四十九日が過ぎ、実家の座卓に通帳と固定資産税の明細を並べてみる。母と兄と自分の3人で、財産の合計はおよそ5,000万円。「うちは相続税の申告をしなくていいのか」。調べると「基礎控除以下なら不要」とも「0円でも申告が必要」とも書いてあり、自分の家がどちらに当たるのかが分からない。
相続税の申告が必要かどうかは、2つの順番で決まります。まず、特例を使う前の財産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるか。超えなければ申告は必要ありません。超える場合は、配偶者の税額軽減(いわゆる配偶者控除)や小規模宅地等の特例で税額が0円になっても、申告が必要です。この記事では、判定表と計算例で「自分の家はどれか」を確かめられるようにし、家族の中で誰が申告書を出すのかも整理します。内容は2026年10月時点で、国税庁の公表内容(令和8年4月1日現在法令等)と相続税法の条文で確かめたものです。
この記事の結論
- 申告が必要ないのは、特例を使う前の財産の合計が基礎控除以下の家です。配偶者と子2人なら4,800万円以下が目安です。
- 合計が基礎控除を超え、配偶者控除や小規模宅地等の特例で税額が0円になる家は、申告が必要です。特例は申告書に書いて初めて使えます。
- 申告書を出す義務があるのは、財産を受け取り、配偶者控除を使う前の計算で税額が出る人です。何も受け取らない家族は出す必要がなく、出す人が複数なら1通にまとめて出せます。
相続税の申告が必要かは「特例を使う前の合計」で決まる
国税庁は、申告が必要かどうかを、小規模宅地等の特例などを使わない場合の金額で判断するよう案内しています(国税庁 No.4205)。順番にすると次の3段階です。
- 財産を合計する。預金、土地、家、株などを足します。死亡保険金は、非課税枠(500万円×法定相続人の数)を超えた分だけ足します。借入金と葬式費用は差し引きます。亡くなった日が2026年12月31日までなら、亡くなる前3年以内に受けた贈与も足します(国税庁 No.4102・No.4205)。
- 基礎控除と比べる。基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数です(国税庁 No.4152)。合計が基礎控除以下なら、申告も納税も要りません。
- 超える場合は、人ごとに税額を見る。申告書を出す義務があるのは、財産を受け取った人のうち、税額が出る人です(相続税法第27条第1項)。このとき、配偶者控除は「使わない前提」で税額を見ます。
分かりにくいのは3つ目です。相続税法第27条第1項は、未成年者控除・障害者控除・相次相続控除などを差し引いた後の税額で、申告書を出す義務があるかを決める形になっています。一方、配偶者の税額軽減(第19条の2)はこの計算に入っていません。そのため、配偶者控除で0円になる人には申告義務が残ります。小規模宅地等の特例も、申告書に使う旨を書くことが使う条件です(国税庁 No.4124)。
【判定表】相続税の申告が必要か、必要ないか
よくある8つの場面を表にしました。上から順に、自分の家に当てはまる行を探してください。
| ご家庭の状況 | 申告 | 根拠 |
|---|---|---|
| 1. 特例を使う前の合計が基礎控除以下 | 必要ない(納税も不要) | No.4205 |
| 2. 財産だけなら基礎控除以下だが、亡くなる前3年以内の贈与を足すと超える | 必要になる | No.4102 |
| 3. 合計が基礎控除を超え、配偶者控除で配偶者の税額が0円になる | 配偶者は必要 | No.4158、相続税法第27条 |
| 4. 合計が基礎控除を超え、小規模宅地等の特例を使うと基礎控除以下になる | 必要(特例は申告して使う) | No.4205・No.4124 |
| 5. 合計が基礎控除を超え、未成年者控除・障害者控除・相次相続控除を引くと税額が0円になる | その人は出す義務がない | 相続税法第27条第1項 |
| 6. 合計が基礎控除を超え、特例や控除を使っても税額が残る | 税額が出る人は必要 | No.4205 |
| 7. 合計が基礎控除を超え、10か月までに分け方が決まらない | 必要(法定相続分で申告) | No.4208 |
| 8. 相続放棄をしたが、死亡保険金を受け取った | 税額が出れば必要(放棄した人は保険金の非課税枠を使えない) | No.4114 |
