親に借金があると分かり、相続放棄を考えている。でも、もう預金から葬儀代を払ってしまった。実家の片付けも少し始めている。これで放棄できなくなっていないか、と不安になる方は少なくありません。
相続放棄ができないのは、主に「3か月の期限を過ぎたとき」と「相続を受け入れたとみなされる行為をしたとき」です。この記事では、放棄できない・あとで無効になり得る場面を、民法921条と裁判所の案内をもとに、2026年10月時点の情報で整理します。遺品整理はどこまでなら大丈夫か、葬儀費用はどう考えるか、借金と保証人の関係もあわせて説明します。故人の預金から葬儀費用を払った場合は、墓石・仏壇や香典の扱い、領収書の残し方まで整理しました。相続放棄について家庭裁判所や債権者がどこまで調べられるのかも、裁判所の案内をもとに表にしています。亡くなった方の預金を引き出したことは相続放棄でバレるのか、引き出してしまった後に何をすればよいかも、使い道別の表で整理しました。
先に結論:相続放棄できないのは「期限切れ」と「遺産を処分した後」です
この記事の結論
- 期限切れ:自分が相続人になったと知った時から3か月を過ぎると、原則として放棄できません(民法915条・921条2号)。ただし、借金を後から知った場合などに認められることがあります。
- 遺産の処分:預金を引き出して使う、家や車を売る・名義を変える、価値のある遺品を持ち帰るなどをすると、相続を受け入れたとみなされることがあります(民法921条1号)。家の戸締まりなど、財産を守るための最低限の行為(保存行為)は例外です。
- 受理されても安心しきれない:家庭裁判所が受理しても、あとで債権者に「処分していた」と争われ、放棄が無効と判断されることがあります。迷う行為は、する前に確かめるのが確実です。
期限の数え方、手続きの流れ、費用は相続放棄の期限3か月はいつから?にまとめています。この記事は「どんなときに放棄できない・無効になるか」に絞ります。
相続放棄できない・無効になり得る主なケース一覧
まず全体像です。法律で「相続を受け入れた(単純承認した)ものとみなす」とされる場面と、手続きの決まりで放棄が通らない場面に分かれます。
親が元気なうちに「放棄します」と書いた念書の効力や、生前にできる方法は、生前の相続放棄はできない/念書の効力と例文で説明しています。
単純承認とみなされる行為(民法921条)|してしまいやすい5つ
民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を「処分したとき」は単純承認したものとみなす、と定めています。名古屋家庭裁判所の案内資料も、遺産の一部を処分したときは放棄は認められない、としています。一方で、処分の内容や理由によっては受理されることもある、とも書かれています。次の5つは、悪気なくしてしまいやすい行為です。
1. 亡くなった方の預金を引き出す・使う・解約する
口座のお金は遺産です。引き出して自分の生活費に使う、口座を解約して受け取る、といった行為は処分と見られやすい代表例です。払戻し制度(民法909条の2)で預金の一部を受け取ることも、使い道によっては処分と見られるおそれがあります。葬儀費用に充てた場合の考え方は、下の葬儀費用の章で説明します。
2. 不動産や車を売る・名義を変える
実家を売る、相続登記をして自分の名義にする、車を売却する・名義を変える、といった行為は典型的な処分です。放棄を考えている間は、名義変更の手続きを止めておきます。
3. 遺産から借金や未払いの費用を払う
親の借金や税金、入院費を、親の預金から払うのも注意が必要です。よかれと思ってしたことでも、遺産を処分したと見られるおそれがあります。どうしても払いたいときは、自分のお金で払うかどうかも含めて、先に専門家に確かめます。
4. 遺産分割協議に加わり、協議書に署名・押印する
遺産の分け方を決める話し合いに加わり、協議書に署名・押印すると、相続を受け入れたと見られるおそれがあります。「自分は何も受け取らない」という内容でも同じです。協議で何も受け取らないことにしても、借金の支払いからは外れません。
5. 価値のある遺品を持ち帰る・形見分けする
貴金属、ブランド品、骨董品、まだ使える家電や家具などを持ち帰る、売る、人に譲ると、処分と見られるおそれがあります。写真や手紙のように、お金としての価値がほとんどない物を形見として受け取る程度なら、一般に処分には当たりにくいと考えられています。ただし線引きは物の価値と量で変わります。
遺品整理はどこまで大丈夫?保存行為との違い
民法921条1号には「ただし、保存行為……をすることは、この限りでない」というただし書があります。保存行為とは、財産の価値を減らさないための最低限の行為です。財産を守る行為は許され、財産を減らす・手放す行為は処分に近づく、と考えると分かりやすくなります。
