四十九日を終えた週末、実家の居間で父の財布を開くと、見覚えのない銀行のキャッシュカードが1枚出てきました。通帳はどこを探してもありません。ほかにも口座があるのか、どの支店なのか、どこに聞けばいいのか。手がかりの少なさに、手が止まる方は少なくありません。
この記事では、亡くなった親の口座を探す順番を「家の中」「スマホ」「銀行への照会」「2025年4月に始まったマイナンバーでの照会」の4段階で整理します。全国銀行協会・預金保険機構・デジタル庁・ゆうちょ銀行・金融庁の公表内容をもとにしています。
まず家の中で探すもの|通帳・カード・郵便物・粗品
口座探しは、銀行名を1つずつ書き出すことから始まります。支店名や口座番号まで分からなくても大丈夫です。銀行名さえ分かれば、あとは銀行に調べてもらえます。
- 通帳・キャッシュカード・証書:机の引き出し、仏壇、金庫、タンスの奥、古いバッグ。定期預金は「証書」という1枚の紙のこともあります。
- 郵便物:満期のお知らせ、取引や金利のお知らせ、年金の振込通知書(振込先の銀行名が書かれています)、税金や公共料金の口座振替のお知らせ。
- 粗品:銀行名の入ったカレンダー、タオル、ボールペン、メモ帳。昔の取引の名残のこともあります。
- 本人のメモ:手帳、家計簿、通帳のコピーを入れた封筒。
郵便物は、亡くなった後もしばらく届きます。銀行・信用金庫・JAからの封筒は捨てずに、1か所にまとめておきましょう。年に1回しか届かない書類もあるので、1年ほど続けると拾い漏れが減ります。
見つかった通帳の中も手がかりです。ほかの銀行への振替や「定期預金へ」といった記録から、別の口座が分かることがあります。
スマホとネット銀行の手がかり
通帳のない口座が増えています。ネット銀行や、紙の通帳をやめた「通帳レス」の口座は、家の中を探しても通帳が出てきません。手がかりは、主にスマホ・パソコン・メールです。
- スマホの画面に並んでいる銀行のアプリ
- メールの受信箱にある「お取引のお知らせ」「ログインのお知らせ」などの通知
- クレジットカードの利用明細に書かれた引き落とし口座
- 証券会社やネット銀行から年に1回届く書類(郵送またはメール)
気をつけたいのは、故人のIDでログインして操作しないことです。スマホを開けられる場合でも、画面で銀行名を確かめる程度にとどめます。振込や解約は、相続の手続きとして銀行を通して進めます。
ネット銀行も、相続人が連絡すれば手続きの案内を受けられます。店舗がない分、電話やWebの専用窓口で受け付けるのが一般的です。進め方の例は楽天銀行の相続手続きの記事にまとめています。
銀行への照会のしかた|全店照会・残高証明・取引履歴
支店が分からなくても、銀行名で調べてもらえる
銀行名が分かったら、その銀行の窓口か、相続の専用窓口に連絡します。同じ銀行の中なら、支店が分からなくても、故人の氏名・生年月日・住所から口座を調べてもらえるのが一般的です。窓口で「全店で調べてください」と伝えると話が早く進みます。この「全店照会」の呼び方や手数料は、銀行ごとに違います。
たとえばみずほ銀行の案内です。口座の有無や残高を確かめたい相続人には、亡くなったことが分かる戸籍謄本などと、相続人だと分かる戸籍謄本などを求めています。通帳やキャッシュカードは「用意できない場合は不要」とされています。
残高証明書と取引履歴は、相続人1人で頼める
残高証明書は、亡くなった日の残高を銀行が証明する書類です。遺産を分ける話し合いや、相続税がかかるかの確認に使います。取引履歴(取引明細)は、過去の入出金の記録です。
どちらも、相続人のうち1人から頼めるのが一般的です。取引履歴は、2009年の最高裁の判決で、相続人の1人でも開示を求められるとされました。ほかの相続人全員の同意は要りません。手数料は銀行ごとに違います。三菱UFJ銀行の案内では、残高証明書は1通770円(税込)で、郵送の場合は受付から1週間〜10日ほどかかります。
ゆうちょは「現存調査」で口座の有無を調べる
ゆうちょ銀行には「現存調査」という手続きがあります。ゆうちょ銀行か郵便局の貯金窓口に「貯金等照会書」を出すと、故人名義の口座の有無を調べ、結果を郵送してくれます。調査そのものは無料です。残高証明書も一緒に頼むと、別に手数料がかかります。
調べてもらえる期間は、原則として申込日から過去10年以内です。民営化前(2007年9月30日以前)に預けた郵便貯金は、窓口で申し出れば10年を超えて調べてもらえます。
ここまでの方法と、次の章で説明するマイナンバーでの照会を、一覧にまとめます。
| 調べ方 | 申し込む先 | 分かること | 主な持ち物 | 費用・日数 |
|---|---|---|---|---|
