実家に帰ると、車のバンパーに見慣れないこすり傷がある。聞いてみると「電柱が寄ってきたのよ」と笑って流される。免許のことを言い出したいけれど、怒らせるのが怖くて、今回も言えなかった。そんな場面は少なくありません。
この記事では、返納の話の切り出し方、手続き、返納後の支援をまとめます。手続きは2026年10月時点の愛知県警察の案内を例にしています。都道府県で違う点は、そのつど書きます。
この記事の結論
- 返納の話は「運転をやめさせる話」にしないほうが通ります。「これからの移動を一緒に考えよう」と切り出すのが基本です。
- 返納は警察署や運転免許センターなどで手続きできます。愛知県では、委任状などがあれば代理人でも可能です。返納後に運転経歴証明書(愛知県で1,150円)を申請すると、免許証に代わる公的な本人確認書類になります。
- 返納後の支援(割引、バスの無料券など)は市区町村や地域で違います。話す前に、親が住む地域で何があるかを調べておくと、話が進みやすくなります。
切り出す前に:「やめさせる話」にしない
運転は、親にとって免許証だけの話ではありません。買い物、病院、友人に会う日の足そのものです。「危ないからやめて」と言われると、その足を取り上げられるように聞こえます。
切り出すときは、次の順に考えると話が通りやすくなります。
- 親が運転で困っていることを、先に聞く(夜は見えにくい、駐車が怖い、など)
- 運転をやめたあとの移動手段を、一緒に考える
- 返納は「決めごとの一つ」として、最後に出す
返納は、運転を続けるか、やめるかの二択ではありません。間にいくつか選択肢があります。
更新のたびに検査があることは、話を切り出すきっかけにもなります。「次の更新までに、どうするか決めておこうか」と言えば、期限のある話にできます。
そのまま使える話し方の例(5パターン)
場面に合わせて、言葉を変えてお使いください。大切なのは、結論を急がないことです。1回目は「聞く」だけで終わってもかまいません。
1. 短め(電話やLINEで)
「お母さん、今度の更新のこと、少し話せる? 車がなくなっても困らないように、一緒に考えたいの。」
2. 丁寧め(帰省したとき)
「運転が楽だって、よく聞いてるよ。ただ、最近少し心配になることがあって。免許をどうするかの前に、今困っていることを聞かせてほしいんだ。」
3. 夫婦のあいだで
「あなたが運転しなくなったら、病院はどうしようか。元気なうちに、二人で先に決めておきたいの。」
4. 第三者の力を借りる
「私が言うと角が立つから、警察の相談窓口に、一緒に聞きに行ってみない? 聞くだけでいいから。」
5. 期限を決めて試す
「次の更新まで、夜と遠出はやめてみよう。更新のときに、また一緒に決めよう。」
逆に、次のような言い方は、親が意固地になりやすいので避けたほうが安心です。
- 「もう年なんだから」「ぼけてきた」など、年齢や頭の働きを指す言葉
- 「事故を起こしたら迷惑がかかる」と、周りへの迷惑を前面に出す言い方
- 本人に黙って、鍵や車を動かすこと
「まだ大丈夫」と言われたときの返し方
最初の話し合いで、すんなり決まることはあまりありません。よくある反応と、返し方の例です。
話が進まないときは、家族だけで抱えなくて大丈夫です。次のような窓口があります。
- 警察の安全運転相談:運転に不安がある人の相談を受ける窓口が、都道府県警察にあります。茨城県のように「#8080」を案内している県もあり、運転に不安のある本人とその家族が対象です。愛知県は、運転免許試験場の安全運転相談室(052-801-3211、平日9時〜17時)が窓口です。
- かかりつけ医:体調や物忘れが気になるときは、診断は医師に任せ、受診の相談をします。
- 地域包括支援センター:市区町村が設置する高齢者の総合相談窓口で、全国のすべての市町村にあります(厚生労働省、2025年4月末時点で5,487か所)。
認知機能検査で「認知症のおそれがある」と判定された場合は、公安委員会から通知が届きます。専門医の診断(臨時適性検査)を受けるか、医師の診断書を出す流れになり、結果によっては免許の取消しなどになります。検査そのものは医学的な診断ではありません(警察庁)。
返納の手続き(愛知県の例)
返納は、運転免許の取消しを自分で申請する手続きです。愛知県警察の案内(2026年10月時点)は次のとおりです。
運転経歴証明書は、返納と同時に申請しておくと、窓口へ行く回数が1回で済みます。くわしい持ち物は、愛知県警察「運転経歴証明書」でも確認できます。
マイナンバーカードと一体化した「マイナ免許証」を持っている人は、手続きが少し違う場合があります。窓口へ行く前に、どちらの免許証かを伝えて確認すると安心です。
返納後の支援は、地域で違います(例)
