親が亡くなり、兄弟で遺産を分ける話になった。「長男だから多めに」「同居していたのだから」「生前にもらっていたでしょう」。言い分がそれぞれにあって、話がかみ合わない。割合そのものは民法で決まっていますが、何を土台に話すかがそろわないと、話し合いは前に進みません。
この記事では、親が亡くなったときの兄弟の割合を人数別の早見表にしたうえで、もめやすい場面ごとに最初に確かめる資料、話し合いの順番と議事メモの例、まとまらないときの調停までを、2026年10月時点の民法と裁判所の案内で順に整理します。
先に結論:兄弟の割合は等分が出発点。もめたら「資料・順番・記録」で話し合う
この記事の結論
- 割合:遺言がなければ、子どうしの割合は等分です(民法900条4号)。父か母が健在なら、遺産の半分をその親が、残りの半分を兄弟で等分します。
- 法定相続分は目安:相続人全員が合意すれば、違う割合で分けても構いません(民法907条)。生前の援助(特別受益)や介護(寄与分)で調整することもあります。
- もめたら:財産の一覧と資料を全員に配り、決まったことを議事メモに残しながら進めます。それでもまとまらなければ、家庭裁判所の遺産分割調停です。
なお、いまから相続は、兄弟の間に入って交渉したり、代理で話し合ったりすることはできません。争いになっている場合の交渉や代理は、弁護士の仕事です。この記事は、兄弟どうしで話し合うための準備を中心にまとめます。
親が亡くなったときの兄弟の相続割合【人数別の早見表】
民法900条では、子と配偶者が相続人のときは、それぞれ2分の1です。子が何人かいるときは、子の分を人数で等しく分けます。親の遺産を兄弟で分けるときの割合は、次の表のとおりです。
「長男だから多く相続する」という決まりは、今の民法にはありません。長男も次男も、嫁いだ娘も、子としての割合は同じです。長男に多く渡すには、親の遺言か、兄弟全員の合意が必要です。
早見表がそのまま使えない3つの家族
- 先に亡くなった兄弟がいる:その兄弟の子(親から見て孫)が代わりに相続人になります。仕組みは代襲相続とはで説明しています。
- 父の前の結婚の子など、母が違う兄弟がいる:父の相続では、同じ子として同じ割合です。くわしくは異母兄弟の相続をご覧ください。
- 養子がいる:養子も実子と同じ割合です(養子縁組と相続)。
割合を動かす「特別受益」と「寄与分」の計算例
兄弟の間の不公平感は、生前の援助や介護から生まれることが多いものです。民法には、その差を割合に反映させる仕組みが二つあります。生前に受けた援助を差し引く「特別受益」(民法903条)と、介護などで財産を守った分を上乗せする「寄与分」(民法904条の2)です。次の数字は、計算の仕組みを示すための例です。
注意したいのは期限です。相続が始まってから10年を過ぎた遺産分割では、原則として特別受益も寄与分も考えずに、法定相続分で分けることになります(民法904条の3)。「いつか話そう」と先送りしているうちに、主張できる土台がなくなることがあります。介護と寄与分の考え方は、親の介護をしない兄弟と相続の割合でくわしく説明しています。
兄弟でもめやすい・不公平に感じやすい場面と、最初に確かめる資料
もめる場面は家ごとに違って見えますが、多くは次のどれかに当てはまります。感情のぶつけ合いになる前に、右の列の資料を先にそろえると、話の土台ができます。
兄弟の話し合いの順番(6ステップ)
もめる話し合いの多くは、順番が逆になっています。財産の全体が見えないうちに「実家は誰がもらうか」から話し始めると、それぞれが損をしないかだけを考え、まとまりにくくなります。次の順で進めると、論点が一つずつ片づきます。
- 遺言があるか確かめる。公正証書遺言は公証役場で検索を頼めます。法務局に預けた自筆の遺言は、法務局で確かめられます。遺言があれば、まずその内容が土台になります。
- 相続人を戸籍で確かめる。亡くなった方の出生から死亡までの戸籍で、兄弟が知らない相続人がいないかを確かめます。
- 財産と借金の一覧をつくり、資料の写しを全員に配る。預金は残高証明書や通帳、不動産は評価証明書などで、数字の出どころが分かるようにします。借金が多いかどうかの判断には、亡くなったと知ってから3か月という期限があるので、一覧づくりは早めに始めます。
- 調整したい事情を、各自が紙に書き出す。生前の援助、介護、立て替えた費用など、割合に反映してほしいことを出し合います。口頭よりも、金額と時期を書いた紙の方が議論になりにくくなります。
- 分け方の案を2〜3通り出して比べる。そのまま分ける、一人が引き継いでお金で調整する、売って分けるなど。比べ方は遺産分割の方法は4つで表にしています。
- まとまったら遺産分割協議書にする。相続人全員が署名し、実印を押します。書き方は遺産分割協議書の作り方とひな形にまとめています。
やってはいけない順番
- 財産の一覧より先に、誰が何をもらうかを決める。あとから財産が見つかると、決めたことが崩れます。
- 一人が先に預金を引き出して使う。葬儀費用などで急ぐときは、遺産分割前の払戻し制度(同じ金融機関から150万円まで、民法909条の2)を使い、領収書を残します。くわしくは親が亡くなった後の預金引き出しで説明しています。
- 中身を確かめずに協議書へ実印を押す。押す前の確認点は「遺産分割協議書に判子を押して」と言われたらにまとめています。
- 電話だけで話し、記録を残さない。言った・言わないで、次の話し合いが前回の確認から始まってしまいます。
議事メモの例:話し合いのたびに1枚残す
兄弟の話し合いは、1回で終わることはあまりありません。毎回「決まったこと」「決まらなかったこと」「次までの宿題」を1枚に書き、その日のうちに全員へ送ります。次の例は、そのまま書き換えて使える形にしています。
父の遺産についての話し合いメモ(第1回)
日時・場所:2026年○月○日(日)14時〜15時30分、実家(長女はオンラインで参加)
出席:長男○○、次男○○、長女○○(相続人全員)