| 同じ銀行内の口座の有無(全店照会) | その銀行の窓口・相続の専用窓口 | その銀行にある口座の支店・種類 | 亡くなったことが分かる戸籍謄本など、相続人だと分かる戸籍謄本など(法定相続情報一覧図の写しで代えられる銀行もある)、本人確認書類 | 銀行ごとに異なる |
| 残高証明書 | 同上 | 亡くなった日の残高 | 上と同じ。実印と印鑑証明書を求める銀行もある | 銀行所定の手数料(例:三菱UFJ銀行は1通770円) |
| 取引履歴(取引明細) | 同上 | 過去の入出金の記録 | 上と同じ | 銀行所定の手数料 |
| ゆうちょの現存調査 | ゆうちょ銀行・郵便局の貯金窓口 | 故人名義のゆうちょの口座の有無 | 貯金等照会書、戸籍謄本など、相続人の本人確認書類と印章 | 調査は無料。結果は郵送 |
| 相続時預貯金口座照会(マイナンバー) | 取り扱いのある金融機関の窓口(取引がなくてもよい) | マイナンバーを付けていた口座の金融機関名・支店名・種類・口座番号。残高は分からない | 申込書・同意書、故人の住民票の除票の写しなど、戸籍謄本などか法定相続情報一覧図の写し、本人確認書類 | 1件5,060円(税込)。通知まで1か月程度 |
連絡すると、その口座のお金の出入りは止まる
銀行は、口座の持ち主が亡くなったと連絡を受けると、その口座の取引を原則として止めます(全国銀行協会の案内)。公共料金やカードの引き落とし口座なら、引き落としもできなくなります。照会の前に、通帳で何が引き落とされているかを確かめ、支払い方法の変更を進めておくと慌てずに済みます。
2025年4月から|マイナンバーで他の金融機関の口座を探す方法
2025年4月1日、マイナンバーを使って預貯金口座を管理する仕組み(預貯金口座付番制度)が始まりました。本人が生前に口座へマイナンバーを届け出て(付番して)いれば使えます。相続人が1つの金融機関の窓口で申し込むと、ほかの金融機関の口座の所在もまとめて調べられます。
この手続きを「相続時預貯金口座照会」といいます。申込みを受けた金融機関から預金保険機構に取り次がれ、預金保険機構が各金融機関に照会して、結果を相続人に知らせます。
調べられるのは「マイナンバーを付けていた口座」だけ
照会の対象は、故人が生前にマイナンバーを付番していた口座だけです。付番は本人の任意なので、届け出ていない口座は結果に出てきません。休眠口座など、付番されない口座もあります。
つまり「結果に出なかった=口座がない」とは言えません。預金保険機構も、照会結果は口座があるかないかを証明するものではないとしています。
申込みの条件と流れ
- 申し込める人:相続人のうち1人(遺言で財産をまとめて受け取る人を含む)。ほかの相続人の同意は要りません。代理人でも申し込めます。
- 申込先:取り扱いのある金融機関の窓口。故人や自分が取引していない金融機関でも申し込めます。マイナポータルからは申し込めません。
- 期限:亡くなってから10年まで。
- 持ち物:金融機関所定の申込書と同意書、故人の住民票の除票の写しなど、相続人だと分かる戸籍謄本など(または法定相続情報一覧図の写し)、申込者の本人確認書類。故人のマイナンバーは要りません。
- 手数料:1件5,060円(税込)。原則として返金されません。
- 結果:申込みから1か月程度で、預金保険機構から転送不要の簡易書留で届きます。
分かるのは、金融機関名・支店名・預金の種類・口座番号などです。残高は分かりません。残高は、見つかった金融機関にあらためて残高証明書を頼みます。
つまずきやすいのは、故人の住所の書き方です。提出する書類の表記どおりに書きます。表記がずれると、マイナンバーを特定できないことがあります。その場合は「手続きを完了できなかった」という通知が届きます。預金保険機構は、住民票の除票の写しがいちばん一致しやすいと案内しています。また、結果の通知は転送されません。申込みの後に引っ越すと、手数料を払って申し込み直すことになります。
手数料がかかり、分かるのも付番した口座に限られます。銀行名の心当たりがいくつもあるなら、先に家の中の手がかりと各銀行への照会を進めましょう。そのうえで「ほかにもあるかもしれない」という不安を確かめる、という使い方が合っています。
長く使っていない口座も引き出せる|休眠預金
「何十年も前の通帳が出てきたけれど、もう無効では」と心配される方もいます。2009年1月1日以降の取引から10年以上動きのない預金は「休眠預金」となり、民間の公益活動に使われます。
それでも、休眠預金になった後も、取引のあった金融機関で引き出せます。預金者が亡くなっている場合は、金融機関所定の手続きで相続人が引き出せると、金融庁は案内しています。
外貨預金や財形貯蓄など、休眠預金の対象にならない預金もあります。また、2007年10月1日の郵政民営化より前に預けた定期性の郵便貯金は、休眠預金にはあたらず扱いが別です。古いゆうちょの通帳や証書が出てきたら、ゆうちょの窓口で確かめましょう。
