亡くなった親の名前で「固定資産税・都市計画税 納税通知書」が届いた。開けると納付書が4枚。宛名は親のまま、金額は数万円から十数万円。誰が払うのか、払わないとどうなるのか、市役所に何か出さなければいけないのか——葬儀と片づけの合間に、この紙だけが期限つきで手元に残ります。
この記事は、その納税通知書を手にした人向けに、今年分の支払い、市役所への届出、口座振替、相続登記、名寄帳、きょうだい間の立替の扱いまでを順番に整理したものです。愛知・岐阜の窓口は、名古屋市と岐阜市の公式サイトで確認できた範囲で具体名を挙げています。
先に結論:今年分は誰かが期限内に払い、届出は3か月以内
今年分の固定資産税は、遺産分割の結論を待たずに、まず誰かが払ってください。立て替えた人が損をしない仕組みは記事の後半で説明します。届出(相続人代表者の指定)と、登記が3か月以内に終わらない場合の「現所有者の申告」は、市役所の資産税担当が窓口です。
この納税通知書は何か:親名義のまま届く理由
固定資産税は毎年1月1日時点の登記名義人に課税されます(地方税法第343条・第359条)。親が亡くなっても登記名義を変えるまで市役所の台帳は親のままなので、4〜5月ごろに親宛の納税通知書が届きます。死亡届を出しても、市役所の税務部門が自動的に宛名を変えることは原則ありません。
親が1月1日に生きていた年の税金は、親が納めるはずだった税金を相続人が引き継ぐ形になります(地方税法第9条)。翌年以降、登記名義がまだ親のままなら、市役所は「現に所有している者」=相続人を納税義務者として課税します(第343条第2項)。どちらの年でも、払う人は相続人です。
誰が払うのか:未分割でも相続人全員の連帯納付
「家は長男が継ぐ話になっているから長男が払うべき」「まだ誰のものか決まっていないから払えない」——どちらもよくある言い分ですが、市役所に対しては通りません。遺産分割が終わるまで、不動産は相続人全員の共有です。共有物の固定資産税は共有者全員が連帯して納める義務を負い(地方税法第10条の2)、市役所は相続人の誰に対しても全額を請求できます。
| 場面 | 市役所に対して払う義務があるのは | 相続人の間での最終負担 |
|---|---|---|
| 親が死亡した年の分(親名義で通知) | 相続人全員(親の納税義務を承継) | 原則として法定相続分。協議で別の決め方も可 |
| 翌年以降、登記が親のまま・未分割 | 相続人全員が連帯納付(誰にでも全額請求される) | 法定相続分で按分するのが通常。立替分は協議で精算 |
| 分割協議が成立し登記も済んだ翌年以降 | 取得した相続人だけ | 取得した人 |
| 相続放棄をした人 | 義務なし(ただし家庭裁判所で受理されていることが前提) | — |
注意したいのは、相続放棄を考えている人です。親の固定資産税を自分の財布から払うこと自体は、放棄が認められなくなる「相続財産の処分」には当たらないとされる一方、親の預金を引き出して払うと処分とみなされるおそれがあります。放棄を検討中なら、払う前に弁護士か司法書士に一度聞いてください。
払わないとどうなるか
- 延滞金がつく:納期限の翌日から日割りで加算されます。割合は年ごとに告示され、近年は納期限後1か月までは年2.4%程度、それ以降は年8.7%程度で推移しています(延滞金特例基準割合による。納税通知書の裏面に当年の割合が記載されています)。
- 督促状が相続人に届く:市役所は戸籍から相続人を調べ、代表者の届出がなくても相続人を指定して通知を送れます(地方税法第9条の2第2項)。
- 滞納処分:督促後も放置すると、相続人の給与や預金の差押えに進むことがあります。「親の税金だから自分の財産は無関係」とはなりません。
- 現所有者の申告を怠ると過料:後述の申告をしないと、10万円以下の過料が科されることがあります(名古屋市公式サイト、2026年9月時点)。
市役所への届出:相続人代表者指定届と現所有者申告
届出は2種類あります。名前が自治体ごとに違い、1枚にまとまっている自治体もあるので、「亡くなった人の固定資産税の届出をしたい」と言えば窓口が正しい様式を出してくれます。
1. 相続人代表者指定届(納税通知書の送り先を決める)
相続人が2人以上いるとき、納税通知書などの書類を受け取る代表者を1人決めて市役所に届け出る制度です(地方税法第9条の2)。これは「代表者が1人で全額を負担する」という意味ではなく、あくまで書類の受取人の指定です。出さないと、市役所が相続人の中から代表者を指定して通知してきます。多くの自治体は、死亡届の後に用紙を郵送してきます。
2. 現所有者(現に所有している者)の申告
