公正証書遺言と自筆証書遺言はどっちがいい?費用・手間・確実性で比較

「遺言くらい、自分で書けば十分だろう」。そう思って書き方を調べ始めると、今度は「確実なのは公正証書のほう」という説明にぶつかる——。わざわざ数万円の費用と手間をかけて公証役場で作るべきなのか、それとも法務局に預けておけば十分なのか。どちらにも一理あるように見えて、決めきれないまま手が止まってしまう。遺言を「作る」より前の、この入口でつまずく方は少なくありません。

📝 この記事の結論(30秒まとめ)

遺言書の主な選択肢は、自分で書く「自筆証書遺言」と、公証人が作る「公正証書遺言」の2つです。

費用を抑えたい・財産がシンプル…自筆証書遺言が向きます。法務局の保管制度なら手数料3,900円で、検認も不要になります。

確実性を最優先・財産が多い・相続人が複雑…公正証書遺言が向きます。手数料は財産額に応じて数万円〜(2025年10月改定)。

判断能力に不安があるうちに残したい…公証人と証人が本人の意思を確認する公正証書が安心です。

迷ったときの判断軸…「無効でも本人はもう書き直せない」。取り返しがつかないぶん、確実性の価値は大きくなります。

本当の迷いは「どちらが正しいか」ではなく、「数万円を惜しんで自筆にした結果、いざというとき使えない遺言になっていないか」という不安かもしれません。遺言は、本人が亡くなった後にはじめて効力を持ち、そのときには本人に確認できません。だからこの記事では、費用の差だけでなく、”作った遺言が確実に効くか”という視点で両者を比べ、どちらを選べばよいかまで分かるようにしました。

目次

自筆証書遺言と公正証書遺言の違いを一覧で

まず、両者の違いを一覧で押さえましょう。ポイントは「費用」「手間」「確実性」の3つで大きく性格が分かれる点です。

項目 自筆証書遺言 公正証書遺言
作成方法 本人が全文を手書き(財産目録はパソコン可) 公証人が本人の口述をもとに作成
費用 ほぼ無料(法務局保管は3,900円) 財産額に応じた手数料(数万円〜)
証人 不要 2人以上必要
保管 自宅など(法務局保管制度あり) 原本を公証役場が保管
検認(家裁) 必要(法務局保管なら不要) 不要
無効・紛失リスク 書式不備・紛失・改ざんの恐れ ほぼなし
判断能力の確認 なし 公証人・証人が確認

費用と手間はどれくらい違うのか

自筆証書遺言は、紙とペンがあれば費用ゼロで作れます。法務局の自筆証書遺言書保管制度を使っても、手数料は1件3,900円です。一方、公正証書遺言は財産額に応じた公証人手数料(2025年10月に改定)がかかり、証人への謝礼も含めると数万円〜が目安になります。

ただし「手間」は逆になります。自筆は本文をすべて自分で手書きする必要があり、長い遺言ほど負担が大きく、書き損じや要件違反も起こりがちです。公正証書は、内容を口頭で伝えれば公証人が文章にしてくれるため、本人は最後に署名するだけで済みます。体調に不安がある方や、財産が多く記載量が増える方ほど、この差は大きく効いてきます。公証人手数料の考え方や地域の公証役場の使い方は、名古屋の公証役場で公正証書遺言を作るときに後悔しやすい7つの落とし穴で具体的に解説しています。

いちばんの違いは「確実に効くかどうか」

費用や手間よりも重いのが、確実性の差です。遺言は本人の死後に効くため、無効だと分かっても書き直せません。両者の強み・弱みを並べます。

自筆証書遺言の弱点

書式の不備(日付漏れ・押印忘れ等)で無効になることがある

自宅保管だと紛失・改ざん・発見されないリスク

相続後に家庭裁判所の検認が必要(保管制度を除く)

作成時に判断能力を確認する人がいない

公正証書遺言の強み

公証人が関与し、形式不備での無効がほぼない

原本を公証役場が保管し、紛失・改ざんの心配がない

検認が不要で、相続後すぐ手続きに使える

公証人・証人が本人の意思と判断能力を確認する

⚠️ 「保管制度」は無効まで防いでくれない
法務局の自筆証書遺言書保管制度は、預かり時に日付や署名の有無など“外形”はチェックしますが、内容が法律上有効かどうかまでは保証しません。きちんと保管されていても、中身の不備で無効になる可能性は残ります。ここが、公証人が内容を確認する公正証書との大きな違いです。

結局、どちらを選べばいい?

費用・手間・確実性を踏まえると、向き・不向きは次のように整理できます。

あなたはどちら向き?

自筆(+法務局保管)が向く人

・ 財産が預貯金中心でシンプル

・ 相続人が少なく、もめる心配が小さい

・ とにかく費用を抑えたい

公正証書が向く人

・ 不動産・自社株など分けにくい財産がある

・ 相続人が多い/関係が複雑/前婚の子がいる

・ 確実性を最優先/判断能力に一抹の不安がある

▶ 財産や家族関係が複雑なほど、“無効で書き直せない”リスクの重みが増します。取り返しがつかないぶん、公正証書の確実性が効いてきます。

公正証書で作ると決めた後にも、意外な落とし穴があります。作成後に後悔しやすいポイントは、公正証書遺言を作る前に知っておきたい4つの盲点|遺留分・代償金・納税にまとめています。逆に、遺言書がないまま相続が始まると、配偶者が兄弟姉妹や甥姪と遺産分割協議をする羽目になることもあります。その具体例は遺言書がないとどうなるか?子供がいない場合の法定相続とリスクで解説しています。

