実家を兄が継ぎ、弟にお金で調整する。そう決まりかけたところで、「実家はいくらなのか」で話が止まる。兄は固定資産税の通知書の金額を出し、弟は近所の売り出し価格を調べてくる。同じ家なのに、数百万円違う数字が並びます。
不動産の値段には、国や市町村が出すものだけでも何種類もあります。この記事では、時価(実勢価格)・公示地価・路線価・固定資産税評価額・不動産鑑定の違いを表で比べ、遺産分割ではどれを使うのか、合意できないときはどうなるのか、相続税の評価とは何が違うのかを、2026年10月時点の公的な資料をもとに整理します。
先に結論:遺産分割で使う評価方法は、相続人の合意で決める
この記事の結論
- どの価格を使うかは自由:相続人全員が合意すれば、固定資産税評価額でも路線価でも、不動産会社の査定額でも構いません。
- 価格の水準は違う:路線価は地価公示価格等の8割程度、固定資産税評価額(宅地)は7割程度が目安とされています。どれを使うかで代償金が変わります。
- 合意できないとき:家庭裁判所の調停・審判では、裁判所が選ぶ不動産鑑定士の鑑定に進むことがあり、その費用の負担が必要です。
- 相続税の評価とは別:相続税の申告には決まった計算方法があります。遺産分割の値段と同じ数字にする必要はありません。
不動産の5つの価格の違い
「土地の値段」と一口に言っても、作る人も目的も違います。遺産分割の話し合いに出てくる主な5つを並べます。
このほか、都道府県が7月1日時点の地価を例年9月ごろに公表する「基準地価(都道府県地価調査)」もあります。公示地価と同じく、地価の目安として使われる数字です。
ポイントは、同じ土地でも「時価>路線価>固定資産税評価額」の順に低くなりやすいことです。たとえば公示価格並みの時価が2,000万円の土地なら、路線価ベースで1,600万円前後、固定資産税評価額で1,400万円前後というイメージです。ただし実際の売れる値段は、駅からの距離、形、道路の幅、建物の状態などで大きく上下します。
遺産分割ではどれを使う?
法律に「この価格を使え」という決まりはありません。福岡家庭裁判所の説明資料でも、不動産は相続人全員の合意があれば、固定資産評価額や路線価などを参考にして評価できるとしています。よく使われる決め方と、その向き不向きは次のとおりです。
取得する人は低く、取得しない人は高く見たいのが自然です。だからこそ「どの数字を使うか」を、誰が取得するかより先に決めておくと、話がこじれにくくなります。値段の決め方は分け方の選び方とも関係します。4つの分け方の違いは遺産分割の方法で比べています。
計算例:評価方法で代償金はこれだけ変わる
説明のための例です。遺産は実家と預金400万円。相続人は兄と弟の2人で、取り分は半分ずつ。兄が実家を取得し、弟が預金を取得して、差額を兄が代償金で払うとします。実家の値段を3通りに置くと、代償金は次のようになります。
同じ家でも、どの数字を使うかで代償金に300万円の差が出ます。兄にとっては払えるかどうか、弟にとっては納得できるかどうかの差です。代償金が用意できないときの選択肢は不動産しかない相続の分け方で、決めた金額を協議書にどう書くかは代償分割の遺産分割協議書の書き方で説明しています。
合意できないとき:調停・審判では鑑定になることも
話し合いで値段が決まらないまま家庭裁判所の調停に進むと、調停の中で「遺産の評価」をあらためて話し合います。裁判所の案内では、調停では必要に応じて遺産の鑑定を行うことがあるとされています。福岡家庭裁判所の資料では、合意できない場合は家庭裁判所が選任する不動産鑑定士に鑑定してもらう方法があり、その場合は鑑定費用を負担することになる、と説明しています。
鑑定費用は物件や鑑定の内容によって変わります。鑑定まで進むと、時間も費用もかかります。調停の段階でも、査定書や評価証明書を持ち寄って金額に合意できれば、鑑定をせずに先へ進めます。調停全体の費用は遺産分割調停の費用で整理しています。
相続税の評価との違い
相続税の申告では、不動産の評価方法が決まっています。国税庁の案内では、土地は路線価のある地域なら路線価方式(路線価を土地の形などで補正し、面積をかける)、ない地域なら倍率方式(固定資産税評価額に一定の倍率をかける)で計算します。建物は固定資産税評価額に1.0をかけた額、つまり固定資産税評価額と同じです。
遺産分割で査定額を使い、相続税の申告では路線価で計算する、ということもできます。目的が違うので、2つの数字がずれていても構いません。ただ、代償金の額や協議書の書き方によって税金の計算が変わることがあるので、相続税の申告が必要な家は、協議書を作る前に税理士に見てもらってください。
評価の資料の集め方
