借金のある親の相続を、子が放棄した。これで家族の問題は終わるのか。それとも、孫や叔父・叔母にまで話が広がるのか。相続放棄を考えるとき、多くの方がここで不安になります。
答えを先に言うと、相続放棄による「相続人の順番の移り変わり」は、子→親→兄弟姉妹の順に進み、兄弟姉妹(先に亡くなっていれば甥・姪)で止まります。この記事では、順位の早見表、孫に回らない理由、全員が放棄したときの扱い、次の順位の人への連絡と手紙の例文を、2026年10月時点の民法と裁判所の案内をもとに整理します。
先に結論:相続放棄は兄弟姉妹(甥・姪)まで。孫には回りません
この記事の結論
- どこまで続くか:子→親(いなければ祖父母)→兄弟姉妹の順に移り、兄弟姉妹(先に亡くなっていれば甥・姪)で止まります。叔父・叔母やいとこには回りません。
- 孫には回らない:子が放棄しても、孫が代わりに相続人になることはありません(民法939条・887条2項)。孫が別に放棄する必要もありません。
- 全員が放棄したら:相続人がいない状態になり、債権者などの申立てで家庭裁判所が「相続財産清算人」を選びます(民法951条・952条)。
- 次の人への連絡:知らせる義務を定めた規定はありません。ただ、知らせないと督促状で初めて知ることになります。受理通知書が届いたら、手紙で知らせるのが親切です。
相続放棄はどこまで続く?順位の早見表
亡くなった方の配偶者は、いつでも相続人です(民法890条)。そのほかの家族は、民法が決めた順位で相続人になります(民法887条・889条)。上の順位の人が1人でもいれば、下の順位の人は相続人になりません。
相続放棄をした人は、「初めから相続人とならなかったものとみなす」とされます(民法939条)。同じ順位にほかの人が残っていれば、その人だけが相続人です。同じ順位の全員が放棄すると、次の順位に移ります。
例:父が借金を残して亡くなった場合の流れ
父が亡くなり、相続人が母と子2人だったとします。父の両親や祖父母はすでに亡くなり、父には兄が1人いるとします。放棄が進むと、相続人は次のように変わります。
- 最初:相続人は母と子2人です。
- 子2人が放棄:第1順位がいなくなります。第2順位の父の両親や祖父母もいないため、そこは飛ばして、第3順位の父の兄が相続人に加わります。相続人は母と父の兄です。
- 父の兄も放棄:血族の相続人がいなくなり、相続人は母だけです。
- 母も放棄:相続人が誰もいない状態になります。下の「全員が放棄するとどうなる?」の流れに進みます。
父の兄が先に亡くなっていれば、2の段階で、その子(甥・姪)が代わりに相続人になります。父だけが同じ兄弟(異母兄弟)も、第3順位の兄弟姉妹に入ります。異母兄弟がいる場合の取り分や連絡先の調べ方は、異母兄弟の相続で説明しています。
子が放棄しても孫には回らない(代襲相続との違い)
「自分が放棄したら、次は自分の子ども(亡くなった方の孫)に借金が行くのでは」という心配はよく聞きます。結論として、孫には回りません。
孫が子の代わりに相続人になる仕組みを「代襲相続」といいます。民法887条2項は、そのきっかけを3つに限っています。子が先に亡くなっていたとき、法律の決める理由で相続の資格を失っていたとき(相続欠格)、家庭裁判所の手続きで相続人から外されていたとき(廃除)です。相続放棄はこの中に入っていません。放棄した人は初めから相続人でなかったことになるため(民法939条)、その子が代わりに相続することもありません。
孫は相続人ではないので、孫が自分で相続放棄の申し立てをする必要もありません。代襲相続の仕組みと、集める戸籍については代襲相続とはでくわしく説明しています。
全員が放棄するとどうなる?相続財産清算人
配偶者も、子・親・兄弟姉妹(甥・姪)も全員が放棄すると、相続人がいない状態になります。民法は、相続人のあることが明らかでないときは、相続財産そのものを法人として扱うと定めています(民法951条)。
このとき、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって「相続財産清算人」を選びます(民法952条1項)。清算人は、財産を管理してお金に換え、借金を返します。残った財産は、最終的に国のものになります(民法959条)。裁判所の案内では、特別縁故者(亡くなった方と特に縁の深かった人)に財産が分けられることもあるとされています。
放棄した家族に、清算人の申し立てを義務づける規定はありません。債権者が自分で申し立てることもあります。ただし、放棄した人が亡くなった方の家に住んでいるなど、遺産を「現に占有している」ときは、次の相続人か清算人に引き渡すまで保存する義務があります(民法940条1項)。家や土地がどうなるかは相続放棄した家・土地はどうなる?で説明しています。
