四十九日を終えた週末、実家の茶の間で父の通帳と年金の通知を並べました。市役所でもらった手続きの一覧には「準確定申告(4か月以内)」の一行があります。年金だけで暮らしていた父にも必要なのか、そこで手が止まりました。
準確定申告は、亡くなった人のその年の所得税を、家族(相続人)が代わりに申告する手続きです。この記事では、必要かどうかの目安、4か月の期限の数え方、書類と付表、税金が戻るとき、相続税や未支給年金との順番を整理します。内容は2026年10月時点で、国税庁と日本年金機構の公表内容を確かめたものです。
この記事の結論
- 期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内」です。出す先は、亡くなった人の住所地(死亡当時の納税地)の税務署です。
- 年金だけの親に要るかどうかは、国税庁の準確定申告の案内には書かれていません。生前の「申告不要」の条件を目安にして、税務署か税理士に確かめます。
- 医療費などで税金が戻ることがあります。戻ったお金は相続財産になり、納めた所得税は相続税の計算で差し引ける債務になります。
準確定申告とは|亡くなった年の「1月1日から亡くなった日まで」の申告
所得税は、ふつう1月から12月までの1年分を、翌年の2〜3月に申告します。年の途中で亡くなった場合は、その年の1月1日から亡くなった日までの所得と税額を相続人などが計算し、申告と納税をします。これが準確定申告です(国税庁 No.2022)。
日本年金機構の用語解説では、「死亡した方に確定申告が必要な場合」に相続人が行う手続き、と説明されています。亡くなった人すべてに一律で必要になる手続きではありません。
1月1日から3月15日の間に亡くなり、前年分の確定申告もまだだった場合は、前年分もあわせて4か月以内に申告します。
相続人が2人以上いるときは、全員の連名で1通にまとめて出すか、それぞれが別に出します。別々に出した人は、ほかの相続人に申告の内容を知らせる決まりです(国税庁 No.2022)。
必要かどうかの目安|親の暮らし方で見る早見表
要るかどうかの答えは、収入の内訳で変わります。ここでは、家族が「確かめに行く必要があるか」を考えるための目安として整理しました。
| 親の生前の状況 | 目安 | 手元で確かめるもの |
|---|---|---|
| 毎年、確定申告をしていた(アパートや駐車場の賃料、自営の仕事など) | 準確定申告が必要になる可能性が高い | 前年の確定申告書の控え、賃料の入金記録 |
| 年金だけ。年金の収入が年400万円以下で、年金以外の所得が年20万円以下 | 生きていれば「申告不要」に当たる条件。準確定申告にそのまま当てはまるかは税務署か税理士に確認 | 準確定申告用の公的年金等の源泉徴収票 |
| 年金だけだが、亡くなる年に入院や通院が多かった | 申告すると税金が戻る場合がある | 医療費の領収書、支払いが分かる通帳 |
| 前年分の確定申告をしないまま、1月1日〜3月15日に亡くなった | 前年分もあわせて4か月以内に申告 | 前年分の源泉徴収票など |
(国税庁「No.2022」「No.1600」、日本年金機構「準確定申告」の用語解説をもとに作成。2026年10月時点)
年金だけの親の場合
生きている人の場合、公的年金等の収入が年400万円以下で、年金以外の所得が年20万円以下なら、所得税の確定申告はしなくてよいと国税庁は案内しています(No.1600)。
ただ、準確定申告の案内(No.2022)には、年金だけの人をどう扱うかまでは書かれていません。当社が確かめた範囲では、この条件を準確定申告にそのまま当てはめてよいと書いた国税庁の記載は見つかりませんでした。そのため、表の2行目は「申告しなくてよい」と言い切るものではありません。
税務署に電話で聞くときは、亡くなった日、受け取っていた年金の種類と金額、年金以外の収入の有無をメモしておくと、話が早く進みます。
もう一つ、申告が要らない場合でも、申告すれば税金が戻ることがあります。生きている人の「申告不要」も、申告してはいけないという意味ではありません(No.1600)。戻るお金があるかどうかは、このあとの「税金が戻るとき」で確かめてください。年金だけの人の確定申告については、年金受給者の確定申告の記事でくわしく説明しています。
期限は4か月、出す先は親の住所地の税務署
期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内」です。ふつうは亡くなった日に知るので、亡くなった日の翌日から数えます。国税庁の記載例では、12月1日に亡くなった場合の期限は翌年の4月1日です。
| 亡くなった日(その日に知った場合) | 準確定申告の期限 |
|---|---|
