親が住んでいた家は古く、土地も売れそうにない。借金もあるので相続放棄をしたい。でも、放棄した後の家や土地はどうなるのか。空き家のまま崩れたら、自分が責任を問われるのか。固定資産税の通知はどうすればいいのか。相続放棄を考える方から、よく出る疑問です。
この記事では、相続放棄した家・土地の行き先、管理(保存)の義務がいつまで続くか、相続財産清算人の申立て、土地だけ放棄できない理由と相続土地国庫帰属制度との違い、空き家の固定資産税の通知が届いたときの対応、空き家が「管理不全空家」「特定空家」になったときの扱い、空き家が崩れたときの責任を、2026年10月時点の民法・空家法と法務省・国土交通省・裁判所の案内をもとに整理します。
先に答えを書きます。空き家を相続放棄しても、放棄の時にその家に住んでいたなど「現に占有している」人は、次の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで、家を保存する義務が残ります。遠方に住み、出入りしていなかった人は、通常この義務を負う場面に当たりにくいと考えられます。
先に結論:家・土地は次の相続人へ。管理義務は「現に占有している人」が引き渡すまで
この記事の結論
- どうなる:家や土地は、放棄しなかったほかの相続人か、次の順位の相続人に移ります。全員が放棄すると、相続財産清算人が管理・換金し、残りは国のものになります。
- 管理はいつまで:2023年4月の改正で、放棄した人が守る義務を負うのは、その財産を「現に占有している」場合だけになりました。期間は、次の相続人か相続財産清算人に引き渡すまでです(民法940条1項)。
- 土地だけは放棄できない:相続放棄は、預金も借金も含めて全部を手放す手続きです。土地だけ国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」は、相続した後で使う別の制度です。
- 固定資産税の通知:放棄した人宛てに届いたら、市町村の固定資産税の担当に連絡し、受理通知書などの写しを出します。
- 空家法の指導・勧告:市町村の指導や勧告は、空き家の「所有者等」に向けたものです。相続人の全員が放棄した空き家については、市町村長が家庭裁判所に清算人の選任を請求できます(空家法14条1項)。
相続放棄した家・土地はどうなる?行き先の早見表
相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったことになります(民法939条)。家や土地は、残った相続人の財産になります。誰が残るかで、行き先が変わります。
放棄すると次に誰が相続人になるのか、どこで止まるのかは、相続放棄はどこまで続く?で早見表にしています。
空き家になった実家はどうなる?
誰も住んでいない実家でも、考え方は同じです。次の相続人が相続すれば、その人の家になります。全員が放棄した場合、清算人が選ばれるまでは、誰かが自動的に管理してくれる仕組みはありません。清算人が選ばれると、清算人が家を管理し、売却などで換金します。
ここで大事なのが、放棄した人の義務の範囲です。遠くに住んでいて、実家に出入りしていない人まで、空き家を守り続ける義務を負うわけではありません。義務を負うのは、放棄の時にその家を「現に占有している」人です。次の章でくわしく説明します。
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相続放棄後の管理義務はいつまで?2023年4月の民法改正(940条)
相続放棄をした人の義務を定めた民法940条は、2023年(令和5年)4月1日に改正法が施行されました。法務省の資料は、改正前の条文では義務が生じる条件や中身がはっきりせず、放棄したのに重い負担を負う場合があったと説明しています。改正後は、義務を負う人と期間が条文に書かれました。
「現に占有している」とは
生活の言葉にすると、その財産を実際に手元に置いて使ったり管理したりしている状態です。たとえば、亡くなった親と同居していて、放棄した後もその家に住んでいる子は、家を占有していると考えられます。反対に、遠方で暮らし、何年も実家に出入りしていない子は、通常は占有しているとはいいにくいでしょう。
鍵を預かっている、荷物を置いている、といった中間の場面は、事情によって判断が分かれます。自分が当てはまるか迷うときは、司法書士や弁護士に確かめてください。
「保存」とは何をすることか
保存は、財産の今の状態を保つことです。戸締まりをする、雨漏りに応急の手当てをする、といった行為が考えられます。一方で、家を売る、取り壊す、家財をまとめて処分するといった行為は、保存の範囲を超えます。放棄した後に遺産を勝手に使ったり隠したりすると、相続を受け入れたとみなされることもあります(民法921条3号)。迷う作業は手を出す前に専門家に相談します。
義務が終わるのは「引き渡した時」
