実家の机の引き出しから、父が書いたという便箋が出てきました。「長男に任せる」とだけ書かれていて、日付は「令和吉日」。この一枚に法的な効力があるのかどうか、家族の誰にも分かりません。ペンを持って一から書き直すべきなのか、専門家に頼むべきなのか、判断がつかないまま便箋だけが手元に残っています。
この記事の結論
- 自筆証書遺言は「全文を手書き・日付・氏名・押印」の4つがそろえば、手書きだけで作れます。財産目録だけはパソコンで作れますが、各ページに署名と押印が要ります。
- 2026年6月に民法の改正法が成立し、押印を不要にする改正や、パソコンなどで作れる新しい遺言の仕組みが決まりました。ただし2026年10月時点ではまだ始まっていません。今書くなら、現在の4つの決まりどおりに書きます。
- 自宅で保管した手書きの遺言は、亡くなった後に家庭裁判所の「検認」が要ります。法務局の保管制度(手数料3,900円)を使えば検認は不要です。
手書きの遺言書は、封筒に入れて印鑑を押せば完成する、というものではありません。無効になるのは、たいてい書式の細部です。日付の書き方、押印の有無、財産目録への署名。内容がどれほど立派でも、一つの不備で効力が失われることがあります。しかも、その不備に気づくのは本人が亡くなった後です。この記事では、民法の決まりを満たしながら実際にペンを持って書き進められるよう、例文と手順で示します。いちばん簡単な形(全財産を1人に相続させる1枚)の見本に加え、不動産・預貯金・財産目録・付言事項・訂正の記載例も載せています。一人に全部を相続させる遺言は書けますが、配偶者・子・親には遺留分があり、借金は一人に寄せられません。書く前に確かめられるよう、家族構成別の早見表と計算例も付けました。遺言書を自分で作成する前にそろえる資料と取り寄せ先、渡したい相手から選べる文例の早見表(相続人でない人への「遺贈する」例文、割合で分ける例文)も載せています。
自筆証書遺言の書き方ーー全体の流れ4ステップ
自筆証書遺言の作成は、大きく4つの手順で進みます。
- 財産と相続人を洗い出す ── 不動産・預貯金・有価証券などの財産を一覧にし、誰にどの財産を相続させるか(相続人以外に渡す場合は「遺贈する」)を決めます。
- 全文を手書きで書く ── タイトル・本文など、財産目録以外のすべてを自分の手で書きます(全文自書)。
- 日付・氏名を書き、押印する ── 作成した年月日を正確に記載し、氏名を自署して押印します。
- 保管方法を決める ── 自宅で保管するか、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用するかを選びます。
なお、公正証書遺言との費用・手間・確実性の違いは、公正証書遺言と自筆証書遺言はどっちがいい?費用・手間・確実性で比較で詳しく比べています。この記事では、手書きで書き進める手順を中心に説明し、3つの方式の違いは後半の比較表にまとめます。
いきなり便箋に清書すると、途中で財産の書き漏れに気づき、訂正や書き直しを繰り返しがちです。まずコピー用紙などに下書きをして、財産の洗い出しと文面を固めてから清書してください。筆記具は、ボールペンや万年筆など時間が経っても消えないものを選びます。鉛筆や、こすると消えるペンは、書き換えを疑われる原因になります。用紙に決まりはありませんが、後で法務局の保管制度を使うかもしれないなら、最初からA4の用紙に書くほうが確実です。
遺言書を自分で作成する前にそろえる資料と、取り寄せ先
遺言書の作成方法は、自分で書く自筆証書遺言と、公証役場で作る公正証書遺言などがあります。自分で作成できるのは自筆証書遺言です。書き始めてから手が止まる原因の多くは、財産を正確に書くための資料が手元にないことです。先に次の資料をそろえておくと、下書きから清書まで一気に進められます。
| 資料 | どこで手に入るか | 遺言書のどこに使うか |
|---|---|---|
| 固定資産税の納税通知書 | 毎年届く。手元を探す | 持っている土地・建物を漏れなく拾う |
| 登記事項証明書 | 法務局。窓口・郵送は1通600円、オンライン請求なら郵送520円・窓口受け取り490円 | 不動産の所在・地番・家屋番号を写す |
| 通帳(またはキャッシュカード) | 手元 | 金融機関名・支店名・預金の種類・口座番号を写す |
| 受け取る人の正しい氏名と生年月日 | 家族に確認する。戸籍や住民票で確かめると確実 | 受け取る人を一人に特定する |
| 本籍と筆頭者が載った住民票の写し | 住所地の市区町村。マイナンバーと住民票コードが載っていないもの | 法務局に預けるときの申請に使う |
(登記事項証明書の手数料は法務省「登記手数料について」、令和7年4月1日改定後の額。2026年10月時点で確認)
親名義の不動産がほかの市町村にもあるかもしれない、という場合は、全国の法務局の記録をまとめて調べられる制度があります。請求方法は所有不動産記録証明制度の記事にまとめています。資料がそろったら、下書き→読み直し→清書の順に進めます。法務局に預けるなら、清書が済んだ時点で予約をとります。予約は30日先まででき、当日の予約はできません。
遺言書で一人に相続させる書き方:全財産を1人に渡す1枚の見本
遺言書をいちばん簡単に書く形は、「全財産を1人に相続させる」1枚です。財産を一つずつ書き分けなくてよいので、本文は2〜3行で済みます。妻に全財産を残したい、子ども1人に全部を継がせたい、という場合はこの形が使えます。
【見本】架空の人物・住所で作った記入例です
遺言書
遺言者 見本太郎は、次のとおり遺言する。
一、遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、妻 見本花子(昭和三十年一月一日生)に相続させる。
二、遺言者は、この遺言の執行者として、妻 見本花子を指定する。
令和八年十月一日
愛知県見本市見本町一丁目二番三号
遺言者 見本太郎 ㊞
書く順番は次のとおりです。
- 消えないボールペンか万年筆と、用紙を用意します。法務局に預けるならA4の用紙にします。
- 「遺言書」と題を書き、本文をすべて自分の手で書きます。
