーNo.4405をもとに整理)
「通常必要と認められる」範囲かどうかは、受け取る人の状況や金額によって変わります。金額に決まった上限はありません。私立の医学部の学費など大きな金額になる場合は、援助を始める前に税理士に見てもらうと安心です。
住宅取得等資金の贈与:2026年12月31日までの贈与が対象
子や孫が家を建てる・買う・増改築するときに、父母や祖父母が資金を出す場合の特例です。2024年1月1日から2026年12月31日までの贈与が対象で、2026年10月時点ではまだ使えます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 渡す人 | 父母・祖父母など(直系の家族)。配偶者の親は、養子縁組をしている場合に限る |
| 非課税の上限 | 省エネ等住宅は1,000万円、それ以外の住宅は500万円(受け取る人1人あたり) |
| 受け取る人の年齢 | 贈与を受けた年の1月1日に18歳以上 |
| 受け取る人の所得 | 贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下(床面積40㎡以上50㎡未満の家は1,000万円以下) |
| 家の広さ | 登記簿上の床面積が40㎡以上240㎡以下で、半分以上を自分の住まいに使う |
| 申告 | 非課税の範囲内でも申告が必要。贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日まで |
| 住み始める時期 | 贈与の翌年12月31日までに住んでいないと、原則として特例が使えず修正申告が必要 |
(2026年10月時点/国税庁タックスアンサーNo.4508(令和8年4月1日現在法令等)をもとに整理。ほかにも細かな要件があります)
見落としやすいのは、非課税の範囲に収まっていても申告が要る点です。2026年中に資金を渡した場合、申告は2027年2月1日から3月15日までになります。申告をしないと特例は使えません。
2027年以降については、まだ決まっていません。国土交通省は「令和9年度税制改正要望」で、この特例について「必要な検討を行い、所要の措置を講じる」ことを求めています。延長されるか、条件が変わるかは、例年どおりなら2026年12月ごろにまとまる税制改正の大綱で示される見込みです。
「来年も続くだろう」と見込んで計画を立てるのは控えたほうが無難です。家の契約や引き渡しの時期と、お金を渡す日を合わせて考える必要があるので、検討中の方は早めに税理士に確認してください。親の家の名義を生前に移す話は、実家を親が生きているうちに名義変更・売却するとどうなるかで別に整理しています。
暦年贈与の110万円と、孫への贈与で気をつけること
特例を使わないふつうの贈与でも、受け取る人1人につき年110万円までなら贈与税はかかりません。これが暦年贈与(1年ごとに計算する贈与税)の基礎控除です。
2024年1月1日以後の贈与からは、亡くなる前7年以内の贈与を相続財産に足し戻すルールになりました(以前は3年)。足し戻しの期間が実際に延び始めるのは、2027年1月1日以後の相続からです。詳しくは生前贈与の加算7年はいつから?2027年1月から延び始める早見表にまとめています。
孫への贈与で知っておきたいのは、足し戻しの対象になる人の範囲です。対象は「相続や遺贈(遺言で財産をもらうこと)で財産を受け取った人」への贈与です。
- 孫が相続でも遺言でも何も受け取らない:孫への生前の贈与は、原則として足し戻しの対象外です。
- 遺言で孫に財産を残している:孫も「遺贈で受け取った人」になり、生前の贈与が足し戻しの対象になりえます。
- 手元の生命保険で孫が受取人になっている:亡くなった人が保険料を払っていた死亡保険金は、税金の計算上は相続などで受け取った財産とみなされます。そのため、孫への生前の贈与も足し戻しの対象になりえます。
- 孫を養子にしている:孫が相続人になるので、相続で財産を受け取れば対象です。
つまり「孫への贈与だから関係ない」とは言い切れません。遺言の中身や、保険証券の受取人の欄とあわせて見ておく必要があります。受取人の欄の読み方は契約者・被保険者・受取人と税金の早見表で説明しています。
もう一つの基本は、贈与の記録です。孫名義の通帳を祖父母が預かったままだと、相続のときに「名義預金」と見られることがあります。名前だけ孫で、実際は祖父母のお金という意味です。振込で渡す、通帳は孫の親が管理する、といった形を整えておくと安心です。手順は生前贈与のやり方|110万円の非課税を正しく使う手順で書いています。
どれが合うかは家ごとに違う:税理士に確認したいこと
学費は都度払いにするか、毎年110万円の範囲で渡すか、住宅資金の特例を年内に使うか。どれが合うかは、財産の全体や家族の状況で変わります。そもそも相続税がかからない家なら、足し戻しを気にする場面はほとんどありません。
相談のときに整理しておくと話が早いのは、次のようなことです。
- 財産のおおよその全体(預金・自宅・保険など)と、相続税がかかりそうかどうか
- 援助したい相手(子か孫か)と、目的(学費・住宅・結婚や出産・生活費)
- 2024年1月以後にした贈与の記録(日付・相手・金額・渡し方)
- すでにある教育資金口座・結婚子育て資金口座の残高
- 遺言の有無と、保険証券の受取人が誰になっているか
税額の計算や、どの方法を選ぶかの判断は税理士の仕事です。当社にご相談いただいた場合は、お金と家族の状況を一緒に整理したうえで、提携の税理士が確認します。比べた結果、「今のやり方のままでよい」「特に何もしなくてよい」が答えになることもあります。贈与以外の残し方も含めて比べたい方は、孫にお金を残す方法|贈与・保険・遺言・教育資金、それぞれの向き不向きも参考にしてください。
今日できる一歩
1. 教育資金口座がある方は、金融機関からの書類で残高を見る。孫の年齢と、30歳までに使い切れそうかを書き出しておくと、相談のときの材料になります。
2. 孫の学費を援助するなら、請求書を見てから払う形にする。学校への振込記録や請求書の控えを、1つの封筒にまとめて残しておきます。
3. 住宅資金の援助を考えているなら、カレンダーに2つの日付を書く。「2026年12月31日(贈与の期限)」と「2027年3月15日(申告の期限)」です。
相談現場から
よく伺うのは「教育資金の非課税が終わったから、孫の学費はもう出してあげられない」という受け止めです。実際には、必要なときに学費を払う形なら、もともと贈与税はかからないとされています。反対に「学費用に」と名目をつけても、まとめて孫の口座に入れて置いておくと、ふつうの贈与として扱われます。名目よりもお金の動かし方を見ておくことを、お伝えしています。
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参考にした公的情報
- 国税庁 タックスアンサーNo.4510「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4510.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4511「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4511.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4508「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4508.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4405「贈与税がかからない場合」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4405.htm - 財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」/国土交通省「令和9年度税制改正要望(住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置等)」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_gaiyou.htm
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2027/request/mlit/09y_mlit_k_25.pdf - 文部科学省「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置に関するQ&A」(令和8年4月現在)
https://www.mext.go.jp/content/20260401-mxt_gakushi01-000029375_01.pdf
※本記事は2026年10月時点の国税庁・財務省・文部科学省の公開情報(国税庁は令和8年4月1日現在法令等)にもとづく一般的な仕組みの説明です。2027年以降の制度は、今後の税制改正で変わる可能性があります。贈与税・相続税がかかるかどうかや、どの方法を選ぶかは個別の事情で異なります。実際の判断は税理士または税務署にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
