名古屋に住む子が、岐阜で一人暮らしをしていた父の借金を知った。相続放棄をしたいけれど、書類はどこの家庭裁判所に出せばよいのか。自分の近くの裁判所でよいのか、と迷う方は少なくありません。
答えは「亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所」です。相続放棄の手続きは、市役所や法務局ではできません。この記事では、その住所の確かめ方、裁判所の管轄(担当する地域)の調べ方、郵送での出し方と必要書類を、2026年10月時点の裁判所の案内で整理します。申述書のダウンロード先、印鑑証明書の要否、自分でする場合と司法書士に頼む場合の費用もまとめました。
先に結論:出す先は「亡くなった方の最後の住所地」の家庭裁判所です
この記事の結論
- どこへ:亡くなった方の最後の住所地を担当する家庭裁判所です。放棄する人の住所、本籍地、亡くなった病院の場所では決まりません。
- どう調べる:住民票の除票(亡くなって消除された住民票)で最後の住所を確かめ、裁判所サイトの「申立書提出先一覧」で担当の家裁を探します。
- 遠いとき:郵送でも出せます。期限は「自分が相続人になったと知った時から3か月以内」で、間に合わなければ同じ家裁に延長を申し立てます。
期限の数え方や、放棄できなくなる行為など、相続放棄そのものの全体像は相続放棄の期限3か月はいつから?手続き・費用・してはいけないことで詳しく扱っています。この記事は「どこに、どうやって出すか」に絞ります。
どこの家庭裁判所?場面別の早見表
民法は、相続は亡くなった方の住所で始まると定めています(民法883条)。そのため、相続放棄の申述(家庭裁判所への申し出)は、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所が受け持ちます。迷いやすい場面を表にしました。
相続放棄の手続きはどこで?市役所や法務局ではなく家庭裁判所です
相続放棄の手続き(申述)をするのは、家庭裁判所です。市役所や法務局、銀行の窓口では手続きできません。市役所でするのは、添付する除票や戸籍を取るところまでです。手続きの段階ごとに、行く先を表にしました。
この表のとおり、専門家に頼まなくても手続きは進められます。自分で進めるときの判定表や、3か月の期限から逆算した段取りは相続放棄を自分でする手順にまとめています。
最後の住所地と管轄の調べ方(3ステップ)
「最後に住んでいた家」と「住民票の住所」は、同じとは限りません。裁判所の案内でも、最後の住所地は住民票除票の写しか戸籍の附票(住所の移り変わりの記録)で確かめるよう書かれています。次の順で調べると確実です。
- 住民票の除票を取る。亡くなった方が最後に住民登録していた市区町村の窓口で請求します。郵送で請求できる市区町村も多くあります。この除票は、申述のときの添付書類にもなります。
- 裁判所の「申立書提出先一覧(家庭裁判所)」を開く。都道府県ごとのPDFに、市区町村ごとの担当の家裁(本庁・支部・出張所)と所在地が載っています。
- 担当の家裁のページで、費用と送り先を確かめる。連絡用の郵便切手の額は裁判所ごとに違います。分からなければ家裁の家事受付に電話で聞けます。
市町村の合併や支部の担当区域の線引きで、同じ県の中でも思っていた家裁と違うことがあります。思い込みで決めず、一覧の市町村名で確かめてください。
愛知・岐阜の家庭裁判所と担当地域
愛知県と岐阜県の家庭裁判所の所在地と、相続放棄を受け持つ地域です。左の列で、亡くなった方の最後の住所地を探してください。
郡上出張所は受付だけを行い、その後の手続きは岐阜家裁本庁で進みます。岐阜家裁本庁に直接出すこともできます(裁判所の提出先一覧の備考)。また、名古屋家庭裁判所の本庁だけは、条件が合えば申述した日に結果が出る「即日審判」を行っています。配偶者か子などの第1順位の相続人で、亡くなった日から3か月以内の申述であることなどが条件です。支部では行っていません。本庁の窓口や行き方は名古屋家庭裁判所(本庁)の記事にまとめています。
郵送で申述する手順と必要書類チェックリスト
家庭裁判所の窓口まで行かなくても、書類一式を郵送して申述できます。名古屋家庭裁判所の案内資料にも、本庁への「提出(送付)先」として家事受付センターの住所が載っています。封筒の書き方や切手・印紙の入れ方、送り方は相続放棄を郵送でする手順でくわしく説明しています。流れは次のとおりです。
- 担当の家裁を決める。上の手順で、最後の住所地から出す先を確かめます。
- 申述書を書く。書式と記載例は裁判所のサイトにあります(成人用と未成年者用があります)。