次の順位の人に連絡する義務は?知らせた方がよい理由
民法には、放棄した人が次の順位の人に知らせなければならない、という規定はありません。家庭裁判所の案内にも、裁判所がほかの親族に知らせるという説明はありません。つまり、誰も知らせなければ、次の順位の人は何も知らないままになりがちです。
義務はなくても、知らせた方がよい理由は次の4つです。
- 相手が自分で判断する時間を持てる。次の順位の人の3か月は、その人が「自分が相続人になった」と知った時から数えるのが原則です(民法915条1項)。申述書にも「先順位者の相続放棄を知った日」という選択肢があります。早く知るほど、財産を調べてから決められます。
- 督促状で初めて知る形を避けられる。何も知らないまま債権者から請求が届くと、驚きや不信感から親族の関係がこじれやすくなります。
- 相手の手続きが進めやすくなる。名古屋家庭裁判所の案内資料では、先の順位の人の放棄が受理されていないと、後の順位の人は放棄の申述ができないとされています。受理通知書の写しと家庭裁判所の名前が分かれば、相手は同じ家庭裁判所に申し立てられます。
- 書類の手間が減ることがある。同じ方の相続で、先の順位の人がすでに家庭裁判所に出した戸籍などは、出し直さなくてよいとされています(裁判所)。どの書類が出ているかを伝えると、相手の準備が軽くなります。兄弟姉妹が集める戸籍の一覧は兄弟の相続放棄の必要書類にまとめています。
なお、次の順位の人は、自分で家庭裁判所に「相続放棄の申述が受理されたかどうか」を書面で問い合わせることもできます。福岡家庭裁判所や岐阜家庭裁判所の案内では、照会の手数料はかかりません。知らせを受け取った人が、念のため自分で確かめる方法として覚えておくと役立ちます。
いつ、何を知らせるか
次の相続人への連絡の文例(手紙の例文)
しばらく会っていない親族に、いきなり借金の話をするのは気が重いものです。手紙なら、事実を落ち着いて伝えられ、相手も読み返せます。次の文例は、子が全員放棄し、父の兄弟(叔父)に順番が回る場合の例です。かっこの部分を自分の事情に合わせて書きかえてください。
文例:叔父・叔母(亡くなった方の兄弟姉妹)へ
(〇〇)叔父さま
突然のお手紙で失礼いたします。(〇〇)の長男の(△△)です。
父(〇〇)が、令和(〇)年(〇)月(〇)日に亡くなりました。生前は大変お世話になり、ありがとうございました。
父には(□□)などからの借入れがあり、預貯金より多いと見込まれました。そのため、母と私たち子は家庭裁判所に相続放棄を申し立て、令和(〇)年(〇)月(〇)日に受理されました。受理通知書の写しを同封します。
父の両親はすでに亡くなっているため、民法の決まりにより、父の兄弟姉妹である叔父さまが相続人になったとみられます。相続するか放棄するかは、このことを知った日から3か月以内に決めることになっています。放棄の申し立て先は、父の最後の住所地を受け持つ(〇〇)家庭裁判所です。
分かっている財産と借入れの一覧も同封します。ご不明な点があれば、下記までご連絡ください。驚かせてしまい申し訳ありません。
令和(〇)年(〇)月(〇)日
住所( )
氏名( )
電話( )
母が放棄していない場合は、「母と叔父さまが相続人になった」と書きかえます。父の両親が健在なら、宛先は祖父母です。誰が相続人になるかは家族の構成で変わるので、上の早見表で確かめてから書きます。手紙の中で「必ず放棄してください」とすすめる必要はありません。決めるのは受け取った本人です。
電話やメッセージで先に一言伝えるとき
短い文例
「(△△)です。父が(〇)月に亡くなりました。借入れが多かったため、母と私たちは相続放棄をしました。そのため、叔父さんが相続人になったとみられます。家庭裁判所の書類の写しと、分かっている財産の一覧を手紙でお送りしますので、目を通していただけますか。」
送り方と、住所が分からないとき
- 大事な書類の写しを入れるので、届いたことを確かめられる送り方(簡易書留など)を選ぶと安心です。
- 送った手紙と同封物の写しを、手元にも残しておきます。
- 住所が分からない親族は、戸籍と「戸籍の附票」(住所の移り変わりの記録)でたどれることがあります。調べ方は異母兄弟の相続の「連絡先が分からないときの調べ方」が参考になります。
ご家族の構成や財産で答えが変わるところは、30分の無料相談で、書類を見ながら一緒に整理できます。愛知県内はご自宅への訪問もできます。その場で何かをお決めいただく必要はありません。
「どこまで続くか」で迷いやすい点
- 自分が放棄すれば親族みんな関係なくなると思う。同じ順位の全員が放棄すると、次の順位の人が相続人になります。
- 孫や子どもにも放棄させようとする。放棄した人の子は相続人にならないため、手続きは要りません。
