親が亡くなって実家の相続手続きを始めたとき、「そういえば父は昔、実家以外にも土地を持っていたはずだ」「別荘か山林があると聞いたが、どこの市町村なのか分からない」という話が出てくることがあります。通帳や権利証を探しても実家の分しか見当たらず、全国の法務局に一件ずつ問い合わせるのも現実的ではない。結論から言うと、この悩みは2026年2月2日に始まった「所有不動産記録証明制度」で解決できます。親の氏名と住所をもとに、全国の法務局の登記記録を横断して「親が名義人になっている不動産の一覧」を1通の証明書として取り寄せられる制度で、手数料は書面請求で1名義人あたり1,600円です(2026年時点、出典:法務省)。
ただし万能ではありません。登記上の氏名・住所が今の情報と一致しないと拾えない、未登記の建物は出てこない、という限界があり、市区町村ごとの「名寄帳」や固定資産税の納税通知書と組み合わせて初めて「調べ切った」と言えます。この記事では、制度の要点、請求の4ステップ、名寄帳・納税通知書との違い、制度でわかること・わからないこと、そして証明書を手にした後に3年以内にやるべき相続登記までを、相続人の目線で整理しました。
所有不動産記録証明制度の要点(2026年時点)
※出典:法務省「所有不動産記録証明制度について」。オンライン請求は1,470〜1,500円。手数料・運用は今後変更される可能性があります。
所有不動産記録証明制度とは?2026年2月2日開始・請求できる人
所有不動産記録証明制度は、法務局が保有する登記記録をもとに、特定の人が所有権の登記名義人になっている不動産を、全国の法務局を横断して一覧化した証明書を交付する制度です。2021年の不動産登記法改正で新設され、2026年2月2日に施行されました(出典:法務省「所有不動産記録証明制度について」)。これまで「親名義の不動産が全国のどこにあるか」を確かめるには、心当たりのある市区町村ごとに名寄帳を請求するしかなく、心当たりのない場所にある土地は事実上見つけられませんでした。その穴を埋めるのがこの制度です。
請求できるのは、①不動産の登記名義人本人、②その相続人その他の一般承継人(法人を含む)、③これらの人から委任を受けた代理人、です(出典:同上)。相続の場面では、亡くなった親を「名義人」として、子などの相続人が請求することになります。親が元気なうちに親自身が請求して、財産目録づくりに使うこともできます。なお、遺言執行者による請求の可否は法務省ページ上に明記がないため、該当するケースは事前に法務局へ個別にご確認ください。遺言執行者を誰にすべきかという判断基準は遺言執行者は誰にする?専門家に頼むメリット・デメリットと選び方で解説しています。
証明書には、検索でヒットした不動産の所在・地番(家屋番号)・不動産番号などが一覧で記載されます。該当する不動産がなかった場合も「該当なし」の旨の証明書が交付されるため、「調べたが何もなかった」ことの記録としても使えます(出典:法務省。記載項目の詳細は請求先の法務局でご確認ください)。
請求の流れ4ステップ|窓口・郵送・オンラインと必要書類・手数料
請求から証明書の受け取りまでは、書類の準備、請求先の選択、手数料の納付、受け取りの4ステップです。全国どこの法務局・地方法務局(支局・出張所を含む)でも請求でき、不動産の所在地や親の住所地に縛られない点が大きな特徴です。
※2026年時点。請求書の様式・添付書類の詳細は法務省サイトおよび請求先の法務局でご確認ください。
ステップ1|必要書類:相続人であることを戸籍で証明する
相続人として請求する場合、請求者本人の本人確認書類に加えて、亡くなった親(名義人)との相続関係が分かる戸籍謄本等が必要です。具体的には、親の死亡が分かる戸籍(除籍)と、請求者が相続人であることが分かる戸籍の組み合わせで、法務局が発行する「法定相続情報一覧図」があれば戸籍の束の代わりに使えます。代理人が請求する場合は委任状も添付します。戸籍集めで「本籍地が分からない」「親の登記上の住所と最後の住所がつながらない」とつまずいたときは、亡くなった親の本籍がわからない|相続手続きで調べる2つの方法と戸籍の附票の取り方|相続登記で「住所がつながらない」ときの解決策が役に立ちます。
ステップ2〜3|請求先の選び方と手数料の納め方
請求方法は、法務局の窓口に持参する、郵送する、「登記・供託オンライン申請システム」からオンラインで請求する、の3通りです。手数料は請求方法と受け取り方法の組み合わせで決まり、いずれも1名義人あたりの金額です(出典:法務省、2026年時点)。
※出典:法務省(2026年時点)。オンライン請求は「登記・供託オンライン申請システム」の利用者登録が事前に必要です。