- 固定資産税評価額:毎年届く固定資産税の納税通知書(課税明細書)に載っています。手元にない場合や、亡くなった方の名義の不動産をまとめて確かめたい場合は、市区町村で固定資産評価証明書を取ります。取り方は固定資産評価証明書の取得方法をご覧ください。
- 路線価:国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で、住所から調べられます。
- 公示地価・基準地価:国土交通省の「不動産情報ライブラリ」で、近くの地点の価格を見られます。
- 時価(実勢価格):不動産会社に査定を頼みます。1社だけだと高い・低いの判断がつかないので、相続人で頼む会社の数と、どの数字を採るかのルールを先に決めておきます。
- 登記の内容:法務局で登記事項証明書を取り、名義人、面積、抵当権が残っていないかを確かめます。
建物は、築年数がたつと固定資産税評価額も下がります。一方で、古い家でも土地の値段が高い地域では、売れる値段は土地の値段に近くなります。土地と建物を分けて数字を出しておくと、話し合いで説明しやすくなります。
今日できる一歩
- 固定資産税の納税通知書を探し、土地と建物の評価額を書き写す。
- 国税庁の路線価図で実家の前の道路の路線価を調べ、相続人に「どの数字で計算するか」を先に相談する。
相続全体でほかに備えておくことがないか気になる方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
よくある質問
遺産分割では、必ず時価で評価しないといけませんか
いいえ。相続人全員が合意すれば、固定資産税評価額や路線価で計算しても構いません。合意できず調停や審判に進んだ場合に、鑑定で時価を出すことがある、という関係です。
固定資産税評価額は、どこで分かりますか
毎年届く固定資産税の納税通知書の課税明細書に載っています。見当たらなければ、不動産のある市区町村で固定資産評価証明書を取れば確かめられます。
不動産会社の無料査定を、遺産分割の根拠にしてよいですか
相続人全員が納得すれば使えます。査定額は会社によって差があるので、複数社に頼んで平均をとる、真ん中の額を使うなど、採り方を先に決めておくと揉めにくくなります。
相続税の申告で使った評価額と、遺産分割の値段が違っても問題ありませんか
目的が違うので、ずれていても構いません。ただし、代償金の額や協議書の書き方によって税金の計算が変わることがあります。申告が必要な家は、協議書を作る前に税理士に確認してください。
鑑定費用は誰が払いますか
家庭裁判所の手続での費用は、家事事件手続法28条で各自の負担が原則とされています。鑑定費用の分担は、裁判所の案内に沿って決めます。話し合いの段階で鑑定士に頼む場合は、依頼する前に分担を決めておいてください。
相続から何年もたって、土地の値段が上がりました。どの時点の値段で計算しますか
話し合いで分ける場合は、どの時点の値段を使うかも含めて相続人で決めます。値段が大きく動いているなら、その差をどう扱うかで取り分が変わるので、合意する前に司法書士や弁護士に一度聞いておくと安心です。
参考にした公的情報
- 国土交通省「地価公示」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_fr4_000043.html - 国税庁 札幌国税局 路線価等の公開に関する発表資料(令和2年分)
https://www.nta.go.jp/about/organization/sapporo/release/r02/rosenka/index.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4602(土地家屋の評価)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4602.htm - 総務省「固定資産税の概要」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/149767_08.html - 福岡家庭裁判所 遺産分割調停の説明資料
https://www.courts.go.jp/fukuoka/vc-files/fukuoka/file/30603007.pdf - 裁判所「遺産分割調停」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。価格の割合は目安で、個々の不動産の価格とは一致しません。相続税の評価は税理士・税務署に、遺産分割の個別の判断は司法書士・弁護士にご確認ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