(国税庁 No.4102・No.4114・No.4124・No.4158・No.4205・No.4208、相続税法第27条をもとに作成。令和8年4月1日現在法令等、2026年10月確認)
表の3・4と5を見比べると、同じ「税額0円」でも扱いが分かれます。配偶者控除と小規模宅地等の特例は、申告して初めて使える制度です。これに対して、未成年者控除や障害者控除で0円になる人には、申告書を出す義務がありません。ただし、家族のほかの人が申告書を出す家では、その人の分も同じ申告書にまとめて出すことができます(相続税法第27条第5項)。
おおよその判定は、国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」でもできます。入力した金額が正しいことが前提なので、土地の評価や保険金の扱いに迷う点は、税務署か税理士に確かめてください。
配偶者控除で0円でも申告が必要|「申告不要」と思い込みやすい3つの場面
配偶者の税額軽減(配偶者控除)で0円になる
配偶者の税額軽減は、配偶者が受け取った財産が1億6千万円か法定相続分の多いほうまでなら、配偶者に相続税がかからない制度です(国税庁 No.4158)。使うには、申告書に軽減の明細(第5表)を書き、戸籍謄本等や遺言書・遺産分割協議書の写しなどを付けて出します。国税庁の申告要否判定コーナー「配偶者の税額軽減」でも、軽減によって納める税額が0円になる人も、軽減を受けるには申告書への記載が必要と案内しています。
「配偶者控除を使えば申告は不要」という理解は逆です。正しくは「財産の合計が基礎控除以下なら、配偶者控除を使うまでもなく申告は不要」です。合計が基礎控除を超えたら、配偶者控除を使う家こそ申告が要ります。軽減の条件や分け方との関係は相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)の記事にまとめています。
小規模宅地等の特例で基礎控除の内側に入る
亡くなった方が住んでいた自宅の土地は、一定の家族が引き継ぐと、330㎡までの評価が80%下がります(国税庁 No.4124)。評価が大きく下がるため、特例を使えば基礎控除の内側に収まる家もあります。それでも判定は特例を使う前の金額で行うので、申告が必要です。申告書には特例を使う旨を書き、計算の明細書(第11・11の2表の付表1)や遺産分割協議書の写しなどを付けます。
10か月までに分け方が決まらない
上の2つは、原則として申告期限までに分け方が決まっている財産にしか使えません。話し合いが続いていても期限は延びず、法定相続分で分けたものとして申告します(国税庁 No.4208)。あとから特例を使うための書類や手順は、相続税の申告期限の記事の未分割申告の項で説明しています。
計算例|申告が要る家・要らない家を数字で比べる
説明のための仮の数字で、3つの家を比べます。税額は国税庁の速算表(No.4155)に当てはめた単純な試算です。実際の評価や税額を示すものではありません。
例1:申告が要らない家(母と子2人・合計4,100万円)
| 項目 | 金額 | メモ |
|---|---|---|
| 預金 | 1,900万円 | 亡くなった日の残高 |
| 自宅の土地 | 2,000万円 | 路線価×面積のおおまかな目安 |
| 家 | 300万円 | 固定資産税評価額 |
| 死亡保険金1,200万円 | 0円 | 非課税枠1,500万円(500万円×3人)の範囲内 |
| 葬式費用 | -100万円 | 差し引ける |
| 合計 | 4,100万円 | 基礎控除4,800万円(3人)以下 |
この家は申告も納税も必要ありません。ただし、亡くなる前3年以内に子や孫へ贈与していれば、その分を足して見直します。たとえば700万円を超える贈与があれば、基礎控除を上回ります。
例2:配偶者控除で0円だが申告が要る家(母と子1人・合計8,000万円)
相続人は母と子の2人で、基礎控除は4,200万円です。合計8,000万円から引いた3,800万円を、法定相続分(2分の1ずつ)で分けて税額を出します。
| 計算の段階 | 金額 |
|---|---|
| 基礎控除を引いた額 | 8,000万円-4,200万円=3,800万円 |
| 法定相続分で分けた額 | 母1,900万円・子1,900万円 |
| 速算表の税額 | 1,900万円×15%-50万円=235万円ずつ |
| 相続税の総額 | 470万円 |