保存の義務は、期間で自動的に終わるものではありません。次の順位の相続人が相続すれば、その人に鍵や書類を渡した時に終わります。全員が放棄した場合は、相続財産清算人が選ばれ、その人に引き渡した時に終わります。誰も清算人の申立てをしないと、引き渡す相手がいない状態が続くことになります。
空き家を相続放棄した人の判定表:自分に保存の義務は残るか
放棄した後に自分に何が残るかは、「放棄の時にその家を占有していたか」と「ほかに相続する人がいるか」の2点で、おおよそ決まります。自分がどの行に近いかを確かめてください。
迷いやすいのは、表の2行目です。放棄した後に家財を持ち出したり処分したりすると、相続を受け入れたとみなされるおそれもあります(民法921条3号)。鍵を誰に渡すか、荷物をどうするかは、放棄の申述をする前に決めておくと安心です。
相続財産清算人の申立てと予納金の考え方
相続人の全員が放棄したとき、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求で相続財産清算人を選びます(民法952条1項)。清算人は、家や土地を管理し、売却などでお金に換え、借金を返します。残った財産は国のものになります(民法959条)。
予納金の考え方は、「遺産で清算の費用をまかなえるかどうか」です。預金が十分にあれば、遺産から費用が出せます。売れにくい家や土地しかないと、遺産だけでは足りず、申し立てた人が費用を前もって納めることになりやすくなります。額は家庭裁判所が事案ごとに決めるため、申し立てる前に家庭裁判所や専門家に見通しを聞いておきます。
放棄した家族が清算人を申し立てなければならない、という規定はありません。債権者が自分で申し立てることもあります。ただ、実家に住んでいて保存の義務を負っている人が、義務を終わらせたいときは、申立てを検討する場面があります。申し立てられるか、どの程度の費用になるかは、家庭裁判所と専門家に確かめてください。
相続放棄した空き家が「管理不全空家」「特定空家」になったら(空家法)
空き家の傷みが進むと、市町村は「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空家法)にもとづいて動きます。2023年(令和5年)12月13日に改正法が施行され、特定空家の手前の段階として「管理不全空家」の区分ができました。
指導や勧告は誰に届くのか
空家法の指導や勧告は、空き家の「所有者等」(所有者または管理者)に向けたものです(空家法5条・13条・22条)。相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったことになるので、家の所有者ではありません(民法939条)。市町村から連絡が来たら、受理通知書の写しを出して、放棄したことを伝えます。
放棄の時に家を占有していて、保存の義務を負っている人は事情が違います。連絡を放っておかず、家の今の状態と、次に引き渡す相手が誰かを市町村に伝えておくと、その後の話が進みやすくなります。
全員が放棄した空き家は、市町村長が清算人を請求できる
相続人の全員が放棄すると、指導や勧告を向ける相手がいなくなります。そこで2023年の改正で、市町村長が家庭裁判所に相続財産清算人などの選任を請求できる規定ができました(空家法14条1項)。国土交通省の資料は、相続放棄された空き家への対応を想定した規定だと説明しています。
民法では、清算人の選任を請求できるのは利害関係人と検察官です(民法952条1項)。空家法14条は、市町村長もこの請求をできるようにした特例です。放棄した家族が必ず申し立てなければならない、という仕組みではありません。
勧告で住宅用地の特例が外れると固定資産税がどのくらい上がるか、相続した人が空き家を放置したときの流れは、空き家を放置すると固定資産税は6倍?で説明しています。
空き家が崩れて人にけがをさせたら、放棄した人の責任か(民法717条)
「空き家のまま崩れたら、自分が責任を問われるのか」という心配には、民法717条の工作物責任が関わります。建物の設置や保存に欠陥があって他人に損害が出たとき、誰が賠償するかを決めた条文です。
相続放棄をした人は、家の所有者ではありません。遠方で出入りしていなかった人が、この家の所有者や占有者として責任を問われる場面は、通常は考えにくいでしょう。一方、放棄した後も家に住み続けるなど占有している人は、占有者として問われる場面がありえます。
保存の義務を負う人ができるのは、戸締まり、落ちそうな瓦や傾いた塀への応急の手当て、危ない状態を次の相続人・清算人・市町村に伝えることです。大がかりな修繕や解体は保存の範囲を超えることがあるので、手を出す前に専門家に確かめます。実際に事故が起きたときの責任の有無は事情で変わるため、弁護士に相談してください。
土地だけ相続放棄はできない(相続放棄は全部)
「預金は受け取りたいけれど、山林や売れない土地だけは放棄したい」。こうした相談はよくあります。しかし、相続放棄は、その相続について初めから相続人でなかったことにする手続きです(民法939条)。預金も家も土地も借金も、まとめて手放すことになり、土地だけを選んで放棄することはできません。
