「親のお金の管理、そろそろ考えないと」と感じていても、何から手をつければいいのか分からない――そんな声を、愛知県内で当社が毎日のようにお聞きします。特に多いのが、親が認知症になってから慌てて相談に来られるケースです。実は、認知症と診断されて判断能力が失われると、たとえ家族であっても親の預金を自由に引き出せなくなります。医療費や介護費用が必要になっても、口座が事実上「凍結」されてしまうのです。
この記事では、「親のお金の管理はどうすればいいのか」という疑問に答えるかたちで、親が元気なうちに家族で決めておくべき5つのことを、中立の立場から整理します。金融機関や保険会社が勧める商品をそのまま鵜呑みにするのではなく、「本当に必要なものは何か」「不要なものは何か」を見極める視点でお伝えします。
親のお金が「凍結」されると、実際にどう困るのか
まず、なぜ事前の準備が必要なのかを、具体的な「困りごと」から確認しましょう。親が認知症などで判断能力を失い、金融機関がそれを把握すると、次のような取引が原則としてできなくなります。
- 普通預金の引き出し(まとまった額や名義変更を伴うもの)
- 定期預金の解約・満期金の受け取り
- 不動産の売却(施設入居費用の捻出など)
- 生前贈与や資産の組み替え、保険の契約・見直し
これらは本来、本人の財産を守るための仕組みですが、家族にとっては大きな負担になります。たとえば、親の介護施設への入居費用として親名義の預金を使いたくても、銀行の窓口で本人の意思確認ができなければ引き出しに応じてもらえません。結果として、子どもが自分の貯蓄から立て替えざるを得ないという事態も珍しくありません。この「口座凍結」の仕組みについては、認知症による口座凍結とは?で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
厚生労働省の研究班が2024年に公表した推計では、65歳以上のおよそ8人に1人が認知症、その前段階とされる軽度認知障害(MCI)まで含めると4人に1人を超えるとされています。決して他人事ではなく、どの家庭でも起こりうる問題として、元気なうちに備えておくことが何より大切です。「まだ早い」と思う時期こそ、準備の好機なのです。
家族で決めておくべき5つのこと
📌 家族で決めておくべき5つのこと
1. 親の財産の「全体像」を把握する
まず出発点となるのが、親がどこにどれだけの財産を持っているかを家族で共有することです。預貯金、証券、不動産、保険、そして借入金まで、一覧にしておくと、いざというときに手続きがスムーズになります。金融機関名・支店名・おおよその残高、保険会社名と証券番号、不動産の所在地などをメモしておきましょう。通帳やキャッシュカードの保管場所、ネット銀行・ネット証券のID管理についても確認が必要です。近年はネット口座が家族に把握されず、相続時に「見つからない財産」となるケースが増えています。
「お金の話は縁起でもない」と敬遠されがちですが、相続争いの多くは財産の全体像が不明なことから生じます。元気なうちに親自身の口から聞いておくことが、後々の家族の平穏につながります。エンディングノートや財産目録を活用し、年に一度は内容を見直す習慣をつけると安心です。
2. 日常のお金の管理方法を取り決める
親が高齢になると、通帳の記帳や公共料金の支払いといった日常のお金の管理が少しずつ難しくなります。誰が・どのように管理を手伝うのかを、あらかじめ決めておきましょう。銀行の代理人カードや代理人指名手続きを使えば、家族が一定の範囲で入出金を代行できます。ただしこれらには利用限度額や、本人が元気なうちしか設定できないといった限界もあります。詳しくは銀行の代理人カード・代理人指名手続きとは?で解説しています。親の年金の受け取りを家族が手伝えるかどうかは、認知症の親の年金は家族が受け取れる?で確認できます。
管理を任される家族は、お金の出入りを記録に残しておくことが重要です。「いつ・いくらを・何に使ったか」を通帳やノートで見える化しておくと、他の家族からの不信感を防ぎ、将来の相続時のトラブル回避にもつながります。
