遺産分割協議書に、全員の署名と判子がそろった。さて、これをどこへ出せばよいのか。原本を渡してしまって大丈夫なのか。印鑑証明書は何通、いつまでのものが要るのか。ここで手が止まる方は少なくありません。
協議書の提出先は、財産ごとに決まります。不動産は法務局、預貯金は銀行、株は証券会社、相続税は税務署、車は運輸支局です。出し方は窓口ごとに違い、原本を見せて返してもらう所、コピーで足りる所、そもそも協議書を使わない所があります。この記事では、提出先ごとの違いを1枚の表にまとめ、何通作るか、印鑑証明書の期限、実印・契印・割印・捨印の違いまでを、2026年10月時点の公的な案内をもとに整理します。
先に結論:提出先は財産ごとに決まり、原本は返してもらえる所が多い
この記事の結論
- 提出先:不動産は法務局、預貯金は銀行など、株や投資信託は証券会社、相続税は税務署、車は運輸支局です。亡くなった方の未支給の年金には、協議書を使いません。
- 原本かコピーか:法務局は、コピーを添えれば協議書の原本を返してもらえます。銀行は原本を見せ、コピーを取って返してもらう例があります。税務署には写し(コピー)を出します。
- 印鑑証明書の期限:相続登記に使う分は期限がありません。銀行や証券会社は「発行後6か月以内」を求める例があり、車は3か月以内です。
- 判子:署名の横は全員の実印です。2枚以上なら契印も押します。割印と捨印は任意で、捨印は押さないほうが安心です。
協議書の中身の書き方とWordのひな形は、遺産分割協議書の書き方とひな形にあります。この記事は「できあがった協議書を、どこへ、どう出すか」に絞ります。
遺産分割協議書の提出先一覧:原本かコピーか、印鑑証明書の期限
先に一覧です。左から順に、窓口、そこで何をするか、協議書の出し方、印鑑証明書の期限を並べました。同じ協議書でも、窓口が変わると扱いが変わります。
銀行は、協議書とは別に「相続届」などの所定の用紙にも全員の署名と実印を求めることが多くあります。協議書があれば足りる、という話ではない点に注意してください。車の手続きの流れは車の名義変更(死亡・相続)で説明しています。
年金事務所には協議書を出さない
亡くなった方が受け取っていなかった年金(未支給年金)は、遺産分割で分けるものではありません。亡くなった当時に生計を同じくしていた遺族が、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、その他3親等内の親族の順で請求します。添付するのは年金証書、戸籍、住民票などで、協議書は入っていません(日本年金機構)。
そのため、協議書に「年金は長男が受け取る」と書いても、請求できる人の順位は変わりません。請求のしかたは未支給年金の請求方法にまとめています。
原本とコピーはどちらを出す?原本還付のやり方
協議書の原本は、出したら戻ってこない、と思われがちです。実際は、多くの窓口で返してもらえます。返してもらい方が窓口ごとに違うだけです。
法務局:コピーを添えて「原本還付」を頼む
相続登記では、協議書の原本を出します。ただし、申請するときに頼めば、調査が終わったあとで原本を返してもらえます(不動産登記規則55条)。やり方は次のとおりです(法務局)。
- 協議書のコピーを取ります。コピーは自分で用意して持っていきます。
- コピーの余白に「原本に相違ありません。」と書き、申請する人が記名して押印します。
- コピーが2枚以上になるときは、つづり目に契印をします。
- 原本とコピーを一緒に出します。
戸籍の束は、相続関係説明図を添えれば返してもらえます。ただし協議書はこれとは別で、コピーを付けないと返ってきません(法務局の記載例の注記)。また、法務局の案内では、印鑑証明書は原本を返してもらえない書類に挙げられています。銀行などでも使う予定なら、その分は別に取っておきます。申請書の綴じ方は相続登記の申請書の書き方と綴じ方で説明しています。
銀行・証券会社:窓口で見せて、その場で返してもらう例もある
三井住友銀行の案内では、協議書・戸籍・印鑑登録証明書は原本を見せ、銀行がコピーを取って返す扱いです。窓口で順番に回るなら、1通の原本で何行も回れます。郵送で進める場合は、原本を送って後から返送されるか、コピーでよいかが金融機関で分かれます。送る前に電話で確かめてください。
証券会社には、会社から届く所定の依頼書と一緒に出します。三菱UFJ eスマート証券のように、戸籍や印鑑証明書の原本の提出を求める会社もあります。銀行での出し方は遺産分割協議書を銀行に提出するときで詳しく説明しています。
税務署:写しを出し、原本は手元に
相続税の申告では、協議書は写し(コピー)を出します。配偶者の税額軽減を使うときは、写しに相続人全員の印鑑証明書(協議書に押したもの)を添えます(国税庁 No.4158)。原本はそのまま手元に残ります。
何通作るか:相続人の人数分+同時に出す窓口の数
基本は相続人の人数分です。全員が署名と実印を押した原本を人数分作り、1通ずつ持ちます。法務局の記載例も、相続人3人が3通作り、各自1通ずつ持つ形です。
