年金の振込日が来ても、母の通帳は金庫に入ったままです。記帳に行けるのは子どもの自分だけ。けれど、母名義の口座から家族がお金を下ろしてよいのか、年金の受け取り先を自分の口座に変えられるのか、分からないままになっていませんか。
✅ この記事の結論
- 年金は本人の権利です。家族だから受け取れる、という決まりはありません。いまの口座に、そのまま振り込まれ続けます
- 本人が手続きできなくなったとき、年金の受取口座や送付先を変えられるのは、成年後見人など権限のある人です。任意後見は、契約に年金の手続きが書かれ、監督人が選ばれてからになります
- 年金を家族が預かって使うなら、本人のために使い、記録を残します。本人の了解なく自分のために使うと、経済的虐待にあたることがあります
年金は、いまの口座に振り込まれ続けます
認知症と診断されても、年金を受け取る権利はなくなりません。何も手続きをしなければ、これまでの口座に年金は振り込まれます。困るのは、その口座から引き出せなくなったときです。銀行の窓口で本人の意思確認ができないと、年金が入っても、施設代や生活費に使えない状態が続くことがあります。
日本年金機構の案内では、年金の受取口座は、口座名義のフリガナが年金の記録と一致している必要があります。貯蓄預金口座では年金を受け取れません。口座が使えなくなったときの銀行の対応は、親が認知症なのに家族が預金を引き出すとバレる?と定期預金は認知症になると解約できない?で説明しています。
だれが、どんな手続きをできるのか
| 手続き | 本人が元気なとき | 本人が手続きできないとき |
|---|---|---|
| 年金の受取口座・通知書の送付先を変える | 本人が届け出る | 成年後見人が届け出る。保佐人・補助人・任意後見人は、年金の手続きが代理行為目録に書かれている場合に限る |
| 任意後見の受任者(まだ契約だけの人) | 立場としては、まだ権限がない | 受任者のままでは変更できない。家庭裁判所が任意後見監督人を選び、任意後見人になってから |
| 年金事務所での相談 | 本人、または本人が書いた委任状を持つ家族 | 委任状の代わりに、要介護認定の通知書や障害者手帳など、施設・医療機関の証明書や診断書を持参する方法がある |
| 日々の生活費の引き出し | 本人、代理人カードなど | 銀行の判断による。後見人がいれば後見人 |
日本年金機構の公式ページによる(2026年10月時点)。委任状の代わりになる書類の範囲は、事前に年金事務所へ確認してください。
年金事務所に家族が相談に行くときは、本人が作った委任状と、来所する人の本人確認書類を持っていきます。委任状の様式は日本年金機構のサイトにあります。ただし、本人が書けない状態になってからでは作れません。ここが、元気なうちの備えが効いてくるところです。
親の状態別:年金まわりの備え
| 親の状態 | できること | 注意点 |
|---|---|---|
| 元気で、手続きの内容を理解できる | 年金の受取口座を確認する。施設費や公共料金の引落口座と同じにする。任意後見契約を結ぶなら、年金の手続きを契約に入れる | 任意後見契約は公証役場で公正証書にする。いつ効力が出るかは契約の内容と家庭裁判所の手続きによる |
| 物忘れはあるが、契約の内容は理解できる | 社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」で、預金の出し入れなど日常的なお金の管理を手伝ってもらう | 契約の内容を判断する力が必要。利用料は実施主体が決め、訪問1回あたり平均1,200円が参考額(厚生労働省) |
| 手続きの内容を理解できない | 成年後見の申立てをして、後見人に手続きを任せる | 申立てから結論まで、多くは2か月以内(令和7年の統計で約71%)。後見人は第三者が選ばれることが多い |
家族が年金を預かって使うときの線引き
親の年金を家族が管理している家庭は少なくありません。大切なのは、誰のために使うかです。厚生労働省の手引きは、本人の合意なく、または判断能力の低下に乗じて、本人の金銭を本人以外のために使うことを、高齢者虐待防止法でいう経済的虐待としています。認知症などで金銭管理を理解して同意する力がない場合は、「同意があった」とはいえないとされています。
| 問題になりにくい使い方 | 問題になりやすい使い方 |
|---|---|
| 本人の医療費・介護費・施設費・生活費に使う | 自分の借金返済や生活費に、無断で使う |
| 領収書と使い道のメモを残す | 入院や介護サービスの費用を滞納する |