- 配偶者が残っていれば次の順位に回らないと思う。配偶者は順位とは別に相続人になります。子が全員放棄すると、配偶者と次の順位の人が一緒に相続人になります。
- 次の順位の人が先に申し立てようとする。先の順位の人の放棄が受理されてから申し立てる流れになります。受理通知書の写しがあると進めやすくなります。
- 保証人になっている借金も消えると思う。相続放棄で引き継がなくなるのは、亡くなった方の借金です。自分が保証人として約束した分は、自分の約束として残ります。
今日できる一歩
紙に家系図を書き、亡くなった方の配偶者・子・親・兄弟姉妹に、存命かどうかの印を付ける。早見表に沿って「自分たちが放棄したら次に誰が相続人になるか」を書き出し、その人の住所が分かるかどうかをメモしておきます。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
よくある質問
相続放棄はどこまで続きますか
子→親(いなければ祖父母)→兄弟姉妹の順に移り、兄弟姉妹で止まります。兄弟姉妹が先に亡くなっていれば甥・姪が相続人になりますが、甥・姪の子には続きません。叔父・叔母やいとこには回りません(民法887条・889条)。
子が相続放棄をしたら、孫も放棄の手続きが必要ですか
必要ありません。放棄した人は初めから相続人でなかったことになり(民法939条)、その子(孫)が代わりに相続人になることはないからです。
次の順位の相続人に連絡しないと、何か問題になりますか
知らせる義務を定めた規定はありません。ただ、相手が督促状で初めて知ると、親族の関係がこじれやすくなります。受理通知書の写しを添えて早めに知らせると、相手は財産を調べてから落ち着いて判断できます。
次の順位の人の3か月は、いつから数えますか
原則として、その人が「先の順位の人が放棄して、自分が相続人になった」と知った時からです(民法915条1項)。申述書の「相続の開始を知った日」では「先順位者の相続放棄を知った日」を選びます。数え方は相続放棄の期限3か月はいつから?で説明しています。
全員が相続放棄したら、借金は誰が払うのですか
相続財産清算人が選ばれた場合は、遺産の中から債権者に返していきます。放棄した家族は相続人ではないので、足りない分を払う義務を負いません。ただし、自分が保証人になっている借金は別で、保証人として払う義務が残ります。
先の順位の人が放棄したかどうか、自分で確かめられますか
確かめられます。相続人などの利害関係人は、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所に、相続放棄の申述が受理されたかどうかを書面で照会できます。福岡家庭裁判所や岐阜家庭裁判所の案内では手数料は不要です。添付書類は照会先の家庭裁判所の案内で確かめます。照会の手順と必要書類は相続放棄の確認方法にまとめています。
参考にした公的情報
- e-Gov法令検索「民法」(887条・889条・890条・915条・939条・940条・951条・952条・959条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - 裁判所「相続の放棄の申述」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html - 裁判所「相続財産清算人の選任」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_15/index.html - 名古屋家庭裁判所「相続放棄の申述」案内資料
https://www.courts.go.jp/nagoya-f/vc-files/nagoya-f/04kajibu/05/02souzokuhouki.pdf - 福岡家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会」
https://www.courts.go.jp/fukuoka/saiban/souzoku/index.html - 岐阜家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会」
https://www.courts.go.jp/gifu/saiban/souzoku2/index.html
※本記事は2026年10月時点の法令と公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。誰が相続人になるかは、家族の構成や先に亡くなった人の有無で変わります。費用や照会の扱いは家庭裁判所ごとに異なることがあります。個別の判断は、家庭裁判所の案内を確かめたうえで、必要に応じて司法書士・弁護士にご相談ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