また、遺産の一部を売ったり使ったりした後は、相続を受け入れたとみなされ、放棄ができなくなることがあります(民法921条1号)。期限の3か月を過ぎた場合も同じです。放棄できなくなる行為と期限の数え方は、相続放棄の期限3か月はいつから?で整理しています。
要らない土地があるときに考えられる道は、次の4つです。
相続した家を売るときの流れと、空き家の売却で使える税の特例は、相続した家の売却で説明しています。
相続土地国庫帰属制度との違い
相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈(相続人への遺贈)で土地を取得した人が、一定の条件を満たせば、その土地を国に引き取ってもらえる制度です。2023年(令和5年)4月27日に始まりました。制度が始まる前に相続した土地も対象です。相続放棄とは、使う時期も対象もまったく違います。
なお、相続放棄をした人は、この制度を使えません。放棄すると初めから相続人でなかったことになり(民法939条)、「相続で土地を取得した人」に当たらないためです。「放棄して、土地だけは国に引き取ってもらう」という組み合わせはできないので、どちらを使うかは3か月の期限の前に決めます。
国が引き取らない土地の例
法務省の案内では、申請そのものができない土地(却下)と、審査で承認されない土地(不承認)が挙げられています。
- 申請できない土地:建物がある土地、担保権や使う権利が設定されている土地、他人が使うことが前提の土地、土壌が汚染されている土地、境界が明らかでない土地や持ち主に争いがある土地
- 承認されない土地:一定の勾配・高さのがけがあり管理に大きな費用がかかる土地、管理や処分のじゃまになる物が地上や地下にある土地、隣の土地の持ち主などと争わないと管理できない土地 など
実家の家と土地をまとめて国に引き取ってもらう、という使い方はできません。建物がある土地は申請できないためです。家を取り壊して更地にしてから申請する、という順番になります。費用と手間をかけてでも使うかどうかは、相続するか放棄するかを決める前に比べておきます。
空き家の固定資産税の通知が来たら
固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日)時点で、登記簿などに所有者として載っている人に課税されます。持ち主が亡くなっていると、市町村は相続人を調べて連絡してきます。放棄した後に、自分宛てに通知や書類が届くことがあります。
放棄していない相続人に通知が届いた場合の流れ(誰が払うか、代表者の届出、口座の振替)は、亡くなった親宛てに固定資産税の納税通知書が届いたらで説明しています。
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家・土地の相続放棄で迷いやすい点
- 放棄すれば家のことはもう関係ないと思う。実家に住んでいるなど現に占有している人は、引き渡すまで保存の義務があります。
- 放棄の前に家財を片付けてしまう。家財の処分や売却は、相続を受け入れたとみなされるおそれがあります。片付けは、放棄するかどうかを決めてからにします。
- 土地だけ放棄できると思う。放棄は全部です。土地だけ手放したいなら、相続した後で国庫帰属制度などを考えます。
- 国庫帰属制度で家ごと引き取ってもらえると思う。建物がある土地は申請できません。
- 次の相続人に知らせない。家の行き先は次の順位の人に移ります。鍵や書類を渡す相手を早めに確かめておくと、保存の義務を終わらせやすくなります。
今日できる一歩
実家の固定資産税の納税通知書(課税明細書)を探し、家と土地が何筆あるか、どこにあるかを書き出す。あわせて、今その家に誰が住んでいるか、鍵を誰が持っているかをメモしておくと、放棄した後に誰が守るのかを考えやすくなります。
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よくある質問
空き家を相続放棄すると、どうなりますか
空き家は、放棄しなかったほかの相続人か、次の順位の相続人に移ります。全員が放棄すると、家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人が管理し、最後は国のものになります。放棄の時にその家を現に占有していた人は、引き渡すまで保存の義務が残ります(民法940条1項)。
相続放棄した空き家が崩れたら、責任を問われますか
放棄した人は所有者ではないので、所有者としての責任(民法717条)を負う立場にはありません。ただし、放棄後も住み続けるなど家を占有している人は、占有者として問われる場面がありえます。事故が起きたときの判断は、弁護士に相談してください。
相続放棄した家は、誰のものになりますか
放棄しなかったほかの相続人か、次の順位の相続人のものになります。相続人の全員が放棄した場合は、相続財産清算人が管理・換金し、残った財産は国のものになります(民法951条・952条・959条)。