🔍 当窓口の相談から
自筆証書遺言でよくあるのが、「財産はすべて長男に」とだけ書き、日付を「令和7年8月吉日」としてしまう例です。日付が特定できない遺言は、それだけで無効になります。加除訂正の方法にも細かい決まりがあり、少しの書き間違いが命取りになりかねません。確実性を求めるなら、内容を専門家に確認してもらうか、公正証書を選ぶのが安全です。(当窓口に寄せられた相談をもとに再構成した典型例です)

こんな方は、公正証書にこだわらなくても大丈夫です

財産が預貯金だけで金額も基礎控除以下、相続人も1〜2人で仲が良い——そんな方は、費用をかけて公正証書にする必要は必ずしもありません。自筆証書遺言を法務局の保管制度(3,900円)で預けておけば、紛失と検認の心配はカバーできます。まずは自分の財産と家族構成が「シンプルな側」か「複雑な側」かを見きわめるのが第一歩です。

セルフチェック:あなたはどちらを選ぶべきか

当てはまる数をかぞえてみてください

☐ 不動産・自社株など「分けにくい財産」がある

☐ 相続人が3人以上、または関係が複雑(前婚の子・疎遠な相続人など)

☐ 遺言で、特定の相続人の取り分を大きく減らすつもりがある

0個 → 自筆証書遺言+法務局保管でも十分カバーできる可能性が高い状況です。

1〜2個 → 無効やもめごとのリスクを踏まえると、公正証書を検討する価値があります。下の診断で向き不向きを確認しましょう。

3個 → 確実性の高い公正証書を軸に、生前対策全体を整理したほうが安全です。

該当が0個だった方は、費用の高い公正証書にこだわる必要はありません。まずは自筆証書遺言と法務局の保管制度で備えておけば十分な場合が多く、無理にご相談される必要はありません。

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よくある質問

費用をかけてまで公正証書にする意味はありますか?

財産や家族関係がシンプルなら、自筆+保管制度でも十分です。ただし遺言は本人が亡くなった後に効くもので、無効でも書き直せません。数万円で”確実に効く”状態を用意できると考えると、財産が多い方ほど公正証書の価値は大きくなります。

自筆証書遺言はもう古い/おすすめしないのですか?

いいえ。2020年に始まった法務局の保管制度(3,900円)で、自筆の弱点だった紛失や検認の問題は大きく改善しました。費用を抑えたい方には有力な選択肢です。ただし、法務局は外形を確認するだけで”内容の有効性”までは保証しない点には注意が必要です。

まだ元気なので、遺言はもう少し先でもいいですか?

公正証書は、判断能力がしっかりしているうちに作るからこそ、後から争われにくくなります。認知症が進むと、そもそも遺言自体を作れなくなることもあります。「元気なうち」がむしろ適期だとお考えください。

一度作った遺言は、あとから書き直せますか?

どちらの方式でも、後から新しい遺言で書き直せます(日付の新しいものが優先されます)。公正証書で作り直す場合も、以前の内容に縛られません。家族構成や財産が変わったら見直すのが正解です。

どちらの遺言でも、遺留分は防げますか?

いいえ。方式にかかわらず、遺言では遺留分侵害額請求そのものは防げません。渡したくない相手からの請求に備えるには、遺言とは別の準備が必要です。詳しくは公正証書遺言を作る前に知っておきたい4つの盲点|遺留分・代償金・納税をご覧ください。

まとめ

遺言書は、費用と手間を抑えるなら自筆(+法務局保管3,900円)、確実性を最優先するなら公正証書、と考えると整理しやすくなります。分け目は「無効になっても書き直せない」というリスクをどこまで重く見るか。財産や家族関係が複雑な方ほど、公正証書の確実性が効いてきます。まずは自分がどちら向きかを見きわめ、必要なら最寄りの公証役場に事前相談してみてください。

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自筆でも公正証書でも、遺言で決められるのは「誰に何を渡すか」までです。遺留分の請求・代償金・相続税の納税資金といった「渡すための現金」は、別に用意する必要があります。準備の方法として生前贈与・預貯金の取り分け・生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)などがあり、活用法は生命保険と相続に関する完全ガイドで解説しています。相続に詳しい保険の相談先をお探しの場合は、複数社を比較できる提携代理店をご紹介することも可能です。

※ご紹介にあたり、当社が提携代理店から紹介料を受け取る場合があります。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税額計算や特定の保険商品の推奨を行うものではありません。税務・法的な判断が必要な場合は、税理士・弁護士など専門家にご確認ください。


本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。掲載情報は作成時点(2026年7月)の公開情報にもとづき、公証人手数料は2025年10月改定後の内容です。手数料・制度・公証役場や法務局の運用は変更されることがあるため、作成前に必ず各公証役場・日本公証人連合会または法務局の公式サイトで最新の情報をご確認ください。個別の判断は弁護士・税理士など専門家にご相談ください。なお、提携保険代理店をご紹介する場合、当社が紹介料を受け取ることがあります。

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この記事を書いた人

「いまから相続」は、株式会社アシストプラスが運営する、相続の手続き・生前対策・終活に関する情報サイトです。愛知県内の相続相談先の選び方や費用相場、金融機関ごとの手続き、生前対策や終活の進め方など、地域の実情に即した実践的な情報をお届けしています。 なお、運営会社である株式会社アシストプラスには、「あいち相続あんしんセンター」代表を務める司法書士 今井裕司が一部出資しております。この関係性を踏まえ、記事内でのご紹介・ご案内は公平性を保つよう努めています。

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