施設から届いた請求書は、母の名前宛てです。支払日は近いのに、母の口座はカードでは下ろせず、窓口では「ご本人の意思確認が必要です」と言われました。親のお金で払いたい。でも、どうすれば払えるのか。この記事では、払い方を順に整理します。
✅ この記事の結論
- いちばん確実なのは、親の年金が入る口座からの口座振替です。親が手続きできるうち、入居のときに設定します
- 口座が動かせなくなったら、施設への相談、取引銀行への相談、家族の立替、後見の申立ての順に考えます。銀行の払出しは、全国銀行協会が「極めて限定的な対応」とする例外です
- 立替は記録がすべてです。領収書と一覧表があれば、あとで精算するときも、きょうだいに説明できます
払い方は6つあります:使える時期で選びます
施設代の払い方は、親の判断力が残っているかどうかで変わります。次の表で、いまの状態に合うものを探してください。
| 払い方 | 使える時期 | 良いところ | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 1. 親の口座からの口座振替 | 親が手続きできるうち | 毎月の手間がない | 残高が足りないと止まる。年金が入る口座と同じにすると保ちやすい |
| 2. 銀行に相談して、施設へ直接振り込む | 意思確認ができなくなった後 | 全国銀行協会の考え方は、請求先への直接払いを基本としている | 応じるかは銀行の判断。診断書などが必要で、金額や回数に上限がつくことがある |
| 3. 家族が立て替える | いつでも | すぐに払える | 領収書と記録が必要。精算のとき、きょうだいの理解が要る |
| 4. 日常生活自立支援事業 | 契約の内容を理解できるうち | 社会福祉協議会が預金の出し入れを手伝う | 契約する力が必要。利用料は訪問1回あたり平均1,200円が参考額 |
| 5. 成年後見人が払う | 判断力が失われた後でも | 定期預金の解約を含め、確実に動かせる | 結論まで多くは2か月以内、4か月以内で約94%。後見人は第三者が選ばれることが多い |
| 6. 家族信託 | 元気なうちに契約 | 施設利用料を確実に払う目的の例が、法務省のパンフレットにある | 認知症が進んでからは結べない。専門家の報酬は事務所ごとに違う |
2026年10月時点。後見の期間は最高裁判所の令和7年の統計(2か月以内に約71%、4か月以内に約94%)による。
口座が動かせなくなったときの順番
すでに窓口で断られている場合は、次の順に進めます。慌てて親に署名させたり、代筆したりするのはやめてください。後で取引の無効を言われたり、使い込みを疑われたりする原因になります。
| 順 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 施設の相談員に事情を伝える | 支払いが遅れそうな理由と、いつまでに目途がつくかを、早めに話す。請求書の宛名と契約者を確かめる |
| 2 | 取引銀行の窓口に相談する | 本人の通帳・届出印、本人名義の請求書、診断書やケアマネジャーの連絡票、続柄がわかる戸籍謄本、来店する人の本人確認書類を持っていく。支店で止まったら、本部の相続・後見の担当部署への取り次ぎを頼む |
| 3 | つなぎで家族が立て替える | 親のお金とは別の財布から払い、領収書と記録を残す。立替えたお金は、後見人が選ばれたあとに精算を相談できる |
| 4 | 成年後見の申立てを進める | 診断書の様式を主治医に早めに頼む。急ぎの手続きだけを先に認める「審判前の保全処分」を使えるかは、家庭裁判所の判断 |
全国銀行協会が2022年に示した「不測の事態における預金の払出しに関する考え方」では、突然の病気や事故で本人の意思が確認できないときに、診断書の写しなどで本人の状態を確かめ、医療費や施設の入居費といった本人のための資金を、請求先へ直接払う形が想定されています。金額や回数に上限を設けることも考えられるとされ、極めて限定的な対応だと、銀行側から家族へ伝えることが大切だとされています。
立て替えたお金の記録:この表をそのまま使えます
立替の記録がないと、親が亡くなったあと、ほかの相続人から「使い込みではないか」と疑われることがあります。ノートに次の形で書いておくと、精算の話し合いが進めやすくなります。下の行は書き方の例です。
| 日付 | 支払先 | 内容 | 金額 | 領収書 | 払った財布 |
|---|---|---|---|---|---|
| 10月5日 | ○○ホーム | 10月分利用料 | 150,000円 | あり(ファイル1) | 子(立替) |
精算の考え方は介護費用は誰が出す?きょうだい間でもめない分担ルール、介護した人の報われ方は介護した人が報われる相続の備えにまとめています。立替金をめぐって争いになった場合は、弁護士の領域になります。
預金は、あと何年もつか:計算のしかた
お金の出どころが決まったら、次は何年払えるかです。式は簡単で、「預金 ÷ (毎月の費用 − 毎月の年金)」で月数が出ます。たとえば、月額15万円の施設で、親の年金が月10万円なら、不足は月5万円です。預金が600万円なら、600万円 ÷ 5万円で120か月、約10年もつ計算です。これは計算の例で、実際の費用や年金額は家庭ごとに違います。
施設の種類ごとの費用や、負担を軽くする制度は老人ホーム・介護施設の費用2026で確認できます。医療費控除の対象になるかは介護費用・おむつ代は医療費控除の対象?をご覧ください。
今日できる一歩
- 施設の請求書を1枚開いて、宛名、契約者、支払方法、支払期日の4つを書き出す
- 親の年金が入る口座と、施設代が出ている口座が同じかを通帳で確かめる
- 立替の記録表を、今月分から書き始める
よくある質問
Q1. 親の定期預金を解約して、施設代にあてられますか。
定期預金の解約には、窓口での本人の意思確認が必要です。本人が手続きできない状態では、銀行が応じるかは個別の判断になり、確実なのは成年後見人が手続きする方法です。くわしくは定期預金は認知症になると解約できない?をご覧ください。
Q2. 施設から、家族に支払いの保証を求められました。
入居契約で、身元引受人や連帯保証人を求められることがあります。署名する前に、契約書で、どこまでの責任を負うのか、本人が亡くなったときや退去のときの扱いがどうなっているかを読んでください。分からない点は、施設の相談員に質問し、必要なら専門家に見てもらいます。
Q3. 入居一時金が大きくて、預金が足りません。
一時金が不要な施設や、月額払いが中心の施設もあります。実家の売却で資金を作る場合は、本人が住んでいた家の売却に家庭裁判所の許可が必要です。住み替えの全体像は高齢者の住み替え費用2026をご覧ください。
Q4. 払えなくなりそうなときは、どこに相談しますか。
担当のケアマネジャーか、地域包括支援センターに早めに相談してください。年金が少ない場合に居住費や食費が下がる制度もあります。
参考にした公的情報(2026年10月時点)
- 全国銀行協会「不測の事態における預金の払出しに関する考え方について」(2022年5月16日) https://www.zenginkyo.or.jp/news/2022/n051602/
- 全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について」(2021年2月18日) https://www.zenginkyo.or.jp/news/2021/n021801/
- 厚生労働省「日常生活自立支援事業」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/chiiki-fukusi-yougo/index.html
- 最高裁判所「成年後見関係事件の概況―令和7年1月~12月―」 https://www.courts.go.jp/assets/20260316koukengaikyou-r7.pdf
- 法務省「知って活用 信託制度」(2026年3月31日公表) https://www.moj.go.jp/content/001459940.pdf
2026年10月時点の一般的な情報です。取扱いは金融機関ごとに異なります。個別の判断は、取引金融機関や専門家にご確認ください。
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本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