相続放棄しても管理義務はありますか。いつまでですか
放棄の時にその家や土地を現に占有している場合に限り、保存の義務があります。期間は、次の相続人か相続財産清算人に引き渡すまでです(民法940条1項。2023年4月1日施行)。遠方に住み、出入りしていない場合は、通常この義務を負う場面に当たりにくいと考えられます。
相続放棄した後も、実家に住み続けられますか
放棄すると、その家を相続する権利はなくなります。住んでいる間は保存の義務を負い、次の相続人か清算人に引き渡すことになります。住み続けたいときは、放棄する前に、相続して借金と比べる方法などを専門家と検討してください。
土地だけ相続放棄することはできますか
できません。相続放棄は、預金や借金も含めて相続の全部を手放す手続きです(民法939条)。土地だけを手放したいときは、相続した後に相続土地国庫帰属制度を使う、売る、ほかの相続人が取得する、といった方法を考えます。
相続土地国庫帰属制度は、相続放棄の代わりに使えますか
代わりにはなりません。国庫帰属制度は、相続して土地の持ち主になった人が使う制度で、借金は手放せません。建物がある土地は申請できず、審査手数料1筆14,000円と、承認後の負担金がかかります(法務省)。
相続放棄したのに空き家の固定資産税を払う必要はありますか
放棄した人は相続人ではないので、その家の持ち主として課税される立場にはありません。通知が届いたら、市町村の固定資産税の担当に連絡し、受理通知書などの写しを出して扱いを確かめます。亡くなった年の分の扱いは、市町村と専門家に確かめてください。
参考にした公的情報
- e-Gov法令検索「民法」(717条・915条・921条・939条・940条・951条・952条・959条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - 法務省「民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について」
https://www.moj.go.jp/content/001396638.pdf - 裁判所「相続財産清算人の選任」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_15/index.html - 法務省「相続土地国庫帰属制度について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00454.html - 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」(申請できる人・要件・手数料)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html - 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」(負担金の説明資料)
https://www.moj.go.jp/content/001376268.pdf - 西東京市「固定資産税相続人代表者指定届 兼 現所有者申告書」について
https://www.city.nishitokyo.lg.jp/kurasi/zeikin/koteisisan_tosikeikaku/509810nishitokyocity202012281624.files/gennshoyuushousai.pdf - e-Gov法令検索「空家等対策の推進に関する特別措置法」(2条・5条・13条・14条・22条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC1000000127 - 国土交通省住宅局「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律の施行について」(近畿地方整備局掲載資料)
https://www.kkr.mlit.go.jp/kensei/jutaku/ol9a8v0000035gqj-att/2.pdf - 熊本県「空家等対策の推進に関する特別措置法について」(改正法の施行日・管理不全空家の説明)
https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/117/192847.html
※本記事は2026年10月時点の法令と公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。「現に占有している」に当たるか、どの行為が保存の範囲かは、個別の事情で判断が分かれます。国庫帰属制度の要件と負担金、固定資産税の扱いは、法務局・市町村の案内でご確認ください。個別の判断は、司法書士・弁護士にご相談ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