- 受け取る人は、続柄・戸籍どおりの氏名・生年月日で書きます。
- 書いた日を「令和〇年〇月〇日」と1日まで書きます。「吉日」は使えません。
- 住所と氏名を自分で書き、印鑑を押します。法務省は、スタンプ式の印は避けるよう案内しています。
子ども1人に全部を継がせるなら、「妻 見本花子」の部分を「長男 見本一郎(生年月日)」に置き換えるだけです。相続人ではない人(孫や子の配偶者など)に渡すときは、「相続させる」ではなく「遺贈する」と書きます。
簡単な形でも、2つだけは考えておいてください。1つは、受け取る人が先に亡くなった場合です。下の例文2の「二」のように、次に受け取る人を書いておけます。もう1つは遺留分です。子どもがいる家庭で「全財産を妻に」と書くことはできますが、子には法律で最低限の取り分(遺留分)があります。誰がどれだけ請求できるかは、後半の「家族構成別の遺留分の早見表」で確かめられます。家族構成が込み入っている場合は、書く前に一度専門家に確かめておくと安心です。
遺言書の例文・見本3パターン【この形式に沿って書けます】
実際にどのような文面を手書きすればよいか、便箋に書くイメージで見本を3つ示します。氏名や財産の部分はご自身の状況に置き換えてください。どの分け方がご家族に合うかは家庭ごとに違うため、見本は「書き方の形」として使ってください。
例文1:不動産は妻に、預金は長男に(遺言執行者も指定)
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次のとおり遺言する。
一、遺言者は、遺言者の有する下記不動産を、妻〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目
地番 〇番〇
地目 宅地
地積 〇〇.〇〇平方メートル
二、遺言者は、遺言者の有する〇〇銀行〇〇支店の預金全部を、長男〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
三、遺言者は、この遺言の執行者として、長男〇〇〇〇を指定する。
令和〇年〇月〇日
〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
遺言者 〇〇〇〇 ㊞
例文2:全財産を妻に(妻が先に亡くなった場合の書き方も入れる)
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次のとおり遺言する。
一、遺言者は、遺言者の有する不動産、預貯金、その他一切の財産を、妻〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
二、遺言者より前に、または遺言者と同時に妻〇〇〇〇が死亡していたときは、前項の財産を、長男〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
三、遺言者は、この遺言の執行者として、妻〇〇〇〇を指定する。妻〇〇〇〇が就任できないときは、長男〇〇〇〇を指定する。
令和〇年〇月〇日
〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
遺言者 〇〇〇〇 ㊞
「その他一切の財産」と書いておくと、書き漏れた口座や後から見つかった財産も、妻に渡す意思がはっきりします。二の項目は、妻が先に亡くなった場合に備える書き方です。これがないと、その部分の遺言は効力を失い、相続人全員の話し合いに戻ります。なお、お子さんがいるご家庭で「全財産を妻に」と書くと、お子さんの遺留分(後述する最低限の取り分)に触れます。書くこと自体はできますが、家族で事前に話しておくと受け止められやすくなります。
例文3:自宅は長男に、預金は長女に(残りは妻に)
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次のとおり遺言する。
一、遺言者は、遺言者の有する下記の土地および建物を、長男〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
(土地)
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目
地番 〇番〇
地目 宅地
地積 〇〇.〇〇平方メートル
(建物)
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番地〇
家屋番号 〇番〇
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階 〇〇.〇〇平方メートル 2階 〇〇.〇〇平方メートル
二、遺言者は、遺言者の有する〇〇銀行〇〇支店および〇〇信用金庫〇〇支店の預貯金全部を、長女〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
三、遺言者は、前二項に記載した以外の一切の財産を、妻〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
四、遺言者は、この遺言の執行者として、長女〇〇〇〇を指定する。
(付言)自宅は、近くに住んで家を守ってくれている〇〇に託します。〇〇には預金を残します。二人で母さんを支えてください。
令和〇年〇月〇日
〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
遺言者 〇〇〇〇 ㊞
ポイントは、財産と受け取る人を、誰が読んでも一つに特定できる書き方にすることです。不動産は登記事項証明書(法務局で取れる登記の写し)の記載どおりに書き写します。住所ではなく「地番」「家屋番号」で書くのが基本です。預貯金は金融機関名・支店名まで書きます。受け取る人は、戸籍上の氏名と生年月日を書いておくと、取り違えの余地がなくなります。
例文3の三のように「それ以外の一切の財産は誰に」という一行を入れておくと、書き漏れた財産で話し合いが必要になる事態を防げます。最後の「付言」は、法的な効力はありませんが、なぜこう分けたのかを家族に伝える一言です。分け方に差をつけるときほど、短くても書いておくと受け止められやすくなります。