| 母が全部を受け取った場合 | 母の税額470万円 → 配偶者控除で0円。子は受け取りなし |
| 母6,000万円・子2,000万円で分けた場合 | 母は0円。子は470万円×2,000/8,000=約117万円 |
母が全部を受け取る場合、納める税金は0円ですが、母は申告書を出します。子は何も受け取らないので、出す義務はありません。母と子で分ける場合は、子に税額が出るので子も申告と納税をします。母も0円のまま申告が必要なので、2人で1通にまとめて出すことができます。
例3:自宅の土地の特例で基礎控除の内側に入るが申告が要る家(子1人・合計6,200万円)
父が亡くなり、母はすでに他界。相続人は父と同居していた子1人で、基礎控除は3,600万円です。財産は自宅の土地(250㎡)が4,500万円、家が200万円、預金が1,500万円で、合計6,200万円です。
| 項目 | 特例を使う前 | 特例を使った後 |
|---|---|---|
| 自宅の土地 | 4,500万円 | 900万円(80%減) |
| 家 | 200万円 | 200万円 |
| 預金 | 1,500万円 | 1,500万円 |
| 合計 | 6,200万円 | 2,600万円 |
| 基礎控除3,600万円との比較 | 超える → 申告が必要 | 下回る → 税額0円 |
特例を使えば税額は0円ですが、判定は左の列で行うので申告が必要です。同居していた子がこの特例を使うには、亡くなる直前から申告期限まで住み続け、土地を持ち続けることなどの要件があります(国税庁 No.4124)。申告期限より前に売る予定がある家は、特例が使えなくなる場合があるので、先に確かめておきます。
家族の中で誰が申告書を出すのか|1通にまとめて出せる
相続税の申告は「家で1回」ではなく、人ごとの義務です。相続税法第27条第1項では、財産を受け取った人のうち税額が出る人が、それぞれ申告書を出すことになっています。家族の立場ごとに整理すると次のとおりです。
| 家族の立場 | 申告書 |
|---|---|
| 財産を受け取り、税額が出る人 | 出す義務がある |
| 配偶者控除で税額が0円になる配偶者 | 出す(軽減を使うため) |
| 小規模宅地等の特例を使う人 | 出す(特例を使うため) |
| 未成年者控除・障害者控除などで税額が0円になる人 | 出す義務はない |
| 何も受け取らない相続人 | 出す義務はない |
| 相続放棄をしたが、死亡保険金を受け取った人 | 税額が出れば出す |
(相続税法第27条、国税庁 No.4114・No.4124・No.4158・No.4205をもとに作成。2026年10月確認)
出す人が2人以上いて提出先の税務署が同じなら、申告書を共同で1通にまとめて出せます(相続税法第27条第5項)。提出先は相続人の住所ではなく、亡くなった方の住所地の税務署です(国税庁 No.4205)。実際には、家族の1人が財産の一覧をまとめ、各人の取り分と税額を1つの申告書に並べることになります。税額は人ごとに違うため、納めるのも人ごとです。
誰が一覧づくりの役を引き受けるかは、10か月の期限から逆算して早めに決めておくと進めやすくなります。遠方に住む家族がいる場合は、通帳や保険の書類を誰が預かるかも一緒に決めておきます。
「合計」を小さく見積もりやすい財産|判定がひっくり返る4つ
「申告は必要ない」と判断するときは、合計を小さく見積もっていないかを確かめます。基礎控除の近くにいる家ほど、次の4つで結論が変わります。
- 土地を固定資産税の評価額で見ている。路線価のある地域では、相続税の評価のほうが高く出ることが多くあります。土地の見方は相続税はいくらから?基礎控除の早見表で説明しています。
- 死亡保険金を全部「非課税」と考えている。非課税枠を超えた分は財産に入ります。相続人でない人や相続放棄をした人が受け取った分には、枠が使えません(国税庁 No.4114)。
- 亡くなる前の贈与を忘れている。亡くなった日が2026年12月31日までなら3年以内の贈与を足します。2027年以降は加算の期間が段階的に延びます(国税庁 No.4102)。
- 家族名義の預金を外している。名義が子や孫でも、お金を出し、通帳を管理していたのが亡くなった方なら、相続財産と見られることがあります。判断の目安は名義預金と相続税の記事にまとめています。
申告不要と判断したあとにやること
申告が必要ないと分かっても、それで手続きが全部終わるわけではありません。あとで困らないよう、次の3つをしておきます。
