実家の相続手続きを進めているとき、ふと「そういえば親は昔、実家以外にも土地を持っていたはずだ」「別荘があると聞いたことがあるが、今もあるのか分からない」という話が出てくることがあります。通帳や権利証を探しても実家の分しか見当たらない。かといって、全国の法務局に一件ずつ問い合わせるのも現実的ではありません。「実家以外にも不動産があるかもしれないのに、どこにあるのか誰も把握していない」という状態のまま、遺産分割協議を進めるわけにはいかない――そんな不安を抱えている方に向けて、この記事を書きました。
✅ この記事の結論(30秒まとめ)
- 2026年2月2日に始まった「所有不動産記録証明制度」を使うと、特定の人が名義人になっている不動産を、全国の法務局への一括照会でリスト化できます(出典:法務省)
- 手数料は書面請求で1名義人あたり1,600円、オンライン請求なら1,470〜1,500円です
- 相続人や代理人でも、亡くなった人(被相続人)を名義人として請求できます
- 全国どこの法務局・地方法務局(支局・出張所を含む)でも、窓口・郵送・オンラインのいずれかで請求可能です
- ただし対象は「登記されている不動産」に限られます。非課税の私道や、住所変更登記が未了の不動産は、名寄帳など別の方法での確認も必要です
「実家以外にも不動産があるかもしれない」という不安の正体は、多くの場合、”知らない不動産が後から見つかって、遺産分割協議をやり直すことになるかもしれない”という恐れです。相続登記が済んだと思っていたのに、後から別の市区町村の土地が見つかれば、名義変更も遺産分割協議書の作成もやり直しになりかねません。だから、この記事では、所有不動産記録証明制度で分かること・分からないこと、名寄帳との使い分け、実際の請求手順までを具体的に整理しました。
所有不動産記録証明制度とは?施行日・請求できる人
所有不動産記録証明制度は、法務局が保有する登記記録をもとに、特定の人が登記名義人となっている不動産を、全国の法務局を横断して一覧化できる証明制度です。2026年2月2日に施行されました(出典:法務省「所有不動産記録証明制度について」)。
請求できるのは、①不動産の登記名義人本人、②相続人その他の一般承継人(法人を含む)、③これらの人から委任を受けた代理人、です(出典:同上)。相続の場面では、亡くなった親などを登記名義人として、相続人の立場で請求することになります。なお、遺言執行者による請求の可否については法務省ページ上に明記がないため、該当するケースは事前に法務局へ個別にご確認ください。
施行日:2026年2月2日/手数料:書面請求1,600円・オンライン請求1,470〜1,500円(1名義人につき)/請求先:全国どこの法務局・地方法務局でもOK
なお、故人が遺言執行者を指定していた場合、その権限や役割については別の論点になります。遺言執行者を誰にすべきかという判断基準は遺言執行者は誰にする?専門家に頼むメリット・デメリットと選び方で解説していますので、あわせてご確認ください。
手数料はいくら?書面請求とオンライン請求の違い
手数料は、請求方法と証明書の受け取り方法の組み合わせによって3パターンに分かれます。いずれも1名義人あたりの金額です(出典:法務省)。
オンライン請求には「登記・供託オンライン申請システム」の利用者登録が事前に必要です。初めての方は登録の手間がかかる分、書面請求の方が着手しやすい場合もあります。どちらを選んでも、全国どこの法務局・地方法務局(支局・出張所を含む)でも請求できる点は共通です。
手続きの進め方に不安がある場合や、不動産以外の相続手続きもあわせて相談したい場合は、相続の相談はどこに?各事務所のメリット・デメリットを元職員が徹底解説で相談先ごとの特徴を整理しています。
名寄帳との違いは?使い分けのポイント
不動産の名義を確認する方法として、以前から市区町村ごとに「名寄帳(なよせちょう)」があります。所有不動産記録証明制度とは調査の範囲や情報源が異なるため、両方の特徴を押さえておくと財産調査の漏れを防ぎやすくなります。
※名寄帳の手数料・様式は市区町村により異なります。詳細は各自治体窓口でご確認ください。
実務上もっとも取りこぼしが少ないのは、まず所有不動産記録証明制度で全国のあたりをつけ、該当しそうな市区町村が分かったら、その自治体で名寄帳もあわせて取得して非課税の私道や共有持分まで細かく確認する、という二段階の調査です。所有不動産記録証明制度は「氏名・住所」をもとに登記記録を検索する仕組みのため、親が転居や改姓をしている場合は、旧住所・旧姓でも念のため確認しておくと安心です。
不動産だけでなく預金口座の調査も必要になるケースは多く、認知症などを理由に口座が凍結されているときの対処法は認知症で凍結された銀行口座を解除するには?成年後見制度の手続き・費用・注意点を解説で解説しています。
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実際の請求方法・手順
請求から証明書の受け取りまでの流れは、次の5ステップです。
必要書類の準備
請求者の本人確認書類。相続人として請求する場合は、被相続人との相続関係が分かる戸籍謄本等(または法定相続情報一覧図)。代理人が請求する場合は委任状も必要です。正確な様式は法務局の請求書でご確認ください
請求先を選ぶ
全国どこの法務局・地方法務局(支局・出張所を含む)でも請求できます。オンラインなら「登記・供託オンライン申請システム」経由で手続きします
請求書の提出
窓口への持参、郵送、オンライン申請のいずれかを選びます