2020年の地方税法改正で設けられた制度です(第384条の3)。名義人が亡くなった後、相続登記がまだ済んでいない場合に、現に所有している人(相続人)が氏名・住所などを申告します。名古屋市の場合、期限は「現所有者であることを知った日の翌日から3か月」、添付書類は戸籍または法定相続情報一覧図の写しで、分割協議が済んでいれば協議書や遺言書を添えます(名古屋市公式サイト、2026年9月時点)。3か月以内に相続登記まで終わるなら、この申告は不要です。
| 自治体 | 様式名(公式サイトの表記) | 提出先 |
|---|---|---|
| 名古屋市 | 固定資産現所有者申告書(電子申請も可) | 物件の所在区を担当する市税事務所の固定資産税課(栄・本陣・金山の3事務所) |
| 岐阜市 | 代表相続人指定(変更)届出書(オンライン提出も可) | 岐阜市役所 資産税課(代表 058-265-4141) |
| その他の市町村 | 「相続人代表者指定届」「相続人代表者指定届兼固定資産現所有者申告書」など | 市役所・町村役場の資産税(固定資産税)担当課 |
名古屋市の市税事務所は、物件の所在区で担当が分かれます。どの事務所かは納税通知書の問い合わせ先欄に印字されているので、そこへ電話するのが早いです。岐阜市の管轄機関の全体像は岐阜市の相続手続きガイドにまとめています。
口座振替の停止と再設定
親が口座振替で払っていた場合、届いた納税通知書には納付書がついていないことがあります。ここが落とし穴で、親の口座は死亡を銀行が知った時点で凍結され、振替日に引き落とせずそのまま滞納になります。銀行に死亡を伝えていなければ落ちてしまう場合もありますが、後で相続人間の精算が面倒になるので、確認して整理しておくほうが安全です。
- 納税通知書に「口座振替」と書かれていれば、市役所の税務担当に電話し、振替口座が親名義であることを伝えて納付書を発行してもらう。
- 今年分は納付書で払う(コンビニ・スマホ決済に対応している自治体が多い)。
- 来年以降、代表者の口座から振替にしたいなら、新しい口座で口座振替依頼書を出し直す。親の振替契約は引き継げず、新規申込みになる。
- 親の口座から既に引き落とされていた分は、遺産分割の際に「相続財産から払った税金」として精算に含める。
相続登記との関係:登記が終われば通知書の宛名が変わる
市役所への届出はあくまで「つなぎ」です。納税通知書の宛名を本当に変えるには、法務局で相続登記をして名義を移します。登記が済むと、市役所は法務局からの通知で翌年の1月1日時点の所有者を把握し、新しい名義人に納税通知書を送ります。年の途中で登記しても、その年の分の納税義務者は変わりません。
相続登記は2024年4月から義務化され、相続を知った日から3年以内に申請しないと10万円以下の過料の対象になります(法務省)。分割協議がまとまらない場合でも「相続人申告登記」という簡易な申出で義務は果たせます。登録免許税は固定資産税評価額の0.4%で、評価額は納税通知書に添付された課税明細書で確認できます。名古屋市内の物件なら名古屋の相続登記を自分で申請する方法と管轄法務局で手順を説明しています。
空き家になる実家は、住宅用地の特例が外れることがある
親が住んでいた家の土地は「住宅用地の特例」で固定資産税の課税標準が最大6分の1に軽減されています。親が亡くなって誰も住まなくなっても、建物が建っている限り特例は続きますが、放置して「管理不全空家」や「特定空家」に指定され勧告を受けると特例が外れ、土地の税額が数倍に跳ね上がります。相続人が「まだ決まっていないから何もしない」でいる間に、この指定が進むことがあります。詳しくは実家が空き家のまま放置?固定資産税が最大6倍にで解説しています。
名寄帳を取って、親の不動産と評価額を全部つかむ
納税通知書に載るのは、その市町村にある物件だけです。しかも免税点未満(土地30万円・家屋20万円未満)の物件は通知書に載りません。実家のほかに山林や田畑、私道の持分がある家は珍しくなく、それらは分割協議書にも登記にも漏れがちです。市町村ごとの「名寄帳(土地・家屋名寄帳)」を取ると、親名義の物件が評価額つきで一覧できます。
- どこで:物件のある市町村の資産税担当窓口。名古屋市は市税事務所と区役所・支所の税務窓口で、担当区以外でも取れます。
- 持ち物:相続人であることが分かる戸籍(または法定相続情報一覧図)、本人確認書類。
- 手数料:名古屋市は1件300円(2026年10月から400円に改定予定、名古屋市公式サイト)。岐阜県内では大垣市・養老町の1通10円、本巣市の無料など、自治体で大きく違います。
- 複数の市町村にまたがる場合:市町村ごとに取る必要があります。親がどこに不動産を持っていたか分からないときは、法務局の所有不動産記録証明制度で全国分をまとめて調べる方法があります。