- しても問題になりにくいこと:家の戸締まり、郵便物の回収、雨漏りや水漏れの応急処置、冷蔵庫の腐る食品の片付け、ごみとしか言えない物の処分。
- 慎重にしたいこと:家具・家電・衣類の大量処分、遺品整理業者に家ごと片付けてもらうこと、まだ使える物のリサイクル売却。
- 避けたいこと:貴金属・骨董品・車などの売却や持ち帰り、売ったお金の受け取り、遺品整理の費用を遺産から払うこと。
賃貸住宅に住んでいた親の部屋は、大家さんから早めの明け渡しを求められることがあります。この場合も、相続放棄を考えていることを伝え、価値のある物は捨てず売らずに保管しておきます。片付ける前の部屋の様子を写真に残し、何をいつ、なぜしたかをメモしておくと、あとで説明が必要になったときに役立ちます。片付けの費用を誰が負担するかや、賃貸の退去費用の考え方は遺品整理の費用は誰が払う?にまとめています。
「遺品整理をしたらバレる?」への正直な答え
家庭裁判所は、申述書と照会書への回答をもとに判断します。家の中まで調べに来るわけではないので、遺品整理をしていても受理されることはあります。
ただし、受理は「放棄が有効だ」と最終的に決めるものではありません。あとで債権者から請求の裁判を起こされ、「遺品を売っていた」「預金を使っていた」と主張されると、放棄が無効と判断されることがあります。大切なのは、ばれるかどうかではなく、あとで争われたときに説明がつくかどうかです。照会書には事実をそのまま書き、迷う行為はする前に確かめてください。
相続放棄はどこまで調べられる?家庭裁判所・債権者・家族が確かめられること
先に結論です。家庭裁判所が見るのは、主に出された書類と照会書への回答です。事案によっては、追加の資料を求めたり、裁判官が直接話を聞いたりします(松山家庭裁判所の案内)。一方、債権者やほかの相続人は、家庭裁判所に「放棄の申述があったか」を照会できます。照会で答えてもらえるのは、受理されたかどうかです(名古屋家庭裁判所の案内)。
誰が、何を、どうやって確かめられるのかを表にしました。
| 確かめる人 | 確かめられること | 方法 |
|---|---|---|
| 家庭裁判所 | 申述書と戸籍の内容、放棄する人の意思や事情 | 提出された書類と書面での照会。事案により追加資料の提出依頼や審問 |
| 債権者(お金を貸していた会社など) | その相続で、放棄が受理されたかどうか | 家庭裁判所への照会。照会の手数料はかからない |
| ほかの相続人・次の順位の人 | 先の順位の人が放棄したかどうか | 同じく家庭裁判所への照会。相続人であると分かる戸籍の写しなどを添える |
| 放棄を考えている本人 | 亡くなった方の借金や預金 | 信用情報機関への開示請求、金融機関への照会など |
債権者に放棄したことを示すときは、家庭裁判所で受理証明書を取って使います。受理証明書は1件につき収入印紙150円です(名古屋家庭裁判所の案内)。亡くなった方の借金を自分で調べる方法は、親の借金の調べ方にまとめています。
照会で分かること・気をつけること
- 分かるのは受理の有無:照会への回答は、放棄や限定承認の申述が受理されたかどうかです。
- 書き方がずれると「受理なし」扱い:亡くなった方の氏名、最後の住所、死亡年月日が戸籍のとおりでないと、受理がないものとして扱われます。戸籍を見ながら書き写します。
- 代理で頼めるのは弁護士だけ:照会の代理人は弁護士に限られています。
- 出す先は放棄と同じ家庭裁判所:亡くなった方の最後の住所地を担当する家庭裁判所です。
上の点は名古屋家庭裁判所の案内によるものです。ほかの家庭裁判所に出すときは、その裁判所の案内で書式と添付書類を確かめてください。次の順位の人が「自分に回ってきたのか」を確かめる流れは、相続放棄はどこまで続く?で説明しています。
「調べに来ない」は「何をしても大丈夫」ではありません
家庭裁判所が家の中や通帳まで見に来ることは、ふつうはありません。ただ、上で見たとおり、債権者が「放棄は無効だ」として支払いを求める裁判を起こすことはあります。そこで「預金を使っていた」と主張されたとき、説明の支えになるのは手元の記録です。照会書には事実をそのまま書き、領収書や通帳の写しは放棄が済んでからも捨てずに取っておきます。
預金を引き出したら相続放棄はバレる?使い道別の早見表と、引き出した後にすること
先に結論です。亡くなった方の口座から引き出した記録は、金融機関の取引の履歴に残ります。家庭裁判所が通帳を調べに来ることはふつうありません。ただ、ほかの相続人は1人でも、亡くなった方の口座の取引の経過を金融機関に開示してもらえます(最高裁判所 平成21年1月22日判決)。債権者から放棄の効力を争われたときも、この記録が材料になります。「バレるかどうか」ではなく「あとで説明できるかどうか」で考えるのが安全です。
