父が亡くなり、母と子どもで遺産の分け方を話し合っている。「母が多くもらえば相続税はかからないらしい」と聞いた。その話の元になっているのが「配偶者の税額軽減」です。
とても大きな軽減ですが、申告しないと使えず、分け方が決まっていることも条件です。さらに、母が亡くなったときの相続(二次相続)では使えません。この記事では、使える条件、申告と期限、二次相続での注意を、2026年10月時点の国税庁の案内で整理します。
先に結論:配偶者の税額軽減は「申告して使う」制度です
この記事の結論
- どこまで:残った配偶者が実際に取得した遺産が、1億6千万円か、配偶者の法定相続分のどちらか多い額までなら、配偶者に相続税はかかりません。
- 条件:亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に申告すること。税額が0円になる場合も申告が必要です。分け方が決まっていない財産は、原則として対象外です。
- 注意:残った親が亡くなる二次相続では、配偶者がいないので使えません。一次相続で「全部を残った親に」とすると、家族全体の税金が増えることがあります。
親の片方が亡くなった後に確かめたいことの全体像は、二次相続とは?親の一人が亡くなったら確かめる5つにまとめています。この記事は、その中の「配偶者の税額軽減」に絞って詳しく見ていきます。
使える人・使えない人の早見表
対象は「亡くなった人の配偶者」です。ここでいう配偶者は、婚姻届を出している人に限られます。
いくら軽くなるか:1億6千万円と法定相続分
相続税がかかるのは、遺産が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるときです。超える場合でも、配偶者が取得した分は、次のどちらか多い額まで相続税がかかりません。
たとえば遺産が1億円なら、配偶者が全部を取得しても1億6千万円以内なので、配偶者の相続税は0円になります。遺産が4億円で相続人が配偶者と子なら、法定相続分は2億円です。配偶者の取得が2億円までなら、配偶者に相続税はかかりません。
ただし、軽くなるのは配偶者の分だけです。子どもが取得した分には、通常どおり相続税がかかります。そもそも相続税がかかるかどうかの目安は、相続税はいくらから?基礎控除の早見表で確かめられます。
申告が必要な理由と、手続きの流れ
「税金が0円なら何もしなくていい」と考えがちです。しかし配偶者の税額軽減は、申告書に書いて初めて使える制度です。国税庁は、軽減によって納める税額が0円になる人も、申告書の提出が必要と案内しています。家族のうち誰が申告書を出すのか、申告が必要ない家との分かれ目は相続税の申告は必要か(判定表と計算例)にまとめています。
- 財産と借金を一覧にする。預金、自宅、株、保険金などを書き出し、基礎控除を超えそうか確かめます。国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」でもおおよその判定ができます。
- 戸籍で相続人を確定する。法定相続人の数で、基礎控除と法定相続分が決まります。
- 遺言の有無を確かめ、遺産の分け方を話し合う。このとき、二次相続の税金も一緒に考えます(後の章で説明します)。
- 遺産分割協議書を作り、相続人全員が署名・実印で押印する。印鑑証明書もそろえます。
- 相続税の申告書に税額軽減の明細を書いて提出し、納税する。提出先は、亡くなった人の住所地を所轄する税務署です。期限は亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。
申告に添える書類のチェックリスト
- □ 戸籍謄本など(相続人が分かるもの。法定相続情報一覧図の写しで代えられる場合があります)
- □ 遺言書の写し(遺言がある場合)
- □ 遺産分割協議書の写し
- □ 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押した印のもの)
- □ 分け方が決まっていない財産があるときは「申告期限後3年以内の分割見込書」
- □ 財産の評価に使う資料(預金の残高証明書、固定資産税の評価証明書など)
戸籍の束の代わりになる証明は、法定相続情報一覧図の取り方で手順を説明しています。書類の名前や添付の要否は、申告する年の国税庁の「相続税の申告のしかた」で確かめてください。立場別・特例別の一覧と取りに行く順番は、相続税の申告に必要な書類にまとめています。
期限は10か月:分け方が決まらないとき、過ぎたとき
相続税の申告期限は、話し合いがまとまらなくても延びません。分け方が決まっていないときは、法定相続分で取得したものとして計算し、いったん申告と納税をします。このとき配偶者の税額軽減は使えません。
申告期限に遅れたり、少なく申告したりすると、本来の税金に加えて加算税や延滞税がかかることがあります。期限の数え方の例は、相続税の申告期限10か月の数え方で詳しく扱っています。
申告のときに分割見込書を出していないと、後から分けても配偶者の税額軽減は原則として受けられません。話し合いが長引きそうなときほど、申告のときに見込書を付けておくことが大切です。
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二次相続では使えない:「全部を残った親に」の落とし穴
一次相続で残った親が多く取得すると、そのときの税金は小さくなります。けれども、その財産は残った親の財産に上乗せされます。残った親が亡くなったとき、子どもだけが相続人です。配偶者の税額軽減はなく、相続人が1人減るぶん基礎控除も600万円小さくなります。