そのうえで、同時に何か所へ出すかで足します。窓口で見せて返してもらう所は、1通を持ち回れます。郵送で同時に出すと、その数だけ原本が手元を離れます。下の表は、よくある3つの形での目安です。
印鑑証明書の取り方と手数料は印鑑登録証明書の取り方にあります。きょうだいに頼むときの伝え方は、相続で「印鑑証明書を送って」と言われたらを参考にしてください。
印鑑証明書の有効期限:登記はなし、銀行は6か月の例
協議書に付ける印鑑証明書の期限は、法律で一律に決まっているわけではありません。窓口ごとの決まりです。2026年10月時点の公的な案内と、各社の案内の例は次のとおりです。
- 相続登記(法務局):期限なし。法務局の記載例は、協議書に押した印鑑の証明書について「作成後3か月以内のものでなくても差し支えありません」としています。
- 銀行:三井住友銀行は「発行日より6ヵ月以内」。金融機関ごとに違います。
- 証券会社:三菱UFJ eスマート証券は、発行後6か月以内の原本を求めています。
- 車(運輸支局):名義を受ける相続人の印鑑証明書は、発行から3か月以内です(国土交通省 石川運輸支局の案内)。
- 税務署:協議書に押した印鑑の証明書を、相続人全員分添えます(国税庁 No.4158)。
取る順番:期限の短い窓口から逆算する
登記にしか使わないなら、早めに取っても困りません。困るのは、6か月の銀行と3か月の車です。協議書の中身が固まり、押印の日が決まってから取ります。そして、期限の短い車と銀行を先に済ませ、期限のない登記を後に回すと、取り直しが減ります。
ただし、相続登記そのものには期限があります。不動産を相続で取得したと知った日から3年以内の申請が義務です(不動産登記法76条の2)。後回しにするのは数週間から数か月の話で、放っておいてよいわけではありません。登記の必要書類は相続登記の必要書類で一覧にしています。
実印・契印・割印・捨印の違いと押し方
協議書に出てくる判子は、主に4種類です。民法は、相続人が協議で遺産を分けられることを定めていますが(民法907条)、協議書の書式や判子の押し方までは決めていません。窓口が求めるのは、全員の実印と印鑑証明書です。残りは、差し替えや書き換えを防ぐための工夫です。
契印と割印は、呼び方が混ざっている
一般には、1通の中のページどうしにまたがるのが契印、別々の書類どうしにまたがるのが割印、と分けて呼びます。ただ、法務局の案内にも「契印(割印)」と並べた書き方があり、呼び方は混ざっています。言葉より「どこに押すか」を相手と確かめるほうが確実です。
なお、登記の申請書が2枚以上になるときは、つづり目に必ず契印をするよう法務局の記載例に書かれています。こちらは協議書ではなく申請書の話で、申請人が複数いても1人が押せば足ります。
捨印は押さないほうが安心な理由
捨印は、欄外に「〇字削除 〇字加入」と書いて直すための判子です。押し直しの手間は減りますが、押した本人が見ていない所で直される余地が残ります。協議書は全員の合意そのものです。誤りが見つかったら作り直して押し直すほうが、あとで疑いが生まれません。
捨印を頼まれたら、「誰が、どんな訂正に使うのか」を先に聞いてください。白紙や空欄のある書類に押さないことも含め、押す前の確認点は「遺産分割協議書に判子を押して」と言われたらにまとめています。
押す順番と、家族の分担
- 代表者が、同じ内容の協議書を人数分(または必要な通数)印刷し、ページ順に綴じます。2枚以上ならホチキスか袋とじにします。
- 全員が、全ページを読んでから署名し、実印を押します。押す前に全ページの写真を撮っておくと安心です。
- 2枚以上なら、全員がページのつなぎ目に実印で契印を押します。
- 割印を押すなら、全通を少しずらして重ね、全員が押します。
- 作成日は、最後の人が押した日にそろえます。
- 印鑑証明書は、協議書の中身に納得してから同封します。
遠方の相続人へ郵送で回すときは、1通を順番に回すより、人数分を同時に送るほうが安全です。1通しかないと、途中でなくしたときに全員が押し直すことになります。
やってはいけない順番
- 中身が固まる前に、全員の印鑑証明書を集めてしまう。話し合いが長引くと、銀行の6か月を過ぎて取り直しになります。
- 1通しかない原本を、郵送で何か所にも同時に出す。手元に1通も残らず、返送を待つ間ほかの手続きが止まります。
- 法務局にコピーを付けずに原本を出す。協議書の原本が返ってきません。
- 全員に捨印を押してもらってから中身を詰める。白紙に判子を押してもらうのに近く、あとで不信のもとになります。
- 協議書で年金の受取人を決めようとする。未支給年金は、生計を同じくしていた遺族の順位で決まります。
提出先が多く、どの順番で回るか決めきれないときは、30分の無料相談で、財産の一覧を見ながら回る順番を一緒に整理できます。愛知県内はご自宅への訪問もできます。その場で何かをお決めいただく必要はありません。
今日できる一歩