また、遺言執行者(遺言の内容を実際に手続きする人)をあらかじめ指定しておくと、預金の解約や不動産の名義変更を進めやすくなります。誰に頼むか迷う場合は、遺言執行者は誰にする?で選び方を説明しています。作成後の封筒への入れ方や封のしかたは、遺言書は封筒がないとだめ?正しい書き方と保管方法にまとめています。
不動産の書き方:登記事項証明書のとおりに書き写す
不動産は、住所ではなく登記の記録で特定します。住所(住居表示)と登記の「地番」は一致しないことがあるためです。法務局で取れる登記事項証明書の「表題部」を見ながら、次の項目をそのまま書き写します。
預貯金の書き方:金融機関・支店・種類・口座番号まで
預貯金は、金融機関名・支店名・預金の種類(普通・定期など)・口座番号の4つで特定します。通帳の表紙の裏などに載っています。残高は日々変わるので、金額は書かないのが一般的です。ゆうちょ銀行の貯金は「記号・番号」で書きます。
【見本】架空の銀行・口座で作った記入例です
一、遺言者は、次の預金を、長男 見本一郎(昭和六十年五月五日生)に相続させる。
見本銀行 見本支店 普通預金 口座番号1234567
二、遺言者は、見本信用金庫に有する預金の全部を、長女 見本春子(昭和六十二年四月四日生)に相続させる。
一のように口座ごとに書く方法と、二のように「その金融機関の預金全部」とまとめる方法があります。口座が多いときや、後で口座を作り替えるかもしれないときは、まとめる書き方のほうが書き漏れを防げます。
付言事項の文例:分け方の理由と感謝を短く
付言事項は、本文のあとに添える家族へのメッセージです。法的な効力はありませんが、分け方に差があるときほど、理由が書いてあると受け止めやすくなります。そのまま使える形で3つ示します。
文例1(妻に全財産を残すとき)
(付言)私の財産はすべて妻に残します。これからの妻の暮らしを一番に考えて決めました。子どもたちは、どうか母さんを支えてあげてください。
文例2(自宅を1人に継がせるとき)
(付言)自宅を長男に継がせるのは、長く同居して私たちの暮らしを支えてくれたからです。長女には預金を残します。二人で話し合い、これからも仲よく過ごしてください。
文例3(感謝を伝えるとき)
(付言)長い間、家族みんなに助けてもらいました。本当にありがとう。この遺言のとおりに、穏やかに手続きを進めてもらえればうれしいです。
書くときは、特定の家族を責める言葉は避けます。読んだ人の気持ちを固くしてしまうからです。長さは数行で十分です。本文の内容と食い違うことは書かないでください。
遺言書の文例:渡したい相手・家族の形から選ぶ早見表と、追加の例文2つ
例文を探すときに迷うのは、「自分の家はどの例文を使えばいいのか」です。文例の選び方は、渡したい相手が相続人かどうかと、財産を物で分けるか割合で分けるかで決まります。先に早見表で、使う例文を選んでください。
| こうしたい | 文例で使う言葉 | 使う例文 |
|---|---|---|
| 全財産を妻(夫)か子ども1人に | 「相続させる」 | 上の「一人に相続させる」見本 |
| 妻に全部。妻が先に亡くなったら子に | 「相続させる」+次に受け取る人 | 例文2 |
| 自宅と預金を、別々の家族に | 「相続させる」+財産ごとに1項目 | 例文1・例文3 |
| 子の配偶者・孫・内縁の相手など、相続人でない人にも渡す | 「遺贈する」 | 例文4(下) |
| 物ではなく割合で分ける | 「〇分の〇の割合で相続させる」 | 例文5(下) |
| 子どもがいない夫婦で、全部を配偶者に | 「相続させる」 | 子どもがいない夫婦の遺言で詳しく |
| 再婚していて、前の配偶者との子がいる | 「相続させる」+付言 | 再婚した人の遺言の書き方で詳しく |
例文4:相続人でない長男の妻に預金を渡す(受け取れないときの備えと遺言執行者も入れる)
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次のとおり遺言する。
一、遺言者は、遺言者の有する〇〇銀行〇〇支店の預金全部を、長男〇〇〇〇の妻〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に遺贈する。
二、遺言者は、前項以外の一切の財産を、長男〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
三、遺言者より前に、または遺言者と同時に〇〇〇〇(長男の妻)が死亡していたときは、第一項の預金を、長男〇〇〇〇に相続させる。
四、遺言者は、この遺言の執行者として、長男〇〇〇〇を指定する。
(付言)長年、私の介護をしてくれた〇〇さんに、感謝の気持ちとして預金を残します。
令和〇年〇月〇日
〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
遺言者 〇〇〇〇 ㊞
長男の妻や孫など相続人でない人には、「相続させる」ではなく「遺贈する」と書きます。受け取る人が先に亡くなると、その部分の遺贈は効力を生じません(民法994条)。三のように次に受け取る人を書いておくと、話し合いに戻らずに済みます。法務局に預ける場合、遺贈を受ける人と遺言執行者は、申請書の3枚目に記入します。書き方は自筆証書遺言の保管制度の申請書の章にまとめています。
例文5:財産を割合で分ける
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、次のとおり遺言する。
一、遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、妻〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に2分の1、長男〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)及び長女〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に各4分の1の割合で相続させる。
二、遺言者は、この遺言の執行者として、妻〇〇〇〇を指定する。
