親に借金がありそうなので、相続放棄を考えている。でも「放棄すると損をすることはないのか」「家族に迷惑がかからないか」が気になって、決めきれない。そんな方に向けた記事です。
相続放棄をすると、初めから相続人でなかったことになり、預金も借金も引き継ぎません。相続放棄の主なデメリットは、プラスの財産も含めて全部受け取れなくなること、あとから取り消せないこと、そして借金の相続権が次の順位の家族に移ることです。この記事では、デメリットを「誰に影響が出るか」で分けた一覧と、自分にとって重いかどうかを見分ける判定表、デメリットを小さくする進め方の順番を、民法と国税庁・裁判所の案内をもとに2026年10月時点の情報で整理します。受理された後に何が起きるかの順番も載せました。
先に結論:相続放棄のデメリットは「全部手放す」「取り消せない」「家族に回る」の3つです
この記事の結論
- 全部手放す:放棄した人は、初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。借金だけでなく、預金や自宅も受け取れません。一部だけ選んで放棄することはできません。
- 取り消せない:3か月の期間内でも、一度した放棄は撤回できません(民法919条1項)。あとで財産が見つかっても戻せないので、先に財産と借金を調べることが大切です。
- 家族に回る:子が全員放棄すると、相続権は親、親もいなければ兄弟姉妹へ移ります。借金も一緒に移るので、次の順位の人に知らせておくと、あとのもめごとを防げます。
期限の数え方と手続きの流れは相続放棄の期限3か月はいつから?、放棄が認められない行為は相続放棄できないケースにまとめています。この記事は「放棄すると何を失い、誰に何が起きるか」に絞ります。
相続放棄するとどうなる?受理されてから起きることを順番に
相続放棄をすると、初めから相続人でなかったことになり、預金も借金も引き継ぎません(民法939条)。ただ、それで全部が終わるわけではありません。受理された後に、誰に何が届き、何が起きるかを順番に並べました。
受理通知書は本人にしか届かないので、ほかの家族は放棄したことを知りません。家族が放棄したかを確かめたいときは、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所に照会できます。手順と必要書類は相続放棄の確認方法にまとめています。
相続放棄のデメリット一覧|誰に影響が出るか
デメリットは、放棄する本人に出るものと、家族に出るものに分かれます。自分のことだけでなく、家族の誰に影響が出るかを先に確かめておくと、話し合いがしやすくなります。
いちばん重いのは、上の2つです。放棄は「全部か、ゼロか」の選択で、あとから選び直せません。一方で、家族に移る点は、知らせ方と順番を工夫すれば負担を小さくできます。
「母に全部」のつもりで子が放棄すると、父の兄弟が相続人になることがあります
よくある思い違いが、この形です。父が亡くなり、自宅を母に残したいので、子どもたちが家庭裁判所で相続放棄をする。すると子は初めから相続人でなかった扱いになり、相続人は母と、次の順位の人になります。父の親が亡くなっていれば、父の兄弟姉妹(子から見て叔父・叔母)が母と一緒に相続人になります。
こうなると、自宅の名義を母に移すには、叔父・叔母との話し合いが必要になります。借金がなく「母に集めたい」だけなら、家庭裁判所での放棄ではなく、遺産分割の話し合いで母が受け取る形にする方が、家族の手間は少なくすみます。どちらが合うかは、借金の有無で決まります。
自分にとって重いデメリットか?状況別の判定表
同じ相続放棄でも、置かれた状況でデメリットの重さは変わります。当てはまる行を探して、右の欄を先に確かめてください。
表のうち、保証人の行は相続放棄のデメリットというより、放棄では解決しない点です。保証人としての責任は、亡くなった方の借金とは別に、保証人自身が負っているものだからです。
放棄しても変わらないこと|デメリットと誤解されやすい点
「放棄すると全部失う」と聞いて、受け取れるはずのものまで手放したと思い込む方がいます。次のものは、放棄とは別に扱われます。
死亡保険金は、相続放棄のときに受け取ってよいか迷いやすいものです。受け取っても放棄はできますが、保険会社への請求の手続きと、相続税の扱いは分けて考えます。
デメリットを小さくする「放棄以外の道」との比べ方
相続放棄だけが選択肢ではありません。デメリットが重いと感じたら、次の方法と比べてから決めます。
いちばん間違えやすいのは最後の行です。「何ももらわない」と書いた遺産分割協議書は、借金に対しては効き目がありません。違いは「相続放棄してほしい」と言われたらでくわしく説明しています。限定承認は、税金の扱いを含めて判断が分かれやすいので、決める前に司法書士・弁護士・税理士に相談してください。
家族の中で誰が何をするか|放棄するときの役割分担
相続放棄は1人ずつの手続きですが、家族で同じ方に関する放棄をするなら、役割を分けると早く進みます。誰か1人に負担が集まると、期限の管理が抜けやすくなります。
書類の集め方と送り方は相続放棄を郵送でする手順で、手順に沿って説明しています。
デメリットが大きくなる「やってはいけない順番」
相続放棄のデメリットは、進める順番を間違えると大きくなります。よくあるつまずきを、避けたい順に並べました。
