親の家の片付けを業者に頼むと、いくらかかるのか。その費用は、兄弟のうち誰が払うのか。喪主をした自分なのか、遺産から出してよいのか。見積もりを前に、こうした迷いで手が止まる方は多いものです。
この記事では、遺品整理の費用を誰が払うかの考え方と、実際にいくらかかっているかを、総務省と国民生活センターの公表資料をもとに、2026年10月時点の情報で整理します。賃貸の部屋の退去費用、相続放棄を考えている場合の注意、費用を抑える方法、見積もりと追加料金のトラブルの防ぎ方まで、順に説明します。
先に結論:費用は相続人で話し合って決める。実際の見積もりは10万〜40万円が多い
この記事の結論
- 誰が払うか:法律で「この人が払う」と決まってはいません。相続人で話し合い、遺産から出すか、分担するかを決めるのが基本です。喪主だからといって、一人で払う決まりもありません。
- いくらかかるか:総務省の調査で集めた見積書75例では、10万円超〜40万円以下が54例と大半でした。100万円を超える例もあり、物の量と作業の範囲で大きく変わります。
- 相続放棄を考えているなら:遺産から費用を払う、価値のある物を売る、といった行為は、放棄できなくなるおそれがあります。決めるまでは、片付けを最低限にとどめます。
手順を知って、自分でできる部分を増やしたい方は遺品整理を自分でする手順を、片付けの前に残す物を確かめたい方は遺品整理で捨ててはいけないものをご覧ください。
遺品整理の費用は誰が払う?相続人・喪主・遺産から払う場合
遺品整理の費用を誰が負担するかは、法律で直接決められていません。そのため、家族の事情に合わせて決めることになります。よくある決め方は次の3つです。
喪主や同居していた人が払う決まりはない
「喪主だったから」「近くに住んでいるから」と、一人に費用と手間が集まりがちです。しかし、喪主であることを理由に遺品整理の費用を負担する決まりはありません。業者と契約した人が業者への支払いの相手になるだけで、家族の中での負担は別に決められます。立て替えたときは、領収書と見積書を残しておくと、あとで精算しやすくなります。
遺産から払うときの考え方
民法885条は「相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する」と定めています。遺産の管理にかかる費用を遺産から出す考え方の根拠として挙げられる条文です。ただ、遺品整理の費用がどこまでこれに当たるかは事情によります。実際には、相続人全員の了解を取って遺産から払い、遺産分割のときに差し引く形にすると、もめごとを防げます。
亡くなった方の口座は、金融機関が死亡を知ると引き出せなくなります。遺産から払う場合も、いったん誰かが立て替え、あとで精算することが多くなります。口座の扱いは親が亡くなったら銀行口座はすぐ止まる?で整理しています。
相続放棄を考えている人は、遺産から払わない
借金があるなどの理由で相続放棄を考えている場合は、注意が必要です。遺産から片付けの費用を払う、まだ使える家具や貴金属を売る、といった行為は、相続を受け入れたとみなされるおそれがあります(民法921条1号)。放棄するか決めるまでは、戸締まりや腐る物の片付けなど最低限にとどめます。どこまでなら大丈夫かは相続放棄できないケース(遺品整理はバレる?)でくわしく説明しています。
兄弟に費用の分担を相談するときの例文
お金の話は切り出しにくいものです。見積書を共有し、決めたいことを一度に伝えると、話が進みやすくなります。
例文(家族へのメッセージ)
実家の片付けの見積もりを2社から取りました。A社が○万円、B社が○万円です(見積書を添付します)。費用はお母さんの口座から出すか、3人で分けるか、来週の電話で決めたいです。先に私が立て替える場合は、領収書を残して後で精算します。残しておきたい物があれば、○日までに教えてください。
賃貸の部屋の遺品整理と退去費用は誰が払う?
