夕方、台所のテーブルに固定資産税の納税通知書と通帳を並べる。同封の課税明細書には、自宅の土地と家の評価額が載っています。「この数字に預金を足したら、うちは相続税がかかるのだろうか」。親の家計を見ている子世代からも、ご本人からも、よく出る疑問です。
相続税がかかるかどうかは、税額を計算しなくても、おおよその見当はつけられます。目安になるのは「基礎控除」という非課税の枠です。この記事では、基礎控除の早見表と財産の洗い出しかた、土地の評価のめやすを順に整理します。あわせて「特例を使うなら申告が要る」という見落としやすい点も取り上げます。数字は2026年10月時点で、国税庁などの公表内容を確かめたものです。
この記事の結論
- 相続税がかかるのは、財産の合計が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えたときです。相続人が3人なら4,800万円が目安になります。
- 2024年に亡くなった方のうち、相続税の対象になったのは全国で10.4%、愛知県では16.2%でした。愛知はおよそ6人に1人です。
- 自宅の土地の特例(小規模宅地等の特例)や配偶者の軽減で税金が0円になる場合でも、使うには申告が必要です。「0円だから何もしなくてよい」とは限りません。
相続税は「基礎控除」を超えたらかかる|相続人の数で決まる早見表
相続税には、誰にでも使える非課税の枠があります。これを基礎控除といいます。計算式は次のとおりです(国税庁 No.4152)。
基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数
亡くなった方の財産の合計がこの額以下なら、相続税はかかりません。申告も納税も要らない、と国税庁は案内しています(国税庁 No.4205)。相続人の数ごとの金額は次の表のとおりです。
| 法定相続人の数 | 基礎控除(この額まで相続税はかからない) | 参考:死亡保険金・死亡退職金の非課税枠(それぞれ) |
|---|---|---|
| 1人 | 3,600万円 | 500万円 |
| 2人 | 4,200万円 | 1,000万円 |
| 3人 | 4,800万円 | 1,500万円 |
| 4人 | 5,400万円 | 2,000万円 |
| 5人 | 6,000万円 | 2,500万円 |
(国税庁 No.4152・No.4114・No.4117をもとに作成。非課税枠は「500万円×法定相続人の数」。2026年10月時点)
表の右の列は、亡くなった方が保険料を払っていた死亡保険金や、勤め先から出た死亡退職金に使える枠です。相続人が受け取った分の合計が、この額までなら相続税の対象になりません(国税庁 No.4114、No.4117)。保険と退職金は、それぞれ別に枠があります。相続人ではない人(孫など)が受け取った分には、この枠は使えません。
法定相続人の数え方|放棄した人も数える・養子は上限あり
基礎控除の式に入れる「法定相続人の数」は、民法で決まる相続人の人数です。配偶者はいつも相続人になります。そのうえで、子がいれば子、子がいなければ親、親もいなければ兄弟姉妹、という順番で加わります。
数えるときに間違えやすい点が2つあります(国税庁 No.4170)。
- 相続放棄をした人も数に入れる:放棄がなかったものとして数えます。放棄しても、基礎控除は減りません。
- 養子は数える人数に上限がある:実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。ただし、配偶者の連れ子を養子にした場合や、特別養子縁組の場合は実子として数えます。亡くなった子に代わって相続人になった孫も、制限なく数えます。
孫を養子にしている、再婚相手の子がいる、といったご家庭は、人数の数え方で基礎控除が変わります。迷うときは、戸籍を見ながら確かめるのが確実です。
相続税がかかった人の割合|愛知県は16.2%、全国より高い
「相続税は一部のお金持ちの話」と思われがちです。ところが、国税庁と名古屋国税局の最新の統計では、愛知県の割合は高めです。2025年12月の公表で、2024年(令和6年)に亡くなった方の分です。
| 地域 | 亡くなった方の数 | 相続税の申告書が出された方の数 | 課税割合(申告書が出された方÷亡くなった方) |
|---|---|---|---|
| 全国 | 1,605,378人 | 166,730人 | 10.4%(前年9.9%) |
| 名古屋国税局管内(愛知・岐阜・三重・静岡) | 182,114人 | 23,684人 | 13.0%(前年12.5%) |
| 愛知県 | 82,618人 | 13,398人 | 16.2%(前年15.5%) |
| 岐阜県 | 26,392人 | 2,569人 | 9.7%(前年9.7%) |
(国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」、名古屋国税局「令和6年分 相続税の申告事績の概要」をもとに作成。2026年10月時点の最新公表分)
