12月の銀行の窓口で、孫の口座に今年の110万円を振り込む。何年も続けてきたことです。ところが最近、「生前贈与は7年前まで相続財産に戻される」という話を聞いて、振込用紙を書く手が止まった。そんな声をよく伺います。
この記事では、2023年度の税制改正で何が変わったのか、2027年1月からどう影響が出始めるのか、誰への贈与が足し戻されるのかを、国税庁の公開情報をもとに整理します。税金がいくらになるかの計算ではなく、「仕組み」を知るための記事です。
何が変わったのか:足し戻しの期間が3年から7年に
毎年110万円までの贈与なら、贈与税はかかりません。これは「暦年課税(1年ごとに計算する、ふつうの贈与税)」の基礎控除です。
ただし、相続税には別の決まりがあります。亡くなる直前に贈与した財産は、相続税を計算するときに相続財産へ足し戻すのです。これを「生前贈与加算」といいます。
2023年度(令和5年度)の税制改正で、この足し戻しの期間が「亡くなる前3年」から「亡くなる前7年」に延びました。対象は2024年1月1日以後の贈与です。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 足し戻す期間 | 亡くなる前3年以内 | 亡くなる前7年以内 |
| 対象になる贈与 | 2023年12月31日までの贈与 | 2024年1月1日以後の贈与 |
| 延びた4年分の扱い | (なし) | 合計100万円までは足し戻さない |
| 足し戻した贈与に払った贈与税 | 相続税から差し引く | 相続税から差し引く(同じ) |
(2026年10月時点/国税庁タックスアンサーNo.4161をもとに整理)
見落としやすいのは、110万円以下で贈与税がかからなかった贈与も、期間内なら足し戻しの対象になる点です。「非課税だったから相続とは関係ない」わけではありません。
一方で、延びた4年分(亡くなる前3年より前の贈与)には、緩める扱いがあります。その4年分の合計から100万円を差し引いて足し戻すのです。たとえば延びた4年の間に毎年110万円、合計440万円を贈与していたなら、足し戻すのは340万円という計算になります。
いつの相続から影響が出るのか:亡くなった時期別の早見表
「7年」はいきなり始まるわけではありません。対象が2024年1月1日以後の贈与なので、期間は相続の時期に合わせて少しずつ延びていきます。
| 贈与した人が亡くなった日 | 足し戻す贈与の範囲 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 2026年12月31日まで | 亡くなる前3年以内 | これまでと同じ3年 |
| 2027年1月1日〜2030年12月31日 | 2024年1月1日から亡くなった日まで | 約3年から7年へ、年ごとに延びる |
| 2031年1月1日以後 | 亡くなる前7年以内 | 完全に7年 |
(2026年10月時点/国税庁タックスアンサーNo.4161の経過措置をもとに整理)
たとえば2028年6月に亡くなった場合、2024年1月1日から亡くなった日までの約4年半の贈与が対象です。2030年12月に亡くなれば、ほぼ7年分になります。
今年(2026年)と来年(2027年)の贈与で考えると、ポイントは1つです。贈与した人がその贈与から7年以内に亡くなれば、足し戻しの範囲に入る、ということです。
なお、2023年12月31日までの贈与は、改正前のルール(亡くなる前3年以内)のままです。2023年以前の贈与が7年分さかのぼって戻されることはありません。
誰への贈与が足し戻されるのか:孫は原則対象外、ただし例外あり
足し戻しの対象になるのは、「相続や遺贈(遺言で財産をもらうこと)で財産を受け取った人」への贈与です。贈与を受けた人が、相続のときに何も受け取らなければ、原則として対象になりません。
| 贈与を受けた人 | 足し戻しの対象か |
|---|---|
| 子・配偶者で、相続で財産を受け取った | 対象 |
| 孫・子の配偶者などで、相続でも遺言でも何も受け取らない | 原則として対象外 |
| 孫が遺言で財産を受け取る | 対象になりうる |
| 孫が生命保険金の受取人として保険金を受け取る | 対象になりうる |
| 孫が養子になっていて、相続で財産を受け取る | 対象(相続人になるため) |
(2026年10月時点の一般的な仕組み/国税庁タックスアンサーNo.4161・No.4114をもとに整理)
生命保険金の扱いにも注意が要ります。亡くなった人が保険料を払っていた死亡保険金は、税金の計算上「相続などで取得した財産」とみなされます。そのため、孫が保険金の受取人になっていると、生前に孫へ渡した贈与も足し戻しの対象になることがあります。
孫への贈与を続けている方は、手元の保険証券で受取人の欄を一度見ておくと、全体の流れがつかみやすくなります。受取人の欄の読み方は契約者・被保険者・受取人と税金の早見表にまとめています。
また、相続時精算課税(後で説明する別の仕組み)を選んで贈与を受けている人は、この足し戻しとは別の計算になります。
これからの贈与で気をつけたい基本:記録・通帳・名義預金
7年ルールとは別に、贈与そのものが「贈与」と認められるかどうかも大切です。形だけの贈与だと、相続のときに「名義預金(名前だけ家族で、実際は贈与した人のお金)」と見られることがあります。そうなると、期間に関係なく相続財産として扱われます。
一般的に気をつけたいのは、次の点です。
- 「あげる」「もらう」を双方が分かっている:贈与は、渡す人と受け取る人の合意で成り立ちます。毎年、日付・金額・双方の署名を入れた贈与契約書を作っておくと記録になります。
- 現金の手渡しより、振込で残す:渡した人の口座から受け取る人の口座へ振り込めば、日付と金額が通帳に残ります。