- 判断の記録を残す。財産の一覧、銀行の残高証明書、固定資産税の課税明細書、保険金の支払通知、計算メモを1つのファイルにまとめます。何を根拠に「基礎控除以下」と判断したかを、あとで説明できる形にしておきます。
- 税務署から書類が届いたら回答する。相続のあと、税務署から「相続についてのお尋ね」や「相続税の申告要否検討表」が届くことがあります。1で残した記録があれば、記入はそこから写せます。書き方は「相続についてのお尋ね」が届いたらの記事で説明しています。
- 相続税とは別の手続きを進める。亡くなった方の所得税の準確定申告(4か月以内)、相続登記(3年以内)、預金や証券の名義変更は、相続税の申告が要らなくても必要です。準確定申告は準確定申告が必要な人の記事で整理しています。
今日できる一歩
相続人の人数を数え、財産を1枚の紙に書き出して、この記事の判定表のどの行に当たるかを確かめる。土地は固定資産税の課税明細書、預金は通帳の残高で構いません。基礎控除との差が数百万円以内なら、土地の評価と3年以内の贈与を見直してから判断します。
よくある質問
相続税の申告が必要ないのはどんな人ですか
特例を使う前の財産の合計が、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下の家です。合計には、非課税枠を超えた死亡保険金や、亡くなる前3年以内の贈与(2026年12月31日までに亡くなった場合)も入れます。
配偶者控除を使えば、相続税の申告は不要ですか
不要にはなりません。財産の合計が基礎控除を超える家で配偶者控除を使うと、税額が0円になっても申告書の提出が必要です。申告が不要なのは、合計が基礎控除以下で、配偶者控除を使うまでもない家です。
相続税が0円なら、税務署に何も出さなくていいですか
0円になった理由で変わります。基礎控除以下で0円なら、何も出す必要はありません。配偶者控除や小規模宅地等の特例で0円になったなら、申告が必要です。未成年者控除や障害者控除で0円になった人には、申告書を出す義務がありません。
財産を受け取らない相続人も、申告は必要ですか
財産を何も受け取らない人には、申告書を出す義務はありません。申告書を出すのは、財産を受け取って税額が出る人と、配偶者控除などの特例を使う人です。
申告が必要か、自分で確かめる方法はありますか
国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」で、財産の金額を入れるとおおよその判定ができます。土地の評価や保険金の扱いで結果が変わるため、迷う点は税務署か税理士に確かめてください。
申告が必要な場合、いつまでに出しますか
亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。期限の日が土日祝日に当たるときは、その翌日が期限です。数え方の例は相続税の申告期限の記事で紹介しています。
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- 名義預金と相続税【2026年】判定の早見表と銀行預金の評価
参考にした公的情報
- 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」
- 国税庁「No.4102 相続税がかかる場合」・「No.4152 相続税の計算」・「No.4155 相続税の税率」
- 国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」・「No.4124 小規模宅地等の特例」
- 国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」・「No.4208 相続財産が分割されていないときの申告」
- 国税庁「相続税の申告書等の様式一覧(令和7年分用)」・「相続税の申告要否判定コーナー」
- e-Gov法令検索「相続税法」(第19条の2、第27条第1項・第5項)
※本記事は2026年10月時点の国税庁の公表内容(令和8年4月1日現在法令等)と相続税法の条文をもとにした一般的な情報の整理です。計算例は説明のための仮の数字で、実際の評価や税額、特例が使えるかどうかは、財産の内容や家族の状況で変わります。個別の判断は、税務署または税理士にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
