祖父名義の土地が、祖父が亡くなったときのまま。分け方を決めないうちに、父も亡くなった。叔父から「協議書を作るから判を押して」と言われたけれど、父の欄には誰が名前を書くのか分からない。この状態を「数次相続」といいます。
先に答えを書きます。祖父の遺産の話し合いには、生きている祖父の相続人(叔父・叔母など)と、父の相続人全員(母と子)が加わります。協議書では、母と子が「亡○○相続人」という肩書で署名し、実印を押します。この記事では、誰が署名するかの判定表、分け方で相続登記が1件で済むか2件になるか、協議書の記載例、期限と費用を、2026年10月時点の法務局・国税庁の案内をもとに整理します。
先に結論:父の欄は、父の相続人全員が「亡○○相続人」として署名します
この記事の結論
- 誰が署名するか:祖父の相続人のうち生きている人と、父の相続人全員です。母は、祖父と血がつながっていなくても加わります。
- 肩書:「亡甲野一郎相続人 甲野花子」のように、亡くなった父の名前を入れて、誰の立場で署名したかが分かるように書きます。
- 登記の件数:祖父の不動産を「父1人が取得した」形にまとめれば、祖父から今の相続人へ1件で申請できます。父と叔父の共有にすると、1件ではできません(法務局の記載例の注意書き)。
この記事では、次の家族で説明します(名前は仮のものです)。祖父は甲野太郎。祖母は祖父より先に亡くなっています。祖父の子は、父の甲野一郎と叔父の甲野二郎の2人。祖父の遺産を分ける前に父が亡くなり、父の相続人は母の甲野花子と子の甲野春男です。
誰が協議書に署名するか:亡くなった順番で変わる判定表
祖父と父のどちらが先に亡くなったかで、呼び方も署名する人も変わります。いちばん違うのは、母(父の妻)が祖父の遺産の話し合いに入るかどうかです。
| 亡くなった順番 | 呼び方 | 祖父の遺産の話し合いに入る人 | 母(父の妻) |
|---|---|---|---|
| 祖父が先、父が後(祖父の遺産を分ける前に父が死亡) | 数次相続 | 叔父・叔母など祖父の子で生きている人+父の相続人全員(母・子) | 入る(父の相続人として) |
| 父が先、祖父が後 | 代襲相続(民法887条2項) | 叔父・叔母など+父の子(祖父から見た孫) | 入らない |
| 祖父が先。父の生前に分け方は決まっていて、登記だけしていない | 話し合いは済んでいる | 新しく話し合う必要はない。当時の協議書と印鑑証明書を探す | ―(見つからないときの扱いは司法書士に相談) |
数次相続で父の相続人が加わるのは、父が持っていた「祖父の相続人としての立場」も、父の財産と一緒に引き継ぐからです(民法896条)。そのため母も、叔父と血がつながっていなくても署名します。父の相続人が1人でも抜けると、話し合いは成り立ちません。
父の相続人に未成年の子がいるとき
母と未成年の子が、ともに父の相続人として同じ話し合いに加わると、母が子の代わりに署名できない場合があります。この場合は、家庭裁判所で子の特別代理人を選んでもらう手続きが必要になることがあります(裁判所「特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)」)。協議書を作る前に、家庭裁判所か司法書士に確かめてください。
分け方で変わる、相続登記の件数(法務局の記載例による)
法務局は、数次相続の登記申請書の記載例を公開しています。その解説には「最終の相続以外の相続について、共同相続人数名が権利を取得している場合には、一件の申請では登記することができません」とあります。つまり、祖父の不動産を誰に渡す形にするかで、申請の手間が変わります。協議書を書く前に、ここを家族で決めておくと迷いません。
| 祖父の不動産の分け方 | 登記の申請 | 申請書の「原因」の書き方 |
|---|---|---|
| 叔父(二郎)が取得する | 祖父から叔父へ1件。通常の遺産分割の記載例を使う | 令和○年○月○日相続(祖父が亡くなった日) |
| 父(一郎)が取得し、父の相続で春男が取得する | 祖父から春男へ1件で申請できる | 1行目「令和○年○月○日甲野一郎相続」、2行目「令和○年○月○日相続」 |
| 父が取得し、父の相続で母と春男が2分の1ずつ | 1件で申請できる(法務局の記載例がこの形) | 上と同じ2行。相続人の欄に「持分2分の1」を書く |
| 父と叔父が2分の1ずつ取得する | 1件ではできない | 祖父から父・叔父への登記をしてから、父の持分を次の登記で移す |
