ペットのための遺言の書き方|負担付遺贈の文例と費用・注意点

「ペットの世話をしてくれることを条件に、財産を遺したい」——この願いを、遺言書で実現する方法が負担付き遺贈です。ペットは財産を相続できないため、代わりに「世話をする人」に財産を渡し、世話を義務づけるという発想です。

この記事では、愛知県内で相続・生前対策のご相談を受けている当窓口の視点から、負担付き遺贈の仕組みとメリット、注意点、そしてペット信託との違いを、中立の立場で整理します。ペットの終活全体はペットの終活、飼い主が生前にすべきこともご覧ください。

目次

負担付き遺贈とは

負担付き遺贈とは、遺言によって財産を遺贈する際に、受け取る人(受遺者)に一定の義務(負担)を課すものです。ペットの場合、「ペットの世話をすること」を負担として、財産を遺贈します。受遺者は、財産を受け取る代わりに、ペットを飼育する義務を負うことになります。

これにより、単に「ペットをお願いします」と頼むだけよりも、お金と世話をセットにして、法的な形で託せるのが特徴です。遺言書一つで実現できるため、比較的取り組みやすい方法といえます。

負担付き遺贈の仕組みと流れ
1
遺言書を作成する
「財産を遺贈する」ことと「ペットの世話をすること(負担)」をセットで遺言書に記載します。形式不備で無効にならないよう、公正証書遺言がおすすめです。
2
受遺者に事前の承諾を得る
受遺者は遺贈を放棄できるため、あらかじめ本人の承諾を得ておきます。遺言執行者を定めておくと履行を監督しやすくなります。
3
飼い主が亡くなり遺言が効力を持つ
効力が生じるのは死後です。受遺者が財産と世話をセットで引き受けるかどうかを判断します。
✓
受遺者がペットを飼育する
財産を受け取る代わりにペットを飼育します。遺言執行者が負担の履行を監督することで、実効性を高められます。

負担付き遺贈のメリット

  • 遺言書だけで実現できる:信託のような別の契約を組まなくてよい
  • 世話とお金をセットで託せる:飼育費を渡しつつ、世話を義務づけられる
  • 引き受け手が受け入れやすい:飼育費が付くため、負担が軽くなる

注意点:ここを押さえないと機能しない

⚠️ 負担付き遺贈で押さえる3つの注意点
1. 受遺者は遺贈を放棄できる。あらかじめ本人の承諾を得ておく。
2. 世話の履行をどう確保するか。遺言執行者を定めるなどの工夫が要る。
3. 生前の世話はカバーできない。効力は死後から。

1. 受遺者は遺贈を放棄できる

負担付き遺贈は、受遺者に強制はできません。受遺者が「財産も世話も引き受けない」と放棄することも可能です。そのため、あらかじめ本人の承諾を得ておくことが不可欠です。誰にも相談せず遺言に書くだけでは、実現しない恐れがあります。

2. 世話の履行をどう確保するか

財産だけ受け取って世話をしない、という事態を防ぐ工夫が必要です。遺言執行者を定めて履行を監督させる、負担が履行されない場合の取扱いを定めるなど、実効性を高める設計が求められます。世話が行われない場合、相続人などが履行を求めたり、家庭裁判所を通じて遺言の取消しを請求できる場合もありますが、手続きの負担は小さくありません。

3. 生前の世話はカバーできない

負担付き遺贈は遺言による方法のため、効力を持つのは飼い主が亡くなった後です。飼い主が入院・認知症などで世話ができなくなる「生前」の空白には対応できません。生前から備えたい場合は、次のペット信託が向いています。

ペット信託との違いと使い分け

ペット信託は、生前・死後を通じて飼育費を管理・給付できる仕組みで、飼い主が認知症になっても機能します。一方、負担付き遺贈は遺言だけで手軽に始められますが、効力は死後からで、履行確保に工夫が要ります。「手軽さ」を重視するなら負担付き遺贈、「生前からの確実な備え」を重視するならペット信託、と整理できます。どちらが適するかは、飼い主の状況やペットの年齢によって変わります。飼い主が先に亡くなった場合のペットの扱いは自分が先に亡くなったら、ペットはどうなるかもご覧ください。

負担付き遺贈とペット信託の比較
比較項目 負担付き遺贈 ペット信託
始め方 遺言書だけで手軽に始められる 信託契約を結ぶ必要がある
効力の発生 死後から 生前・死後を通じて
生前の世話 カバーできない 認知症になっても機能する
履行の確保 工夫が必要(遺言執行者など) 仕組みで管理・給付できる
向いている人 手軽さを重視する人 生前からの確実な備えを重視する人

遺言書は公正証書で確実に

負担付き遺贈を確実にするには、形式不備で無効にならず、原本が保管される公正証書遺言がおすすめです。遺言執行者を定めておくと、負担の履行も監督しやすくなります。設計にあたっては、対応実績のある専門家に相談すると安心です。

ペットのための遺言の書き方|文例の骨組み

ペットのための遺言では、「誰に」「何を渡し」「何をしてもらうか」の3つを、あいまいさなく書くことが大切です。公正証書遺言にするときは、公証人が文面を整えてくれますが、次のような骨組みを頭に入れておくと、専門家への相談がスムーズです。