愛知県の16.2%は、およそ6人に1人です。前の年より0.7ポイント上がりました。理由の一つとして、名古屋市やその周りでは自宅の土地だけで評価額が大きくなりやすいことが考えられます。「預金はそれほどないから大丈夫」と思っていても、土地を足すと基礎控除に近づくことは珍しくありません。
財産を洗い出す|預金・土地・家・保険・株の一覧表
目安を出すには、財産を1枚の紙に書き出すところから始めます。細かい金額でなくても構いません。下の表の順に、手元の書類で分かる数字を拾っていきます。
| 財産 | 数字を見る書類 | 相続税での見方(一般論) |
|---|---|---|
| 預金・貯金(定期を含む) | 通帳、定期預金の証書、銀行の残高通知 | 亡くなった日の残高 |
| 自宅などの土地 | 固定資産税の課税明細書、国税庁の路線価図 | 路線価がある地域は路線価で、ない地域は固定資産税評価額に倍率を掛けて評価する |
| 家(建物) | 固定資産税の課税明細書 | 固定資産税評価額と同じ額(1.0倍) |
| 死亡保険金・死亡退職金 | 保険証券、勤め先からの通知 | 亡くなった方が保険料を払っていた保険は対象。非課税枠(500万円×法定相続人の数)を引いた残り |
| 株・投資信託・国債 | 証券会社の取引残高報告書 | 亡くなった日を基準に評価 |
| 借入金・未払いの医療費など | ローンの残高証明、請求書 | 財産から差し引ける。葬式費用も差し引ける |
(国税庁 No.4602・No.4114・No.4126をもとに作成。2026年10月時点)
借入金や葬式費用は差し引けますが、生前に買ったお墓の未払い代金などは差し引けません(国税庁 No.4126)。また、亡くなる前の一定期間に家族へ贈与したお金は、相続財産に足し戻して計算します。この期間は3年から7年へ延びている途中です。詳しくは生前贈与の加算7年の記事で説明しています。
親名義の土地がどこにあるか分からないときは、市町村の名寄帳(名義人ごとの不動産の一覧)や、法務局の所有不動産記録証明制度で調べられます。手順は所有不動産記録証明制度の記事にまとめています。
土地の評価のめやす|路線価と固定資産税評価額の見方
財産の中で一番見当がつきにくいのが土地です。相続税では、土地を次の2つのどちらかで評価します(国税庁 No.4602)。
- 路線価方式:市街地など、道路ごとに「路線価」が決まっている地域で使います。路線価は、その道路に面した宅地の1㎡あたりの値段です。路線価図には千円単位で書かれていて、「150」なら1㎡15万円です。
- 倍率方式:路線価が決まっていない郊外や農村部で使います。固定資産税評価額に、国税庁の「評価倍率表」の倍率を掛けて評価します。
路線価は毎年1月1日時点の値段で、7月1日に国税庁のホームページで公表されます。2026年分は2026年7月1日に公開されました。路線価図と評価倍率表は、国税庁の「財産評価基準書」のページ(rosenka.nta.go.jp)で見られます。愛知県・岐阜県とも、市町村ごとに探せます。
おおまかな目安なら「路線価×土地の面積」で足ります。たとえば路線価が150(1㎡15万円)の道路に面した自宅で、面積が165㎡(約50坪)だとします。15万円×165㎡で、約2,475万円が目安です。実際の評価では、土地の形や奥行きによる補正が入るため、この数字より下がることもあります。
固定資産税の課税明細書の評価額をそのまま使うと、少し低めに出やすい点に気をつけてください。国が毎年公表する土地の値段を「地価公示」といいます。国土交通省の整理では、地価公示に対して路線価は8割程度、固定資産税評価額は7割程度の水準です(国土交通省「主な公的土地評価一覧」)。路線価のある地域なら、課税明細書の数字より相続税の評価のほうが高くなることが多い、と考えておくと外れにくいです。
かかるかどうかの目安を出す|式と計算例
財産を書き出したら、次の式に当てはめます。
(預金+土地+家+株など+保険・退職金の非課税枠を超えた分+足し戻す贈与)-(借入金+葬式費用)
この結果が基礎控除を超えるかどうかを見ます。
仮の数字で1つ例を示します。前提:夫が亡くなり、相続人は妻と子2人の3人。自宅の土地は路線価で見たおおまかな評価が2,800万円、家は固定資産税評価額400万円。預金は1,800万円。夫が保険料を払っていた死亡保険金が1,200万円。借入金はなく、葬式費用は150万円。生前の贈与はなし。
| 項目 | 金額 | メモ |
|---|---|---|
| 土地 | 2,800万円 | 路線価×面積のおおまかな目安 |
| 家 | 400万円 | 固定資産税評価額のまま |
| 預金 | 1,800万円 | 亡くなった日の残高 |
| 死亡保険金 | 0円 | 1,200万円は非課税枠1,500万円(500万円×3人)の範囲内 |
| 葬式費用 | -150万円 | 差し引ける |
