遺言執行者は誰にする?専門家に頼むメリット・デメリットと選び方(愛知)

公正証書遺言の文案を公証役場と詰めていくと、最後に「遺言執行者はどなたにしますか」と聞かれる。長男の顔が浮かぶが、他のきょうだいに角が立たないか気になる。かといって専門家に頼むと、費用がいくらかかるのか見当がつかない――。指定欄の前でペンが止まってしまう方は、少なくありません。

📝 この記事の結論(30秒まとめ)

遺言執行者は、遺言の内容を実際に実現する権限を持つ人です(民法1006条・1012条)。指定しないと相続人全員の実印・印鑑証明書が必要になり、非協力的な相続人が1人でもいると預貯金の解約や不動産登記が止まりやすくなります。

遺言執行者とは…遺言者に代わって、単独で預貯金解約・不動産登記などの手続きを進められる人です。

指定しないと…相続人全員の同意(実印・印鑑証明書)が必要になり、揉めると手続きが止まりやすくなります。

家族を指定…身近で費用はかかりませんが、公平性を疑われたり実務で行き詰まったりすることがあります。

専門家を指定…手続きはスムーズですが報酬が発生します。目安は本文で解説します。

「遺言執行者」という言葉自体、聞き慣れない方がほとんどです。実際に迷っているのは「誰にするか」よりも、「その人が最後までちゃんとやり切れるのか、途中で行き詰まったり、他の相続人から疑われたりしないか」という点ではないでしょうか。長男を指定すれば角が立つかもしれない、専門家に頼めば費用が読めない――どちらを選んでも一長一短に感じてしまうのは当然です。だからこの記事では、指定しない場合のリスク、家族と専門家それぞれのメリット・デメリット、報酬の目安まで、判断に必要な材料をすべて整理しました。

目次

遺言執行者とは?遺言の内容を実現する権限を持つ人(民法1006条・1012条)

遺言執行者とは、遺言者に代わって遺言の内容を実際に実現する人のことです。遺言者は遺言のなかで、1人または複数人の遺言執行者を指定できます(民法1006条)。指定された遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利義務を持ちます(民法1012条)。

遺言執行者が単独でできること(民法1012条・1014条)
① 預貯金の解約・払い戻し手続き
② 不動産の相続登記の申請
③ 遺贈(遺言で財産を渡す約束)の履行
④ 相続財産の目録を作成し、相続人に交付する

さらに民法1013条により、遺言執行者がいる間は、相続人が相続財産を処分したり、遺言の執行を妨げたりする行為はできません(行った場合は無効になります)。つまり遺言執行者は単なる進行役ではなく、遺言者に代わって手続きを完結させる法律上の権限を持つ立場です。なお、公正証書遺言そのものの作成時には、遺言執行者とは別に証人2人の立ち会いが必要です。証人の選び方や費用については公正証書遺言の証人は誰に頼む?なれない人・見つからないときの対処法で詳しく解説しています。

遺言執行者を指定しないとどうなるか

遺言書に遺言執行者を書かなくても、遺言そのものが無効になるわけではありません。ただし指定がない場合、預貯金の解約や不動産登記は、原則として相続人全員が手続きに関わることになります。金融機関では相続人全員の実印を押した書類と印鑑証明書の提出を求められるのが一般的で、法務局への相続登記でも相続人全員の関与が必要になる場面が多くあります。

⚠️ こんな停滞が起こりやすい
・ 遠方に住む相続人が書類を返送してくれない
・ 音信不通の相続人がいて実印がもらえない
・ 一部の相続人が「納得できない」と押印を拒否する
→ 遺言執行者がいれば、こうした場面でも遺言執行者が単独で手続きを進められます。

目安として、相続人が3人以上いる場合、または疎遠・非協力的な相続人が1人でもいる場合は、遺言執行者を指定しておいたほうが、手続きが止まるリスクを大きく減らせます。逆に相続人が配偶者1人だけといったシンプルな関係であれば、指定しなくても手続きが大きく滞ることは少ないでしょう。実際、遺言書があっても遺留分侵害額請求や代償金の準備といった別の論点は残ります。遺言書だけでは用意できない4つの盲点は公正証書遺言を作る前に知っておきたい4つの盲点|遺留分・代償金・納税で詳しく解説しています。

