夫が定年を迎えてから、家で顔を合わせる時間が急に長くなった。昼ごはんの支度、出かけるたびに聞かれる「どこへ行くの」、つけっぱなしのテレビ。悪い人ではないのに、一日中同じ空気の中にいるのが息苦しい。調べてみると「夫源病」という言葉が出てきた。そんな場面から、この記事を始めます。
先に言っておくと、夫源病は医学的な病名ではありません。この記事では診断や治療の話はしません。「ずっと一緒がつらい」ときの距離のとり方と、夫婦で決めておきたいことを整理します。内容は2026年10月8日時点の公的な情報などにもとづく、一般的な説明です。
この記事の結論
- 「夫源病」は医師が名づけた呼び名で、医学的な病名ではありません。体や心のつらさが続くときは、かかりつけ医や自治体の相談窓口へ。
- 定年後の「ずっと一緒」のつらさは、昼ごはんや外出の連絡など、毎日の小さな場面で起きやすいものです。場面ごとに距離のとり方を変えられます。
- 夫婦の決めごとは、紙に書いて月に一度見直すと続けやすくなります。切り出し方の文例も載せました。
「夫源病」とは?医学的な病名ではありません
夫源病(ふげんびょう)は、夫の言葉や態度、夫が家にいる時間の長さをストレスに感じて、妻が心身の不調を訴える状態を指して使われる言葉です。医師が名づけた呼び名として、新聞などでも紹介されてきました(神戸新聞、2022年7月)。
同じ報道でも「医学的な病名ではない」と書かれています。病院で診断名として使われる言葉ではなく、「夫との暮らしがしんどい」という実感につけられた名前、と考えるとわかりやすいでしょう。
体や心のつらさが続くときは、「夫のせい」「自分のせい」と決めつける前に、かかりつけ医に相談してください。診察や治療の中身は、この記事では扱いません。気持ちを聞いてほしいときは、市区町村の相談窓口のほか、国の「こころの健康相談統一ダイヤル」(0570-064-556)が使えます。全国共通の番号で、かけた場所の公的な相談機関につながります。受付時間は都道府県や政令指定都市ごとに違うので、かける前に確認してください(厚生労働省)。
なぜ定年後に「ずっと一緒」がつらくなるのか
現役のあいだ、夫は日中ほとんど家にいません。妻には妻の生活のリズムと、家の中の持ち場があります。そこへ定年後の夫が一日中いることになると、これまで夫の目のない時間に済ませていたことが、毎日見られる側に変わります。
家事の時間には、いまも大きな差があります。総務省の2021年の調査では、家事・介護・育児・買い物をあわせた「家事関連時間」は、1人1日あたりの平均で男性が51分、女性が3時間24分でした。全年齢の平均で、高齢の夫婦だけの数字ではありません。それでも「自分のことは自分でする」を夫婦の決めごとにする意味は、ここから見えてきます。
夫源病を提唱した医師は、夫が自分の食事を自分で用意できるようになることが、夫婦の危機を避けるうえで大切だと話しています(神戸新聞)。一方で、夫のほうも仕事という居場所がなくなり、どう過ごせばよいか戸惑っていることがあります。どちらが悪いと決めず、「いまの暮らし方が合っていない」と捉えるほうが、話が進みます。
距離のとり方:場面別に試せる工夫
毎日の場面ごとに、困りごとと試せることを並べました。全部やる必要はありません。一つだけ選んで、1週間続けてみる形で十分です。
距離をとることは、仲が悪いことと同じではありません。同じ家にいても別々の時間があると、顔を合わせたときの会話が楽になる、という人もいます。夫が家以外にも行き場所を持つこと(地域の講座、ボランティア、短時間の仕事など)も、距離をつくる方法の一つです。市区町村の広報誌や公民館に案内が出ています。
夫婦で決めておきたいこと
「そのつど我慢する」を続けると、つらさがたまります。先に決めごとにしておくと、毎回の言い合いが減ります。話し合うテーマの例です。
決めたことは紙に書いて、冷蔵庫など見える場所に貼っておくと、あとで見直せます。月に一度、5分だけ「いま困っていること」を聞き合う時間をつくると、不満が大きくなる前に気づけます。
切り出し方の文例
責める言い方になると、話し合いは進みません。「私は〜と感じる」「〜してもらえると助かる」の形にすると、伝わりやすくなります。そのまま写して使える文例です。
短めに伝える
「お昼ごはんのことで相談があるの。週に2日は、お昼は各自にしたいんだけど、どうかな。」
丁寧に伝える
「定年になって一緒にいる時間が増えて、うれしいこともあるけれど、私も自分の時間がほしいと思うようになりました。お互いに楽に過ごせるように、少し決めごとをつくりませんか。」
夫が構えてしまいそうなとき
「あなたが嫌いになったわけじゃないの。毎日ずっと一緒だと、私が疲れてしまう日があって。責めたいんじゃなくて、聞いてほしいの。」
口で言うと感情的になりそうなとき
「話すと言い方がきつくなりそうだから、書いて渡します。読んだあとで、あなたの考えも聞かせてください。」
夫のほうから伝えるなら
「家にいる時間が増えて、君に頼りすぎていたかもしれない。昼は自分でやってみるから、やり方を教えてほしい。」
話し合っても苦しいとき:相談先
今日できる一歩:「ひとりで過ごしたい時間」を紙に一つ書く
夫に話すのは、明日以降で構いません。今日は紙に、「何曜日の何時から、どこで、何分くらい」ひとりで過ごしたいかを一つだけ書いてみてください。たとえば「毎朝9時から30分、台所でお茶を飲む」くらいの小ささで十分です。
書いた紙は、切り出し方の文例と一緒に、話し合いの前にもう一度読み返します。
よくある質問
夫源病は、病院で診断してもらえますか
医学的な病名ではないため、診断名として使われる言葉ではありません。体や心のつらさがあるときは、困っている様子をそのままかかりつけ医に伝えてください。
家の中で部屋を分けるのは、夫婦仲が悪い証拠ですか
そうとは限りません。仕事をする人が別の部屋に移る、食事のときだけ顔を合わせる、といった形で、かえって穏やかに暮らしている夫婦もいます。大事なのは、どちらか一方だけが我慢していないことです。
夫に直接言うと、怒り出しそうでこわいです
先に紙に書いて渡す方法があります。機嫌のよい時間帯を選び、「あなたが悪い」ではなく「私はこう感じている」で始めてください。文例の4つ目を使えます。話し合いそのものが難しいときは、家庭裁判所の円満調停のような第三者を交える場もあります。
夫のほうも、つらいのでしょうか
仕事という居場所がなくなって、どう過ごせばよいか戸惑っている人もいます。「一緒にいたがる」のは、ほかに行き場所がないからかもしれません。夫にも家の外の居場所ができると、距離のとり方が楽になることがあります。
参考にした公的情報・報道
- 厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/kokoro_dial.html
- 総務省統計局「令和3年社会生活基本調査 生活時間及び生活行動に関する結果 結果の概要」https://www.stat.go.jp/data/shakai/2021/pdf/gaiyoua.pdf
- 裁判所「夫婦関係調整調停(円満)」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_02/index.html
- 内閣府男女共同参画局「DV相談について(DV相談ナビ)」https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/dv_navi/index.html
- 神戸新聞「夫源病」に関する記事(2022年7月)https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202207/0015484114.shtml
※本記事は2026年10月時点の一般的な情報です。夫婦の事情はそれぞれ違います。体や心のつらさが続くときは、かかりつけ医や自治体の相談窓口にご相談ください。