- 戸籍などを取り寄せる。放棄する人の立場(配偶者・子・親・兄弟姉妹)で、必要な戸籍が変わります。
- 収入印紙と郵便切手を買う。裁判所では売っていないので、郵便局などで先に用意します。
- 記録が残る方法で送る。期限が迫っているときほど、届いた日が分かる送り方が安心です。手元に全部のコピーを残します。
- 照会書に答える。家裁から、放棄の意思などを尋ねる書面が届くことがあります。期日までに返送します。
- 受理通知書を受け取る。名古屋家庭裁判所の案内資料では、申述から結果の連絡まで約1か月が目安です。
必要書類チェックリスト
- □ 相続放棄の申述書(放棄する人1人につき1通)
- □ 亡くなった方の住民票除票、または戸籍附票
- □ 放棄する人の戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書)
- □ 配偶者・子の場合:亡くなった方の死亡が書かれた戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本。孫が代わりに相続人になる場合は、亡くなった子の死亡が書かれた戸籍も
- □ 親・祖父母、兄弟姉妹・おい・めいの場合:亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍など(先に放棄した人が出していれば不要)
- □ 収入印紙800円分(1人につき)
- □ 連絡用の郵便切手(額は申述先の案内で確認)
- □ 亡くなった日から3か月を過ぎている場合:いつ相続人と知ったかが分かる書面の写し(督促状など)
同じ方について家族がまとめて出すときは、共通の書類は1通で足ります。出す前に手に入らない戸籍は、あとから追加で出してもかまいません。戸籍の代わりに法定相続情報一覧図の写しを出せる場合もあり、使えるかどうかは申述先に確認します。一覧図の作り方は法定相続情報一覧図の取り方にまとめています。
相続放棄の必要書類はどこでダウンロード?印鑑証明・自分でする場合と司法書士費用
必要書類をそろえる段階で迷いやすい4つの点をまとめます。結論は、申述書は裁判所のサイトから無料でダウンロードでき、印鑑証明書は裁判所の必要書類の一覧に入っていません。自分で手続きすれば、費用は印紙・切手と戸籍などの実費で済みます。
申述書の書式は裁判所のサイトからダウンロードできます
裁判所のサイトの「相続の放棄の申述書(成人)」のページに、申述書の書式(PDF・Word)と記入例(PDF)があります。Wordならパソコンで入力してから印刷できます。放棄する人が未成年のときは、未成年者用の書式を使います。戸籍や住民票の除票はダウンロードできないので、市区町村の窓口か郵送で取り寄せます。
印鑑証明書は原則いりません
裁判所が示す相続放棄の必要書類は、申述書、亡くなった方の住民票除票(または戸籍附票)、放棄する人の戸籍謄本、立場に応じた戸籍などです。印鑑証明書はこの一覧に入っていません。名古屋家庭裁判所の本庁で即日審判を希望する場合も、持ち物は認印と身分証明書と案内されています。実印や印鑑証明書が必要になるのは、遺産分割協議書のほうです。
自分でする場合の費用は、印紙・切手と戸籍代が中心
自分で手続きすれば、かかるのは収入印紙800円(放棄する人1人につき)、連絡用の郵便切手(名古屋家庭裁判所は550円分)、戸籍などの手数料が中心です(裁判所、名古屋家庭裁判所。2026年10月時点)。兄弟姉妹が放棄するときは、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍が要るので、通数が増えます。費用の内訳や、自分で進めやすい人の判定表、3か月の期限から逆算した段取りは、相続放棄を自分でする手順で詳しく説明しています。
司法書士・弁護士に頼む場合の費用
相続放棄の申述書の作成は司法書士、代理人として手続きを任せたり債権者とのやり取りを頼んだりするのは弁護士の仕事です。報酬は事務所ごとに決められていて、全国一律の公的な基準はありません。相場としてよく見かける数字は根拠がまちまちなため、ここでは金額は挙げず、見積もりで確かめたい点をまとめます。報酬の内訳や、費用を誰が払うかは相続放棄を司法書士に頼む費用で整理しています。
- 戸籍などの取り寄せが報酬に含まれるか、別料金か
- 放棄する人が2人以上のとき、1人ごとに加算されるか
- 収入印紙・郵便切手・戸籍代などの実費が別に請求されるか
- 3か月を過ぎている場合や、期間の伸長が必要な場合に追加の費用がかかるか
- 照会書への回答の手伝いが含まれるか
