葬儀を終えて1週間。実家の電話台の引き出しから、父の名前が入ったカードが3枚出てきました。郵便受けには、見覚えのない会社からの封書も届いています。借りていたお金があるのかどうか、家族の誰も知りません。
この記事では、亡くなった親に借金があるかを調べる方法を順に整理します。3つの信用情報機関への開示の申し込み方、手数料と届くまでの日数、信用情報に出てこない借金や保証人の確かめ方です。各機関の案内は2026年10月時点の公式ページで確かめています。
この記事の結論
- ローンやカードの記録は、3つの信用情報機関に相続人が開示を求めて調べます。相続人の申し込みはどこも郵送で、手数料は1機関1,500〜2,403円、届くまで1〜3週間ほどです。3つとも出すと見落としが減ります。
- 信用情報に出てこない借金もあります。他人の借金の保証人、知人からの借入れ、税金の未納などは、郵便物・通帳・契約書・役所の窓口で確かめます。
- 調べるのは、相続放棄を決める3か月のうちに。結果が出るまでは、遺産の預金を使ったり借金を返したりしないでおきます。
借金を調べるのは「3か月」のうちに
相続では、預金や家だけでなく、借金も引き継ぎます(民法896条)。借金のほうが多いときは、家庭裁判所で相続放棄をすれば、借金の支払いから外れます。
ただし放棄には期限があります。自分が相続人になったと知った時から3か月です(民法915条)。この3か月は、財産と借金を調べて決めるための期間でもあります。法律も、決める前に相続財産を調べてよいと定めています(同条2項)。
信用情報の開示は、書類集めから結果が届くまで、早くても2〜3週間はみておきます。戸籍集めに手間取ると、1か月以上かかることもあります。四十九日を過ぎてから動き出すと、残りは1か月半ほどです。気になる郵便物があれば、早めに取りかかると気持ちに余裕が持てます。期限の数え方や、間に合わないときの「期間の伸長」は、相続放棄の期限3か月はいつから?で説明しています。
3つの信用情報機関の違い|手数料・届くまでの日数
信用情報機関は、ローンやクレジットカードの契約と返済の記録を預かる会社です。日本には3つあり、加盟している会社の顔ぶれが違います。1か所だけでは、ほかの機関にしかない記録を見落とすことがあります。
| CIC(シー・アイ・シー) | JICC(日本信用情報機構) | 全国銀行個人信用情報センター(KSC) | |
|---|---|---|---|
| 主な加盟先 | 信販会社・クレジットカード会社、消費者金融、携帯電話会社など | 消費者金融、クレジット会社、信販会社、保証会社など | 銀行などの金融機関、信用保証協会、クレジットカード会社・保証会社など |
| 相続で申し込める人 | 法定相続人 | 法定相続人、または2親等以内の血族 | 成年の法定相続人(法定代理人も可) |
| 申し込み方法 | 郵送 | 郵送 | 郵送 |
| 手数料 | 1,500円(コンビニの開示利用券は発行手数料込みで1,650円。郵便局の定額小為替でも払える) | 2,177円(コンビニで郵送開示利用券を買う。定額小為替は不可) | 2,403円(コンビニで利用券を買う。定額小為替は不可) |
| 結果が届くまで | 法定相続情報一覧図を出した場合は約10日、戸籍一式の場合は約20日 | 書類が届いてから7〜10日 | 書類を送ってから7〜10日ほど |
| 結果の受け取り | 申し込んだ相続人の現住所に「本人限定受取郵便」で届く(郵便局で本人確認をして受け取る) | ||
(CIC「郵送で開示する」、JICC「法定相続人等による開示」、全国銀行個人信用情報センター「法定相続人による開示のお手続きについて」(2026年4月版)をもとに作成。2026年10月時点。速達にすると追加の費用がかかります)
3つ合わせると、手数料は6,000円あまりです。ほかに戸籍や住民票の取り寄せ代、郵送代がかかります。
親や兄弟姉妹(第2順位・第3順位の相続人)が申し込むときは、追加の書類が要ります。CICと全国銀行個人信用情報センターでは、先の順位の人がいないこと、または放棄したことを示す書類です。子が全員放棄した後に、兄弟姉妹が調べる場合などです。
請求の手順|書類をそろえて3機関へ送るまで
3機関とも、求められる書類の組み立ては似ています。違いは細かいので、送る前に各機関の最新の案内で確かめてください。
- 相続人だと示す書類をそろえる:法務局の「法定相続情報一覧図」の写しが1枚あると、亡くなったことと続柄の証明を兼ねられます。戸籍で出す場合は、亡くなった方の死亡が分かる戸籍と、続柄が分かる戸籍などを集めます。