| 12月1日 | 翌年4月1日(国税庁の記載例) |
| 8月20日 | 12月20日 |
| 2月10日(前年分の確定申告もまだ) | 6月10日(前年分と、その年の分の両方) |
(国税庁「No.2022」と準確定申告の記載例の数え方「翌日から起算して4か月を経過した日の前日」をもとに作成。期限が土日祝日に重なる場合は、税務署で確かめると安心です)
出す先は、亡くなった人の死亡当時の納税地を受け持つ税務署です。納税地はふつう住所地です。子が遠方に住んでいても、子の住所の税務署ではありません。
作り方にも注意があります。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」では、準確定申告書は作れません。手書きで作るか、e-Taxソフトなどを使います。e-Taxで送る場合は、相続人が1人でも付表が必要です。相続人が2人以上なら、各相続人が内容を確かめて署名した「準確定申告の確認書」も送ります。
年金の源泉徴収票は届くまで2〜3か月
日本年金機構は、死亡届や未支給年金の手続きのあと、準確定申告用の源泉徴収票をおおむね2〜3か月で発送すると案内しています。相続人が死亡届を出した場合は、原則として届け出た人あてに自動で送られます。
4か月の期限に対して、余裕は大きくありません。年金の手続きを早めに済ませておくと、書類待ちで慌てずに済みます。なお、12月の年金支払日から翌年2月の支払日までの間に亡くなった場合は、準確定申告用ではなく通常の源泉徴収票が出ます。
2026年中に亡くなった場合の注意
2026年度の税制改正で、基礎控除の引き上げなどが2026年12月1日から施行されます。国税庁のQ&Aでは、2026年11月30日以前に準確定申告書を出すと、改正後の控除は使われないとしています。
その場合でも、2026年12月1日から2031年12月1日までに「更正の請求」(出した申告の税額を直してもらう手続き)をすれば、改正後の控除を受けられます。期限前なら、出し直し(訂正申告)でも構いません。提出日をいつにするかは家ごとの事情で変わるため、当社にご相談いただいた場合は提携の税理士が確認します。
必要な書類と付表|相続人が2人以上なら全員の確認が要る
書面で出す場合に用意する主なものは次のとおりです。
- 準確定申告書:様式はふつうの確定申告書と同じです。上の余白に「準確定」と書きます。
- 付表:正式な名前は「死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(兼相続人の代表者指定届出書)」です。
- 準確定申告用の公的年金等の源泉徴収票:パートなどの給与があった場合は、その源泉徴収票も。
- 控除のための書類:亡くなるまでに本人が払った医療費の領収書、国民健康保険料などの納付が分かるもの、加入していた保険の控除証明書など。
- 相続人のマイナンバーと本人確認書類:相続人が2人以上なら、全員分が必要です。
- 委任状(準確定申告書用):戻る税金を代表者がまとめて受け取る場合に出します(国税庁 No.2022)。
付表に書くこと
付表には、亡くなった人の住所・氏名・亡くなった日、納める税金か戻る税金の額を書きます。そのうえで、相続人それぞれの住所・氏名・続柄・相続分(遺産を分ける割合)などを並べ、各自が氏名を書きます。相続を放棄した人は書きません。
付表には「相続人の代表者」を決める欄もあります。税務署からの書類を代表して受け取る人のことです。納める税金や戻る税金は、相続分に応じて相続人ごとに割り振ります。
書面で出す場合、相続人が1人なら付表は省略してよいと、国税庁の記載例にあります。ただし、e-Taxで送るときは1人でも必要です。
税金が戻るとき|医療費・保険料と控除の扱い
年金から引かれていた所得税には、医療費控除などは反映されていません。準確定申告で控除を足して計算し直すと、引かれすぎた分が戻ることがあります。国税庁 No.2022 では、控除の扱いが次のように決まっています。
| 控除 | 準確定申告での扱い |
|---|---|
| 医療費控除 | 亡くなった日までに本人が払った医療費が対象。亡くなった後に家族が払った入院費は含めない |
| 社会保険料控除(国民健康保険料、介護保険料など) | 亡くなった日までに本人が払った分が対象 |
| 生命保険料控除・地震保険料控除 | 亡くなった日までに本人が払った分が対象 |
| 配偶者控除・扶養控除 | 亡くなった日の状況で判定する。月割りにはしない |
(国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」をもとに作成。2026年10月時点)
