親が亡くなり、銀行や法務局、年金事務所を回るたびに「戸籍を全部出してください」と言われる。分厚い戸籍の束を出して、返ってくるのを待ってから次の窓口へ。そんな繰り返しを減らせるのが、法務局の「法定相続情報一覧図」です。
この記事では、一覧図の作り方、出せる法務局、必要書類、何通もらえるか、使える手続きを、2026年10月時点の公式な案内で整理します。
先に結論:戸籍の束の代わりになる、無料の証明です
この記事の結論
- 何か:相続人がだれかを1枚にまとめた図に、法務局が証明を付けたものです。銀行・登記・年金・相続税申告などで戸籍の束の代わりに使えます。
- どこへ:亡くなった方の本籍地・最後の住所地、申出をする人の住所地、亡くなった方名義の不動産の所在地のいずれかを受け持つ法務局です。郵送でも出せます。
- いくら:手数料は無料で、手続きに必要な通数を出してもらえます。ただし戸籍を集める費用と郵送代は別にかかります。
一覧図は、戸籍を集める手間そのものはなくしてくれません。最初に一度、戸籍一式をそろえる必要があります。その後の手続きを並行して進めやすくなる、と考えると分かりやすいです。
法定相続情報一覧図とは?向いている人・向かない人
法定相続情報一覧図は、法律で決まった相続人(法定相続人)がだれかを示す図です。相続人が自分で作り、戸籍と一緒に法務局へ出します。登記官が戸籍と照らして確認し、証明文を付けた写しを交付します。この仕組みを「法定相続情報証明制度」といいます。
不動産がなく、遺産が預金だけの場合でも使えます(法務局)。どんな人に向いているかは、次の表を目安にしてください。
注意したいのは、一覧図は「法律上の相続人」を示すだけという点です。相続放棄をした人や、遺産分割で何も受け取らない人も、一覧図には名前が載ります(法務局)。放棄や分割の内容は、別の書類で示します。
どこの法務局に出せる?申出先・費用・通数の早見表
一覧図を出すことを、法務局では「申出(もうしで)」と呼びます。申出先は4つの中から選べます。
愛知県の例でいえば、名古屋市内に住む子が、岐阜県に本籍のあった親の一覧図を、自分の住所地を受け持つ法務局へ出すこともできます。郵送でも出せるので、遠くの法務局まで行く必要はありません。
取り方の手順と必要書類
手順:戸籍集めから受け取りまで
- 戸籍をそろえる。亡くなった方の出生から死亡までの戸籍と、相続人全員の今の戸籍を集めます。取り方は戸籍謄本の取り方(窓口・郵送・コンビニ・オンライン)で比べています。
- 戸籍を読んで、相続人を確かめる。手書きや縦書きの古い戸籍は、つながりが分かりにくいことがあります。古い戸籍の読み方も参考にしてください。
- 一覧図を作る。A4の白い紙に、亡くなった方と相続人の関係を書きます。法務局のホームページに、ひな形と記載例があります。
- 申出書を書く。申出書も法務局のホームページから入手できます。必要な通数もここに書きます。
- 法務局へ出す。窓口に持っていくか、郵送します。郵送なら返信用封筒と切手を入れます。
- 写しを受け取る。証明文の付いた一覧図の写しが交付され、出した戸籍は返してもらえます。
必要書類チェックリスト
法務局が「必ず用意する書類」としているのは次のとおりです。
- □ 亡くなった方の出生から死亡までの、連続した戸籍謄本・除籍謄本(本籍地の市区町村で取る)
- □ 亡くなった方の住民票の除票(最後の住所地の市区町村で取る)
- □ 相続人全員の今の戸籍謄本または抄本(亡くなった日より後に証明されたもの)
- □ 申出をする人の氏名・住所が分かる公的な書類を1つ(運転免許証の表裏のコピー、マイナンバーカード表面のコピー、住民票の写しなど。コピーには「原本と相違ない」と書いて記名する)
- □ 自分で作った法定相続情報一覧図
- □ 申出書
場合によって必要になる書類もあります。
- □ 住民票の除票が取れないとき:亡くなった方の戸籍の附票
- □ 一覧図に相続人の住所を書くとき:各相続人の住民票の写し(住所を書くかは任意)
- □ 親族や資格者代理人に頼むとき:委任状と、代理人の資格や親族関係が分かる書類
運転免許証などのコピーは返ってきません。戸籍類は写しの交付のときに返してもらえます(法務局)。
一覧図を作るときのポイント
- 亡くなった方の氏名、生年月日、死亡年月日、最後の住所を書きます。
- 相続人の氏名、生年月日、続柄を書きます。続柄は「長男」「長女」「養子」など戸籍のとおりに書くと、相続税の申告にも使えます。
- 形は、家系図のような「図の形」と、相続人を並べて書く形があります。相続税の申告で使うなら、図の形にします(国税庁)。
- 作成日と、作った人の住所・氏名を書きます。細かな書き方は法務局の記載例に合わせてください。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
使える手続き(銀行・年金・相続税・登記)
一覧図の写しが戸籍の代わりになる主な手続きを、公式の案内で確かめた範囲でまとめます。
ほかの銀行や証券会社などでの取り扱いは、提出先ごとに決まります。出す前に、各社の相続窓口へ「法定相続情報一覧図の写しで足りますか」と聞いておくと安心です。