- 自分の本人確認書類を2点用意する:1点は住民票の写しや印鑑登録証明書などの原本(発行から3か月以内)。もう1点は運転免許証やマイナンバーカード(表面)などのコピーです。
- 申込書を作る:CICは「法定相続人用」の申込書を印刷して手書きします。JICCはサイトの作成フォームで作って印刷します。全国銀行個人信用情報センターも「法定相続人用」の申込書を使います。
- 手数料を払う:コンビニのマルチコピー機などで、各機関の利用券を買って同封します。
- 郵送して、結果を受け取る:郵便局から到着の知らせが届いたら、本人確認書類を持って受け取ります。
つまずきやすい3つの点
書類は返ってきません。原本は機関ごとに要ります。3機関に出すなら、法定相続情報一覧図の写しと住民票の写しは3通ずつ用意します。CICとJICCは、一覧図や戸籍も発行から3か月以内の原本を求めています。
住所をそろえます。結果は本人確認書類に書かれた現住所へ届きます。申込書の住所と住民票の住所が違うと、受け取れないことがあります。
「登録なし」でも借金がないとは限りません。全国銀行個人信用情報センターは、亡くなったことを受けて金融機関が情報を削除している場合がある、と案内しています。結果は、次に挙げる調べ方と合わせて読みます。
法定相続情報一覧図は、銀行や年金の手続きでも使えます。作り方は法定相続情報一覧図の作り方にまとめています。
信用情報では分からない借金の調べ方
信用情報に載るのは、加盟している会社との契約だけです。知人や親族からの借入れ、税金の未納などは出てきません。CICの案内でも、公共料金を口座振替で払っている場合は、遅れても信用情報には登録されないとしています。次の4つを順に見ていくと、手がかりが集まります。
- 郵便物:亡くなった後の数か月は、届いた封書を1つの箱に集めます。カードの利用明細、「お支払いのお願い」、契約内容のお知らせなどは、借入先の手がかりです。郵便の転送届を出していれば、転送先にも届きます。
- 通帳の引き落とし:通帳を1年分ほどさかのぼり、毎月同じ日・同じ額の引き落としを探します。ローンやカードの返済、分割払いのことがあります。住宅ローンなら、団信で消える分・残る分も確かめます。
- 税金・公共料金:固定資産税や住民税の未納は、市町村の税務の窓口で確かめます。税金の未納分も、原則として相続人に引き継がれます。固定資産税の通知書が届いたときの流れは、亡くなった親宛てに固定資産税の納税通知書が届いたらで説明しています。
- 手帳・借用書・家族の記憶:個人間の貸し借りは、書類が残っていないこともあります。手帳のメモ、借用書、親族への聞き取りが頼りです。自営業だった場合は、仕入先への未払いや、事業用の借入れも確かめます。
不動産に担保が付いていれば、登記を見ると借入先が分かることがあります。親名義の不動産がどこにあるか分からないときは、所有不動産記録証明制度で調べられます。
保証人になっていないかの確かめ方
見落としやすいのが、親がだれかの借金の保証人になっていたケースです。保証人の立場も、借金と同じく相続人に引き継がれます。借りた本人が返している間は、督促も来ないので気づきにくいのです。
信用情報で分かるのは、主に親自身のローンやカードの記録です。他人の借金の保証人になっていたかどうかは、信用情報だけでは分からないことがあります。次の場面に心当たりがないか、確かめてください。
- 家業や会社を営んでいた:会社が銀行から借りるとき、経営者が個人で保証することがあります。会社の決算書や借入れの契約書、取引先の金融機関で確かめます。
- 子や兄弟、知人に頼まれたことがある:住宅ローンや事業の借入れ、奨学金などの保証人を頼まれていないか、家族や親族に聞きます。
- 賃貸住宅の保証人になっていた:子や親族の部屋を借りるときの保証人です。契約書の控えが手元にないか探します。
金庫や書類箱に「保証契約書」「保証書」の控えがないかも見ます。見つかったら、契約の相手先と、借りている本人の名前を書き留めておきます。
賃貸の保証のように、上限額を決めて先々の支払いまでまとめて保証する契約もあります(個人根保証)。この場合は、保証人が亡くなった時点で保証の対象が確定します(民法465条の4)。亡くなった後の家賃まで引き継ぐわけではありませんが、それまでの未払い分は引き継ぐことがあります。
借金が見つかったときの選択肢
借金が見つかっても、すぐに払う必要はありません。財産と借金の全体を見てから、次の3つのどれにするかを決めます。
| 選択肢 | どうなるか | 手続き |
|---|---|---|