令和〇年〇月〇日
〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
遺言者 〇〇〇〇 ㊞
割合で書くと短く済みますが、「自宅は誰が、どの口座は誰が」は決まっていません。そのため、亡くなった後に家族で遺産分割の話し合いが必要になります。自宅を誰かに継がせたい、話し合いを避けたい、という場合は、例文1や例文3のように財産ごとに書くほうが向いています。
どの例文も、氏名・生年月日・財産の書き方を自分の家に合わせて置き換えて使います。例文をそのまま写して「〇〇」が残っていたり、財産の書き方があいまいだったりすると、手続きで使えないことがあります。清書の前に、次の章の4つの決まりと、後の「無効になる代表的な失敗例」を一度読み合わせてください。
民法968条の4要件ーー全文自書・日付・署名・押印
民法968条は、自筆証書遺言が有効となるための要件を、次の4つに絞って定めています(2026年10月時点の現行法)。
- 全文を自書すること(財産目録を除く)
- 日付を記載すること
- 氏名を自署すること
- 押印すること
全文自書:本文はパソコンやワープロを使わず、本人が手書きします。代筆や、録音・動画による意思表示は認められません。電子データだけで作った遺言書も、現時点では無効です。2026年の民法改正で、パソコンなどで作れる新しい方式が決まりましたが、まだ始まっていません(後述)。
日付:「令和8年10月8日」のように、特定の1日に絞り込める形で書きます。「吉日」などのあいまいな書き方は無効の原因になります。
氏名:戸籍上の氏名を自署します。通称でも本人と特定できれば有効とされた例はありますが、無用な争いを避けるため戸籍どおりの氏名を書いてください。
押印:認印でも有効ですが、後日の争いを避けるため実印を使い、印鑑登録証明書を一緒に保管しておくと安心です。改正法で押印はしなくてもよくなる予定ですが、始まる日はまだ決まっていません。今書く遺言書には必ず押印してください。
この4つは、どれか1つでも欠けると遺言書全体が無効になります。「内容は立派なのに日付がない」「署名も押印もあるのに本文がパソコン作成だった」というだけで、金融機関や法務局の窓口で使えなくなります。書き終えたら、4項目を1つずつ指差しで確かめてください。
遺言書の訂正方法ーー民法の決まりと記載例、「書き直す」という選択
途中で誤りに気づいても、修正液や二重線だけの訂正はできません。民法968条3項は、①変更した場所を示し、②変更した旨を書き添えて署名し、③変更した場所に押印する、という厳格な方式を定めています。日常の書類の訂正よりずっと手順が多く、一つでも欠けるとその訂正は効力を持ちません。訂正前と訂正後のどちらが本人の意思なのか、家族の間で解釈が分かれる原因にもなります。
実務上は、手間がかかっても一枚を書き直すほうが安全です。特に財産の内容や受け取る人の氏名など、中心になる部分を直すときは、新しい用紙に全文を書き直してください。訂正の箇所が増えるほど、方式の誤りが起きやすくなり、筆跡や本人の意思を疑われやすくもなります。
それでも1〜2文字だけ直したいときは、次の形で行います。民法の3つの決まりを、そのまま形にした一例です。
記載例:本文の「長男」を「長女」に直す場合
- 場所を示す:「長男」に二重線を引き、すぐ横に「長女」と書きます。元の文字は読める状態で残します。
- 変更の場所に押印する:二重線の上か横に印鑑を押します。遺言書に押したのと同じ印鑑を使うのが無難です。
- 変更した旨を書いて署名する:本文の末尾(または欄外)に「本遺言書三行目中『長男』とあるを『長女』と訂正した」と書き、すぐ後に氏名を自分で書きます。
民法968条3項(場所の指示・変更の付記と署名・変更の場所への押印)にもとづく一例です。法務省は、変更がある場合は書き直すことをすすめています。法務局に預けるときは、訂正の書き込みも余白にはみ出さないようにします。
財産目録の書き方ーーパソコンで作成できます(2019年民法改正)
2019年1月13日に施行された民法改正により、財産目録に限ってパソコンでの作成や、通帳のコピー・登記事項証明書の添付が認められるようになりました。本文は全文自書のままですが、不動産や預貯金の一覧を作る作業は大きく楽になります。
ただし条件があります。財産目録の各ページ(両面に印刷した場合は両面とも)に、本人が署名し、押印しなければなりません。一枚でも欠けると、そのページは無効になります。登記事項証明書のコピーをそのまま目録として付ける場合も同じです。
本文と目録の食い違いにも気をつけてください。本文で「別紙目録記載の不動産を長男に相続させる」と書いたのに、目録にその不動産が載っていなければ、その財産についての意思は伝わりません。目録を先に完成させ、本文の言葉を目録の項目名にそろえる順番で進めると、食い違いを防げます。
目録は、財産に番号を振って並べるだけで作れます。本文には「別紙財産目録1の土地を、妻 見本花子に相続させる」のように番号で書きます。
【見本】パソコンで作る財産目録の例(架空の財産です)
別紙 財産目録
1 土地
所在 愛知県見本市見本町一丁目
地番 123番4
地目 宅地
地積 150.00平方メートル
2 建物
所在 愛知県見本市見本町一丁目123番地4
家屋番号 123番4
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階 60.00平方メートル 2階 45.00平方メートル
3 預金
見本銀行 見本支店 普通預金 口座番号1234567
見本太郎 ㊞ (このページの末尾に自筆で署名し、押印)
法務局に預ける場合は、本文と財産目録を通してページ番号を振ります(法務省の案内)。通帳のコピーを付けるときは、銀行名・支店名・口座名義・口座番号が分かるページを使います。
自筆証書遺言書保管制度ーー法務局に預けて検認を不要にする
2020年7月10日から、法務局が手書きの遺言書を預かる「自筆証書遺言書保管制度」が始まっています。手数料は遺言書1通につき3,900円です(2026年10月時点、法務省)。この制度を使う一番の利点は、亡くなった後の検認が要らなくなることです。自宅で保管した遺言書は家庭裁判所での検認が必要ですが、法務局で保管された遺言書は検認を経ずに相続手続きに使えます。