紙に「不動産・預貯金・株・車」と書き、それぞれの横に提出先と、その窓口の印鑑証明書の期限を書き出します。期限の短い窓口には電話して、「協議書の原本は返してもらえるか」「郵送ならコピーでよいか」の2点を聞いておきます。この2つが分かれば、協議書を何通作るかが決まります。
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よくある質問
遺産分割協議書はコピーを出してもいいですか
税務署にはコピー(写し)を出します。法務局は原本を出し、コピーを添えて原本を返してもらいます。銀行は原本を見せ、コピーを取って返してもらう例があります。郵送でコピーを受け付けるかどうかは金融機関ごとに違うので、送る前に確かめてください。
遺産分割協議書に付ける印鑑証明書の有効期限は
相続登記に使う分は期限がありません(法務局の記載例)。銀行は発行日から6か月以内を求める例があり(三井住友銀行)、車の名義変更は3か月以内です。提出先ごとに違うので、期限の短い窓口に合わせて取ります。
遺産分割協議書は何通作ればいいですか
相続人の人数分が基本です。各自が1通ずつ持ちます。郵送で何か所にも同時に出すなら、同時に出す数に、手元に残す1通を足した数を作ります。窓口で見せて返してもらうなら、1通で順番に回れます。
割印は必ず押さないといけませんか
割印の押し方を決めた法律はなく、割印がないことだけで協議書が使えなくなるわけではありません。複数通が同じ内容だと示したいときに押す、任意のものです。一方、2枚以上の協議書の契印は、差し替えを疑われないよう全員の実印で押しておくと安心です。
捨印を押してと言われました。押すべきですか
任意なので、断ってかまいません。捨印があると、本人が押し直さなくても訂正できる余地が残ります。誤りが見つかったら作り直してもらう、と伝えれば足ります。どうしても必要と言われたら、誰がどんな訂正に使うのかを聞いてから決めてください。
年金の手続きにも遺産分割協議書は要りますか
未支給年金の請求には使いません。生計を同じくしていた遺族が、決まった順位で請求します。添付書類は年金証書、戸籍、住民票などです(日本年金機構)。
参考にした公的情報
- 法務局「不動産登記の申請書様式について」
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/minji79.html - 法務局「登記申請書(相続・遺産分割)の記載例」
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001470094.pdf - 法務局「相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等」
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001393744.pdf - e-Gov法令検索「不動産登記規則」(55条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018 - e-Gov法令検索「民法」(907条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - 国税庁 No.4158「配偶者の税額の軽減」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm - 国土交通省 北陸信越運輸局 石川運輸支局「相続による移転登録の必要書類」
https://wwwtb.mlit.go.jp/hokushin/ishikawa/car_pattern/car-pattern48.pdf - 日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/kyotsu/jukyu/20140731-01.html - 全国銀行協会「預金相続の手続に必要な書類」
https://www.zenginkyo.or.jp/article/tag-f/7705/ - 三井住友銀行「遺言書がなく、遺産分割協議書がある場合」
https://www.smbc.co.jp/kojin/souzoku/tetsuzuki/case03.html - 三菱UFJ eスマート証券「相続手続き 必要書類」
https://kabu.com/support/souzoku/required.html
※本記事は2026年10月時点の公的機関と事業者の公開情報をもとにした一般的な整理です。必要書類、原本の扱い、印鑑証明書の期限は、金融機関・証券会社・窓口ごとに異なり、変わることがあります。実際に出す前に、提出先の案内をご確認ください。協議の内容や登記・税金の個別の判断は、司法書士・弁護士・税理士にご相談ください。当社は協議書の作成や各窓口への提出を代行しません。
本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。