オンライン請求は手数料がやや安い一方、初回は利用者登録の手間がかかります。初めての方や急がない方は、書面請求で十分です。旧姓や旧住所でも念のため検索したい場合は名義人の情報ごとに別の請求となり、その都度手数料がかかる点にご注意ください。
今日の一歩:法務局へ行く前に、親の「登記上の住所」を洗い出す
順番を逆にすると、1,600円を払って「該当なし」が返ってくることになります。先に戸籍の附票を取り、親の住所を古いほうまで並べてください。土地を買った当時の住所が、そのまま登記に残っていることが多いからです。附票は本籍地の市区町村でしか出ません(2024年3月に始まった戸籍証明書の広域交付には附票は含まれません)。本籍地が遠ければ郵送請求になります。
行き先は、最寄りの法務局で構いません。不動産の所在地にも親の住所地にも縛られないのが、この制度の利点です。始まったばかりの制度なので、出向く前に一度電話で取扱いを確認しておくと確実です。
持ち物は4つです。①親の死亡が分かる戸籍(除籍)と、ご自身が相続人と分かる戸籍(法定相続情報一覧図の写しが1通あれば、それで足ります) ②ご自身の本人確認書類 ③手数料1,600円分の収入印紙(法務局内で買えます) ④附票から書き出した住所のメモ。
窓口では、この3点を伝えてください。「所有不動産記録証明書をお願いします」「名義人は亡くなった父で、私は相続人です」「登記上の住所が古い可能性があるので、この住所で検索してください」。3つめを言うかどうかで、結果が変わることがあります。
「該当なし」が返ってきたときの次の一手。それは「指定した氏名・住所で登記された不動産はない」という意味であって、不動産がないという意味ではありません。旧住所・旧姓ごとに請求し直す(そのつど手数料がかかります)か、心当たりのある市区町村で名寄帳を取ってください。未登記の建物と、先代名義のままの土地は、この制度では最初から出てきません。
期限の目安:見つかった不動産も、相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記が必要です。あとから出てきた土地も例外ではありません。
名寄帳・固定資産税の納税通知書との違い|範囲・対象・取得できる人
親名義の不動産を調べる方法は、この制度のほかに、市区町村ごとの「名寄帳(固定資産課税台帳の写し)」と、毎年4〜6月ごろに届く「固定資産税の納税通知書」があります。3つは「調べられる範囲」と「載る不動産の種類」が違うため、どれか1つでは漏れが出ます。違いを表で押さえてください。
※2026年時点。名寄帳の名称・手数料・請求できる人の範囲は市区町村により異なります。
実務上もっとも取りこぼしが少ないのは、まず所有不動産記録証明制度で「全国のどの市区町村に不動産があるか」のあたりをつけ、次に該当する市区町村で名寄帳を取って非課税の私道や未登記の物置まで細かく確認する、という二段階の調査です。納税通知書は手元にあれば最初の手がかりになりますが、非課税の土地は載らず、共有の場合は代表者にしか届かないため、これだけで「調べ切った」とは言えません。実家そのものの名義が誰になっているかの確認方法は実家の名義、誰のものか確認する方法|登記簿の調べ方と古い名義の対処で解説しています。
不動産だけでなく預金口座の調査も必要になるケースは多く、認知症などを理由に口座が凍結されているときの対処法は認知症で凍結された銀行口座を解除するには?成年後見制度の手続き・費用・注意点を解説で解説しています。
制度でわかること・わからないこと|旧住所・共有持分・未登記建物
この制度は「登記記録を氏名・住所で検索する」仕組みです。そのため、登記上の氏名・住所が請求時に指定した情報と一致しない不動産は検索から漏れる可能性があります。何が拾えて何が拾えないのかを、請求前に把握しておいてください。
- 登記上の氏名・住所が一致する全国の登記済み不動産の所在・地番
- 単独所有だけでなく共有持分として名義がある不動産(共有者も登記名義人のため)
- 心当たりのない市区町村にある土地・山林・別荘
- 該当がなかったときの「該当なし」の証明
- 旧住所・旧姓のまま登記されている不動産(住所変更登記が未了だと一致しない)
- 未登記の建物(登記記録そのものが存在しない)
- 先代名義のまま相続登記されていない土地(親の名義ではない)
- 各不動産の評価額・面積の詳細(登記事項証明書や名寄帳で確認)
※2026年時点。検索の仕様は法務省の案内にもとづきます。旧住所での検索は、その住所を指定して別途請求する形になります。