| そのまま相続する(単純承認) | 財産も借金もすべて引き継ぐ | 手続きは要らない。3か月が過ぎると、このかたちになる |
| 相続放棄 | 財産も借金も引き継がない。初めから相続人でなかったことになる | 1人ずつ家庭裁判所に申述する。収入印紙800円と郵便切手 |
| 限定承認 | 受け継いだ財産の範囲でだけ借金を払う | 相続人全員でそろって家庭裁判所に申述する。財産目録も作る。収入印紙800円と郵便切手 |
(民法915条・921条・923条・924条・939条、裁判所「相続の放棄の申述」「相続の限定承認の申述」をもとに作成。2026年10月時点)
限定承認は、借金がどれだけあるか分からないときの方法です。ただ、相続人全員の足並みがそろわないと使えず、その後の清算の手続きも重くなります。使うかどうかは、専門家と見通しを立ててから決めると安心です。
迷っている間は、遺産の預金を使う、遺産から借金を返す、といったことは控えます。遺産を「処分」すると、相続を受け入れたとみなされ、放棄できなくなることがあります(民法921条)。督促の電話や手紙が来たら、その場で支払いを約束せず、書面は捨てずに取っておきます。
相続放棄の申述書の作成や提出書類の確認は、司法書士の仕事です。債権者とのやり取りや、支払いの交渉が必要なときは弁護士に頼みます。放棄の手順と、してはいけないことの一覧は相続放棄の期限と手続きにあります。
生前にできること|家族で借入れと保証を書き出しておく
亡くなった後の調べものが大変なのは、本人にしか分からないことが多いからです。元気なうちに、借入れと保証を1枚の紙に書き出して、家族と共有しておくと、残された家族が迷わずに済みます。
- ローンやカードの借入先と、おおよその残高、返済日
- 持っているクレジットカードの会社名
- だれの、どの借金の保証人になっているか(契約書の保管場所も)
- 個人的に貸し借りしているお金
本人なら、自分の信用情報をインターネットで確かめられる機関もあります。CICのインターネット開示は手数料500円です(2026年10月時点)。一度見ておくと、自分でも忘れていた契約に気づくことがあります。
借金の話は、親子でも切り出しにくいものです。「もしものとき、家族が困らないように」と、預金の置き場所や、連絡してほしい人と一緒に話題にすると、話しやすくなります。
今日できる一歩
1. 郵便物と通帳を1つの箱に集める。借入れや保証に関係しそうな封書には付箋を貼ります。封筒は捨てずに取っておきます。
2. 3か月の最終日をカレンダーに書く。亡くなったことを知った日の、3か月後の同じ日付が目安です。その1か月前を「開示の結果がそろう日」にします。
3. 住民票の写しを3通取る。3機関それぞれに原本が要ります。法定相続情報一覧図を使う場合は、写しを3通頼みます。
相談現場から
よく伺うのは「カードを持たない親だったから、借金はないはず」という声です。調べてみると、通帳の引き落としや届いた郵便物から、家族の知らなかった契約の手がかりが出てくることもあります。逆に、開示で「登録なし」と出て安心しきってしまう方もいます。信用情報は調べる手段の一つと考え、郵便物と通帳、保証の心当たりまで合わせて確かめると、判断に迷いにくくなります。
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- 「相続放棄してほしい」と言われたら|家裁の放棄と「何ももらわない協議書」の決定的な違い・3か月の期限・断り方
参考にした公的情報
- CIC「郵送で開示する」(法定相続人の手続き)、同「情報開示とは」(インターネット開示の手数料)、同「公共料金の延滞も登録されますか?」
- JICC(日本信用情報機構)「法定相続人等による開示」、同「JICCに信用情報を登録している会社(加盟会員)はどこですか?」
- 全国銀行個人信用情報センター「法定相続人による開示のお手続きについて」(PDF)、同「センターの概要」
- 裁判所「相続の放棄の申述」、同「相続の限定承認の申述」
- e-Gov法令検索「民法」(465条の4・896条・915条・921条・923条・924条・939条)
※本記事は2026年10月時点の一般的な情報の整理です。信用情報機関の手数料・必要書類は変わることがあるため、申し込む前に各機関の最新の案内をご確認ください。相続放棄や限定承認をするかどうか、ある行為が「処分」に当たるかどうかは、個別の事情によります。実際の判断は、必要に応じて司法書士・弁護士にご相談ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
