亡くなった母の通帳を整理していたら、自分や孫の名前の通帳と印鑑が一緒に出てきた。名義は家族でも、お金を積み立てていたのは母だった。これは相続税の申告に入れるのか、入れなくてよいのか。こうした家族名義の口座は「名義預金」と呼ばれ、相続税で迷いやすい財産の一つです。
この記事では、名義預金が相続税の対象になるかの見分け方を、2026年10月時点の国税庁の資料と民法で確かめられる範囲で整理します。あわせて、相続税で銀行預金をいくらと見るか(残高と既経過利息)も、計算例つきで説明します。
先に結論:名義より「誰のお金か」。銀行預金は亡くなった日の残高と利息で評価します
この記事の結論
- 名義預金も相続税の対象:家族の名前の口座でも、亡くなった人がお金を出し、管理していたなら、亡くなった人の財産として申告します(国税庁)。
- 見分けるポイント:お金を出したのは誰か、通帳と印鑑を誰が管理していたか、名義人が「もらった」と知っていたか(贈与の合意)です。
- 銀行預金の評価:亡くなった日の残高に、その日に解約したら受け取れる利息(税金分を引いた額)を足して評価します。普通預金は利息が少額なら残高だけで構いません(国税庁)。
相続税の申告がそもそも要るかは、名義預金を含めた財産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかで決まります。目安は相続税はいくらから?で確かめられます。
名義預金とは?国税庁が示している例
名義預金は法律の言葉ではありません。口座の名前は家族なのに、中身のお金は実際には亡くなった人のもの、という預金を指す呼び方です。
国税庁は、相続税の申告で誤りやすい例として、次のような場面を挙げています。父が亡くなったあと、自宅の金庫から子の名義の定期預金証書が見つかった。その定期預金は父の収入から預け入れられ、父が管理・運用していた。子は父から贈与された覚えがない。この場合、子の名義でも父の財産と認められるため、申告書(第11表の付表3)に書く必要があるとしています。
国税庁の考え方の要点は、「名義が誰かに関係なく、亡くなった人が資金を出しているなどの理由で、亡くなった人の財産と認められるものは相続税の対象」ということです。
名義預金か、贈与されたお金か|判定の早見表
家族名義の口座が「名義人のもの」と言えるには、亡くなった人から名義人へ、きちんと贈与があったことが必要です。民法では、贈与は「あげる」側の意思表示と、「もらう」側の受け入れの両方で成り立ちます(民法549条)。名義人が口座の存在を知らなければ、受け入れたとは言いにくくなります。
迷いやすい3つのパターン
- 夫の収入から貯めた、妻名義の預金:家計をやりくりして妻名義で貯めたお金でも、元が夫の給料で、夫婦の間で「あげる・もらう」の合意がなければ、夫の財産と見られやすくなります。妻自身のパート収入や、親から相続したお金を入れた分は、妻のお金です。入金の元を分けて書き出しておくと整理しやすくなります。
- 親が作った、子の名義の定期預金:国税庁が誤りやすい例として示している形です。親の収入で預け入れ、親が管理していて、子が贈与を受けた覚えがなければ、親の財産として申告します。
- 祖父母が積み立てた、孫の名義の口座:孫(未成年なら親権者)が受け取ることを知っていたか、通帳を誰が持っていたかがポイントです。祖父母が通帳を持ったままなら、名義預金と見られやすくなります。
わが家の口座を確かめるチェックリスト
- □ 家族名義の通帳や証書が、亡くなった人の手元(金庫・タンス・貸金庫)から出てきた
- □ 届出印が、亡くなった人の口座と同じ印鑑だ
- □ 名義人がその口座を使ったことがない、または存在を知らなかった
- □ 入金の元が、亡くなった人の口座からの振替や、亡くなった人の収入だ
- □ 贈与の契約書や、贈与税の申告の控えが見当たらない
当てはまる項目が多いほど、亡くなった人の財産として申告に入れる方向で考えます。迷う口座は、通帳と入金の記録を持って税理士に相談すると確実です。
亡くなった後にやってはいけない順番
名義預金かもしれない口座が見つかったとき、慌てて動くと、あとで説明がつかなくなることがあります。避けたい行動を、起こりやすい順に並べます。
- 名義人の口座だからと、すぐに引き出したり解約したりする:亡くなった人の財産かどうかを決める前にお金を動かすと、ほかの相続人との話し合いがこじれます。
- 「なかったこと」にして申告から外す:国税庁が誤りやすい例として挙げている典型です。あとで見つかれば加算税と延滞税がかかります。
- 日付をさかのぼって贈与契約書を作る:事実と違う書類を作ると、偽りの行為と判断されるおそれがあります。その場合、税務署がさかのぼれる期間は7年になり、重加算税の対象にもなり得ます(国税通則法68条・70条)。
まずは口座の一覧を作り、通帳・証書・届出印を一か所にまとめ、相続人全員で中身を確かめるところから始めます。亡くなった人の口座の探し方は亡くなった親の銀行口座の調べ方にまとめています。
相続税の調査は実際に行われており、国税庁によると令和6事務年度は9,512件の実地調査で、7,826件(82.3%)に申告漏れなどが見つかっています(国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」)。家に置いていた現金の扱いと、税務署に分かる仕組みはタンス預金の相続で説明しています。
相続税で銀行預金はどう評価する?残高証明書と既経過利息
名義預金かどうかが決まったら、次は「いくらで申告するか」です。国税庁の案内では、預貯金は次のように評価します。
- 基本:亡くなった日の預入残高+その日に解約したら受け取れる利息(既経過利子)。利息は、源泉徴収される税金の分を差し引いた額です。