とくに注意したいのが「旧住所」の問題です。親が土地を買った後に転居していて住所変更登記をしていない場合、登記上の住所は購入当時のままです。今の住所で請求しても一致せず、旧住所を指定してもう一度請求する必要があります。転居歴がある親なら、戸籍の附票で過去の住所を洗い出してから請求すると確実です。なお、住所・氏名の変更登記は2026年4月1日から義務化されており、その内容は住所等変更登記の義務化|自分でやれば1物件1,000円。頼むべきなのはどんな人かで解説しています。
相続登記を済ませたつもりでも、共有名義の私道など固定資産税が非課税の土地だけ登記が漏れていた、というご相談があります。名寄帳を取得すると非課税物件まで一覧で確認でき、登記漏れを防げます。所有不動産記録証明制度は「全国の登記済み不動産」を横断して調べる制度であり、名寄帳が持つ市区町村単位での網羅性(非課税物件・共有持分の記載)を代替するものではない点に注意が必要です。(当社に寄せられた相談をもとに再構成した典型例です)
証明書を取った後にやること|相続登記は3年以内が義務
証明書で不動産の所在が分かったら、それで終わりではありません。見つかった不動産は遺産分割の対象になり、誰が引き継ぐかを決めたうえで名義変更(相続登記)をする必要があります。相続登記は2024年4月1日から義務化されており、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になります(2026年時点、出典:法務省)。「後から見つかった土地」も例外ではありません。
📜 登記事項証明書で中身を確認
一覧に出た不動産ごとに登記事項証明書(1通600円・2026年時点)を取り、地目・面積・共有者・抵当権の有無を確認します。
🤝 遺産分割協議で引き継ぐ人を決める
名寄帳もあわせて取り、評価額を把握したうえで相続人全員で話し合い、遺産分割協議書に地番まで正確に記載します。
🏠 3年以内に相続登記(名義変更)
不動産の所在地を管轄する法務局へ申請。話し合いが長引く場合は、ひとまず「相続人申告登記」をしておくと義務違反を避けられます。
※相続登記の義務化は2024年4月1日施行、期限は取得を知った日から3年以内、過料は10万円以下(2026年時点、出典:法務省)。
遺産分割協議書のひな形と不動産の書き方は遺産分割協議書の書き方とひな形|Word無料ダウンロードと記載例、実家を1人が引き継いで他の相続人に現金を渡す場合の書き方は代償分割の遺産分割協議書の書き方|贈与税にならない条項例とWordひな形を参照してください。見つかった不動産が実家だけで分ける現金がない場合の考え方は不動産しかない相続の分け方|代償分割の現金をどう用意するか、引き継いだ後に売る・貸す・住み続けるかの判断基準は実家を売る・貸す・住み続ける、どう選ぶ?判断基準を徹底比較で整理しています。相続登記を自分で申請する場合の費用感は名古屋の相続登記、法務局へ自分で申請するといくら?が参考になります。
相続手続き全体の中で、この調査がどの段階にあたるのかは相続でやることチェックリストで確認できます。手続きの進め方に不安がある場合や、不動産以外の相続手続きもあわせて相談したい場合は、相続の相談はどこに?各事務所のメリット・デメリットを元職員が徹底解説で相談先ごとの特徴を整理しています。
こんな方には、この制度は不要かもしれません
実家の不動産以外に土地・建物がないと分かっている方、すでに名寄帳や固定資産税の課税明細書で不動産の全体像を把握できている方は、あらためて所有不動産記録証明制度を使う必要はない可能性があります。「念のため確認しておきたい」という場合を除き、無理に請求する必要はありません。
セルフチェック|請求すべきか、他の調査も必要か
次の4つのうち、当てはまるもの(YES)はいくつありますか。
- 実家以外にも不動産があるかもしれない、と感じている
- 親の本籍地・出身地・転勤先など、心当たりのある土地が実家以外にもある
- 相続人が複数いて、誰も不動産の全体像を把握できていない
- すでに相続が発生している、または近い将来発生しそうなのに、まだ何も調べていない
YESの数で見る、今の状況
4個YES:不動産以外の財産も含めて、専門家と一緒に全体像を整理した方が早い状況です。戸籍収集や複数の照会が重なると自力での対応は負担が大きくなります。
2〜3個YES:判断が必要な論点があります。所有不動産記録証明制度に加え、心当たりのある市区町村の名寄帳もあわせて確認することをおすすめします。
0〜1個YES:比較的落ち着いて調査を進められる状況です。専門家に依頼しなくても、ご自身で所有不動産記録証明制度を請求して完了できる可能性が高いです。まずは親の名義で請求してみてください。
よくある質問
Q1. 名寄帳だけで十分では?わざわざこの制度を使う意味はある?