親が賃貸住宅に一人で住んでいた場合は、持ち家より急ぐ必要があります。家賃は、解約して部屋を明け渡すまでかかり続けるからです。
- 借主の立場は相続人に移る:部屋を借りる権利と、部屋を明け渡す・原状回復する義務は、相続人が引き継ぎます(民法896条)。部屋の片付けと退去の費用も、相続人の負担として考えるのが基本です。
- 原状回復は「借りたときの状態に戻す」ことではない:国土交通省のガイドラインでは、年数がたって自然に傷んだ分や、普通に使って傷んだ分は貸主の負担とされています。借主が負担するのは、不注意や通常を超える使い方で傷めた分です。請求の内訳は、契約書とあわせて確かめます。
- 連帯保証人にも請求が来ることがある:保証人は、保証契約の範囲で未払いの家賃や原状回復費用を求められることがあります。2020年4月以降に結んだ個人の保証契約では、限度額(極度額)の定めが必要です。
相続放棄を考えているときに、部屋の解約や家財の処分を進めると、相続を受け入れたと見られるおそれがあります。大家さんや管理会社には「相続放棄を考えている」と伝え、どこまで対応するかを司法書士・弁護士に確かめてから動くと安心です。
なお国土交通省と法務省は、一人暮らしの高齢者が亡くなったときに、部屋の契約の解除と残された家財の片付けを、生前に決めた人に任せられる「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しています。親が今も賃貸に住んでいるなら、管理会社に使えるかを聞いておくのも一つの方法です。
遺品整理の費用の平均は?公的な調査で分かる金額
遺品整理の料金には、国が決めた基準がありません。総務省の調査報告書(令和2年3月)も、料金は依頼内容に応じて契約ごとに決まると書いています。そのうえで、同じ報告書は事業者から集めた見積書75例の金額を示しています。
報告書は、見積書の範囲では10万円から40万円の間の取引が多い、とまとめています。75例のうち54例がこの範囲です。
もう一つの数字が、国民生活センターの公表資料(2018年7月)です。遺品整理サービスの相談に出てきた契約金額の平均は約42万円、実際に支払った金額の平均は約30万円でした。これはトラブルの相談に寄せられた契約の数字なので、一般的な相場とは分けて考えます。それでも、数十万円単位の契約が珍しくないことが分かります。
実際いくらかかった?間取り別の公開料金と、ずれる理由
「実際いくらかかったか」を調べると、数万円という声から100万円近い声まで、答えがばらばらです。業者が公開している料金も、同じ間取りで大きく違います。
同じ1Kでも、数万円と15万円では大きな差です。理由は、公開料金の多くが「物が少なく、運び出しやすい」条件の最低額だからです。実際の見積もりは、次の要因で上がっていきます。総務省の75例で10万〜40万円が多かったことと合わせると、「公開料金の下限で済むことは少ない」と考えておくのが現実的です。
遺品整理の費用が増える6つの要因
最後の点は見落とされがちです。家庭から出るごみを事業として運ぶには、市区町村の一般廃棄物収集運搬業の許可が必要です(廃棄物処理法7条1項)。総務省の報告書には、許可業者を使った場合の見積額が46万9,200円だった件で、依頼者が自分でごみ処理施設に運び込んだ場合の請求額は28万3,716円だった、という市町村の例が載っています。ごみの運び方ひとつで、数十万円単位の差が出ることがあるわけです。
遺品整理の費用を安くする方法
安くするいちばんの近道は、業者に頼む量と作業を減らすことです。全部を任せるか、全部を自分でやるかの二択ではありません。
- 自分でやる部分を分ける:書類や貴重品の探索、衣類・食器・紙類など普通のごみで出せる物の仕分けは、家族で進められます。大型の家具や運び出しだけを業者に頼むと、作業時間と人数が減ります。進め方は遺品整理を自分でする手順にまとめています。
- 自治体の粗大ごみを使う:タンスや布団などは、市区町村の粗大ごみに出せます。名古屋市の場合、手数料は大きさや種類で250円から2,500円に分かれ、申し込みはインターネットか電話です。収集日まで日数がかかるので、早めに申し込みます。
- ごみ処理施設に自分で運ぶ:車を用意できるなら、市区町村のごみ処理施設に持ち込める場合があります。名古屋市では、区の環境事業所で手続きをしてから施設へ運びます。受け付ける物や手数料は自治体ごとに違うので、必ず事前に確かめます。
- 売れる物は買い取りに出す:状態のよい家具、着物、貴金属などは、買い取りで処分費を減らせることがあります。買い取りには古物商の許可が必要です。相続放棄を考えている場合、遺品を売ると放棄できなくなるおそれがあるので、決めるまで待ちます。
- 見積もりは複数社に、同じ条件で取る:残す物と処分する物を分けてから、2〜3社に同じ範囲で見積もってもらいます。条件をそろえないと、安く見える見積もりが実は作業の範囲が狭いだけ、ということがあります。
服や着物の手放し方は着なくなった服・着物の処分方法で、買い取りの注意点とあわせて説明しています。
見積もりと追加料金のトラブルを防ぐ確認点
国民生活センターは2018年7月、遺品整理サービスの契約トラブルについて注意を呼びかけました。相談には、作業当日に見積金額の2倍の費用を請求された例、高額なキャンセル料を求められた例、残しておくはずの遺品を処分された例などがあります。総務省の報告書でも、見積もりのときに追加費用の説明がなく、作業後に残金12万円を求められた相談が紹介されています。