名寄帳の評価額は、相続登記の登録免許税、相続税の申告要否の当たりをつける計算、分割協議で「家の値段」を話すときの共通のものさしになります。分割の話し合いを始める前に、必ず先に取っておくことをすすめます。
分割協議がまとまるまでの立替の扱い
今年分を長男が払った、翌年も長男が払った、その間に協議は進まない——この状態が続くと「自分ばかり払っている」という不満が協議そのものをこじらせます。立替をした人が損をしないために、次の3点を押さえてください。
- 領収書と振込記録を残す:誰が、いつ、いくら払ったかの証拠がなければ精算を求められません。納付書の控えは捨てないでください。
- 相続人全員に払った事実を共有する:メールやLINEで「今年分○円を立て替えました」と一言送っておくと、後で「聞いていない」を防げます。
- 協議書に精算条項を入れる:「相続開始後に○○が立て替えた固定資産税○円は、△△が取得する預金から○○に支払う」のように書き込みます。家を取得する人がまとめて負担する、法定相続分で割る、どちらでも合意があれば可です。
なお、立て替えた固定資産税は相続税の計算では「債務控除」の対象になります(親の死亡時点で未納だった分)。相続税の申告が必要な規模の家では、払った記録がそのまま節税の資料になるので、税理士に渡せるようにまとめておいてください。
専門家に一度聞いたほうがよい人・自分で済む人
相続人が自分ひとり、または配偶者と子で話がついていて、不動産が実家1件だけなら、この記事の手順で市役所と法務局を回れば自力で終わります。届出も登記も、窓口で聞けば書けます。
一方で、次のどれかに当てはまるなら、払う前・届出前に一度相談したほうが結果的に安く済みます。
- 相続放棄を考えている(親の借金や、遠方の売れない土地がある)
- 納税通知書が複数の市町村から届いた、または親の不動産の全体像が分からない
- きょうだいの誰かと連絡が取れない、または協議に応じてくれない
- 実家が空き家になり、売るか貸すか壊すかを決めないといけない
- 祖父母名義のまま登記されていない土地が混ざっている
よくある質問
Q. 納付書の宛名が親のままですが、そのまま払ってよいですか
問題ありません。納付書のバーコードや納付番号で市役所側は税目と物件を特定するので、誰が払っても親の未納分に充てられます。相続人が払った記録として、納付書の控えは保管してください。
Q. 相続人代表者になると、税金を全部かぶることになりますか
なりません。代表者は納税通知書などの書類を受け取る人の指定で、負担割合を決める届出ではありません。ただし連帯納付義務があるため、市役所から見れば代表者が一番請求しやすい相手になるのは事実です。だからこそ相続人間の精算ルールを先に決めておく必要があります。
Q. 届出を出す前に、遺産分割協議を終わらせないといけませんか
不要です。協議が終わっていなくても、相続人のうち1人を代表者として届け出られます。現所有者の申告も「相続人全員が現所有者」として申告でき、後で協議がまとまったら登記で名義を確定させれば足ります。
Q. 相続放棄をした後に納税通知書が届きました
市役所は放棄の事実を自動では把握しません。家庭裁判所の「相続放棄申述受理通知書」の写しを市役所の資産税担当に送り、相続人でない旨を伝えてください。相続人全員が放棄した場合の空き家の管理責任については別の論点になるので、その状況なら弁護士に確認を。
Q. 課税明細書に載っていない土地が、名寄帳には出てきました
免税点未満の物件は課税明細書に載らないことがあります。その土地も相続財産で、登記も必要です。分割協議書に書き漏らすと後で協議書を作り直すことになるので、名寄帳を先に取って全物件を協議書に載せてください。
まとめ
- 親宛の固定資産税は、遺産分割の結論を待たずに相続人の誰かが期限内に払う。未分割でも相続人全員の連帯納付義務がある。
- 口座振替は親の口座凍結で止まる。納付書を発行してもらい、来年以降は新しい口座で申し込み直す。
- 市役所には相続人代表者の届出を。登記が3か月以内に終わらないなら現所有者の申告も(名古屋市は過料の定めあり)。
- 名寄帳で全物件と評価額を把握してから分割協議を始める。立替分は記録を残し、協議書に精算条項を入れる。
- 宛名を本当に変えるのは相続登記。義務化されており3年以内。
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本記事の制度・様式名・手数料・延滞金の割合は2026年9月時点の公表情報(地方税法、名古屋市・岐阜市公式サイト、法務省)にもとづく一般的な説明です。届出の名称や提出方法、手数料は自治体ごとに異なり、変更されることがあります。税額や相続人間の負担、相続放棄への影響は個別の事情で変わるため、実際に手続きを進める前に物件のある市町村の資産税担当、税理士・弁護士にご確認ください。