実家がある市区町村の不動産だけで足りると分かっているなら、名寄帳だけで十分な場合もあります。ただし名寄帳はその市区町村の分しか出ないため、親に転居歴があったり、実家以外の土地を持っていた可能性が少しでもある場合は、他の市区町村の不動産までは分かりません。全国を一括で確認できる点が、この制度と名寄帳との最大の違いです。
Q2. 親が元気なうちに、親名義の不動産を子が調べられる?
名義人が存命の場合、請求できるのは名義人本人か、本人から委任を受けた代理人です。子であっても、親の委任状なしに勝手に請求することはできません。親が元気なうちに把握しておきたいなら、親自身に請求してもらうか、委任状をもらって子が代理で請求する形になります。将来の相続に備えて親の財産を整理する方法は実家を親が生きているうちに名義変更・売却するとどうなるもあわせてご覧ください。
Q3. 相続人なら誰でも請求できる?代理人に頼むこともできる?
はい。相続人その他の一般承継人は、相続人の1人からでも請求できます。委任状があれば、司法書士などの代理人による請求も可能です(出典:法務省)。書類の準備に不安がある場合は、代理人として専門家に依頼することもできます。
Q4. 2026年2月2日より前に亡くなった人の不動産も対象になる?
制度自体は、亡くなった時期を限定して照会するものではなく、現在の登記記録にもとづいて検索されます。何年も前に亡くなった親の名義でも請求できます。ただし、コンピュータ化されていない古い登記など、対象外となるケースがあるとの指摘もあります。正確な取扱いは請求先の法務局へご確認ください。
Q5. 手数料は1,600円だけで済む?
証明書の交付手数料自体は、1名義人あたり1,600円(書面)または1,470〜1,500円(オンライン)です。ただし、旧姓・旧住所を含めて複数の名義で確認したい場合は、その都度手数料がかかります。また、添付する戸籍の取得費用、見つかった不動産の登記事項証明書(1通600円)、名寄帳の手数料、その後の相続登記の登録免許税は別にかかります。相続手続き全体でどのくらい実費がかかるかは、財産の数と相続人の数によって異なります。
まとめ|「どこにあるか分からない」を1,600円で解消し、3年以内の相続登記へ
所有不動産記録証明制度は、2026年2月2日に始まった新しい制度です。親の氏名・住所をもとに全国の法務局を横断して不動産の所在を確認できる点は大きなメリットですが、対象はあくまで「登記されている不動産」に限られ、旧住所のままの登記や未登記建物までは拾いきれません。実家がある市区町村の名寄帳とあわせて確認することで、財産調査の抜け漏れをより確実に防げます。そして見つかった不動産は、3年以内の相続登記まで進めて初めて「片付いた」と言えます。
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※本記事は一般的な情報提供を目的として作成しており、個別の法的判断を保証するものではありません。施行日・請求できる人・手数料は法務省「所有不動産記録証明制度について」(2026年7月確認)にもとづいています。名寄帳・納税通知書との比較部分は一般的な実務情報を整理したものであり、詳細・最新の取扱いは請求先の法務局または各市区町村窓口でご確認ください。登記に関する正式な手続きの代理は司法書士にご相談ください。司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修。