引き出したお金を何に使ったかで、見られ方の目安が変わります。
引き出してしまった後にすること(この順番で)
- それ以上使わない。残っている現金は封筒に分け、金額と日付を書いておきます。自分のお金と混ぜないことが大切です。
- 引き出した日・金額・使い道を書き出す。通帳の写し、領収書、請求書をまとめます。
- 3か月の期限を確かめる。期限の数え方は相続放棄の期限3か月はいつから?で確認できます。
- 弁護士か司法書士に、記録を見せて相談する。放棄の申述をする前に相談するのが確実です。
- 照会書には事実をそのまま書く。書かずに済ませると、あとで取引の記録と食い違ったときに説明がつかなくなります。
まだ引き出していない方で、当面のお金が必要な場合は、立て替えなどほかの方法も含めて親が亡くなった後の預金引き出し(150万円までの払戻し制度)で整理しています。ただし、放棄を考えているなら、制度を使う前に専門家に相談してください。
相続放棄と葬儀費用|故人の預金から払っても単純承認にならない?
葬儀費用を自分のお金で払うのは、遺産を使っていないので問題になりにくい行為です。迷うのは、亡くなった方の預金から払った場合です。
この点について、大阪高等裁判所の平成14年7月3日の決定は、相続財産から葬儀費用を支出することは、民法921条1号の「相続財産の処分」には当たらないと判断しています。前提は、借金があると分からない状況だったこと、そして葬儀の費用が社会的に見て不相当に高額ではなかったことです。
つまり「遺産から葬儀代を払ったら必ず放棄できない」わけではありません。一方で、すべての場合に大丈夫という意味でもありません。金額が大きい、葬儀と関係のない支出が混ざっている、といった事情があれば判断は変わり得ます。領収書と、どの口座からいくら出したかの記録は必ず残しておきます。
「社会的に相当な範囲」かどうかの見られ方
上の決定が前提にしたのは、葬儀費用が社会的に見て不相当に高額ではないことでした。いくらまでなら大丈夫、という決まった金額はありません。一般には、次のような点から事情ごとに判断されると考えておくと安全です。
- 葬儀に必要な支出か:通夜・葬儀・火葬や、お寺へのお礼など、葬儀そのものにかかった費用かどうか。
- 金額が過大でないか:故人の財産の額や地域の慣習から見て、不相当に高額でないか。
- ほかの支出が混ざっていないか:引き出したお金を、葬儀と関係のない買い物や生活費に使っていないか。
- あとで説明できるか:何にいくら使ったかを、領収書や通帳で示せるか。
墓石・仏壇の購入は、葬儀費用より慎重に
葬儀のあとに、故人の預金で墓石や仏壇を買う場合は、葬儀費用よりも慎重に考えます。社会的に見て不相当でなければ処分に当たらないとする解説がある一方で、法定単純承認に当たると判断されるおそれがあるとする解説もあり、考え方が分かれやすいところです。墓石や仏壇は、葬儀と違って急いで買う必要がありません。相続放棄を考えているなら、放棄するかを決めるまで買うのを待つか、自分のお金で買うかを、先に専門家に確かめてください。
なお、すでにある先祖のお墓や仏壇は、遺産とは別に、祭祀を主宰する人(お墓を守る人)が引き継ぐものとされています(民法897条)。お墓や仏壇を引き継いでも、相続放棄ができなくなるわけではありません。
香典は遺産ではない。葬儀費用に充てても問題になりにくい
香典は、亡くなった方の財産ではなく、葬儀を主宰する喪主への贈り物と考えられています。弁護士の解説では、香典は相続財産にならないと判断した裁判例(広島高等裁判所 平成3年9月30日判決)も紹介されています。香典から葬儀費用を払うことは、遺産を使ったことにはなりにくいと考えられます。
ただし、香典と故人の預金を同じ封筒や口座に混ぜてしまうと、どちらから払ったのかが分からなくなります。香典は芳名帳と一緒に、別に分けて記録しておきます。
領収書と記録の残し方
あとで債権者や家庭裁判所に説明を求められたとき、手元の記録がいちばんの支えになります。次のものを1つの封筒にまとめて保管します。
- 葬儀社の見積書・請求書・領収書
- お寺へのお礼のメモ(日付・お寺の名前・金額・何のためのお礼か)。領収書が出ないことが多いためです。
- 故人の口座からの出金が分かる通帳や取引明細
- 香典の記録(芳名帳と金額の控え)
- 引き出したお金の残り。使わずに別にして保管し、何に使ったかの一覧を作ります。