| 親のお金と自分のお金を、別の口座・別の財布で管理する | 施設に入っている親の預金を、家の改築費などに充てる |
| 金額が大きいときは、きょうだいにも伝える | 本人に必要な支出より、ほかの家族の支出を優先する |
右の列は、厚生労働省の手引きが経済的虐待の例として挙げているものです。気になる状況があれば、市町村や地域包括支援センターに相談できます。
記録の残し方は親のお金の管理に、費用の分担は介護費用は誰が出す?にまとめています。
2026年6月に成立した後見制度の法改正では、後見と保佐が「補助」に一本化され、権限は必要な範囲で個別に定める形になります。年金の手続きも、どこまで任せるかを個別に決める形に近づくと見込まれます。施行はまだ先で、それまでは現行の制度です。
今日できる一歩
- 年金振込通知書や通帳で、年金が入る口座がどの銀行のどの口座かを確かめる
- 親が元気なうちなら、年金事務所用の委任状を一緒に書いておくか、書く予定を決める
- 年金の使い道を、毎月のノートに「日付・金額・何に使ったか」で書き始める
よくある質問
Q1. 年金の振込先を、家族の口座に変えられますか。
日本年金機構のページでは、口座名義人のフリガナが年金の記録と一致している必要があるとされています。後見人が管理口座に変える場合は、口座名義に年金を受け取る人の氏名が含まれている必要があります。家族名義への変更が認められるかは、年金事務所に確認してください。
Q2. 家族だけで年金事務所に相談に行けますか。
制度の一般的な説明は受けられます。本人の年金の記録など個人情報にふれる相談には、本人の委任状と、基礎年金番号が必要です。本人が委任状を書けない場合の持ち物は、事前に年金事務所へ電話で確認すると安心です。
Q3. 親の口座が止まっても、年金は入りますか。
通常は、これまでの口座に振り込まれます。ただし、引き出せない状態が続くと、施設代などの支払いに困ります。本人のための医療費や施設費について、銀行に相談できる場合があります。くわしくは老人ホーム・介護施設の費用2026の「親の口座から施設代を払い続けるための準備」もご覧ください。
Q4. 年金額そのものが分からないときは、どうすればよいですか。
年金の受け取りに使う書類や通帳から確かめられます。年金の基本は2026年度の年金の変更点まとめをご覧ください。
参考にした公的情報(2026年10月時点)
- 日本年金機構「年金を受けている方が年金の受取機関や住所を変更するとき」 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/kyotsu/jukyu/20140421-13.html
- 日本年金機構「年金相談や手続きを代理人に委任するとき」 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/kyotsu/sonota/20140306.html
- 日本年金機構「窓口での年金相談のご案内」(委任状が作成できない場合) https://www.nenkin.go.jp/section/guidance/onegai.html
- 日本年金機構 年金Q&A「任意後見受任者が、年金受給権者への通知書等の送付先や年金の受取機関・口座名義を変更することはできますか」 https://www.nenkin.go.jp/section/faq/jukyu/jukyushatodoke/seinenkokennin/20140421-04.html
- 厚生労働省「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」(令和7年3月) https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/001452977.pdf
- 厚生労働省「日常生活自立支援事業」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/chiiki-fukusi-yougo/index.html
- 最高裁判所「成年後見関係事件の概況―令和7年1月~12月―」 https://www.courts.go.jp/assets/20260316koukengaikyou-r7.pdf
2026年10月時点の一般的な情報です。個別の判断は、年金事務所や専門家にご確認ください。
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本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
