認知症の親の家を売るには|後見人の許可と家族信託の違い【2026年】

親が施設に入り、実家は空いたままです。固定資産税の通知書が届くたびに、売ることが頭に浮かびます。けれど名義は親のままで、親は契約の話を理解するのが難しくなってきました。家族が代わりに売ることはできるのでしょうか。

✅ この記事の結論

  • 親が売買の内容を理解できない状態では、家族が代わりに売ることも、親に署名だけさせて売ることもできません。契約が無効になるおそれがあります
  • 売るなら、家庭裁判所で成年後見人を選んでもらい、「居住用不動産の処分の許可」を得ます。施設に入って今は住んでいない家も対象です
  • 親が元気なうちなら、家族信託で「家を売れる形」にしておく道があります。認知症が進んでからは結べません
目次

家を売れるかどうかは「親の今の状態」で決まります

家の売買は、売る本人が内容を理解して決めることが前提です。民法は、意思能力がない状態でした契約は無効と定めています(民法第3条の2)。登記を担当する司法書士や仲介する不動産会社も、売主本人の意思を確かめます。会話が成り立たないと判断されれば、取引は進みません。

親の状態 家を売る方法 注意点
売買の内容を理解し、意思を伝えられる 親が売主として売買契約を結ぶ。家族は手伝う 日によって状態が違うときは、診断書などで確かめることがある
元気なうちに家族信託を結んである 受託者(子など)が、信託契約の範囲で売る 契約書に「売却できる」と書いてあるか、信託の登記があるかを確認
判断する力が失われている 成年後見人が選ばれ、家庭裁判所の許可を得て売る 許可なしの売却は無効。申立てから売却まで数か月かかる

やってはいけないこと:代筆・署名の誘導・白紙の委任状

親の代わりに家族が名前を書く。親の手を持って署名させる。以前に預かった委任状を使う。どれも後で問題になります。買主から契約の無効を主張されたり、ほかの相続人から使い込みを疑われたりするからです。急いでいるときほど、正規の道を選んでください。

成年後見人が家を売る流れ:家庭裁判所の許可まで

成年後見人は、本人に代わって財産を管理する人です。ただし、本人が住んでいた家やその敷地を売るときは、家庭裁判所の許可が要ります(民法第859条の3)。売却のほか、貸す、抵当に入れる、建物を取り壊す場合も同じです。許可を得ずに処分すると無効になります(裁判所の案内)。

順 やること だれが 必要なもの・目安
1 後見開始の申立て 家族(申立人) 医師の診断書、本人情報シート、戸籍など。多くは2か月以内に結論が出る(令和7年の統計で約71%)
2 後見人が選ばれる 家庭裁判所 親族が選ばれたのは約16%。司法書士・弁護士などの第三者が選ばれることが多い
3 売却の準備 後見人 不動産会社の査定書、売買契約書(案)、登記事項証明書、固定資産評価証明書
4 居住用不動産の処分許可の申立て 後見人 収入印紙800円と郵便料。売る必要を示す資料。査定より安く売るなら理由の説明書
5 許可の審判、売買契約、決済・登記 後見人・買主 売却代金は本人の財産として、後見人が管理する

2026年10月時点。申立ての細かな運用は家庭裁判所ごとに違います。大阪家庭裁判所の案内では、事前に家庭裁判所へ連絡して交渉を始め、取引が成立する直前に申立てる流れです。愛知県内は名古屋家庭裁判所の案内をご確認ください。

気をつけたいのは、後見は家を売り終えても続くことです。原則として本人が亡くなるまで続き、後見人への報酬もかかります。家族の判断だけでやめることはできません。費用と期間は成年後見の申立て費用はいくら?で確認できます。

親の家をどうするか、順番を整理したい方へ
売る、貸す、そのまま持つ。どれが合うかは、親の状態、家の名義、施設費用の不足額で変わります。30分の無料相談では、いまの状態でどの道が使えるかを整理して、次に集める書類までお持ち帰りいただけます。愛知県内は対面で、ご自宅への訪問もできます。それ以外の地域はオンラインです。
電話は、相談中は折り返しになります。

