父が亡くなり、兄弟のうち一人が「自分は相続放棄する」と言い出した。残った兄弟の取り分はどう変わるのか。放棄してくれた兄弟にお礼をしたいが、税金はかかるのか。実家の土地だけ放棄したいと言われたが、それはできるのか。兄弟の一人だけが放棄する場面では、こうした疑問が一度に出てきます。
この記事では、親の相続で兄弟(子)の一人だけが相続放棄したときの割合の変わり方を早見表と計算例で示し、家庭裁判所での放棄と「協議で取得しない」の違い、お礼の渡し方と税金、土地だけ放棄できない理由を、2026年10月時点の民法・裁判所・国税庁の案内をもとに整理します。兄弟姉妹が相続人になる場面(亡くなったのが兄弟の場合)の書類は、兄弟の相続放棄の必要書類をご覧ください。
先に結論:一人だけ放棄すると、残りの兄弟の割合が増えます
この記事の結論
- 割合:放棄した人は初めから相続人でなかった扱いになり、残りの兄弟で分け直します。ほかに子が残っていれば、親の兄弟姉妹などには回りません。
- 放棄した人の子:放棄した兄弟の子ども(甥・姪)が代わりに相続することはありません。
- 家裁の放棄と協議は別物:協議書で「何も受け取らない」としても相続人のままで、借金の請求を受けることがあります。
- お礼:家裁で放棄した兄弟にお金を渡すと、贈与税の対象になることがあります。渡し方は放棄の前に決めておきます。
- 土地だけの放棄はできない:相続放棄は財産も借金も全部手放す手続きです。要らない土地は、分け方や国の制度で考えます。
兄弟の一人だけ相続放棄すると割合はどう変わる?早見表と計算例
相続放棄をした人は、その相続について「初めから相続人とならなかったもの」とみなされます(民法939条)。兄弟は一人ずつ、ほかの兄弟の同意なしに放棄できます。放棄した人を除いた残りの相続人で、法定相続分を計算し直します。
計算例:遺産3,000万円、母と子3人で長男だけが放棄した場合
放棄する前は、母が1,500万円、子3人が500万円ずつです。長男が放棄すると、母は1,500万円のまま、二男と長女が750万円ずつになります。母の割合は変わらず、増えるのは残った兄弟の分だけです。
借金も同じように動きます。父に600万円の借金があれば、放棄前は母300万円、子100万円ずつの割合で引き継ぐのが原則です。長男が家庭裁判所で放棄すると長男の分はなくなり、二男と長女の負担が150万円ずつに増えます。
放棄した長男に子がいても、その子が長男の代わりに相続することはありません。代わりに相続する「代襲相続」は、相続人が先に亡くなった場合などに限られ、放棄は含まれないためです(民法887条2項)。子が全員放棄した場合に次の順位へ回る流れは相続放棄はどこまで続く?にまとめています。
「家庭裁判所での放棄」と「協議で取得しない」の違い
兄弟の間で「放棄する」と言うとき、実際には2つの意味で使われています。家庭裁判所に申述する相続放棄と、遺産分割協議書で「何も取得しない」と合意する方法です。どちらを選ぶかで、割合の計算も借金の扱いも変わります。
親に借金がある、または借金があるか分からないなら、家庭裁判所での放棄が向いています。借金の心配がなく、「兄に全部」のように分け方を決めたいだけなら、協議で足ります。協議書で一人が全部を相続する書き方は遺産分割協議書で一人が全て相続、「放棄して」と頼まれた側の考え方は「相続放棄してほしい」と言われたらで詳しく説明しています。
放棄してくれた兄弟へのお礼:渡し方で税金の扱いが変わる
「実家を継ぐ代わりに、放棄してくれた弟に何か渡したい」。気持ちとしては自然ですが、渡し方によって税金の扱いが変わります。お礼の金額に法律上の決まりはありません。考えるべきは「どの形で渡すか」です。
順番で迷いやすいのは、「先に家庭裁判所で放棄してもらい、あとから代償金のつもりでお金を渡す」ケースです。放棄が受理された後は相続人ではないため、遺産分割の代償金として扱う前提がなくなります。お金を渡すつもりがあるなら、放棄の申述をする前に、家族でどちらの形にするかを決めておきます。代償金の条項の書き方は代償分割の遺産分割協議書の書き方にあります。
土地だけ放棄はできない:要らない土地があるときの選択肢
「預金はもらうが、田舎の土地だけは放棄したい」という相談はよくあります。しかし相続放棄は、土地などの財産も借金も、権利と義務を一切受け継がない手続きです(裁判所の案内)。財産を選んで放棄することはできません。