家族(配偶者・長男など)を指定する場合のメリット・デメリット

家族を指定するメリット

身近な人なので頼みやすく、報酬が発生しないのが一般的

家族の事情や財産の背景をよく理解している

専門家へ依頼するより心理的なハードルが低い

家族を指定するデメリット

他の相続人から「特定の家族に有利に進めるのでは」と公平性を疑われることがある

相続登記や金融機関手続きの実務知識がなく、途中で行き詰まりやすい

平日日中に金融機関・法務局へ出向く時間的な負担がかかる

家族を指定する場合、目安として「相続人同士の関係が良好」「不動産が1件以下」「取引金融機関が少ない」といったシンプルなケースでは、家族による執行でも十分に完結できます。逆に不動産が複数ある、相続人間に感情的なしこりがあるといった場合は、行き詰まるリスクが高まります。遺言執行者に家族と専門家のどちらを指定すべきか迷う方向けに、一宮公証役場での作成に関する記事でも、専門家を指定するメリット・デメリットに触れています。あわせて一宮公証人合同役場で公正証書遺言を作るときに後悔しやすい7つの落とし穴もご覧ください。

専門家(行政書士・司法書士など)を指定する場合のメリット・デメリット

専門家を指定するメリット

預貯金解約・相続登記などの実務に精通しており、手続きがスムーズに進みやすい

特定の相続人に偏らない中立な立場で執行できる

平日の窓口対応や書類収集を任せられる

専門家を指定するデメリット

報酬が発生する(次章で解説)

家族にとっては「知らない人に財産の内容を管理される」心理的な距離がある

対応できる業務の範囲は、依頼する専門家の資格によって異なる

行政書士・司法書士など専門家に依頼する場合も、それぞれの資格で対応できる業務の範囲が法律で定められています(登記は司法書士、税務申告は税理士など)。当窓口では複数の提携専門家と連携し、財産の内容や手続きの範囲に応じて適切な専門家をご紹介しています。専門家に依頼するかどうかで実際に迷った相談事例は、JA豊橋の相続手続き完全ガイドでも紹介しています。

遺言執行者の報酬の目安

遺言執行者の報酬額に、法律で定められた基準はありません。決め方は主に3つのパターンに分かれます。

決め方 目安
遺言書であらかじめ指定 遺言書に記載した金額どおり(家族なら無償が多い)
専門家に依頼(記載がない場合は相続人と協議) 数十万円程度が目安とされることが多い
協議がまとまらず家庭裁判所の審判で決定 相続財産評価額に対して数%程度が目安とされるケースがある

報酬額は財産の内容や手続きの複雑さによって大きく変わるため、上記はあくまで目安です。専門家に依頼する場合は、契約前に必ず見積りを確認してください。なお、遺言執行者への報酬と、遺言書自体を作成する際の公証人手数料は別のものです。公正証書遺言と自筆証書遺言でかかる費用の違いは公正証書遺言と自筆証書遺言はどっちがいい?費用・手間・確実性で比較で比較しています。

公正証書遺言で遺言執行者を指定する方法

公正証書遺言を作成する際は、事前の打ち合わせの段階で「遺言執行者を誰にするか」を公証人に伝えます。氏名・住所・職業などを遺言書の条項に明記してもらう形が一般的です。指定した人が実際に遺言執行者に就任するかどうかは、相続開始後にあらためて確認される流れになるため、事前に本人へ「指定する予定であること」を伝えておくと、就任時のトラブルを防げます。

🔍 当窓口の相談から|遺言執行者にも「予備」が必要
指定した遺言執行者が、遺言者本人より先に亡くなっていたり、破産・辞任・解任などで職務を続けられなくなっていたりして、いざ相続が始まったときに執行者が不在になっていた――というご相談は少なくありません。こうした事態に備え、「第一の遺言執行者が職務を行えないときは、○○を遺言執行者とする」のように、予備の遺言執行者もあわせて指定しておくと安心です。(当窓口に寄せられた相談をもとに再構成した典型例です)

特に遺言執行者に高齢の家族を指定する場合や、専門家1人だけを指定する場合は、予備の指定を検討する価値があります。公証人との打ち合わせの際に、あわせて相談してみてください。

こんな方は、専門家への依頼を急ぐ必要はありません

次のような場合は、無理に専門家へ依頼しなくても、家族による執行で十分に対応できる可能性が高い状況です。

  • 相続人が2人以下で、関係が良好
  • 不動産が1件のみ、または不動産がない
  • 取引のある金融機関の口座数が少ない(2〜3件程度)
  • 遺言執行者を引き受ける家族に、平日の手続きに動ける時間がある

上記に複数あてはまる方は、専門家に依頼しなくても、ご家族だけで遺言の執行を完了できる可能性が高い状況です。無理に専門家へ依頼される必要はありません。まずはご家族で「誰が引き受けられそうか」を話し合ってみてください。

セルフチェック:遺言執行者について準備が必要か

当てはまる数をかぞえてみてください

☐ 相続人が3人以上いる

☐ 不動産が2件以上ある、または遠方の不動産がある

☐ 相続人の中に疎遠・音信不通の人がいる

☐ 遺言執行者を引き受けてくれそうな家族がいない

☐ 遺言執行者に指定したい家族が高齢、または体調に不安がある

0〜1個 → 家族による執行でも大きな支障は少ない状況です。無理に専門家へ依頼する必要はありません。

2〜3個 → 家族か専門家か、判断が必要な論点があります。下の診断で、あなたに合った生前対策を確認しましょう。

4個以上 → 専門家の指定を含め、早めに整理したほうがよい状況です。

上のチェックで該当が0〜1個だった方は、専門家に依頼しなくてもご家族だけで遺言執行を進められる可能性が高い状況です。費用をかける必要はありません。

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よくある質問

遺言執行者を指定しないと、遺言自体が無効になりますか?