お金の出入りを家族がゆるやかに見ていると、警察や役所を名乗る電話のあとの不自然な引き出しにも気づきやすくなります。いま多い手口と、「お金を動かす前に家族に一本電話」という約束のつくり方は高齢者を狙う詐欺の手口2026にまとめています。
3. 判断能力が低下した後の「財産管理の担い手」を決める
認知症が進行した後の財産管理の方法としては、成年後見制度(法定後見・任意後見)や家族信託があります。それぞれメリット・デメリットが異なり、家庭の事情によって適した選択肢は変わります。「とりあえず家族信託」「とりあえず後見」と決めつけず、費用や手間、家族の負担を比較して選ぶことが大切です。任意後見や家族信託は、本人が元気なうちにしか契約できない点に注意が必要です。判断能力が低下してからでは、選べる手段が法定後見だけに狭まってしまいます。
◯ 元気なうち(判断能力があるうち)
✓ 任意後見・家族信託を契約できる
✓ 代理人カード・代理人指名手続きを設定できる
✓ 生前贈与・遺言書など幅広い対策を選べる
✓ 本人が医療・介護の希望を伝えられる
✕ 判断能力が低下した後
✕ 預金の自由な引き出しが原則できない
✕ 定期預金の解約・満期金の受け取りができない
✕ 任意後見・家族信託は新たに契約できない
✕ 選べる手段が法定後見だけに狭まる
4. 医療・介護に関する希望を共有する
お金の話と切り離せないのが、医療・介護の方針です。どこで介護を受けたいか、延命治療を望むか、施設入居の希望はあるか――こうした本人の意向を家族で共有しておくと、費用の見積もりも立てやすくなります。介護には月数万円から、施設によっては月20万円以上かかる場合もあり、資金計画と一体で考える必要があります。本人の希望と資金の両面から、無理のないプランを話し合っておきましょう。
5. 相続・生前対策の方針を話し合う
最後に、相続の方針です。遺言書の作成、生前贈与、生命保険の活用など、対策の選択肢は複数あります。ただし、金融機関で勧められるまま高額な保険に加入するのは慎重に判断すべきです。当社は「不要なサービスは不要」とお伝えする立場から、本当に効果のある対策だけを選ぶことをおすすめしています。そもそも自分の家庭に相続税がかかる規模なのかを把握したうえで、必要な対策を見極めることが第一歩です。
親の通帳やカードを預かって、代わりに引き出してもよいのか
ご家族からよくある質問です。結論から言うと、親御さんが了承していて、親御さんのために使うお金でも、銀行の規約上は問題になることがあります。多くの銀行の預金規定では、キャッシュカードや暗証番号を他人に貸したり、知らせたりしないよう求めているためです。口座が凍結される前でも、本人以外の方による引き出しは、銀行が想定している使い方ではない点を知っておいてください。
- 銀行の制度を確認する:「代理人カード」や代理人届の制度があるかどうかは、銀行ごとに違います。取引銀行の窓口で、親御さんと一緒に聞くのが確実です(代理人カードの解説)
- 記録を残す:引き出した日、金額、使い道を、ノートと領収書に残します
- お金を混ぜない:親御さんのお金と、ご自身のお金は、別の財布・別の口座で管理します
- きょうだいに伝える:金額が大きいときは、ほかのきょうだいにも状況を知らせておきます
記録がないと、親御さんが亡くなったあと、ほかの相続人から「使い込みではないか」と疑われることがあります。争いに進んだ場合は、弁護士の領域になります。疑われないための準備として、いまのうちに記録をつける習慣をおすすめします。
なお、全国銀行協会は、本人の判断能力が低下した場合に、家族の代理で預金を払い出すことを「極めて限定的な対応」としています(2022年5月の考え方)。ここでいう対応は、本人のために必要な医療費や施設費などを、銀行が事情を確かめたうえで個別に判断するものです。家族なら当然に払い出せる、という扱いではありません。預かる前に、次の表で決めごとを確認してください。
| 預かるもの | 決めておくルール | 残す記録 |
|---|---|---|
| 通帳 | 親が了承した範囲で預かる。ふだん使う口座と、使わない口座を分ける | 預かった日、口座の一覧、返した日 |