- 普通預金など:定期預金・定期郵便貯金・定額郵便貯金以外の預金は、既経過利子が少額なら、残高だけで評価します。
定期預金の計算例
預金の利息には、所得税・復興特別所得税15.315%と住民税5%、合わせて20.315%が源泉徴収されます(国税庁)。説明用の数字で計算してみます。
残高証明書を頼むときに伝えること
評価の土台になるのは、金融機関が出す「亡くなった日現在」の残高証明書です。定期預金があるときは、既経過利息の計算も合わせて出してもらえるか、依頼の際に「相続税の申告に使う」と伝えて確かめます。取り方・手数料・日数は銀行の残高証明書の取り方にまとめています。名義預金にあたる家族名義の口座も、同じように亡くなった日の残高で評価します。
家族名義の口座をどう扱うか、ご家族だけで判断がつかないときは、30分の無料相談で通帳を見ながら一緒に整理できます。愛知県内はご自宅への訪問もできます。その場で何かをお決めいただく必要はありません。
生前に名義預金にしないためにできること
子や孫のためにお金を残したい気持ちから、家族名義で積み立てる方は少なくありません。名義人のお金として認められる形にするには、贈与として整えておくことが基本です。
- あげる・もらうを、お互いに確かめる:贈与契約書を作り、双方が署名しておくと、合意があったことを示しやすくなります。
- 通帳と印鑑は名義人に渡す:名義人が自分で管理し、使える状態にします。
- 年110万円を超えたら贈与税の申告をする:基礎控除の考え方は生前贈与はいくらまで非課税?で説明しています。
なお、亡くなる前の一定期間の贈与は、相続財産に足し戻して相続税を計算する決まりがあります。期間の考え方は生前贈与の加算7年はいつから?で確かめられます。親の預金のことを元気なうちに整理したい方は、3分でできる相続対策診断もお使いください。
今日できる一歩
見つかった通帳と証書を、名義・金融機関・支店・届出印・置いてあった場所の5つで一覧にする。家族名義の口座には印をつけ、名義人本人に「知っていたか」を聞いておく。
よくある質問
名義預金は、相続税の申告に入れないといけませんか
亡くなった人がお金を出して管理していたなど、亡くなった人の財産と認められるなら、家族名義でも申告に入れます。国税庁は、子の名義の定期預金を申告書に書かなかった例を、誤りやすい事例として示しています。
孫名義の口座に毎年お金を入れていました。名義預金になりますか
入れたお金が孫への贈与として成り立っていれば、孫のお金です。孫(未成年なら親権者)が受け取ることを知っていたか、通帳を誰が管理していたかで見え方が変わります。通帳を祖父母が持ったままで、孫が知らなかった場合は、名義預金と見られやすくなります。
名義預金は何年前の分までさかのぼって見られますか
名義預金は「亡くなった日に、亡くなった人の財産だったか」で判断するため、何年前に入れたお金かは関係ありません。古い口座でも、亡くなった人の財産と認められれば、亡くなった日の残高で申告に入ります。
相続税で、銀行預金は残高どおりの金額ですか
亡くなった日の残高に、その日に解約したら受け取れる利息(税金分を引いた額)を足した額です。普通預金などは、利息が少額なら残高だけで評価します。定期預金は利息の分を忘れずに足します(国税庁)。
名義預金を申告したら、名義人の口座のお金はどうなりますか
亡くなった人の財産として扱う以上、ほかの遺産と同じく、相続人の話し合いで誰が受け取るかを決めます。遺産分割協議書にもその口座を書いておくと、あとで行き違いが起きにくくなります。
家族名義の口座が名義預金かどうか、誰に相談すればいいですか
相続税の申告に関わるため、税理士に相談するのが基本です。通帳、入金の記録、贈与契約書や贈与税の申告の控えがあれば持参します。相続税に詳しい税理士の探し方は相続に強い税理士の選び方にまとめています。
参考にした公的情報
- 国税庁「誤りやすい事例⑥ 申告書第11表の付表3関係 被相続人以外の名義の財産(預貯金)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sozoku-tokushu/souzoku-ayamarijireishu/ayamarijirei6.pdf - 国税庁 相続税の申告要否判定コーナー「預貯金の評価方法」
https://www.keisan.nta.go.jp/oshirase/sozoku/yohihantei/genkinyotyokin/hyokahoho.html - 国税庁 タックスアンサー「No.1310 利息を受け取ったとき(利子所得)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1310.htm - 国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」(2025年12月)
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/sozoku_chosa/pdf/sozoku_chosa.pdf - e-Gov法令検索「民法」第549条
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - e-Gov法令検索「国税通則法」第68条・第70条
https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000066
※本記事は2026年10月時点の法令と国税庁の公開情報をもとにした一般的な整理です。家族名義の口座が誰の財産かは、資金の出どころや管理の実態など全体の事実関係で判断されます。個別の申告や税額については、税理士または税務署にご確認ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