相続放棄の申述をすると、家庭裁判所から照会書が届くことがあります。葬儀費用を故人の預金から払った場合も、事実をそのまま書きます。手続きの進め方は申述先の家庭裁判所で確かめられます。自分の場合が「処分」に当たらないかの見通しは、申述の前に司法書士・弁護士に相談してください。
亡くなった方の口座の凍結や、葬儀費用のための払戻し制度のしくみは、親が亡くなったら銀行口座はすぐ止まる?で整理しています。国民健康保険などから出る葬祭費は、葬儀を行った人に支給されるお金です。申請の方法は葬祭費・埋葬料の申請方法にまとめています。
借金が理由でも相続放棄はできる|ただし保証人の分は消えない
借金が多いから放棄する、というのは相続放棄のもっとも一般的な使い方です。理由を問われて放棄できなくなることはありません。放棄が受理されると、初めから相続人ではなかったものとみなされ(民法939条)、亡くなった方の借金を引き継ぎません。
注意したいのは、あなた自身が保証人になっている借金です。親の借金の連帯保証人になっていた場合、保証の約束はあなた自身の債務です。相続放棄をしても、保証人としての支払い義務は消えません。
子が全員放棄すると、借金の話は親や兄弟姉妹に移ります。次の順位の人への連絡は相続放棄の期限3か月はいつから?で説明しています。借金があるかどうかの調べ方は親の借金の調べ方にまとめています。
死亡保険金は相続放棄しても受け取れる
死亡保険金の受取人に指定されている場合、その保険金は受取人自身の財産として扱われ、相続放棄をしても受け取れます。受け取ったことで放棄できなくなることもありません。ただし税金の面では、国税庁の案内のとおり、相続を放棄した人は死亡保険金の非課税の枠(500万円×法定相続人の数)を使えません。遺産分割との関係は死亡保険金は遺産分割の対象になるかで説明しています。
3か月を過ぎていても認められることがある場合
期限切れは放棄できない代表的なケースですが、例外もあります。最高裁判所の昭和59年4月27日の判決は、相続財産がまったくないと信じ、そう信じたことに相当な理由があるときは、財産の全部または一部の存在を知った時(または通常知ることができた時)から3か月を数える、としています。名古屋家庭裁判所の案内資料にも同じ趣旨の説明があります。過ぎた場合の進め方は相続放棄の期限3か月はいつから?でくわしく説明しています。
「もう放棄できないかも」と思ったときの進め方
- したことを書き出す。いつ、どの口座から、いくら、何に使ったか。遺品なら、何を誰がどうしたか。領収書や写真も集めます。
- それ以上、遺産に手をつけない。片付けや支払いはいったん止め、財産を守るための最低限のことだけにします。
- 3か月の最終日を確かめる。知った日の3か月後の同じ日付が目安です。調べきれないときは、期間内に家庭裁判所へ期間の伸長を申し立てられます。
- 専門家に相談する。申述書の作成は司法書士か弁護士、債権者と争いになっているときは弁護士の仕事です。
ご家族の構成や財産で答えが変わるところは、30分の無料相談で、書類を見ながら一緒に整理できます。愛知県内はご自宅への訪問もできます。その場で何かをお決めいただく必要はありません。
今日できる一歩
亡くなった方の口座から出したお金と、持ち出した物を、日付・金額・使い道の順にメモに書き出す。領収書と通帳を1つの封筒にまとめ、それ以上の片付けや支払いは、相続放棄をするか決めるまで止めておきます。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
よくある質問
相続放棄できないのは、どんな場合ですか
主に、自分が相続人になったと知った時から3か月を過ぎた場合と、遺産を処分した場合です(民法921条1号・2号)。放棄の後に遺産を隠したり使い込んだりした場合も、相続を受け入れたものとみなされます(同条3号)。
遺品整理業者に片付けを頼んでも、相続放棄できますか
頼んだこと自体で直ちに放棄できなくなるわけではありません。ただ、まだ使える家具や家電の買い取り、業者への支払いを遺産から出すことなどは、処分と見られるおそれがあります。放棄を決めるまでは、価値のある物は残し、費用は自分のお金で払うかどうかも含めて先に確かめます。
親の預金から葬儀代を払いました。相続放棄できますか
社会的に見て相当な範囲の葬儀費用であれば、遺産から払っても処分には当たらないとした裁判例があります(大阪高等裁判所 平成14年7月3日決定)。ただし金額や事情によって判断は変わります。領収書と出金の記録を残し、申述の前に専門家に確かめると安心です。
香典を葬儀費用に使っても、相続放棄に影響しますか
香典は喪主への贈り物と考えられており、遺産には含まれないとされています。香典から葬儀費用を払っても、遺産を使ったことにはなりにくいと考えられます。ただし、故人の預金で墓石や仏壇を買うことは判断が分かれやすいため、放棄を決めるまでは控えるか、先に司法書士・弁護士に確かめてください。