返納した人への支援は、国の一律の制度ではなく、都道府県、市区町村、事業者がそれぞれ行っています。多くは運転経歴証明書を見せることが条件です。以下は例です。
どんな支援があるかは、親が住む市区町村の公式ページで「運転免許 自主返納 支援」と調べると見つかります。「うちの市には、こんなものがあるよ」と最初に見せられると、親も返納を前向きに考えやすくなります。
ただ、特典があっても、親にとっていちばん大きいのは毎日の足です。割引は、あくまで「おまけ」と考えておくほうが、話がこじれません。
返納のあとの暮らし:移動手段を先に決めておく
返納の話し合いは、「何で移動するか」まで決めて、はじめて終わります。次のように、よく行く場所ごとに書き出してみてください。
- 買い物:宅配、移動販売、家族が一緒に行く日を決める
- 病院:タクシー、路線バス、コミュニティバス、家族の付き添い日
- 友人・趣味の集まり:誰かと同乗できるか、バス停までの距離はどうか
車の保険、税金、車検、駐車場代がかからなくなる分を、タクシー代に回せるかもしれません。金額は車の種類や地域で違うため、親の車の実際の支出で比べてみてください。
坂の上や駅から遠い場所など、車がないと暮らしにくい立地なら、住まいごと考える方法もあります。選択肢は高齢者の住み替え費用にまとめています。返納の話をきっかけに、お金や暮らしの話に広げたいときは、年末年始の帰省で親とお金の話も参考になります。
今日できる一歩
- 親が住む市区町村の公式ページで、「運転免許 自主返納 支援」と検索し、どんな支援があるか1つだけ調べて、メモしておく。
よくある質問
返納したあと、また運転したくなったら、どうなりますか
返納すると運転免許は取り消されます。もう一度運転するには、改めて免許を取り直す手続きが必要です。手続きの中身は、お住まいの都道府県の運転免許試験場で確認してください。
親が窓口へ行けないとき、子が代わりに返納できますか
愛知県では、代理人による返納の申請ができます。本人の運転免許証、本人が自筆した委任状兼承諾書、代理人が自筆した誓約書、代理人の本人確認書類が必要です。代理人は、郵送での申請と、日曜の試験場での申請はできません。他の都道府県は扱いが違うことがあります。
運転経歴証明書は、更新しないといけませんか
愛知県警察の案内では、有効期限はありません。ただし、申請できるのは返納の日から5年以内です。5年を過ぎると、交付を受けられなくなります。
更新のときの検査で「おそれがある」と出たら、免許はすぐなくなりますか
75歳以上の認知機能検査の結果だけで、すぐに免許がなくなるわけではありません。「認知症のおそれがある」と判定された場合は、専門医の診断などを経て判断されます。過去3年に一定の違反がある人が受ける運転技能検査は、合格しないと更新できません。不合格でも、受検できる期間内なら繰り返し受けられます(愛知県警察)。
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参考にした公的情報
- 愛知県警察「運転経歴証明書」 https://www.pref.aichi.jp/police/menkyo/kerekisyoumei/unntennkeireki.html
- 愛知県警察「運転免許証の自主返納」 https://www.pref.aichi.jp/police/menkyo/kerekisyoumei/zisyuhenoou.html
- 愛知県「運転免許証自主返納制度及び自主返納支援制度」 https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kenmin-anzen/jishuhennou.html
- 警察庁「認知機能検査のよくある質問」 https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/ninti/faq_r03.html
- 警察庁「高齢運転者対策(令和2年改正道路交通法・2022年5月13日施行)」 https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/r2kaisei_main.html
- 茨城県警察「安全運転相談(認知症・高齢者)」 https://www.pref.ibaraki.jp/kenkei/a03_license/tekisei/ninchishokoureisha.html
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報にもとづく一般的な整理です。手数料、受付日、支援の内容は都道府県や市区町村で異なります。実際の手続きの前に、お住まいの地域の警察署や運転免許試験場、市区町村へご確認ください。医学的な判断は、かかりつけ医などの専門家にご相談ください。