原因の1行目は、祖父が亡くなった日と、間に入る父の名前です。法務局の記載例では「平成2年3月21日法務春夫相続」のように書き、名前に「亡」は付けていません。2行目は父が亡くなった日です。申請書の綴じ方や欄ごとの書き方は、相続登記の申請書の書き方と綴じ方で説明しています。
数次相続の遺産分割協議書の記載例
祖父の不動産を父が取得し、父の相続で春男が受け継ぐ形の例です。1枚の中に、祖父の遺産の分け方(第1)と、父の相続での分け方(第2)を続けて書いています。法務局が公開している数次相続の記載例は登記申請書のもので、協議書の肩書の書き方までは示されていません。下は一般的な書き方の一例です。出す前に、管轄の法務局の登記手続案内(予約制)で見てもらうと安心です。
本籍 愛知県○○市○○町○番地
上記被相続人の相続人である甲野二郎、並びに上記被相続人の相続人であった亡甲野一郎(令和7年6月20日死亡)の相続人である甲野花子及び甲野春男は、被相続人甲野太郎の遺産について協議を行い、次のとおり合意した。
1 次の不動産は、亡甲野一郎が相続する。
(土地)所在 ○○市○○町○丁目 地番 ○番○ 地目 宅地 地積 ○○.○○平方メートル
2 本協議書に記載のない被相続人甲野太郎の遺産が後日判明したときは、上記の者全員で別に協議する。
(亡甲野一郎相続人) 住所 ○○ 氏名 甲野花子 ㊞(実印)
(亡甲野一郎相続人) 住所 ○○ 氏名 甲野春男 ㊞(実印)
- 肩書は、立場を分かるようにするためのものです。法律で決まった書式はありません。「被相続人甲野太郎の相続人亡甲野一郎の相続人」と長く書く例もあります。
- 第2は、父の相続人(母と春男)だけの合意です。叔父は関わりませんが、1枚にまとめるなら全員が同じ書面に署名します。祖父の分と父の分を、2通の協議書に分けて作る方法もあります。
- 実印と印鑑証明書は、署名した全員分です。父は亡くなっているので不要です。ページが2枚以上になるときの契印など、基本のルールは遺産分割協議書の書き方とひな形で確認できます。
- 不動産は登記事項証明書のとおりに書きます。住所(住居表示)ではなく、所在と地番です。
期限と費用:2027年3月31日の期限と、登録免許税の免税
祖父の名義のまま残っている土地は、相続登記の義務化の「過去分」に当たることが多いです。同じ日付で、登録免許税がかからない措置の期限も来ます。
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 相続登記の期限 | 2024年3月31日までに始まった相続は、2027年3月31日まで。不動産を相続したと知ったのが2024年4月以降なら、知った日から3年以内 | 法務省 |
| 父の名義にする分の登録免許税 | 相続で土地を取得した人が登記の前に亡くなり、その人を名義人にする登記は、2027年3月31日までなら課されない(土地のみ) | 国税庁 No.7191 |
| 評価額100万円以下の土地 | 相続による移転登記は、2027年3月31日までなら課されない | 国税庁 No.7191 |
| 相続放棄の3か月 | 父が祖父の相続を承認も放棄もしないまま亡くなったときは、祖父の相続の3か月も、父の相続人が自分のために相続が始まったと知った時から数える | 民法916条 |
| 相続税 | 祖父の相続から10年以内に父が亡くなり、祖父の相続で父に相続税がかかっていたときは、父の相続で「相次相続控除」がある | 国税庁 No.4168 |
過去分の期限の数え方と、間に合わないときの「相続人申告登記」は、相続登記をしないとどうなる?義務化の過去分はいつまでで整理しています。期限までに必要なのは申請で、登記が終わっている必要はありません。
家族の中で誰が何をするか:協議書ができるまでの段取り
数次相続は、叔父・叔母の家と、父の家の2つの家族にまたがります。中心になって動く人を1人決め、ほかの人には「何を、いつまでに」だけ頼むと進みやすくなります。
| 順番 | やること | 家族の誰が |
|---|---|---|
| 1 | 登記事項証明書を取り、名義が祖父のままか確かめる。ほかに祖父名義の土地がないかも見る | 中心になる1人(例:春男) |
| 2 | 戸籍を集める。祖父の出生から死亡まで、父の出生から死亡まで、相続人全員の今の戸籍。祖父や父の戸籍は、最寄りの市区町村の窓口でまとめて請求できる(広域交付) | 同じ人 |