親の借金の連帯保証人です。相続放棄すれば払わなくてよいですか
相続放棄で引き継がなくなるのは、亡くなった方の借金です。あなたが連帯保証人として結んだ保証の約束はあなた自身の債務なので、放棄しても残ります。
相続放棄が受理された後なら、遺品を処分してもいいですか
放棄の後でも、遺産を隠したり自分のために使ったりすると、相続を受け入れたものとみなされます(民法921条3号)。また、遺産の家などを実際に手元で管理している人は、次の人に引き渡すまで守る必要があります(民法940条1項)。受理後も、価値のある物を勝手に処分しないでください。
死亡保険金を受け取ると、相続放棄できなくなりますか
受取人に指定された人が受け取る死亡保険金は、受取人自身の財産です。受け取っても相続放棄はできます。ただし、放棄した人は死亡保険金の非課税の枠を使えません(国税庁の案内)。
相続放棄をすると、どこまで調べられますか
家庭裁判所は、主に申述書と照会書への回答で判断し、事案によって追加資料や審問を求めます。債権者やほかの相続人は、家庭裁判所に照会して、放棄が受理されたかどうかを確かめられます。照会の手数料はかかりません(名古屋家庭裁判所の案内)。
亡くなった親の預金を引き出したら、相続放棄のときにバレますか
引き出した記録は金融機関に残り、ほかの相続人は取引の経過の開示を求められます(最高裁判所 平成21年1月22日判決)。家庭裁判所が通帳を調べることはふつうありませんが、債権者から放棄の効力を争われたときに記録が使われます。引き出してしまったら、それ以上使わずに日付・金額・使い道を記録し、放棄の申述の前に専門家に相談してください。
参考にした公的情報
- 裁判所「相続の放棄の申述」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html - 最高裁判所 平成21年1月22日判決(預金口座の取引経過の開示請求)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/210/037210_hanrei.pdf - 名古屋家庭裁判所「相続放棄の申述」案内資料
https://www.courts.go.jp/nagoya-f/vc-files/nagoya-f/04kajibu/05/02souzokuhouki.pdf - 裁判所 裁判例「最高裁判所第二小法廷 昭和59年4月27日判決(昭和57(オ)82)」
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52168 - e-Gov法令検索「民法」(897条・909条の2・915条・919条・921条・939条・940条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - 国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm - 名古屋家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述の受理の有無の照会」
https://www.courts.go.jp/nagoya-f/saiban/souzoku4/index.html - 名古屋家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述の有無の照会」案内資料
https://www.courts.go.jp/nagoya-f/vc-files/nagoya-f/file/01souzokuhoukiumu.pdf - 松山家庭裁判所「相続放棄の申述」案内資料
https://www.courts.go.jp/matsuyama/vc-files/matsuyama/2023/matsuyamakasai/souzokuhoukigaido/01setumei-sinzyutu.pdf
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報と、確認できた裁判例をもとにした一般的な整理です。ある行為が「処分」に当たるかどうかは、行為の内容・金額・理由などをもとに個別に判断されます。大阪高等裁判所 平成14年7月3日決定は、事案の前提(借金の存在を知らなかったこと、費用が不相当に高額でないこと)のもとでの判断です。迷う行為をする前に、司法書士・弁護士にご相談ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