| 合計 | 4,850万円 | 基礎控除4,800万円(3人)を50万円上回る |
(金額はすべて説明のための仮の数字です。実際の評価や税額を示すものではありません)
この例では、基礎控除をわずかに超えます。つまり「申告が必要になりそうな水準」です。土地の評価が補正で下がれば、基礎控除を下回る可能性もあります。逆に、預金が少し多いだけで、超える幅は広がります。目安を出したあと、基礎控除との差が数百万円の範囲に収まるなら、一度きちんと評価してもらう意味があります。
「特例で0円」は申告して使う|小規模宅地等の特例と配偶者の軽減
上の例のように基礎控除を少し超える家では、「自宅の土地の特例を使えば税金はかからない」と聞くことがあります。代表的なのが次の2つです。
- 小規模宅地等の特例:亡くなった方が住んでいた自宅の土地などを、一定の家族が引き継ぐ場合に、330㎡までの部分の評価を80%減らせる制度です(国税庁 No.4124)。誰が引き継ぐか、その後も住み続けるかなどの条件があります。
- 配偶者の税額軽減:配偶者が実際に受け取った財産が、1億6千万円か法定相続分(法律で決まった取り分)のどちらか多い額までなら、配偶者に相続税はかからない制度です(国税庁 No.4158)。
見落としやすいのは、どちらも相続税の申告書を出して初めて使える点です。小規模宅地等の特例は、申告書に特例を使う旨を書き、明細書や遺産分割協議書(誰が何を継ぐかを決めた書面)の写しなどを付けて出します。原則として、申告期限までに遺産の分け方が決まっている必要もあります。
国税庁の案内では、申告が必要かどうかは「特例を使う前の金額」で判断します(No.4205の注)。特例を使えば税金が0円になる家でも、使う前の合計が基礎控除を超えていれば、申告は必要です。申告の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。
相続のあと、税務署から「相続税の申告要否検討表」が届くことがあります。書き方は「相続についてのお尋ね」が届いたらの記事で説明しています。
「かかりそう」と思ったら|早めに確かめたい3つのこと
目安を出してみて、基礎控除に近い、または超えそうだと分かったら、その時点で次の3つを確かめておくと安心です。
- 土地の評価を正しく出す:路線価×面積は目安にすぎません。形や道路の付き方で評価は変わります。
- 特例が使える形になっているか:自宅を誰が引き継ぐか、同居しているかで、小規模宅地等の特例が使えるかが分かれます。遺言で決めておくと、分け方の話し合いも進めやすくなります。
- 納税のお金をどこから出すか:相続税は申告と同じ10か月の期限までに、原則として金銭で一度に納めます。財産の多くが土地の家は、現金の置き場所を早めに考えておきます。
相続税がかかるか、いくらになるかといった個別の判断は、税理士の仕事です。当社にご相談いただいた場合は、財産の一覧を一緒に整理したうえで、税の確認は提携の税理士が行います。比べてみた結果、「今は何もしなくてよい」が答えになることもあります。
今日できる一歩
1. 相続人の人数を数え、早見表で基礎控除を確かめる。放棄する人がいても数に入れます。養子がいる場合は上限に注意します。
2. 固定資産税の課税明細書を出して、土地の面積と評価額をメモする。国税庁の路線価図で自宅前の道路の数字も見ておくと、目安の幅が分かります。
3. 財産を1枚の紙に書き出す。預金、土地、家、保険証券、証券会社の残高。おおよその数字で構いません。
相談現場から
よく伺うのは「固定資産税の評価額で計算したら基礎控除の内側だった」というお話です。路線価のある地域では、相続税の評価のほうが高く出ることが多く、見積もりが変わる場合があります。もう一つ多いのが「特例で0円になると聞いたから、申告はしなくてよい」という思い込みです。特例は申告して初めて使えるものです。10か月の期限を早めにカレンダーに書いておくと、慌てずに済みます。
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参考にした公的情報
- 国税庁「No.4152 相続税の計算」
- 国税庁「No.4170 相続人の範囲と法定相続分」
- 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
- 国税庁「No.4602 土地家屋の評価」
- 国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」
- 名古屋国税局「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(PDF)
※本記事は2026年10月時点の一般的な情報の整理です。相続税がかかるかどうか、特例が使えるかどうかは、財産の内容や家族の状況で変わります。個別の判断は、税務署または税理士にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