| 3 | 上の「登記の件数」の表を見ながら分け方の案を作り、叔父・叔母と母に送る | 同じ人 |
| 4 | 協議書に署名して実印を押し、印鑑証明書を添える | 叔父・叔母、母、子の全員 |
| 5 | 法務局に申請する(窓口・郵送・オンライン)。過去分は2027年3月31日まで | 不動産を受け継ぐ人 |
相続人が多い、連絡のつかない人がいる、何代も前の名義のまま、という場合は、自分で進めるのは難しくなります。早めに司法書士に相談してください。ご家族の構成で誰が署名するかが分からないときは、30分の無料相談で、戸籍や登記事項証明書を見ながら一緒に整理できます。協議書の作成や登記は、提携の司法書士が担当します。
今日できる一歩
紙に、祖父・父・叔父叔母・母・自分の名前と、亡くなった日を書き出す。祖父と父のどちらが先に亡くなったかで、上の判定表のどの行に当たるかを確かめます。
よくある質問
数次相続の遺産分割協議書は、祖父の分と父の分を分けて作るべきですか
どちらの形もあります。1枚にまとめるなら、記載例のように第1(祖父の分)と第2(父の分)を分け、全員が署名します。2通に分けるなら、祖父の分は叔父・叔母と父の相続人全員、父の分は父の相続人だけが署名します。迷うときは、法務局の登記手続案内で確かめてください。
「亡○○相続人」の肩書は、必ず書かないといけませんか
法律で決まった書式はありません。ただ、母や子が「祖父の相続人」ではなく「父の相続人」として署名していることが分からないと、法務局や銀行で確認を求められることがあります。立場が分かるように書いておくのが無難です。
母が叔父と話したがりません。母を抜いて協議できますか
できません。母は父の相続人として、祖父の遺産の話し合いに加わる立場です。直接やりとりしたくない場合は、子が書面を取り次ぐ、専門家に間に入ってもらう、といった方法があります。話がまとまらないときは、家庭裁判所の遺産分割調停を使う方法もあります。
祖父の死亡から間もなく父も亡くなりました。借金がありそうです
父が祖父の相続を承認も放棄もしないまま亡くなった場合、祖父の相続についての3か月の期限は、父の相続人が自分のために相続が始まったと知った時から数えます(民法916条)。協議書に判を押す前に、借金の有無を確かめ、迷うときは弁護士か家庭裁判所に相談してください。
印鑑証明書に期限はありますか
相続登記に添える協議書の印鑑証明書には、取得後の期限の定めはありません。一方、銀行などは発行から3〜6か月以内を求めることが多いので、預金の手続きにも使うなら、出す先に確かめてから取ってください。
2027年3月31日までに協議がまとまりそうにありません
期限までに「相続人申告登記」を出せば、申し出た人は義務を果たしたことになります。ただし、売却や担保にするには、あらためて相続登記が必要です。くわしくは相続登記をしないとどうなる?をご覧ください。
参考にした公的情報
- 法務局「不動産登記の申請書様式について」
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/minji79.html - 法務局「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)(数次相続)」記載例(R8.10.5以降に申請する場合)
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001470098.pdf - 法務省「不動産を相続した方へ ~相続登記・遺産分割を進めましょう~」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00435.html - 国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm - 国税庁「No.4168 相次相続控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4168.htm - e-Gov法令検索「民法」(887条・896条・907条・916条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。協議書の肩書や構成に法律で決まった書式はなく、記載例は一例です。登記の可否や添付書類は事案ごとに変わるため、申請前に管轄の法務局か司法書士にご確認ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