法務局が確認するのは用紙サイズや余白などの様式で、内容が有効かどうかまでは見てくれません。要件を満たした遺言書を作ってから預ける、という順番を守ってください。申請は本人が、住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局に、予約のうえ自分で出向いて行います。代理人による申請はできません。保管制度を使う場合は封筒に入れずに持参します。予約のとり方や当日の持ち物、預けた後の通知までは、自筆証書遺言の保管制度(法務局での手続き・手数料3,900円・予約)で順番に説明しています。
保管制度を使うなら、書き始める前にこの様式で
様式が合っていないと、内容に問題がなくても窓口で預かってもらえません。書き上げた後では直せないので、清書に入る前に確認してください。
- 用紙はA4サイズ、片面のみに書く(財産目録も片面)
- 余白を上5mm以上・下10mm以上・左20mm以上・右5mm以上あけ、その余白には1文字もはみ出さない
- 複数枚になる場合は、各ページに「1/2」「2/2」のように総ページ数が分かるページ番号を書く(ページ番号も余白にはみ出さないように。1枚だけなら不要)
- ホチキス留めや製本はせず、綴じないまま持参する
2026年10月時点の法務省の案内による様式です。申請前に法務省・法務局の案内でご確認ください。
保管制度には、通知の仕組みが2つあります。1つは、亡くなった後に相続人の一人が法務局で遺言書を閲覧したり証明書を受け取ったりすると、ほかの相続人にも遺言書が保管されていることが知らされる仕組みです(関係遺言書保管通知)。もう1つは、申請のときに指定しておけば、法務局が本人の死亡を確認した時点で、指定した人(3名まで)に通知が届く仕組みです(指定者通知)。これで、遺言の存在に誰も気づかないまま手続きが進むことを避けられます。自宅で保管する場合は、置き場所だけは信頼できる家族に伝えておいてください。
今日できる一歩:書き上げたら、法務局の予約を取る
行き先は、住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所(法務局)です。どの法務局が管轄かは法務局のサイトの一覧で確認できます。予約は法務局手続案内予約サービス(インターネット)か、その保管所へ電話で。申請できるのは本人だけで、代理人も郵送も使えません。
持ち物は5点です。①遺言書(封をせず、綴じないまま)②申請書(法務省のサイトからダウンロードして記入します。窓口にも置いてあります)③本籍と筆頭者の記載がある住民票の写し(作成後3か月以内のもの)④顔写真付きの本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証・パスポートなど)⑤手数料3,900円分の収入印紙(法務局内で購入できます)。
当日、職員が見るのは様式と本人確認です。内容が有効かどうかは見てもらえません。手続きが終わると保管証が渡されます。保管証は再発行されないので、保管番号を控え、家族の誰かに伝えておいてください。申請書には亡くなったときの通知を受ける人を指定する欄があるので、空けずに配偶者やお子さんを書いておきます。
差し戻される典型は、余白が足りない・ページ番号がない・ホチキスで綴じてある、の3つです。その場では直せず、書き直して予約を取り直すことになります。上の様式は清書に入る前に確認してください。
遺言そのものに期限はありませんが、作れるのは判断能力があるうちだけです。住民票の写しは3か月で使えなくなるので、予約日が決まってから取りに行くほうが無駄がありません。
保管制度を使わない場合は、家庭裁判所の「検認」が必要
自宅や貸金庫で保管していた手書きの遺言書は、亡くなった後、そのままでは預金の解約や名義変更に使えません。遺言書を保管していた人、または見つけた相続人が、家庭裁判所に「検認」を申し立てます。検認は、相続人に遺言の存在と中身を知らせ、その日の状態を記録して、書き換えを防ぐための手続きです。遺言が有効か無効かを決める手続きではありません。
- 申立て先:亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
- 費用:遺言書1通につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手(金額は裁判所ごとに異なります)
- 主な書類:申立書、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍など
- 検認の日:裁判所から相続人に日時が知らされます。申立人以外の相続人は、出席するかどうかを自分で決められます。
- 検認の後:遺言を使って手続きするには「検認済証明書」を申請します(遺言書1通につき収入印紙150円分)。
封がしてある遺言書は、家庭裁判所で相続人などが立ち会って開ける決まりです。見つけても自宅で開けずに、そのまま家庭裁判所に持っていってください。戸籍を集める手間があるため、申立てから検認の日までは一定の時間がかかります。家族のこの負担を省けることが、保管制度や公正証書遺言を選ぶ理由の一つになっています。
自筆(保管制度なし・あり)と公正証書遺言の比較表
手書きで書くか、法務局に預けるか、公証役場で作るか。違いを一つの表にまとめました(2026年10月時点)。
| 自筆(保管制度なし) | 自筆(保管制度あり) | 公正証書遺言 | |
|---|---|---|---|
| 作り方 | 自分で全文を手書き | 自分で手書きし、法務局に本人が持参 | 公証役場で公証人が作成 |
| かかる費用 | 用紙・筆記具程度 | 保管の手数料3,900円 | 財産の額などに応じた公証人の手数料 |
| 証人 | 不要 | 不要 | 2人必要 |
| 誰かが確認するか | 誰も確認しない | 様式だけ確認(内容は見ない) | 公証人が方式を確認して作る |
| 保管・紛失の心配 | 自宅など。紛失・見落とし・書き換えのおそれ | 法務局が保管 | 原本は公証役場が保管 |
