「親のお金の管理、そろそろ考えないと」と感じていても、何から手をつければいいのか分からない――そんな声を、愛知県内の当相談窓口では毎日のようにお聞きします。特に多いのが、親が認知症になってから慌てて相談に来られるケースです。実は、認知症と診断されて判断能力が失われると、たとえ家族であっても親の預金を自由に引き出せなくなります。医療費や介護費用が必要になっても、口座が事実上「凍結」されてしまうのです。
この記事では、「親のお金の管理はどうすればいいのか」という疑問に答えるかたちで、親が元気なうちに家族で決めておくべき5つのことを、中立の立場から整理します。金融機関や保険会社が勧める商品をそのまま鵜呑みにするのではなく、「本当に必要なものは何か」「不要なものは何か」を見極める視点でお伝えします。
親のお金が「凍結」されると、実際にどう困るのか
まず、なぜ事前の準備が必要なのかを、具体的な「困りごと」から確認しましょう。親が認知症などで判断能力を失い、金融機関がそれを把握すると、次のような取引が原則としてできなくなります。
- 普通預金の引き出し(まとまった額や名義変更を伴うもの)
- 定期預金の解約・満期金の受け取り
- 不動産の売却(施設入居費用の捻出など)
- 生前贈与や資産の組み替え、保険の契約・見直し
これらは本来、本人の財産を守るための仕組みですが、家族にとっては大きな負担になります。たとえば、親の介護施設への入居費用として親名義の預金を使いたくても、銀行の窓口で本人の意思確認ができなければ引き出しに応じてもらえません。結果として、子どもが自分の貯蓄から立て替えざるを得ないという事態も珍しくありません。この「口座凍結」の仕組みについては、認知症による口座凍結とは?で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
厚生労働省の推計では、高齢者のおよそ5〜6人に1人が認知症になるとされています。決して他人事ではなく、どの家庭でも起こりうる問題として、元気なうちに備えておくことが何より大切です。「まだ早い」と思う時期こそ、準備の好機なのです。
家族で決めておくべき5つのこと
1. 親の財産の「全体像」を把握する
まず出発点となるのが、親がどこにどれだけの財産を持っているかを家族で共有することです。預貯金、証券、不動産、保険、そして借入金まで、一覧にしておくと、いざというときに手続きがスムーズになります。金融機関名・支店名・おおよその残高、保険会社名と証券番号、不動産の所在地などをメモしておきましょう。通帳やキャッシュカードの保管場所、ネット銀行・ネット証券のID管理についても確認が必要です。近年はネット口座が家族に把握されず、相続時に「見つからない財産」となるケースが増えています。
「お金の話は縁起でもない」と敬遠されがちですが、相続争いの多くは財産の全体像が不明なことから生じます。元気なうちに親自身の口から聞いておくことが、後々の家族の平穏につながります。エンディングノートや財産目録を活用し、年に一度は内容を見直す習慣をつけると安心です。
2. 日常のお金の管理方法を取り決める
親が高齢になると、通帳の記帳や公共料金の支払いといった日常のお金の管理が少しずつ難しくなります。誰が・どのように管理を手伝うのかを、あらかじめ決めておきましょう。銀行の代理人カードや代理人指名手続きを使えば、家族が一定の範囲で入出金を代行できます。ただしこれらには利用限度額や、本人が元気なうちしか設定できないといった限界もあります。詳しくは銀行の代理人カード・代理人指名手続きとは?で解説しています。
管理を任される家族は、お金の出入りを記録に残しておくことが重要です。「いつ・いくらを・何に使ったか」を通帳やノートで見える化しておくと、他の家族からの不信感を防ぎ、将来の相続時のトラブル回避にもつながります。
3. 判断能力が低下した後の「財産管理の担い手」を決める
認知症が進行した後の財産管理の方法としては、成年後見制度(法定後見・任意後見)や家族信託があります。それぞれメリット・デメリットが異なり、家庭の事情によって適した選択肢は変わります。「とりあえず家族信託」「とりあえず後見」と決めつけず、費用や手間、家族の負担を比較して選ぶことが大切です。任意後見や家族信託は、本人が元気なうちにしか契約できない点に注意が必要です。判断能力が低下してからでは、選べる手段が法定後見だけに狭まってしまいます。
4. 医療・介護に関する希望を共有する
お金の話と切り離せないのが、医療・介護の方針です。どこで介護を受けたいか、延命治療を望むか、施設入居の希望はあるか――こうした本人の意向を家族で共有しておくと、費用の見積もりも立てやすくなります。介護には月数万円から、施設によっては月20万円以上かかる場合もあり、資金計画と一体で考える必要があります。本人の希望と資金の両面から、無理のないプランを話し合っておきましょう。
5. 相続・生前対策の方針を話し合う