- 通帳・印鑑・キャッシュカードは受け取った人が管理する:祖父母が孫名義の通帳を預かったままでは、本人のお金と言いにくくなります。
- 孫が小さいときは、孫の親が受け取る形にする:未成年の孫への贈与は、親権者(孫の親)が受け取りを承諾し、口座も親が管理するのが一般的です。
- 110万円を超えた年は、受け取った人が申告する:暦年課税では、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までが申告と納税の期間です。
振込の手順や契約書の書き方は生前贈与のやり方|110万円の非課税を正しく使う手順で、現金で渡す場合の注意は相続や贈与の現金手渡しの記事で詳しく書いています。
もうひとつの選び方:相続時精算課税と年110万円の基礎控除
生前贈与には、暦年課税のほかに「相続時精算課税」という仕組みがあります。贈与のときは税金を軽くしておき、亡くなったときに相続税でまとめて精算する考え方です。
この仕組みにも、2024年1月1日以後の贈与から年110万円の基礎控除ができました。基礎控除の範囲の贈与は、亡くなったときに相続財産へ足し戻しません。ここが暦年課税の7年ルールと違うところです。
| 項目 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 使える人 | 誰からの贈与でも | 60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫へ(贈与の年の1月1日時点) |
| 年110万円の基礎控除 | 受け取る人ごとに年110万円 | 受け取る人ごとに年110万円(2024年から。精算課税で贈与する人が複数いるときは、110万円を分け合う) |
| 110万円を超えた分 | 金額に応じた税率で贈与税 | 累計2,500万円までは特別控除、超えた分は一律20% |
| 亡くなったときの足し戻し | 亡くなる前の一定期間(最長7年)の贈与 | 基礎控除分を除いた贈与を、期間に関係なく足し戻す |
| 始め方 | 手続きは不要(110万円超は申告) | 最初の贈与の翌年2月1日〜3月15日に届出書を提出 |
| 途中で変えられるか | ― | 一度選ぶと、その人からの贈与は暦年課税に戻せない |
(2026年10月時点/国税庁タックスアンサーNo.4103・No.4402をもとに整理)
表だけを見ると、相続時精算課税のほうが分かりやすく感じるかもしれません。ただ、一度選ぶと戻せないこと、110万円を超えた分は期間に関係なく足し戻されることなど、長い目で見て判断する点が多い仕組みです。
「うちはどちらがいいか」は個別の判断:税理士に確認したいこと
暦年課税を続けるか、相続時精算課税を選ぶか。贈与自体を続けるか。答えは家ごとに違います。相続税がかからない家であれば、足し戻しを気にする場面はほとんどありません。
判断の材料になるのは、主に次のようなことです。
- 財産の全体(預金・自宅・保険など)と、相続税がかかりそうかどうか
- 贈与する人の年齢と、これから何年くらい贈与を続けるつもりか
- 受け取る人が相続人(子・配偶者)か、相続人ではない孫か
- 渡したいのが現金か、自宅や土地か
- 遺言や生命保険で、孫に財産が渡る予定があるか
税額の計算や、どちらを選ぶかの判断は税理士の仕事です。当社にご相談いただいた場合は、財産と家族の状況を整理したうえで、提携の税理士が確認します。比べた結果、「今の贈与をそのまま続ける」「特に何もしなくてよい」が答えになることもあります。
孫へのお金の渡し方を贈与以外も含めて比べたい方は孫にお金を残す方法|贈与・保険・遺言・教育資金の向き不向きも参考にしてください。
今日できる一歩
1. 2024年1月以後の贈与を1枚に書き出す。日付・渡した相手・金額・渡し方(振込か現金か)を並べるだけで十分です。通帳の振込記録を見ながら書くと早く済みます。
2. 受け取った人の通帳を、誰が持っているか確かめる。孫名義の通帳や印鑑を祖父母が預かっていたら、孫の親に渡すかどうかを家族で話しておきます。
3. 保険証券の受取人欄を見ておく。孫が受取人になっていないかを確認すると、足し戻しの範囲を考えるときの材料になります。
相談現場から
よく伺うのは「110万円以内なら、相続のときも関係ない」という思い込みです。実際には、贈与税がかからなかった贈与も、期間内なら相続財産に足し戻します。もうひとつ多いのが、孫名義の通帳を祖父母が保管しているという場面です。契約書があっても、通帳の管理の実態から名義預金と見られることがあるので、記録と管理をそろえておくことをお伝えしています。
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参考にした公的情報
- 国税庁 タックスアンサーNo.4161「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4103「相続時精算課税の選択」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4402「贈与税がかかる場合」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm - 国税庁 タックスアンサーNo.4114「相続税がかかる財産」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm
※本記事は2026年10月時点の国税庁の公開情報(法令等基準日:令和8年4月1日現在)にもとづく一般的な仕組みの説明です。税額の計算や、贈与の方法・課税方式の選択は個別の事情で異なります。実際の判断は税理士または税務署にご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