| 亡くなった後の検認 | 必要(家庭裁判所) | 不要 | 不要 |
| 家族への知らせ | 自分で伝えておく必要がある | 指定した人(3名まで)に法務局から通知 | 亡くなった後、相続人などが全国の公証役場で有無を調べられる(無料) |
「費用をかけずに、自分の手で書きたい」なら自筆、「家族に検認の手間をかけたくない」なら保管制度、「内容に迷いがあり、方式の誤りも避けたい」なら公正証書、というのが大まかな目安です。どれが正解ということはなく、財産の内容や家族の関係で向き不向きが変わります。
デジタル遺言(パソコンで作る遺言)はいつから?2026年の民法改正
「パソコンで遺言が作れるようになると聞いた」というご質問が増えています。2026年10月時点の状況は次のとおりです。
- 決まったこと:法制審議会での検討を経て、2026年6月17日に「民法等の一部を改正する法律」が成立し、6月24日に公布されました(令和8年法律第45号)。遺言については、押印を任意にすること(押印しなくてもよくなる)と、「保管証書遺言」という新しい方式をつくることが含まれています。
- 保管証書遺言とは:パソコンなどの電子データで遺言の全文を作り、法務局で保管してもらう方式です。法務局の職員の前で本人が内容を述べるなどの手続きを経て、法務局に保管されて初めて効力を持つ仕組みとされています。
- まだ決まっていないこと:始まる日です。押印の任意化は公布から1年以内、保管証書遺言は公布から3年以内に、国が政令(内閣が定めるきまり)で決める日から始まります。2026年10月時点で、具体的な日付は公表されていません。
これから遺言を書くなら、新しい制度を待つ必要はありません。押印の改正は「押さなくてもよい」とするもので、押印した遺言が使えなくなるわけではありません。現在の4つの決まりどおりに手書きし、押印しておきましょう。保管証書遺言の手続きや手数料は、施行までに法務省から案内されるのを待つことになります。
無効になる代表的な失敗例と、あいまいな記載の落とし穴
形式の不備は、内容がどれだけ具体的でも遺言書そのものを無効にします。特に多い失敗例は次のとおりです。
- 日付を「令和8年吉日」のように、特定の1日に絞り込めない書き方にしてしまう
- 押印を忘れる、または財産目録の一部のページに押印していない
- 財産目録に署名だけして押印を忘れる(逆に押印だけして署名を忘れる)
- 夫婦や親子が1枚の便箋に連名で遺言を書いてしまう(共同遺言の禁止、民法975条)
- 財産目録以外の本文までパソコンで作成してしまう
共同遺言の禁止も見落とされがちです。夫婦であっても、遺言書は1人1通ずつ作ります。1枚の便箋に夫婦連名で書いたり、「夫婦2人で、次のとおり遺言する」と書き出したりすると、両方とも無効になります。財産目録のページが多い場合は、綴じ方にも注意が必要です。自宅で保管するなら、ホチキス留めのうえ、ページの継ぎ目に契印(またがる押印)をしておくと、差し替えを疑われにくくなります。ただし法務局の保管制度を使う場合は綴じてはいけません。ページ番号を振るだけにして、綴じないまま持参してください。
形式を満たしていても、内容があいまいだと、遺言を実現する段階でつまずきます。よくあるのが「長男に任せる」「あとはよろしく頼む」「家のことはうまくやってほしい」といった書き方です。何を、どれだけ、誰に渡すつもりだったのかが一つに決まらないため、相続人の解釈が分かれます。結局、遺言がないときと同じように、全員で話し合うことになりかねません。
書くべきは「〇〇(氏名・生年月日)に、〇〇銀行〇〇支店の預金全部を相続させる」のように、財産の範囲と受け取る人を特定した文です。財産が複数あるときは、無理に一文にまとめず、財産ごとに1項目ずつ分けて書くと整理しやすくなります。「任せる」「よろしく頼む」と書きたくなったら、分け方をまだ決め切れていないサインです。いったん財産の洗い出しに戻ってください。
遺留分への配慮を忘れずにーートラブルの種を残さないために
自筆証書遺言は、形式さえ満たせば、どのような配分でも書けてしまいます。しかし、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者・子・親など)には、遺留分という最低限の取り分が法律で保障されています。遺留分の割合は、原則として法定相続分の2分の1(相続人が親などの直系尊属だけの場合は3分の1)です。「全財産を長男に相続させる」のように、ほかの相続人の遺留分に大きく触れる内容を書くこと自体はできます。ただ、後でほかの相続人から遺留分侵害額請求(不足分をお金で払うよう求めること)を受ける種を残すことになります。この請求は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年、相続開始から10年で消滅します(民法1048条)。
特定の相続人の遺留分に大きく触れる内容にする場合は、払うお金(代償金)の準備や付言の書き方を、弁護士に相談しながら考えておくと、家族の負担を減らせます。遺留分への配慮は、公正証書遺言を選ぶ場合でも同じように必要です。考え方や落とし穴は公正証書遺言を作る前に知っておきたい4つの盲点(遺留分・代償金・納税)にまとめています。なお、子どものいない夫婦で相続人が配偶者と兄弟姉妹(甥姪)になる場合は、兄弟姉妹に遺留分がないため、例文2のような「全財産を妻(夫)に相続させる」遺言でそのまま渡せます。詳しくは財産を全部妻(夫)に相続させたいをご覧ください。
「全財産を一人に」と書く前に:家族構成別の遺留分の早見表
全財産を一人に相続させる遺言は、有効に書けます。ただ、受け取らない家族が配偶者・子・親なら、遺留分を請求できます(民法1042条)。兄弟姉妹(甥姪)には遺留分がありません。同じ文面でも、家族構成によって「誰が、いくら請求できるか」が変わります。
| 相続人 | 遺言の内容 | 受け取らない家族が請求できる遺留分 | 遺産3,000万円の場合 |
|---|---|---|---|
| 妻・子2人 | 全財産を妻に | 子それぞれ8分の1 | 子それぞれ375万円 |