- 財産を調べる前に放棄を決める。あとで預金や不動産が見つかっても、撤回はできません。まず郵便物、通帳、固定資産税の通知を集めます。借金の調べ方は親の借金の調べ方にまとめています。
- 遺産を使ってから放棄を考える。預金を引き出して使ったり、家財を売ったりすると、相続を受け入れたとみなされることがあります。迷う行為は、する前に確かめます。
- 次の順位の人に知らせずに放棄する。家庭裁判所が親族に知らせてくれるという案内はありません。何も聞いていない親や兄弟姉妹に、突然督促が届くことがあります。
- 3か月の期限まで何もしない。調べきれないときは、期限内に期間の伸長を申し立てられます。期限を過ぎてからでは選べる道が狭くなります。
進める順番をまとめると、「財産と借金を調べる → 家族で方針を話す → 放棄か限定承認かを決める → 申述する → 次の順位の人に知らせる」です。この順なら、取り消せないというデメリットを、調べたうえでの判断に変えられます。
放棄したあとにプラスの財産が見つかったら
相続放棄は、3か月の期間内であっても撤回できません(民法919条1項)。財産が見つかったという理由だけでは、放棄をやめることはできません。
例外として、だまされた、おどされたなど、民法の決まりに当たる事情で放棄した場合は、取り消せることがあります(同条2項)。この取消しは、追認できる時から6か月、放棄の時から10年で時効にかかり、家庭裁判所への申述が必要です(同条3項・4項)。当てはまりそうなときは、早めに弁護士に相談してください。
ご家族の構成や財産で答えが変わるところは、30分の無料相談で、書類を見ながら一緒に整理できます。愛知県内はご自宅への訪問もできます。その場で何かをお決めいただく必要はありません。
今日できる一歩
亡くなった方あての郵便物と通帳を1か所に集め、「財産」「借金」「よく分からないもの」の3つに分けてメモする。あわせて、自分が放棄したら次に相続人になる人の名前を書き出しておきます。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
よくある質問
相続放棄をすると、どうなりますか
初めから相続人でなかったものとみなされ、預金や自宅も借金も引き継ぎません(民法939条)。同じ順位の人が全員放棄すると、相続権は次の順位の家族に移ります。家に住んでいた人には、引き渡すまで家を保存する役目が残ることがあります(民法940条1項)。
相続放棄のいちばんのデメリットは何ですか
プラスの財産も含めて全部受け取れなくなり、しかも撤回できない点です(民法939条・919条1項)。放棄を決める前に、財産と借金をできるだけ調べてください。
相続放棄をすると、家族に迷惑がかかりますか
同じ順位の人が全員放棄すると、相続権は親、兄弟姉妹へと移り、借金も一緒に移ります。家庭裁判所が親族に知らせるという案内はないので、放棄したことと受理された日を自分で伝えると、あとのもめごとを防げます。
相続放棄をしても死亡保険金は受け取れますか
受取人に指定されていれば受け取れます。ただし、放棄した人は死亡保険金の非課税の適用を受けられません(国税庁 No.4114)。相続税がかかるかどうかは税理士か税務署に確かめてください。
相続放棄をすると、相続税の基礎控除は減りますか
減りません。相続税の計算で使う法定相続人の数は、放棄した人がいても、放棄がなかったものとして数えます(国税庁 No.4114)。
放棄した後に、借金より多い預金が見つかりました。取り消せますか
財産が見つかったという理由では撤回できません(民法919条1項)。だまされた・おどされたなどの事情がある場合に限り、取り消せることがあります。弁護士に相談してください。
住んでいる実家はどうなりますか
放棄すると自宅も受け取れません。放棄の時に住んでいるなど現に占有していれば、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで、自分の財産と同じ注意で保存する役目が残ります(民法940条1項)。
参考にした公的情報
- e-Gov法令検索「民法」(915条・919条・923条・939条・940条・952条・959条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - 裁判所「相続の放棄の申述」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html - 国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm - 名古屋家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述の受理の有無の照会」
https://www.courts.go.jp/nagoya-f/saiban/souzoku4/index.html
※本記事は2026年10月時点の法令と公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。放棄するか、限定承認や期間の伸長を選ぶかは、財産と借金の中身やご家族の状況で変わります。期限が迫っている場合や事情が複雑な場合は、司法書士・弁護士にご相談ください。税金のことは税理士または税務署にご確認ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