| キャッシュカードと暗証番号 | 暗証番号は本人が管理する。引き出しを頼まれるなら、銀行の代理人の制度があるか先に聞く | 引き出した日、金額、使い道、領収書 |
| 印鑑 | 預かる場合は、使う目的を親と家族で共有する。重要な契約は本人が窓口へ行く | 押印した書類の写し |
| 家族への共有 | 金額が大きいときは、きょうだいにも先に知らせる | 共有した日と内容のメモ |
財産管理・認知症対策の主な選択肢を比較
表はあくまで一般的な目安です。報酬について、3点だけ補っておきます。①任意後見人の報酬は、契約で自由に決められます(お子さんなどご親族が受任する場合、無報酬とすることもあります)。②ただし任意後見では、後見人への報酬とは別に、家庭裁判所が選任する任意後見監督人への報酬がかかります。この額は家庭裁判所が決めるもので、東京家庭裁判所は、管理する財産額が5,000万円以下なら月額1万円〜2万円、5,000万円を超えるなら月額2万5,000円〜3万円という目安を公表しています(2026年9月時点の公表内容)。③法定後見の成年後見人等の報酬も、家庭裁判所が決めます。同じ目安では基本報酬が月額2万円、管理財産額が1,000万円を超え5,000万円以下で月額3万円〜4万円、5,000万円を超えると月額5万円〜6万円とされています。家族信託の初期費用は、複数の事務所の公開料金を調べた相場です(2026年9月時点)。費用や利用条件は個々の事情や依頼先によって変わりますので、実際の検討にあたっては専門家に相談してください。関連して凍結口座の解除・成年後見や定期預金は認知症になると解約できない?、家族信託のデメリットと費用も参考になります。
元気なうちに進める手続きの流れ
実際に準備を進める場合、次のような流れが目安になります。いきなり制度を契約するのではなく、まず現状把握から始めるのがポイントです。
- 親子で財産の全体像を共有し、一覧(財産目録)を作る
- 相続税がかかる規模か、生前対策が必要かを把握する
- 日常の管理方法(代理人カードなど)を決める
- 判断能力低下後の備え(任意後見・家族信託)を比較検討する
- 必要に応じて専門家に相談し、契約や遺言作成を進める
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親が元気なうちに、何を先に決めるか
ご家族の人数と、だいたいの財産額を選ぶだけです。判断能力があるうちにしか選べない手が、優先順位つきで出ます。
よくある失敗と、避けるためのポイント
当社の相談をもとに再構成した典型例として、次のようなケースがあります。80代の父親が脳梗塞をきっかけに認知症を発症し、施設入居の費用として父名義の定期預金を解約しようとしたところ、銀行から「ご本人の意思確認ができないため解約できない」と断られました。急いで法定後見を申し立てましたが、開始まで数か月かかり、その間の費用は家族が立て替えることになりました。もし元気なうちに任意後見や家族信託を検討していれば、負担はもっと軽くできたはずです。
逆に、必要以上に高額な対策を勧められて後悔するケースもあります。「相続税対策になる」と一時払いの保険を勧められたものの、そもそも相続税がかからない資産規模だった、という例です。対策は「わが家にとって本当に必要か」を起点に選ぶことが重要です。
今日の一歩:もう銀行で「できません」と言われている方へ
この記事の中心は「元気なうちの備え」ですが、すでに断られてしまった方にも、その日のうちにできることがあります。
①支払いを止めない相談を先に入れる。病院や介護施設の費用は、事情を説明すれば支払い時期の相談に応じてもらえることがあります。施設の相談員やケアマネジャーはこうした事情に慣れています。「後見の手続きを進めているので入金が遅れる」とだけ、先に伝えてください。
②銀行に、使いみちを添えてもう一度相談する。全国銀行協会は2021年2月、成年後見制度の利用が基本としたうえで、ごく限定的な対応として、医療費など本人の利益に適合することが明らかな場合には、親族からの払戻し請求に応じることも考えられるという考え方を公表しています。応じるかどうかは各金融機関の判断で、請求書など使いみちが分かる書類の提示を求められます。窓口では「引き出したい」ではなく「本人の入院費(施設利用料)の支払いに充てたい」と、目的と金額を先に伝えてください。
