「ペットの世話を頼むなら、飼育費も一緒に、確実に渡したい」——そんな願いに応える仕組みがペット信託です。口約束や単なる遺言だけでは不安が残る「ペットの将来」を、より確実に託せる方法として注目されています。
この記事では、愛知県内で相続・生前対策のご相談を受けている当窓口の視点から、ペット信託の仕組みと、家族信託・負担付き遺贈との違い、メリットと注意点を、中立の立場で整理します。ペットの終活全体はペットの終活、飼い主が生前にすべきこともあわせてご覧ください。
ペット信託とは(家族信託の応用)
ペット信託とは、飼い主が信頼できる相手に財産を託し(信託し)、その財産からペットの飼育費を、実際に世話をする人へ計画的に渡していく仕組みです。これは、認知症対策などで使われる家族信託の考え方を、ペットのために応用したものです。登場人物を整理すると、次のようになります。
財産を管理する「受託者」と、実際に世話をする「飼育者」を分けられるため、飼育費が世話以外に使われないよう監視できるのが大きな特徴です。
ペット信託の仕組み(お金の流れ)
信託財産は受託者が管理し、そこから飼育費が計画的に飼育者へ渡されます。
ペット信託のメリット
- 生前・死後を通じて飼育費を確保できる:飼い主が入院・認知症になっても、亡くなった後も、飼育費が途切れない
- 飼育費の使途を管理できる:受託者がお金を管理するため、確実にペットのために使われる
- 認知症になっても継続する:飼い主の判断能力が低下しても、信託の仕組みは動き続ける
単に「世話をお願いする」だけでなく、「お金の流れまで含めて仕組み化できる」点が、ペット信託の強みです。
負担付き遺贈との違い
ペットの世話を託す方法には、遺言で「世話をすることを条件に財産を渡す」負担付き遺贈もあります。負担付き遺贈が「亡くなった後」に効力を持つのに対し、ペット信託は生前(認知症などで世話ができなくなったとき)から機能する点が大きな違いです。また、信託は受託者による継続的な管理・監視ができるため、飼育費の使途をより確実にコントロールできます。飼い主の状況や希望に応じて、どちらが適するかを検討します。
▶ 飼い主の状況や希望に応じて、どちらが適するかを検討します。
注意点
第一に、受託者・飼育者選びです。長期にわたり信頼でき、確実に役割を果たしてくれる相手が必要です。第二に、費用です。信託の設計には専門家の関与が必要で、初期費用がかかります。第三に、残った財産の帰属です。ペットが亡くなった後に信託財産が残った場合、それを誰に渡すかも、あらかじめ決めておく必要があります。設計が複雑なため、対応実績のある専門家に相談しながら進めるのが安心です。
長期にわたり信頼でき、確実に役割を果たしてくれる相手が必要です。
信託の設計には専門家の関与が必要で、初期費用がかかります。
ペットが亡くなった後に信託財産が残った場合、誰に渡すかをあらかじめ決めておく必要があります。
ペットは受益者になれない|信託の登場人物をもう一歩くわしく
ペットは法律上「物」として扱われるため、ペット自身が信託の受益者(お金や利益を受け取る人)になることはできません。そのため、多くの場合は次のように設計します。
| 時期 | 受益者の例 | お金の使い道 |
|---|---|---|
| 飼い主が元気なとき | 飼い主本人 | 通常どおり、自分でペットを世話する |
| 入院・認知症などで世話ができなくなったとき | 飼い主本人(受託者が管理) | 受託者が飼育者へ飼育費を支払う |
| 飼い主が亡くなったあと | 飼育者など、契約で決めた人 | ペットが亡くなるまで飼育費を渡し、残りは契約で決めた人へ |
設計の細かい形は、財産の種類や家族の状況で変わります。契約書の作成は、専門家と一緒に進めるのが安心です。
ペット信託にかかるお金|用意する金額の考え方
ペット信託では、「契約を作る費用」と「ペットのために信託するお金」の2つが必要です。契約を作る費用は依頼先ごとに違うため、必ず見積もりを取ってください。
| 費用の項目 | 内容 |
|---|---|
| 契約書づくりの報酬 | 専門家に頼む場合。契約書の作成だけか、設計全体を頼むかで変わる。見積もりを取る |
| 公正証書の手数料 | 契約を公正証書にする場合に公証役場へ払う。内容により変わる |
| 信託監督人への報酬 | 受託者を見守る人を置くとき。家族に無報酬で頼む形もある |
| 飼育費 | ペットが亡くなるまでの餌代・医療費など(下の目安を参照) |