いいえ、無効にはなりません。遺言執行者の指定は任意です。ただし指定がない場合、預貯金の解約や相続登記で相続人全員の関与が必要になりやすく、手続きが止まるリスクが高まります。

まだ元気なので、遺言執行者まで決めるのは早すぎませんか?

早すぎるということはありません。むしろ判断力がしっかりしているうちに決めておくことで、後から「誰に頼むか」で揉めるのを防げます。指定した内容を変更したい場合は、遺言を書き直せばいつでも変更できます。

遺言執行者を家族に頼むのは、他の相続人に言い出しにくいのですが。

お気持ちはよく分かります。専門家を遺言執行者に指定すれば、特定の相続人が有利に進めていると疑われる心配がなく、家族の誰かに負担や角が立つ役目を押し付けずに済みます。

専門家に依頼すると、費用はいつ発生しますか?

一般的に遺言執行者への報酬は、遺言者が亡くなり実際に執行業務を行った段階(相続開始後)で発生します。遺言書を作成する段階では発生しないのが通常です。金額は依頼前に必ず見積りで確認してください。

遺言執行者を途中で辞めることはできますか?

正当な事由があれば、家庭裁判所の許可を得て辞任できます。指定された側が就任そのものを辞退することも可能です。だからこそ、予備の遺言執行者を指定しておくと安心です。

まとめ

遺言執行者は、遺言の内容を単独で実現できる権限を持つ人です。指定しなければ相続人全員の実印・印鑑証明書が必要になり、非協力的な相続人が1人でもいると手続きが止まりやすくなります。家族を指定すれば費用はかかりませんが公平性を疑われたり実務で行き詰まったりすることがあり、専門家を指定すれば報酬は発生するものの手続きはスムーズに進みます。どちらが向いているかは、相続人の人数や関係性、財産の内容によって変わります。迷ったときは、予備の指定もあわせて検討してみてください。

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🛡️ 遺言執行者を決めても残る「現金」の問題

遺言執行者を指定し、手続きがスムーズに進むようにしても、遺言では「誰に何を渡すか」までしか決められません。遺留分の請求・代償金・相続税の納税資金といった「渡すための現金」は、別に用意しておく必要があります。準備の方法としては生前贈与・預貯金の取り分け・生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)などがあり、活用法は生命保険と相続に関する完全ガイドで解説しています。相続に詳しい保険の相談先をお探しの場合は、複数社を比較できる提携代理店をご紹介することも可能です。

※ご紹介にあたり、当社が提携代理店から紹介料を受け取る場合があります。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税額計算や特定の保険商品の推奨を行うものではありません。税務・法的な判断が必要な場合は、税理士・弁護士など専門家にご確認ください。


本記事は司法書士 今井裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。掲載情報は作成時点(2026年7月)の公開情報にもとづきます。遺言執行者の報酬相場や公証役場の運用は変更されることがあるため、作成前に必ず各公証役場または日本公証人連合会の公式サイトで最新の情報をご確認ください。個別の判断は弁護士など専門家にご相談ください。なお、提携保険代理店をご紹介する場合、当社が紹介料を受け取ることがあります。

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この先どうするか、決めかねている方へ

当社は手続きそのものをお受けしていないため、「いまは何もしなくて大丈夫です」という結論をお伝えしても困りません。ご相談を無料にしているのは、そのためです。実際の手続きをご依頼になる場合は、提携先の専門家が有償で承ります。ご希望に応じて提携先をご紹介した際に紹介料を受け取る場合がありますが、紹介料の有無でご提案の内容は変えません。

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この記事を書いた人

「いまから相続」は、株式会社アシストプラスが運営する、相続の手続き・生前対策・終活に関する情報サイトです。愛知県内の相続相談先の選び方や費用相場、金融機関ごとの手続き、生前対策や終活の進め方など、地域の実情に即した実践的な情報をお届けしています。 なお、運営会社である株式会社アシストプラスには、「あいち相続あんしんセンター」代表を務める司法書士 今井裕司が一部出資しております。この関係性を踏まえ、記事内でのご紹介・ご案内は公平性を保つよう努めています。

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