兄弟の一人が放棄すると、その土地の持ち分は残った兄弟に回ります。つまり「要らない土地を抱える人」が減るのではなく、残った兄弟の負担が増える形になります。要らない土地があるときは、次の方法を比べます。
放棄した後の空き家や土地の管理、国庫帰属制度の流れは相続放棄した空き家・土地はどうなる?で説明しています。残った兄弟で土地を共有する場合のルールと分け方は、兄弟で土地を相続するときにまとめています。
兄弟の相続放棄でもめやすい場面と、先に決めておくこと
一人だけの放棄は、家族の中で話がついているつもりでも、後から行き違いが出やすい場面です。よくある形と、先に決めておくことを並べました。分け方そのものでもめているときの話し合いの順番は、遺産相続で兄弟がもめるときにまとめています。
今日できる一歩
親が亡くなった日(または相続人になったと知った日)から3か月後の日付をカレンダーに書き込みます。そのうえで、放棄を考えている兄弟と「家庭裁判所に出すのか、協議書で済ませるのか」を確認し、上の早見表で残る兄弟の割合を計算しておきます。
親の預金や自宅のことも、元気なうちに整理しておきたい方は、3分でできる相続対策診断で確かめられます。
よくある質問
兄弟のうち一人だけ相続放棄できますか
できます。相続放棄は一人ずつ家庭裁判所に申述する手続きで、ほかの兄弟の同意は要りません。期限は、自分が相続人になったと知った時から3か月以内です。手順は相続放棄を郵送でする手順にまとめています。
兄が相続放棄したら、兄の子どもが代わりに相続しますか
相続しません。代わりに相続する代襲相続は、相続人が先に亡くなった場合などに限られ、相続放棄は含まれません(民法887条2項)。兄の分は、残った兄弟で分け直します。
相続放棄してくれた兄弟にお礼をすると、贈与税はかかりますか
家庭裁判所で放棄した兄弟に、遺産を受け取った兄弟がお金を渡すと、贈与税の対象になることがあります。その年にもらった贈与の合計が110万円を超えると申告が必要です。協議で「取得しない」代わりに代償金を受け取る形なら、相続税の計算の中で扱います。どちらにするかは放棄の前に決め、個別の扱いは税務署や税理士に確認してください。
実家の土地だけ相続放棄できますか
できません。相続放棄をすると、預金も土地も借金も、すべて受け継がないことになります。土地を要らない場合は、協議でほかの兄弟が取得する、売って分ける、相続した後に相続土地国庫帰属制度を使う、といった方法を比べます。
兄弟が一人放棄すると、相続税の基礎控除は減りますか
減りません。相続税の基礎控除などで使う法定相続人の数は、放棄がなかったものとして数えます(国税庁 No.4152)。
相続放棄した兄弟も、遺産分割協議書に署名が必要ですか
必要ありません。放棄した人は相続人ではなくなるため、協議には残った相続人だけが加わります。銀行や法務局には、放棄したことが分かる受理通知書や受理証明書の写しを出すよう求められることがあります。
参考にした公的情報
- e-Gov法令検索「民法」(第887条・第889条・第900条・第907条・第915条・第939条・第940条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - 裁判所「相続の放棄の申述」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html - 国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm - 国税庁「No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4173.htm - 国税庁「No.4152 相続税の計算」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm - 法務省「相続土地国庫帰属制度について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00454.html
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。税金の扱いは個別の事情で変わるため、税務署や税理士にご確認ください。相続放棄の申述は家庭裁判所の案内に従い、迷うときは司法書士・弁護士にご相談ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