③相談先。お住まいの市区町村の地域包括支援センター(担当センターは市区町村の高齢者福祉担当課で分かります)は、ご家族からの相談も無料で受けています。法定後見の申立てに進む場合、申立先は本人の住所地を管轄する家庭裁判所で、家裁所定の様式の診断書を主治医に書いてもらう必要があります。費用と期間の実際は成年後見の申立てにかかる費用と期間にまとめています。
この段階では、任意後見も家族信託も新たには契約できません。選べるのは法定後見だけです。裏を返せば、親御さんの判断能力がはっきりしているうちだけが、選択肢の残っている時期です。
まず何から始めればいいか
今週できることから書きます。①親名義の通帳・保険証券・不動産の権利証がどこにあるかだけを聞いて、金融機関名と支店名をメモにする(残高までは聞かなくて構いません)。②取引先の銀行に代理人カードの取扱いを電話で確認する。③施設入居や定期預金の解約が視野に入るなら、任意後見か家族信託の相談を、親が元気なうちに入れる。①だけでも、いざというときの動きが変わります。
そもそも相続税や生前対策が必要な規模かを先に確かめたい場合は、相続税・生前対策かんたん診断(無料・登録不要・1分)が目安になります。
よくある質問(FAQ)
親が認知症になったら、家族でも預金は引き出せませんか?
判断能力が失われたと確認された場合、原則として家族でも自由には引き出せません。成年後見人が選任されれば、後見人が本人のために引き出すことは可能です。日常的な少額の払い戻しに応じる金融機関もありますが、対応は各行の判断によります。
元気なうちにできる最も手軽な対策は何ですか?
まずは財産の全体像を家族で共有し、日常の管理方法(代理人カードなど)を決めることです。あわせて、任意後見や家族信託といった中長期の備えも早めに検討しておくと安心です。
家族信託と成年後見はどちらがよいですか?
一概には言えません。不動産の活用や柔軟な承継を重視するなら家族信託、身上監護(施設契約など)も含めて包括的に任せたいなら後見が向きます。費用や手間も異なるため、家庭の事情に合わせて比較検討することをおすすめします。
相談するタイミングはいつがよいですか?
親が元気で判断能力があるうちが最適です。認知症が進んでからでは選べる選択肢が大きく狭まります。「まだ早い」と思う時期こそ、相談の好機です。
親がお金の話を嫌がる場合はどうすればいいですか?
いきなり相続や財産額の話から入ると身構えられがちです。「もし入院したときに困らないように」といった日常の安心を切り口にすると話しやすくなります。エンディングノートを一緒に書く形で、少しずつ共有していくのも有効です。
まとめ
親のお金の管理は、認知症になってからでは打てる手が限られます。元気なうちに、(1)財産の全体像の把握、(2)日常の管理方法、(3)判断能力低下後の担い手、(4)医療・介護の希望、(5)相続・生前対策の方針――この5つを家族で話し合っておくことが、将来の安心につながります。
参考にした公的情報(2026年10月時点)
- 全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について」(2021年2月18日) https://www.zenginkyo.or.jp/news/2021/n021801/
- 全国銀行協会「不測の事態における預金の払出しに関する考え方について」(2022年5月16日) https://www.zenginkyo.or.jp/news/2022/n051602/
銀行ごとの取扱いは異なります。くわしくは定期預金と認知症の解説もご覧ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額計算は税理士にご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の税額計算や保険商品の推奨を行うものではありません。保険のご相談は、全社を比較できる提携の乗合代理店をご紹介します。ご紹介にあたり、当社が紹介料を受け取る場合があります。