国税庁の速算表を使った、ごく単純な一般例で比べてみます。父の正味の遺産1億円、相続人は母と子2人、母自身の財産は2,000万円とします。
この例では、一次相続の税金を0円にしたAのほうが、二次相続まで合わせると多くなります。ただし、どちらが良いかは税金だけでは決まりません。残った親がこの先の生活費や介護費に使うお金、住み続ける自宅、相続までの年数で答えが変わります。分け方を5通りに広げた比較は、一次相続の分け方で二次相続の税金は変わるで詳しく見ています。
なお、一次相続で残った親が相続税を納めていて、10年以内に二次相続が起きたときは「相次相続控除」で税額が一部差し引かれます。差し引ける額は1年ごとに10%ずつ減ります。Aのように一次で税額が0円なら、この控除は使えません。
子どもがいない夫婦の場合は、事情が大きく変わります。遺言での備え方は財産を全部妻(夫)に相続させたい場合をご覧ください。
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読者が損しやすい点
- 「0円だから申告しない」。配偶者の税額軽減は、申告書に書かなければ受けられません。軽減後に0円でも、10か月以内の申告が必要です。
- 分割見込書の付け忘れ。話し合いが10か月に間に合わないときに付けておかないと、後から分けても軽減を受けられなくなります。
- 更正の請求の4か月を過ぎる。分割が決まってから4か月以内に請求しないと、払いすぎた税金を取り戻す機会を逃します。
- 一次相続だけで決める。「全部を残った親に」は、二次相続で子どもの税金が増える場合があります。両方を並べて比べます。
- 財産を出し忘れる。隠したり偽ったりした財産は軽減の対象外です。うっかりの漏れでも、後で修正申告が必要になります。
- 内縁関係のまま。婚姻届を出していないと、長く連れ添っていても使えません。
今日できる一歩
- 亡くなった日から10か月後の日付を数え、カレンダーに書き込む。
- 亡くなった親と残った親、それぞれの財産(預金・自宅・保険金など)をざっくり一覧にする。
- 国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」で、申告が要りそうかを確かめる。
よくある質問
相続税が0円になるなら、税務署に何も出さなくていいですか
配偶者の税額軽減を使って0円になる場合は、申告書の提出が必要です。一方、遺産の合計が基礎控除の範囲内なら、申告も納税も必要ありません。どちらに当たるかで対応が分かれます。
分け方の話し合いが10か月に間に合いません
法定相続分で取得したものとして、期限までに申告と納税をします。その申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を付けます。3年以内に分け方が決まれば、決まった日の翌日から4か月以内の更正の請求で軽減を受けられます。
内縁の妻でも使えますか
使えません。国税庁の通達で、配偶者は婚姻の届出をした人に限るとされています。内縁の人は法律上の相続人にもなりません。財産を残したい場合は、遺言などの準備を専門家に相談してください。
残った親が亡くなったときも、同じ軽減は使えますか
使えません。二次相続では亡くなった人に配偶者がいないためです。相続人が子どもだけになり、基礎控除も小さくなります。一次相続の分け方を決めるときに、二次相続の見込みも並べておくと判断しやすくなります。
1億6千万円を超えて取得すると、全額に税金がかかりますか
全額ではありません。1億6千万円か法定相続分の多いほうまでは軽減され、それを超えた部分に対応する税額がかかる仕組みです。具体的な税額は、家族構成と財産の内容で変わります。個別の計算は税務署や税理士にご確認ください。
参考にした公的情報
- 国税庁 タックスアンサーNo.4158「配偶者の税額の軽減」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4205「相続税の申告と納税」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4208「相続財産が分割されていないときの申告」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4208.htm - 国税庁 相続税の申告要否判定コーナー「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」
https://www.keisan.nta.go.jp/oshirase/sozoku/yohihantei/yohihantei/haigusha.html - 国税庁 相続税法基本通達 第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》関係
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/06.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4155「相続税の税率」、No.4168「相次相続控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
※本記事は2026年10月時点の国税庁の公開情報をもとにした一般的な整理です。税額の例は速算表に当てはめた単純な試算で、実際の税額や適用の可否は、財産の内容や家族構成によって異なります。ご自身の申告については、所轄の税務署または税理士にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