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
期限は3か月:間に合わないときの延長と、過ぎたらどうなるか
相続放棄は、自分が相続人になったと知った時から3か月以内に申述します(民法915条)。この3か月を熟慮期間(考えるための期間)と呼びます。郵送するなら、家裁に届くまでの日数も見込んでおきます。
財産や借金の調べがつかず3か月で決められないときは、家庭裁判所に「期間の伸長(延長)」を申し立てられます。出す先は放棄と同じ、最後の住所地の家裁です。申立ても3か月のうちに出す必要があります。
何もしないまま3か月を過ぎると、相続をそのまま受け入れた(単純承認した)ものとみなされます(民法921条2号)。借金も引き継ぐことになります。ただし、財産がまったくないと信じた相当な理由がある場合などは、財産を知った時から3か月以内なら受理されることもあります(名古屋家庭裁判所の案内資料)。過ぎてしまったと感じたら、あきらめる前に専門家へ相談してください。預金を使った、遺品を片付けたなど、期限とは別の理由で放棄できなくなる場面は相続放棄できないケースで説明しています。
ご家族の構成や財産で答えが変わるところは、30分の無料相談で、書類を見ながら一緒に整理できます。愛知県内はご自宅への訪問もできます。その場で何かをお決めいただく必要はありません。
管轄でつまずきやすい点
- 自分の住所の近くの家裁に出してしまう。担当でない家裁に出すと、確認や出し直しで日数を失うおそれがあります。期限が近いときほど痛手です。
- 「実家の住所」と思い込む。施設や子の家に住民票を移していた場合、最後の住所地は実家ではありません。除票で確かめます。
- 家族の1人が出せば全員が済むと思う。相続放棄は1人ずつの申述です。兄弟が別々に出す場合も、出す先は同じ家裁です。
- 次の順位の人に知らせない。子が全員放棄すると、親や兄弟姉妹が相続人になります。その人たちも同じ家裁に出すことになるので、受理通知書の写しと家裁名を伝えておくと手間が減ります。ただし、先の順位の人の放棄が受理されるまで、後の順位の人は申述できません。
- 「放棄してほしい」と言われ、協議書に判を押すだけで済ませる。遺産分割協議書で「何も受け取らない」とするだけでは、借金の支払いから外れません。違いは「相続放棄してほしい」と言われたらで説明しています。
今日できる一歩
亡くなった方の住民票の除票を1通請求し、そこに書かれた住所の市区町村名で、裁判所の「申立書提出先一覧」から担当の家庭裁判所を確かめる。分かったら、その家裁の名前と「3か月の最終日」をカレンダーに書き込んでおきます。
よくある質問
相続放棄の手続きはどこでしますか。市役所でできますか
手続きをするのは、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所です。市役所や法務局ではできません。市役所で取るのは、添付する住民票の除票や戸籍です。収入印紙と切手は郵便局などで先に買います。
放棄する人の住所の近くの家庭裁判所に出せませんか
出せません。出す先は、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所です。遠い場合は郵送で出せます。
家庭裁判所に行かずに、郵送だけで終わりますか
書類一式を郵送で出し、照会書も郵送で返し、受理通知書も郵送で届く流れが一般的です。ただし、審理に必要なときは、裁判所での聴き取りや追加書類を求められることがあります。
兄弟3人で放棄するとき、申述書は1通でよいですか
申述書と収入印紙800円は、放棄する人ごとに必要です。亡くなった方の戸籍など共通の書類は、同時に出すなら1通で足ります。
本籍地の家庭裁判所ではだめですか
本籍地では決まりません。戸籍を取るのは本籍地の市区町村ですが、申述先は住所地で決まります。混同しやすいので注意してください。
ほかの家族がもう放棄したか、どこの家裁で分かりますか
相続人や債権者などの利害関係人は、最後の住所地の家庭裁判所に、放棄の申述が受理されたかどうかを照会できます。名古屋家庭裁判所では照会の手数料は不要です。返信用封筒などの添付書類は家裁の案内で確かめます。照会の手順と必要書類は相続放棄の確認方法にまとめています。
亡くなった親に借金があるか分かりません
郵便物や通帳の引き落とし、信用情報機関への開示請求で手がかりを集めます。調べ方は親の借金の調べ方にまとめています。調べきれないときは、3か月のうちに期間の伸長を申し立てます。借金と比べる財産のほうは、預金なら残高証明書、不動産なら名寄帳で全体をつかめます。