手数料の納付
書面請求は収入印紙(1,600円)、オンラインはシステム上で納付(1,470〜1,500円)
証明書の受け取り
窓口交付・郵送・オンライン確認のいずれかで受け取り、名義人となっている不動産の一覧を確認します
請求して分かった不動産は、その後の相続登記や遺産分割協議の対象になります。相続手続き全体の中で、この調査がどの段階にあたるのかは相続でやることチェックリストで確認できます。
相続登記を済ませたつもりでも、共有名義の私道など固定資産税が非課税の土地だけ登記が漏れていた、というご相談があります。名寄帳を取得すると非課税物件まで一覧で確認でき、登記漏れを防げます。所有不動産記録証明制度は「全国の登記済み不動産」を横断して調べる制度であり、名寄帳が持つ市区町村単位での網羅性(非課税物件・共有持分の記載)を代替するものではない点に注意が必要です。(当窓口に寄せられた相談をもとに再構成した典型例です)
こんな方には、この制度は不要かもしれません
実家の不動産以外に土地・建物がないと分かっている方、すでに名寄帳や固定資産税の課税明細書で不動産の全体像を把握できている方は、あらためて所有不動産記録証明制度を使う必要はない可能性があります。「念のため確認しておきたい」という場合を除き、無理に請求する必要はありません。
セルフチェック|請求すべきか、他の調査も必要か
次の4つのうち、当てはまるもの(YES)はいくつありますか。
- 実家以外にも不動産があるかもしれない、と感じている
- 親の本籍地・出身地・転勤先など、心当たりのある土地が実家以外にもある
- 相続人が複数いて、誰も不動産の全体像を把握できていない
- すでに相続が発生している、または近い将来発生しそうなのに、まだ何も調べていない
YESの数で見る、今の状況
4個YES:不動産以外の財産も含めて、専門家と一緒に全体像を整理した方が早い状況です。戸籍収集や複数の照会が重なると自力での対応は負担が大きくなります。
2〜3個YES:判断が必要な論点があります。所有不動産記録証明制度に加え、心当たりのある市区町村の名寄帳もあわせて確認することをおすすめします。
0〜1個YES:比較的落ち着いて調査を進められる状況です。該当が0〜1個の方は、専門家に依頼しなくても、ご自身で所有不動産記録証明制度を請求して完了できる可能性が高いです。無理に相談される必要はありません。まずは実家の名義で請求してみてください。
よくある質問
Q1. 名寄帳だけで十分では?わざわざこの制度を使う意味はある?
実家がある市区町村の不動産だけで足りると分かっているなら、名寄帳だけで十分な場合もあります。ただし、親に転居歴があったり、実家以外の土地を持っていた可能性が少しでもある場合は、名寄帳では他の市区町村の不動産までは分かりません。所有不動産記録証明制度は、全国を一括で確認できる点が名寄帳との最大の違いです。
Q2. オンライン請求と書面請求、どちらが早い?
処理にかかる具体的な日数は法務省の公式情報では明示されていません。オンライン請求は「登記・供託オンライン申請システム」の利用者登録が事前に必要になる分、初回は手間がかかりますが、手数料はオンラインの方がやや安く設定されています(1,470〜1,500円)。急ぎでなく、オンライン申請に不慣れな場合は、書面請求で十分です。
Q3. 相続人なら誰でも請求できる?代理人に頼むこともできる?
はい。相続人その他の一般承継人は請求できます。委任状があれば、代理人による請求も可能です(出典:法務省)。書類の準備に不安がある場合は、代理人として専門家に依頼することもできます。
Q4. 2026年2月2日より前に亡くなった人の不動産も対象になる?
制度自体は、亡くなった時期を限定して照会するものではなく、現在の登記記録にもとづいて検索されます。ただし、コンピュータ化されていない古い登記など、対象外となるケースがあるとの指摘もあります。正確な取扱いは請求先の法務局へご確認ください。
Q5. 手数料は1,600円だけで済む?
証明書の交付手数料自体は、1名義人あたり1,600円(書面)または1,470〜1,500円(オンライン)です。ただし、旧姓・旧住所を含めて複数の名義で確認したい場合は、その都度手数料がかかります。また、請求してわかった不動産の相続登記や、市区町村の名寄帳を別途取得する場合は、そちらの費用も別にかかります。
まとめ|「どこにあるか分からない」を1,600円で解消する
所有不動産記録証明制度は、2026年2月2日に始まったばかりの新しい制度です。全国の法務局を横断して不動産の所在を確認できる点は大きなメリットですが、対象はあくまで「登記されている不動産」に限られ、非課税の私道や旧住所での登記漏れまでは拾いきれない場合があります。実家がある市区町村の名寄帳とあわせて確認することで、財産調査の抜け漏れをより確実に防げます。
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※本記事は一般的な情報提供を目的として作成しており、個別の法的判断を保証するものではありません。施行日・請求できる人・手数料は法務省「所有不動産記録証明制度について」(2026年7月確認)にもとづいています。名寄帳との比較部分は一般的な実務情報を整理したものであり、詳細・最新の取扱いは請求先の法務局または各市区町村窓口でご確認ください。登記に関する正式な手続きの代理は司法書士にご相談ください。司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修。