2026年6月に後見制度の法改正が成立しました

2026年6月17日に成立し、24日に公布された民法等の改正で、後見と保佐の制度はなくなり、「補助」に一本化されます。本人に必要な範囲だけ権限をつける形になり、必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、制度を終えられる方向です。家を売るためだけに使って終える、という使い方がしやすくなると見込まれます。

ただし、施行日は公布から2年6か月を超えない範囲で政令が決めるとされ、まだ始まっていません。いま売る必要がある家庭は、現行の制度で手続きを進めます。

元気なうちなら、家族信託で「売れる形」にしておけます

家族信託は、親(委託者)が子など(受託者)に財産の管理や処分を任せる契約です。法務省のパンフレットでも、認知症に備える財産管理では親族間の信託が有効とされています。契約書に「不動産を売却できる」と定めておけば、受託者が家庭裁判所の許可なしに売れる仕組みです。

比べる点 成年後見人が売る 家族信託で売る
始められる時期 判断力が失われた後でも申立てできる 親に契約する力があるうちだけ
売る人 家庭裁判所が選んだ後見人 親が決めた受託者(家族)
家庭裁判所の許可 居住用不動産は必ず必要 信託の契約には不要
主な手間・費用 申立て費用、後見人への報酬(本人が亡くなるまで) 契約書づくりと信託の登記の費用。専門家の報酬は事務所ごとに違う
注意点 家族の希望どおりの人が選ばれるとは限らない 登記が必要。受託者は帳簿をつけ、自分の財産と分けて管理する義務がある

家族信託は、すでに親が契約できない状態になってからでは結べません。デメリットは家族信託のデメリット、後見との比較は家族信託で資産凍結を防ぐ方法でまとめています。

売る前に確認しておくこと

  • 名義と権利関係:登記事項証明書で、名義が親だけか、共有者や抵当権がないかを確かめます
  • 売る理由の記録:施設費用の不足額など、売る必要を数字で説明できるようにしておきます
  • きょうだいへの説明:売ると決める前に、状況を共有します。売却代金は親のお金として扱い、家族が受け取りません
  • 売却後の税金:マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除には、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る、という期限があります(国税庁)。あてはまるかは税理士にご確認ください

売らずに持ち続ける、貸す、という選択もあります。貸す場合も、本人の居住用不動産なら家庭裁判所の許可の対象です。空き家の管理は空き家にする前の生前対策、住み替えの全体像は高齢者の住み替え費用2026をご覧ください。

今日できる一歩

  • 法務局で登記事項証明書を取り、家の名義と共有者、抵当権の有無を確かめる
  • 親の今の状態を、主治医やケアマネジャーに聞いて書き留める(会話は成り立つか、日による差はあるか)
  • 施設費用の不足額を、毎月いくらか計算してみる

よくある質問

Q1. 親が施設に入っていて、家は空いています。それでも許可が要りますか。

要ります。裁判所の案内では、現に住んでいる家だけでなく、入院や入所で今は住んでいなくても、将来住む可能性がある家や、入所前に住んでいた家も居住用不動産に含まれます。

Q2. 親が元気なうちに、委任状を書いてもらえば売れますか。

元気なうちに、内容を理解したうえで本人が書く委任状であれば、有効な場合があります。ただし、使う時点で本人の意思が確認できないと、不動産会社や司法書士が取引を進められないことがあります。より確実なのは、家族信託や任意後見の契約です。

Q3. 後見人には家族がなれますか。

候補者として家族を書くことはできますが、決めるのは家庭裁判所です。令和7年の統計では、親族が選ばれたのは約16%で、約84%は第三者でした。

Q4. 許可が出ないことはありますか。

裁判所は、売る必要性を示す資料をもとに審理します。必要性が説明できない場合や、価格の説明がつかない場合は、追加の資料を求められたり、許可されなかったりすることがあります。資料は早めにそろえてください。

参考にした公的情報(2026年10月時点)

2026年10月時点の一般的な情報です。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。

本記事は司法書士 今井 裕司(愛知第1112号/簡裁認定 第118116号)監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の事情による判断は、専門家にご確認ください。

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この記事を書いた人

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