兄弟姉妹が相続放棄するときの必要書類は
共通の書類(申述書、亡くなった方の住民票除票か戸籍附票、放棄する人の戸籍謄本)に、次の戸籍が加わります。亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍と、父母・祖父母など直系尊属の死亡が書かれた戸籍です。亡くなった方の子で先に亡くなった人がいれば、その子の出生から死亡までの戸籍も要ります。おい・めいが放棄するときは、親である兄弟姉妹の死亡が書かれた戸籍も出します。先の順位の人がすでに出した書類は、出し直さなくてかまいません(裁判所の案内)。
印鑑証明書は要りますか
裁判所が示す必要書類の一覧に、印鑑証明書は入っていません。そろえるのは、申述書、戸籍などの添付書類、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です。押印や書き方で迷う点は、申述先の家庭裁判所の家事受付に聞けます。
申述書はどこでダウンロードできますか
裁判所のサイトの「相続の放棄の申述書(成人)」のページから、書式(PDF・Word)と記入例(PDF)を入手できます。迷いやすい「放棄の理由」欄の選び方は、相続放棄の理由の書き方にケース別の記入例をまとめています。放棄する人が未成年のときは、未成年者用の書式を使います。郵便切手の額など裁判所ごとに違う点は、申述先の家庭裁判所の案内で確かめます。
専門家に頼まず、自分で手続きできますか
できます。書類をそろえて、最後の住所地の家庭裁判所に出せば手続きになります。費用の中心は、収入印紙800円と郵便切手、戸籍などを取る手数料です。自分でしやすいかどうかの判定と手順は、相続放棄を自分でする手順にまとめています。
相続放棄を司法書士に頼むと、費用はいくらですか
報酬は事務所ごとに決められていて、全国一律の基準はありません。報酬とは別に、収入印紙800円(1人につき)、郵便切手、戸籍などの実費がかかります。戸籍の取り寄せが含まれるか、人数ごとの加算があるか、3か月を過ぎた場合の追加費用があるかを、見積もりで確かめてから頼むと安心です。
参考にした公的情報
- 裁判所「相続の放棄の申述」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html - 裁判所「相続の放棄の申述書(成人)」(書式・記入例のダウンロード)
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_13/index.html - 法務省「戸籍証明書等の広域交付」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00082.html - 裁判所「申立書提出先一覧(家庭裁判所)」
https://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/kasai/index.html - 名古屋家庭裁判所「相続の放棄の申述」(即日審判)
https://www.courts.go.jp/nagoya-f/saiban/souzoku1/index.html - 名古屋家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述の受理の有無の照会」
https://www.courts.go.jp/nagoya-f/saiban/souzoku4/index.html - 名古屋家庭裁判所「郵便切手及び予納金一覧(令和8年4月1日~)」
https://www.courts.go.jp/nagoya-f/vc-files/nagoya-f/R8.4yuubinkitteoyobiyonoukinichiran.pdf - 岐阜地方裁判所「管内の裁判所の所在地」
https://www.courts.go.jp/gifu/about/syozai/index.html - e-Gov法令検索「民法」(883条・915条・921条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。管轄や必要書類、郵便切手の額は変わることがあり、個別の事情で扱いが異なります。実際に出す前に、申述先の家庭裁判所の案内をご確認ください。期限が迫っている場合や事情が複雑な場合は、司法書士・弁護士にご相談ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