よくあるのは、亡くなる前の数か月に入院していたケースです。入院費を誰がいつ払ったかで扱いが変わるので、通帳と領収書を並べて確かめます。介護にかかった費用のうち医療費控除に入るものは、介護費用・おむつ代と医療費控除の記事にまとめています。
亡くなった後に払った入院費は、準確定申告では使えません。ただ、亡くなったときに残っていた支払い(債務)として、相続税の計算で差し引ける場合があります(国税庁 No.4126)。
戻る税金は、相続人の口座で受け取ります。代表者がまとめて受け取るなら委任状が必要です。4か月を過ぎてから税金が戻ることに気づいた場合、いつまで申告できるかは国税庁の準確定申告の案内では確認できませんでした。気づいた時点で税務署に問い合わせてください。
ほかの手続きとの順番|相続放棄・未支給年金・相続税
準確定申告の前後には、期限のある手続きが続きます。亡くなった日を起点に並べると次のとおりです。
| 目安の時期 | 手続き | 窓口 |
|---|---|---|
| できるだけ早く | 年金を止める手続きと未支給年金の請求(準確定申告用の源泉徴収票の発送につながる) | 年金事務所など |
| 3か月以内 | 相続放棄をするかどうか決める | 家庭裁判所 |
| 4か月以内 | 準確定申告 | 亡くなった人の住所地の税務署 |
| 10か月以内 | 相続税の申告(必要な場合) | 亡くなった人の住所地の税務署 |
(裁判所「相続の放棄の申述」、国税庁「No.2022」「No.4205」、日本年金機構の案内をもとに作成。3か月・4か月・10か月は、いずれも相続の開始などを知ったときから数えます)
未支給年金は、亡くなった人の所得ではありません。請求して受け取った家族自身の所得(一時所得)として扱われます(国税庁 No.1605)。請求の流れは未支給年金の案内が届いたらの記事で説明しています。
相続税との関係も押さえておきます。国税庁は、準確定申告で戻った所得税は亡くなった人の財産なので相続財産に入る、と案内しています。反対に、準確定申告で納めた所得税は、相続財産から差し引ける債務になります。介護保険料などが戻った場合も、同じく相続財産です(国税庁「相続税の申告の誤りやすい事例」)。
相続税がかかるかどうかの目安は、相続税の基礎控除の早見表で確かめられます。税務署から書類が届いた場合は、「相続についてのお尋ね」の記事も参考にしてください。
相続放棄を考えている場合は、早めに方針を決めておくと準確定申告も進めやすくなります。付表には放棄した人を書かないため、誰が申告に加わるかが変わるからです。
今日できる一歩
1. 年金の手続きが済んでいるか確かめる。準確定申告用の源泉徴収票は、手続きのあとおおむね2〜3か月で届きます。
2. 前年の確定申告書の控えを探す。毎年申告していたかどうかが、準確定申告が要るかの手がかりになります。
3. 4か月の期限をカレンダーに書き、医療費の領収書を1つの封筒にまとめる。亡くなるまでに本人が払った分と、亡くなった後に家族が払った分は分けておきます。
相談現場から
よく伺うのは「年金だけだったから、何もしなくていいと思っていた」というお話です。申告が要るかどうかと、税金が戻るかどうかは別の話で、入院が長かった年は確かめる価値があります。もう一つ多いのが、源泉徴収票が届くのを待っているうちに期限が近づく場面です。年金の手続きを早めに済ませておくと、落ち着いて準備できます。
あわせて読みたい
- 年金受給者の確定申告|400万円の不要条件と申告したほうがよい人(2026年分)
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- 介護費用・おむつ代は医療費控除の対象?施設と親の分を払った場合【2026年分】
参考にした公的情報
- 国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
- 国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」
- 国税庁「所得税及び復興特別所得税の準確定申告のe-Tax対応について」
- 国税庁「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A」(PDF)
- 国税庁「相続税の申告の誤りやすい事例(準確定申告の還付金)」(PDF)
- 日本年金機構「年金受給者が亡くなり手続きをしましたが、どれくらいで準確定申告用の源泉徴収票が発送されますか。」
※本記事は2026年10月時点の一般的な情報の整理です。準確定申告が必要かどうか、どの控除が使えるかは、亡くなった方の収入の内訳や家族の状況で変わります。個別の判断は、税務署または税理士にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