| 妻・子2人 | 全財産を長男に | 妻4分の1、次男8分の1 | 妻750万円、次男375万円 |
| 子2人(配偶者なし) | 全財産を長男に | 次男4分の1 | 750万円 |
| 子3人(配偶者なし) | 全財産を長女に | ほかの子それぞれ6分の1 | それぞれ500万円 |
| 妻・夫の父母(子なし) | 全財産を妻に | 父母それぞれ12分の1 | それぞれ250万円 |
| 父母だけ(配偶者・子なし) | 全財産を母に | 父6分の1 | 500万円 |
| 妻・夫の兄弟姉妹(子・親なし) | 全財産を妻に | なし | 0円 |
計算のしかたは「法定相続分×2分の1」です。親だけが相続人のときは「法定相続分×3分の1」になります。たとえば子2人で全財産を長男に相続させると、次男の法定相続分は2分の1なので、遺留分は4分の1です。遺産3,000万円なら750万円になります。請求されたときに払うのは財産そのものではなくお金なので、受け取る人が払えるかどうかも書く前に考えておきます。
遺留分を前もって手放してもらうには、家庭裁判所の許可が要る
生前に「遺留分は要らない」と念書を書いてもらっても、それだけでは効力がありません。相続が始まる前の遺留分の放棄は、放棄する人が家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力を持ちます(民法1049条)。一人が放棄しても、ほかの家族の遺留分は増えも減りもしません。相続放棄との違いは生前の相続放棄はできない|念書の効力と遺留分放棄との違いで説明しています。
反対に、受け取らなかった側の家族が読む場合は、遺言の実物の確かめ方と請求の期限を先に押さえてください。手順は「遺言があるからお前の取り分はない」と言われたらにまとめています。
一人に全部と書いても、借金は一人に寄せられない
遺言で「全財産を長男に相続させる」と書いても、借金はそのとおりには分かれません。お金を貸した相手(債権者)は、ほかの相続人にも法定相続分に応じて請求できるからです(民法902条の2)。債権者が、長男一人が借金を引き継ぐことを認めた場合は別です。
たとえば子2人で、全財産を長男に相続させ、借金が600万円残ったとします。債権者は、財産を受け取っていない次男にも、法定相続分の2分の1にあたる300万円を請求できます。財産を受け取らない家族が借金だけを負うのを避けたい場合は、相続の開始を知ってから3か月以内に、家庭裁判所で相続放棄をするかどうかを考えることになります。
書く人にできるのは、借金やローンを隠さず残すことです。財産目録とは別に、借入先・残高の目安・保証人になっている契約を1枚にまとめ、遺言書と同じ場所に置いておくと、家族が3か月の期限内に判断しやすくなります。
一人に相続させた遺言書は、亡くなった後こう使う
「全財産を〇〇に相続させる」遺言があれば、受け取る人は、ほかの相続人の判子をもらわずに、多くの手続きを進められます。財産ごとにすることを表にしました。
| 財産・書類 | 受け取る人がすること | 気をつけること |
|---|---|---|
| 遺言書そのもの | 自宅で保管していたなら家庭裁判所で検認を受け、検認済証明書をつける。法務局に預けていたなら遺言書情報証明書を取る | 検認は、遺言が有効か無効かを決める手続きではない |
| 不動産 | 遺言書を添えて、受け取る人が一人で相続登記を申請する | 取得を知った日から3年以内の申請が義務(不動産登記法76条の2)。登記をしないままだと、法定相続分を超える部分をほかの人に主張できないことがある(民法899条の2) |
| 預貯金 | 遺言書を持って、金融機関で解約や名義変更をする | 必要な書類は金融機関ごとに違うので、先に電話で確かめる |
受け取る人がこの手続きを一人でできるかどうかは、遺言書の書き方で決まります。財産と受け取る人が一つに特定できること、受け取る人が先に亡くなった場合の行き先が書いてあること。この2つがそろっていると、亡くなった後に家族が話し合いに戻らずに済みます。
手書きで足りる人・公正証書遺言が向く人【判定チェックリスト】
ここまでの要件を満たせば、自筆証書遺言は手書きだけで有効に作れます。ただし状況によっては、公証人が方式を確認しながら作る公正証書遺言のほうが、無効や争いを避けやすい場合があります。次の5項目で、ご自身の状況を確かめてください。
当てはまるものを数えてください
- 相続人が3人以上いる
- 不動産を2件以上持っている、または評価の判断が難しい不動産がある
- 法定相続人以外の人(内縁の配偶者、お世話になった知人、団体など)に財産を渡したい
- ご本人またはご家族に、判断能力の低下(認知症など)への不安がある
- 過去に相続人同士で意見が対立したことがある、または関係が複雑である
0〜1個:ご自身で手書きの遺言書を進められる可能性が高い状況です。この記事の例文と手順に沿って作成を進めてください。迷う点が出てきたときだけ、その部分を相談していただいても構いません。
2〜3個:財産の特定や遺留分など、判断が必要な点が含まれている可能性があります。無料の相続対策診断で状況を整理するか、下の無料相談で確かめておくと安心です。
4個以上:公証人と確認しながら作る公正証書遺言のほうが、方式の誤りを避けやすい状況です。必要書類や当日の流れは公正証書遺言の必要書類と作成当日の流れで、愛知県内の公証役場は愛知県の公証役場一覧でご確認いただけます。
相談現場から
よく伺うのは、一度書き上げた遺言書に、あとから「やっぱり長女にも少し」と一行だけ書き足してしまったというお話です。書き足しも民法の訂正の方式に沿っていないと、その部分は効力を持ちません。配分を変えたくなったら、書き足すのではなく、新しい日付で一枚を書き直すほうが確実です。古いものは、新しいものと取り違えられないよう扱いを決めておきます。
無理に専門家へ依頼しなくてよいケース
相続人が1人しかいない、財産が自宅と預金口座程度で分け方に迷いがない、というケースでは、専門家に頼まなくても、この記事の例文に沿って手書きの遺言書を作れる可能性が高いです。無理に公正証書遺言や専門家への依頼を考える必要はありません。