| 飼育者へのお礼・火葬費 | 世話をしてくれる人への気持ちと、亡くなったときの費用 |
飼育費の目安は、神奈川県の案内ページが紹介する年間費用(アニコム損害保険「ペットにかける年間支出調査」2024年)から計算できます。犬は1年で約41万4000円、猫は約17万8000円なので、猫があと15年生きるなら約267万円、犬があと10年なら約414万円が目安です。医療費の増加に備えて、予備を1〜3割ほど上乗せすることも考えます。
信託したお金を入れる口座は、金融機関によって扱いが違い、使えない場合もあります。契約の前に、口座を作れるかを確認しておきましょう。税金(贈与税・相続税)の扱いは契約の内容によって変わります。個別の判断は、提携の税理士にご確認ください。
ペットを託す4つの方法を比べる
| 方法 | 始める手間・費用 | 入院・認知症のとき | 亡くなったあと |
|---|---|---|---|
| ペット信託 | 大きい(契約書、受託者、口座) | 対応できる | 飼育費を計画的に渡せる |
| 負担付遺贈 | 遺言書ひとつで始められる | 対応できない | 受遺者が断る可能性がある |
| 老犬・老猫ホーム、ペット後見の事業者 | 施設・事業者ごとに異なる | 契約内容による | 契約内容による |
| 家族・友人への口約束 | かからない | お金の面は不安 | 守られる保証がない |
ペット信託を始めるまでの流れ|5ステップ
- お金を管理する人(受託者)と、世話をする人(飼育者)の候補を決める。予備の候補も考える
- ペットの年齢と健康状態から、飼育費を見積もる(予備を上乗せする)
- 専門家と信託契約の内容を詰める。税金が気になる点は税理士にも確認する
- 信託したお金を管理する口座を決める(金融機関に確認)
- 契約を公正証書にし、必要に応じて遺言書や信託監督人も整える
ペット信託が向いている人・向いていない人
- 向いている人:認知症や入院で世話ができなくなる時期も備えたい人。お金をペットのためだけに使ってほしい人。信頼できる受託者と飼育者の候補がいる人
- ほかの方法も検討したい人:用意できる財産が少ない人。受託者や飼育者の候補が見つからない人。まずは費用を抑えて始めたい人(負担付遺贈や、老犬・老猫ホームの見学から始める方法もあります)
よくある質問(FAQ)
ペット信託と家族信託は別のものですか?
基本の仕組みは同じ家族信託で、それをペットの飼育費の確保という目的に応用したものがペット信託です。財産を託し、受託者が管理して飼育者へ渡すという流れをとります。
飼育費はどのくらい用意すればいいですか?
ペットの種類・年齢・健康状態や、想定される余命によって大きく変わります。餌代・医療費・預かり費用などを見積もり、余裕をもって準備するのが一般的です。具体的な設計は専門家に相談しながら決めるとよいでしょう。
ペットが亡くなった後、残ったお金はどうなりますか?
信託契約で、残余財産を誰に渡すかをあらかじめ定めておきます。決めていないとトラブルの原因になるため、設計の段階で明確にしておくことが大切です。
財産が少なくてもペット信託は使えますか?
信託は、財産が少ないと使いにくい仕組みです。契約づくりの費用に対して、信託できる金額が小さいと、費用の割合が大きくなります。財産の額が少ないときは、負担付遺贈や、引き取り先の確保から始める選択肢も考えましょう。
ペット信託は、いつまでに準備すればよいですか?
判断能力がしっかりしているうちに契約する必要があります。認知症が進んでからでは、契約を結べなくなることがあります。迷っているなら、まず受託者と飼育者の候補に相談するところから始めましょう。
参考にした公的情報
- 神奈川県「高齢者の方のペットの飼い方」(年間飼育費の目安、ペット後見の連携事業者の案内。2026年10月に確認)
- e-Gov法令検索「信託法」(信託の仕組み、受益者、信託監督人)
- 日本公証人連合会「公証事務」(公正証書の手数料の案内)
ペットの将来を含めた備えを整理してみませんか? 相続税・生前対策かんたん診断(無料・登録不要・1分)で今の状況を確認できます。愛知県内での個別相談も承っています。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。複数の提携行政書士による監修体制で運営しており、特定個人の士業を推奨するものではありません。信託の設計は専門家にご相談ください。