文例の骨組み(実際の文言は専門家に確認してください)
第1条 遺言者は、受遺者〇〇〇〇に対し、現金〇〇〇万円を遺贈する。
第2条 受遺者は、前条の遺贈を受ける負担として、遺言者が飼育する愛犬(名前〇〇、犬種〇〇、〇年生まれ)を引き取り、その命を終えるまで適切に飼育しなければならない。
第3条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、〇〇〇〇を指定する。
  • ペットは名前だけでなく、種類・生年・特徴(マイクロチップ番号があれば番号)まで書くと、どの子か特定できます
  • 「大切に飼う」だけでなく、「命を終えるまで飼育する」「かかりつけ病院で健康管理を続ける」など、具体的な内容にします
  • 受遺者が引き受けられないときの次の候補(予備の受遺者)も書いておくと安心です

渡す金額の決め方|飼育費の目安

金額の決め方に決まりはありませんが、少なすぎると引き受けてもらえません。神奈川県の案内ページが紹介する年間の飼育費用の目安(アニコム損害保険「ペットにかける年間支出調査」2024年)を使うと、次のように計算できます。

 1年の目安残り5年残り10年
犬約41万4000円約207万円約414万円
猫約17万8000円約89万円約178万円

この金額は単純計算の目安です。持病のある子や高齢の子は医療費が増えるため、ここに予備を上乗せし、受遺者へのお礼(引き受けてもらう手間への気持ち)も考えて決めます。なお、受遺者の責任は、受け取った財産の価額が上限です(民法第1002条)。飼育費が受け取る財産を超えた分まで、受遺者が負担する義務はありません。

遺言書を公正証書で作る費用|公証人手数料

公正証書遺言の手数料は、遺言で渡す財産の価額で決まります(公証人手数料令、日本公証人連合会の案内による)。ペットのために渡す金額だけでなく、ほかの財産も遺言に入れるなら、その合計額で計算します。

遺言で渡す財産の価額手数料
100万円以下5,000円
100万円超 200万円以下7,000円
200万円超 500万円以下11,000円
500万円超 1,000万円以下17,000円
1,000万円超 3,000万円以下23,000円
3,000万円超 5,000万円以下29,000円
5,000万円超 1億円以下43,000円

全体の財産が1億円以下のときは、上の金額に遺言加算として11,000円が加わります。ほかに、正本・謄本の写し代(1枚250円)などがかかります。司法書士などの専門家に文案づくりを頼む場合の報酬は、事務所ごとに違うため、見積もりを取って確認してください。

受遺者が引き受けない・世話をしないときの民法のルール

場面民法のルール
受遺者が遺贈を断る遺言者の死亡後、いつでも放棄できる(第986条)。放棄すると、財産もペットの世話も引き継がれない
受遺者が放棄した後負担で利益を受ける人が自分で受遺者になれる場合がある。ただし遺言で別の意思を書いていればそれに従う(第1002条第2項)
財産を受け取って世話をしない相続人が期間を決めて履行を求め、それでも履行されないとき、家庭裁判所に遺言の取消しを請求できる(第1027条)

こうした場面で動く人が必要なため、遺言執行者を指定しておくことが重要です(第1012条)。相続人のなかに、ペットの世話を気にかけてくれる人がいない場合は、受遺者との役割分担や、執行者の選び方も専門家と相談しましょう。

負担付遺贈を使うまでの流れ|5ステップ

  1. ペットの種類・年齢・持病・1年の費用を書き出す
  2. 世話を頼みたい人に相談し、引き受けてもらえるか、予備の人はいるかを確かめる
  3. 渡す金額を決める(飼育費の目安+予備+お礼)
  4. 遺言書の案を作り、遺言執行者を決める(専門家に確認する)
  5. 公証役場で公正証書遺言を作り、受遺者と執行者に、遺言があることと保管場所を伝える

よくある質問(FAQ)

世話をしてもらえなかった場合はどうなりますか?

負担が履行されない場合、相続人などが履行を求めたり、家庭裁判所を通じて遺贈の取消しを請求できる場合があります。ただし手続きの負担があるため、遺言執行者を定めるなど、あらかじめ履行を確保する仕組みを整えておくことが重要です。

受け取る人の同意は必要ですか?

受遺者は遺贈を放棄できるため、事前の承諾が実質的に不可欠です。世話を引き受けてくれるか、飼育費で足りるかを、生前によく話し合っておきましょう。

負担付き遺贈とペット信託、どちらがいいですか?

手軽さなら負担付き遺贈、生前からの確実な備えならペット信託です。飼い主の年齢や健康状態、ペットの余命によって適した方法は変わります。両者の特徴を踏まえ、専門家と相談して選ぶとよいでしょう。

ペットに多めに財産を渡すと、ほかの相続人とトラブルになりませんか?

ほかの相続人の取り分(遺留分)を侵害しない範囲で金額を決めるのが安全です。ペットのための財産が大きいと、遺言の内容によっては相続人から遺留分侵害額の請求を受けることがあります(民法第1046条)。金額が大きいときは、専門家に確認してから決めましょう。

ペットの名前を遺言に書くだけで足りますか?

名前だけでは足りません。ペットは相続人になれないため、世話をする人(受遺者)と、渡す財産、世話の内容をセットで書く必要があります。

参考にした公的情報

  • 日本公証人連合会「遺言」(公正証書遺言の手数料・遺言加算。2026年10月に確認)
  • e-Gov法令検索「民法」第986条・第1002条・第1012条・第1027条・第1046条
  • 神奈川県「高齢者の方のペットの飼い方」(年間飼育費の目安)

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本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。複数の提携行政書士による監修体制で運営しており、特定個人の士業を推奨するものではありません。遺言・遺贈の設計は専門家にご相談ください。

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この記事を書いた人

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