配った資料:財産と借金の一覧(第1版)、父の通帳の写し(○○銀行・△△信用金庫)、固定資産税の納税通知書
決まったこと:①葬儀費用○○円は、長男が立て替えた分を父の預金から精算する。②実家の値段は、各自が取った資料を持ち寄って次回話す。
決まらなかったこと:実家を誰が引き継ぐか。次男が生前に受けた援助をどう扱うか。
次までの宿題:長男は△△信用金庫の残高証明書を取る。次男は援助を受けた時期と金額を書き出す。長女は実家の固定資産評価証明書を取る。
次回:○月○日(日)14時から、同じ場所とオンライン
※このメモは全員にLINEで送ります。違うところがあれば、3日以内に返信してください。
書くときのコツは三つです。一つ目は、気持ちではなく事実と数字を書くこと。二つ目は、決まらなかったことも消さずに残すこと。三つ目は、宿題に名前と期限をつけることです。なお、このメモは話し合いの記録で、遺産の分け方を決めた書面ではありません。最後は遺産分割協議書にまとめます。
話し合いでまとまらないとき:協議から調停、審判へ
兄弟だけでまとまらないとき、話し合いに応じない兄弟がいるときは、家庭裁判所の遺産分割調停を使えます。調停は、裁判官と調停委員が双方の事情を聞きながら、合意を目指す手続きです。
調停を申し立てる費用の計算例と、弁護士に頼む場合の費用の考え方は遺産分割調停の費用にまとめています。兄弟から調停を申し立てられた側の方は、家庭裁判所から呼出状が届いたらをご覧ください。調停の場で相手と交渉したり、代わりに出席してもらったりするのは、弁護士に頼む仕事です。
話し合いが長引いても止まらない期限
- 相続税の申告(10か月):分け方がまとまらなくても期限は延びません。必要な家は、いったん法定相続分で申告します(相続税の申告期限10か月の数え方)。
- 相続登記(3年):分け方が決まらない間は、法務局への「相続人申告登記」の申し出で義務を果たす方法があります(法務省)。分け方が決まったら、その内容で登記をします(相続登記をしないとどうなる?)。
- 特別受益・寄与分(10年):相続開始から10年を過ぎると、原則として考慮されません。ほかの期限との関係は遺産分割に期限はある?で一覧にしています。
今日できる一歩
親の財産と借金を、分かる範囲で1枚の紙に書き出してみます。銀行名と支店、不動産の所在地、保険、借入れの4つだけで構いません。金額が分からない欄は空欄のままで大丈夫です。兄弟に見せる前の、自分用の下書きとして作っておくと、最初の話し合いでそのまま使えます。
親が元気なうちに、兄弟がもめないための準備ができているか確かめたい方は、3分でできる相続対策診断で確認できます。
よくある質問
兄弟の相続の割合は、必ず法定相続分どおりですか
必ずではありません。法定相続分は、遺言がなく、話し合いもまとまらないときの目安です。相続人全員が合意すれば、違う割合で分けても構いません(民法907条)。合意した内容は遺産分割協議書に残します。
長男が多く相続するのは当然ですか
今の民法では、子どうしの割合は等しく、長男だから多いという決まりはありません(民法900条4号)。長男に多く渡すには、親の遺言か、兄弟全員の合意が必要です。
遺産相続の話し合いに応じない兄弟がいたら、どうすればいいですか
まず財産の一覧と資料を書面で送り、返事の期限を区切ります。それでも応じないときは、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てられます。調停でもまとまらなければ審判に移り、裁判官が分け方を決めます。
生前に援助を受けた兄弟がいて不公平です。考慮されますか
結婚や住宅購入、生計の元手としての贈与は、特別受益として遺産に足し戻して計算する仕組みがあります(民法903条)。ただし、相続開始から10年を過ぎた遺産分割では、原則として考慮されません(民法904条の3)。
兄弟の配偶者が話し合いに加わってもいいですか
同席するかどうかは家族で決めて構いません。ただし、遺産分割の当事者は相続人で、協議書に署名し実印を押すのも相続人本人です。議事メモの出席欄には、相続人とそれ以外の人を分けて書いておくと、あとで混乱しません。
実家や土地を兄弟で共有にしておけば、もめませんか
共有にすると、家全体を売るときなどに共有者全員の同意が必要になり、次の相続で持ち主がさらに増えます。いまはもめなくても、問題を先送りする形になりやすい分け方です。ほかの分け方との比べ方は遺産分割の方法は4つをご覧ください。
参考にした公的情報
- e-Gov法令検索「民法」(900条・903条・904条の2・904条の3・906条の2・907条・909条の2)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - 裁判所「遺産分割調停」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html - 裁判所「寄与分を定める処分調停」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_23/index.html - 法務省「相続に関するルールが大きく変わります(遺産分割前の預貯金の払戻し制度)」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html - 法務省「相続登記の申請義務化について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
※本記事は2026年10月時点の法令と公的機関の公開情報をもとにした一般的な整理です。特別受益や寄与分が認められるか、どの割合で分けるのが妥当かは、個別の事情で変わります。兄弟との交渉や代理、個別の判断は弁護士にご相談ください。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
