「銀行を通すと面倒だから、現金で渡してしまおう」。相続でも生前の贈与でも、よくある発想です。渡すこと自体は禁じられていませんが、記録が残らないまま渡すと、あとで税務署から使い道を問われたり、他の相続人から「もらっていない」と言われたときに反論できなくなります。
この記事では、現金で渡してよい場面とまずい場面の分かれ目、そして渡すときに何を残しておけばよいかを整理します。
先に結論:現金で渡すこと自体は違法ではない
これは問題ない
遺産分割で決めた取り分を現金で渡す
分割協議書と受領書があれば、渡し方は自由です。
生前に年110万円以内を渡す
贈与税の基礎控除の範囲内。契約書を作り、できれば振込にします。
葬儀費用を立て替えて現金で精算する
領収書と精算メモを残せば説明がつきます。
これは「アウト」
渡した現金を申告から外す
相続税・贈与税の申告漏れ。仮装隠蔽とされると重加算税35〜40%が上乗せされます。
名義だけ子ども、通帳と印鑑は親が管理
贈与が成立しておらず「名義預金」として親の相続財産に戻されます。
亡くなる直前に口座から下ろして分ける
手元に残った現金も相続財産です。引き出しても課税は消えません。
分かれ目はここ 現金で渡したかどうかではなく、申告したかどうかです。記録が残らないことと非課税になることは、まったく別の話です。
贈与税の基礎控除は受贈者1人あたり年110万円。相続税の申告期限は亡くなった日の翌日から10か月。相続開始前一定期間内の贈与は相続財産に加算されます(2024年1月1日以後の贈与から加算期間が3年→7年へ段階的に延長/2026年8月時点)。
現金で渡すこと自体を禁じる法律はありません。問題になるのは、渡した事実を申告に反映しなかったときと、渡したつもりが法律上は渡せていなかったとき(名義預金)の2つです。以下、記録の残し方と、税務署が現金の動きを把握する経路を確認してください。
現金で渡すなら、この3つを残す
現金で渡すときに残す3つ
手渡し前の準備と書類の用意
相続財産の目録を作成し、相続人全員の同意を得る。財産の評価額を正確に算定し、相続税申告書の準備も進めておく。
受領者との合意書作成
受領者の氏名・受領金額・受領日・相続人全員の同意を明記した合意書を作成し、全員の署名・捺印を得る。
受け取った側の記録を残す
受領書に日付・金額・署名をもらい、受け取った側は自分名義の口座へ入金しておく。金額が大きいときは、はじめから振込にするほうが記録が確実に残ります。
税務署は、現金の動きをどこから見つけるのか
「手渡しなら記録が残らない」は成り立ちません。税務署は、亡くなった方本人だけでなく、配偶者や子・孫の口座まで含めて数年分の入出金を確認できます。次のような形で表に出ます。
- 出金の跡/亡くなる前後の大口出金。使い道を説明できないと、手元に残った現金(手許現金)として申告漏れを指摘されます。
- 入金の跡/受け取った側の口座への入金、不動産・車の購入、証券口座への振替。収入と釣り合わない支出は目に留まります。
- 支払調書/生命保険金や証券の取引は、金融機関から税務署へ資料が提出されます。
- 名義預金の判定/子ども名義でも、通帳・印鑑・キャッシュカードを親が持ち、子どもが自由に使えていなければ、贈与は成立していないと扱われます。
逆に言えば、受領書と贈与契約書がそろい、受け取った側が自分の口座で管理していれば、現金で渡していても説明はつきます。金額が大きいときは、証拠が自動的に残る振込に切り替えるほうが手間が少なく済みます。
あわせて読みたい
ご自身の非課税枠の目安や納税資金の備えを確認したい方は、無料で使える相続 生前対策診断をお試しください。