こうしたトラブルは、契約の前に次の点を書面で確かめておくと防ぎやすくなります。
許可は、市区町村のホームページで許可業者の一覧を公開していることがあります。分からなければ、市区町村のごみの担当課に業者名を伝えて聞くこともできます。「民間の資格を持っている」ことは、この許可の代わりにはなりません。
それでも請求や作業内容でもめたときは、一人で抱えず、消費者ホットライン「188」に電話してください。お住まいの地域の消費生活センターにつながります。
費用の分け方が遺産の分け方とからむときや、相続放棄をするか迷っているときは、30分の無料相談で、書類を見ながら一緒に整理できます。愛知県内はご自宅への訪問もできます。その場で何かをお決めいただく必要はありません。
今日できる一歩
家族に「費用は遺産から出すか、分けるか」「残したい物はあるか」の2つを聞く。そのうえで、残す物と処分する物を分けてから、2社に同じ条件で見積もりを頼みます。相続放棄を考えている人がいるときは、見積もりの前にその人の意向を確かめておきます。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
よくある質問
遺品整理の費用は、長男や喪主が払うものですか
そうした決まりはありません。費用を誰が負担するかは法律で直接決められておらず、相続人の話し合いで決めます。遺産から出す、均等に分ける、家を引き継ぐ人が多めに払う、などの決め方があります。
遺品整理の費用は、平均でいくらくらいですか
総務省の調査報告書(令和2年3月)で集めた見積書75例では、10万円超〜40万円以下が54例でした。いちばん多いのは20万円超〜30万円以下です。物の量や運び出しの条件で変わるため、実際の金額は見積もりで確かめます。
故人の預金から遺品整理の費用を払ってもいいですか
相続人全員が了解していれば、遺産から払い、遺産分割のときに差し引く方法がとれます。ただし、相続放棄を考えている人がいる場合、遺産から払うと放棄できなくなるおそれがあります。その場合は、放棄するかを決めてから動きます。
賃貸の部屋の原状回復費用は、全部払わないといけませんか
国土交通省のガイドラインでは、年数がたって自然に傷んだ分や、普通に使って傷んだ分は貸主の負担とされています。請求の内訳を受け取り、契約書と照らし合わせて確かめてください。納得できないときは消費生活センター(188)に相談できます。
見積もりより高い金額を当日請求されました。払うしかありませんか
まず、見積書と契約書に追加料金の条件が書かれているかを確かめます。書かれていない追加には、すぐに応じず説明を求めてください。国民生活センターにも、見積金額の2倍を請求された相談が寄せられています。困ったときは消費者ホットライン「188」に相談します。
相続放棄をした場合、遺品整理の費用は払わなくていいですか
相続放棄をすると、初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。ただし、実際に家などを管理している人は、次の人に引き渡すまで守る必要があります(民法940条1項)。賃貸の部屋の扱いや、自分が連帯保証人になっている場合は事情が変わるため、司法書士・弁護士に確かめてください。
参考にした公的情報
- 総務省行政評価局「遺品整理のサービスをめぐる現状に関する調査結果報告書」(令和2年3月)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000675388.pdf - 国民生活センター「こんなはずじゃなかった!遺品整理サービスでの契約トラブル」(2018年7月19日)
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20180719_1.html - 国土交通省「『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』について」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html - 国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000101.html - 名古屋市「粗大ごみの分け方・出し方について」
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/gomi/1012183/1035058/1012184/1033988.html - e-Gov法令検索「民法」(885条・896条・921条・939条・940条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - 日本郵便「いざという時のための相続」遺品整理のコラム(間取り別の目安)
https://www.post.japanpost.jp/life/inheriting/column7/
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。費用の金額は調査や業者の公開料金にもとづく目安で、実際の金額は物の量・建物の条件・作業の範囲によって変わります。費用の負担や相続放棄の判断は、ご家族の事情によって異なります。迷うときは司法書士・弁護士にご相談ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