2024年からの戸籍の広域交付との関係
2024年3月1日から、戸籍の「広域交付」が始まりました。本籍地でない市区町村の窓口でも、戸籍証明書・除籍証明書を請求できる仕組みです(法務省)。一覧図づくりの最初の山である戸籍集めが、ぐっと楽になりました。
流れとしては、「広域交付で戸籍を集める」→「一覧図を作って法務局に出す」→「写しを各窓口へ配る」となります。子が親の戸籍を集める場合は、近くの役所でまとめて請求できることがあります。一方、きょうだいが相続人になる場合、きょうだい側の戸籍は広域交付では取れません。その分は本籍地の市区町村へ請求します。
期限と、つまずきやすい点
一覧図そのものに申出の期限はない
一覧図の申出には、「亡くなってから何か月以内」という期限はありません。ただし、一覧図を使う手続きの側に期限があります。
損しやすい点
- 通数を少なめに頼む。足りなくなると再交付の申出が必要です。銀行・証券・登記・年金・税務署など、使う先を数えてから申出書に書きましょう。
- 申出人を一人にしてしまう。再交付を申し出られるのは、当初の申出書に申出人として載った人だけです。ほかの相続人が再交付を受けるには、当初の申出人の委任状が必要です。
- 続柄を「子」とだけ書く。実子か養子か分からないため、相続税の申告の添付書類としては使えません(国税庁)。
- 放棄した人が消えると思い込む。一覧図には載ったままです。銀行などには、放棄が分かる書類を別に出します。
- 戸籍の「有効期限」を気にしすぎる。戸籍や一覧図の写しの期限は、提出先が決めるルールです。考え方は戸籍謄本の有効期限で整理しています。
今日できる一歩
- 亡くなった方の通帳やお知らせを見て、手続きが要りそうな銀行・証券会社・不動産を紙に書き出す。
- 書き出した数に、年金と税務署の分を足して、必要な通数の目安を出す。
- 自分の住所地を受け持つ法務局を「管轄区域一覧」で調べ、申出書と一覧図のひな形を印刷しておく。
よくある質問
法務局に行かずに、郵送だけで済ませられますか?
はい。申出も写しの受け取りも郵送でできます。受け取りを郵送にする場合は、返信用の封筒と切手を同封します。封筒の書き方などは法務局ごとに案内があるため、出す先のページで確認してください。
一覧図の写しは何通までもらえますか?
相続手続きに必要な通数を、無料で出してもらえます。上限の数字は公表されていません。使う予定の先を数えて申出書に書き、迷うときは申出先の法務局に相談してください。
相続人の住所は書かないといけませんか?
任意です。書く場合は、各相続人の住民票の写しが必要になります。一覧図に住所があると、相続登記で住所を示す書類を省ける場合があります。ただし住所が変わった後などは、新しい住民票が要ることがあります(法務局)。
親が続けて亡くなった場合はどうなりますか?
相続が重なって起きた場合(数次相続)は、亡くなった方ごとに一覧図を作ります(法務局)。父の分、母の分と分けて考えてください。
広域交付で取った戸籍も、申出に使えますか?
広域交付で受け取るのは、通常と同じ戸籍証明書・除籍証明書です。出生から死亡までがつながっているか、相続人全員分がそろっているかを確かめてから申出しましょう。
参考にした公的情報
- 法務局「『法定相続情報証明制度』について」
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000013.html - 法務局「法定相続情報証明制度の具体的な手続について」
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000014.html - 法務局「法定相続情報番号の提供による相続登記等における法定相続情報一覧図の写しの添付省略について」
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_00025.html - 法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00082.html - 日本年金機構「『法定相続情報一覧図の写し』が年金手続きの添付書類として使用できるようになりました」
https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/03-04.pdf - 国税庁「相続税の申告の際に提出していただく主な書類」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku/shikata-sozoku2026/pdf/shikata07.pdf
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。必要書類や受け取りまでの日数は、申出先の法務局や提出先によって異なることがあります。実際の申出の前に、申出先の法務局の案内をご確認ください。相続税については税務署、登記については法務局の相談窓口などでご確認ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。