最後に、相続の方針です。遺言書の作成、生前贈与、生命保険の活用など、対策の選択肢は複数あります。ただし、金融機関で勧められるまま高額な保険に加入するのは慎重に判断すべきです。当窓口では「不要なサービスは不要」とお伝えする立場から、本当に効果のある対策だけを選ぶことをおすすめしています。そもそも自分の家庭に相続税がかかる規模なのかを把握したうえで、必要な対策を見極めることが第一歩です。
財産管理・認知症対策の主な選択肢を比較
| 制度・方法 | 使えるタイミング | 主な費用の目安 | できること | 向いているケース |
|---|---|---|---|---|
| 代理人カード・代理人指名 | 本人が元気なうち | 無料〜数千円程度 | 日常的な入出金の代行 | 当面の生活費管理 |
| 任意後見制度 | 元気なうちに契約し、判断能力低下後に開始 | 月額報酬2〜3万円程度+初期費用 | 財産管理・身上監護全般 | 信頼できる人に将来を託したい |
| 法定後見制度 | 判断能力が低下した後 | 月額報酬2〜6万円程度 | 財産管理・身上監護全般 | すでに認知症が進んでいる |
| 家族信託 | 本人が元気なうち | 初期費用30〜100万円程度 | 柔軟な財産管理・承継 | 不動産や事業承継がある |
表はあくまで一般的な目安です。費用や利用条件は個々の事情や依頼先によって変わりますので、実際の検討にあたっては専門家に相談してください。関連して凍結口座の解除・成年後見や定期預金は認知症になると解約できない?、家族信託のデメリットと費用も参考になります。
元気なうちに進める手続きの流れ
実際に準備を進める場合、次のような流れが目安になります。いきなり制度を契約するのではなく、まず現状把握から始めるのがポイントです。
- 親子で財産の全体像を共有し、一覧(財産目録)を作る
- 相続税がかかる規模か、生前対策が必要かを把握する
- 日常の管理方法(代理人カードなど)を決める
- 判断能力低下後の備え(任意後見・家族信託)を比較検討する
- 必要に応じて専門家に相談し、契約や遺言作成を進める
よくある失敗と、避けるためのポイント
当相談窓口の相談をもとに再構成した典型例として、次のようなケースがあります。80代の父親が脳梗塞をきっかけに認知症を発症し、施設入居の費用として父名義の定期預金を解約しようとしたところ、銀行から「ご本人の意思確認ができないため解約できない」と断られました。急いで法定後見を申し立てましたが、開始まで数か月かかり、その間の費用は家族が立て替えることになりました。もし元気なうちに任意後見や家族信託を検討していれば、負担はもっと軽くできたはずです。
逆に、必要以上に高額な対策を勧められて後悔するケースもあります。「相続税対策になる」と一時払いの保険を勧められたものの、そもそも相続税がかからない資産規模だった、という例です。対策は「わが家にとって本当に必要か」を起点に選ぶことが重要です。
まず何から始めればいいか
最初の一歩としておすすめなのは、親子で財産の全体像を共有し、相続税や生前対策がそもそも必要な規模なのかを把握することです。当窓口では、無料・登録不要・3分で結果がわかる診断ツールをご用意しています。ご自身の状況に合った対策の方向性を知る目安としてお使いください。
よくある質問(FAQ)
親が認知症になったら、家族でも預金は引き出せませんか?
判断能力が失われたと確認された場合、原則として家族でも自由には引き出せません。成年後見人が選任されれば、後見人が本人のために引き出すことは可能です。日常的な少額の払い戻しに応じる金融機関もありますが、対応は各行の判断によります。
元気なうちにできる最も手軽な対策は何ですか?
まずは財産の全体像を家族で共有し、日常の管理方法(代理人カードなど)を決めることです。あわせて、任意後見や家族信託といった中長期の備えも早めに検討しておくと安心です。
家族信託と成年後見はどちらがよいですか?
一概には言えません。不動産の活用や柔軟な承継を重視するなら家族信託、身上監護(施設契約など)も含めて包括的に任せたいなら後見が向きます。費用や手間も異なるため、家庭の事情に合わせて比較検討することをおすすめします。
相談するタイミングはいつがよいですか?
親が元気で判断能力があるうちが最適です。認知症が進んでからでは選べる選択肢が大きく狭まります。「まだ早い」と思う時期こそ、相談の好機です。
親がお金の話を嫌がる場合はどうすればいいですか?
いきなり相続や財産額の話から入ると身構えられがちです。「もし入院したときに困らないように」といった日常の安心を切り口にすると話しやすくなります。エンディングノートを一緒に書く形で、少しずつ共有していくのも有効です。
まとめ
親のお金の管理は、認知症になってからでは打てる手が限られます。元気なうちに、(1)財産の全体像の把握、(2)日常の管理方法、(3)判断能力低下後の担い手、(4)医療・介護の希望、(5)相続・生前対策の方針――この5つを家族で話し合っておくことが、将来の安心につながります。
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本記事は提携行政書士監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額計算は税理士にご相談ください。