そのうえで、判断に迷う点が1つでもあるようでしたら、30分の無料相談で一緒に整理できます。
よくある質問
Q. 費用をかけたくないのですが、手書きの遺言書は本当にお金をかけずに作れますか?
A. はい。自筆証書遺言は用紙と印鑑があれば作れます。法務局の保管制度を使っても、手数料は3,900円です。専門家への依頼費用をかけたくない場合、この記事の要件と例文に沿って手書きで作る方法は現実的な選択肢です。公正証書や専門家に頼む場合との費用の違いは、遺言書の作成費用で比べています。
Q. いちばん簡単な遺言書は、どのくらいの分量で書けますか?
A. 全財産を1人に相続させる形なら、題名・本文2〜3行・日付・住所・氏名と押印で、便箋1枚に収まります(この記事の見本を参照)。ただし、受け取る人が先に亡くなった場合の書き方と、ほかの相続人の遺留分は、簡単な形でも一度考えておいてください。
Q. 法律が変わって、押印はもう要らないと聞きました。
A. 2026年6月に押印を任意にする改正法が成立しましたが、施行日(始まる日)は政令で決まり、2026年10月時点ではまだ始まっていません。今書く遺言書には押印してください。
Q. まだ元気なので、遺言書を書くのは早すぎませんか?
A. 早すぎるということはありません。判断能力がしっかりしているうちでなければ有効な遺言書は作れません。元気なうちに書いておくこと自体が、後から「本人の意思かどうか」を疑われないための備えになります。
Q. 遺言書を自分で作成するとき、最初に何をそろえればよいですか?
A. 固定資産税の納税通知書、不動産の登記事項証明書、通帳の3つがあれば、財産を正確に書けます。受け取る人の正しい氏名と生年月日も確かめておきます。法務局に預けるなら、本籍と筆頭者が載った住民票の写しも用意します。資料をそろえてから下書きをすると、清書で書き直す手間が減ります。
Q. ネットの遺言書の文例を、そのまま写して使ってもよいですか?
A. 形を借りるのは問題ありませんが、氏名・生年月日・財産の書き方は自分の家に合わせて置き換えます。相続人でない人に渡すなら「遺贈する」、相続人なら「相続させる」と、相手によって言葉も変わります。この記事の文例の早見表で、自分の家に合う例文を選んでから書き始めてください。
Q. パソコンで本文まで作成してもよいですか?
A. 2026年10月時点では、財産目録を除く本文は手書き(自書)する必要があります。パソコンで作った本文は、署名・押印があっても無効です。パソコンで作れる「保管証書遺言」は、改正法で決まったものの、まだ始まっていません。
Q. 一度書いた遺言書を、あとから書き直すことはできますか?
A. できます。前の遺言と食い違う部分は、日付が新しい遺言の内容が優先されます。内容を変えたい場合は新しく書き直し、古いものは破棄するか、撤回する旨をはっきりさせておいてください。法務局に預けている場合は、保管の申請の撤回という手続きもあります(手数料はかかりません)。
Q. 遺言書で全財産を一人に相続させることはできますか?ほかの子どもの取り分はどうなりますか?
A. できます。全文を手書きするなど4つの決まりを守れば有効です。ただ、配偶者・子・親には遺留分があり、受け取らなかった家族はお金で請求できます。子2人で全財産を長男に相続させるなら、次男の遺留分は遺産の4分の1です。兄弟姉妹には遺留分はありません。家族構成ごとの割合は本文の早見表をご覧ください。
Q. 遺言書と異なる分け方を、相続人全員の合意で行うことはできますか?
A. 相続人全員が合意すれば、遺言書と異なる分け方をすることもできます。ただし遺言執行者が指定されている場合や、相続人以外の人に遺贈している場合は確認が必要です。迷う場合は事前にご相談ください。
この話、うちの場合はどうなるか知りたい方へ
「手書きで足りるのか、公正証書にしたほうがいいのか」「この分け方は遺留分にかかりそうか」「自宅保管と法務局保管のどちらが向くか」。30分の無料相談で、決めるべきことの順番を一緒に整理します。当社は遺言書の作成代行や添削は行っていません。文面の作成や確認が必要な場合は、提携の司法書士をご案内します。「今のままで大丈夫」が答えになることもあります。愛知県内は対面・ご自宅への訪問も可、それ以外はオンラインです。
※相談中は折り返しになります。
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参考にした公的情報
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度 手数料」 https://www.moj.go.jp/MINJI/09.html
- 法務省「遺言書の様式等についての注意事項」 https://www.moj.go.jp/MINJI/03.html
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
- 裁判所「遺言書の検認」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html
- e-Gov法令検索「民法」(第899条の2・第902条の2・第1042条〜第1049条など) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索「不動産登記法」第76条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html
本記事は2026年10月時点の法令と、法務省・裁判所の公開情報にもとづく一般的な情報です。個別の税務・法的判断を行うものではありません。改正法の施行日など、今後変わる情報があります。実際に作成するときは最新の情報をご確認のうえ、ご自身の場合の判断は弁護士・司法書士・公証人などの専門家にご確認ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
自筆ではなく公証役場で作る方法を検討するときは、公正証書遺言のデメリット(遺留分・代償金・納税資金)もあわせて確認しておくと、選び間違いを防げます。