口座が見つかった後の手続き|払戻し・相続の手続き・借入の確認
口座が見つかったら、金融機関ごとに相続の手続きに進みます。届く書類の読み方や相続届の書き方は、銀行から相続手続きの書類が届いたらの記事にまとめています。ゆうちょの流れはゆうちょ銀行の相続手続きの記事をご覧ください。
遺産を分ける話し合いが終わる前でも、葬儀代などのために一定額までは払い戻せます(遺産分割前の相続預金の払戻し制度)。上限は「亡くなった日の残高×3分の1×その相続人の法定相続分」で、1つの金融機関につき150万円までです(全国銀行協会)。使い方は葬儀費用を親の口座から払う方法の記事で説明しています。
口座を調べるうちに、カードローンなどの借入が見つかることもあります。借入が多いときは、相続放棄という選択肢があります。原則として、自分が相続人になったと知った時から3か月以内に、家庭裁判所で手続きします。預金を使うと、相続放棄ができなくなることがあります。借入が気になるときは、使う前に相続放棄の期限と手続きの記事で確かめてください。
不動産も、全国の法務局をまとめて調べる方法があります。所有不動産記録証明制度の記事をご覧ください。
元気なうちに、口座の一覧表を作っておく
子どもが親の口座探しに苦労するのは、親が隠しているからではありません。本人にとって当たり前のことほど、書き残されていないだけです。
一覧表は紙1枚で足ります。書くのは、金融機関名・支店名・預金の種類・おおよその金額・通帳や証書の置き場所です。暗証番号やネットバンキングのログイン情報は書きません。書き方の例と保管の注意は、ペイオフ1,000万円を超えたら分けるべきかの記事の後半でも紹介しています。
本人が望めば、口座にマイナンバーを付番しておく方法もあります。金融機関の窓口やマイナポータルから届け出られ、一部の金融機関を除いて、一度に複数の金融機関へ届け出ることもできます。付けるかどうかは本人が決めることです。付番しておけば、相続のときに家族が照会で探せる口座になります。
親に切り出しにくい方は、帰省の機会を使う方法もあります。話の始め方は年末年始の帰省で親とお金の話をする記事で紹介しています。
今日できる一歩
1. 銀行名だけを紙に書き出す。通帳・カード・郵便物・粗品・スマホのアプリから、分かった銀行名を並べます。支店名は空欄で構いません。
2. 金融機関からの郵便物を入れる箱を1つ決める。銀行・信用金庫・JAからの封筒は、開けたらその箱へ。1年続けると拾い漏れが減ります。
3. 親が元気なら、一覧表の下書きを一緒に作る。金融機関名と通帳の置き場所だけでも十分です。暗証番号は書きません。
相談現場から
よく伺うのは「マイナンバーで全部の口座が分かると思っていた」というお話です。実際に出てくるのは、本人が付番していた口座だけです。一方で、粗品のカレンダーや年金の振込通知書から、家族が知らなかった信用金庫の口座が見つかることもあります。新しい仕組みと家の中の手がかり。両方を使うのが、結局はいちばんの近道です。
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参考にした公的情報
- 預金保険機構「相続時預貯金口座照会のお申込みにあたって(参考)」 https://www.dic.go.jp/katsudo/content/souzokuji_yotyokinkoza_no_omousikominiatatte_202606.pdf
- 預金保険機構「口座登録法・口座管理法に基づく業務」 https://www.dic.go.jp/katsudo/kozafuban.html
- デジタル庁「よくある質問:預貯金口座付番制度について」 https://www.digital.go.jp/policies/mynumber_faq_09
- ゆうちょ銀行「現存調査(貯金の有無の調査)」 https://www.jp-bank.japanpost.jp/tetuzuki/henko/tzk_hnk_check.html
- 全国銀行協会「預金相続の手続の流れ」 https://www.zenginkyo.or.jp/article/tag-f/7704/
- 金融庁「休眠預金等活用法」 https://www.fsa.go.jp/policy/kyuminyokin/kyuminyokin.html
※本記事は2026年10月時点の公表情報をもとにした一般的な情報の整理です。必要書類・手数料・日数は金融機関ごとに異なりますので、手続きの前に各金融機関でご確認ください。相続税の申告の要否など個別の判断は、専門家にご相談ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
