親と同じ家に住む子世帯で、「世帯分離をすると介護の費用が下がるらしい」と聞くことがあります。世帯分離は、住所はそのままで、住民票の「世帯」だけを分ける届け出です。
ただ、下がるのは条件がそろったときだけで、施設の食費・居住費の軽減は配偶者の収入や預貯金も見られます。この記事では、届け出のやり方と、介護保険料・施設の費用・国保などへの影響を、2026年10月時点の公的な案内で整理します。
先に結論:分けて下がるのは「親の世帯が住民税非課税になる」とき
この記事の結論
- どこへ:住んでいる市区町村の住民票の窓口に「世帯変更届」を出します。手数料はかからず、分かれた日から14日以内が期限です。
- どう変わる:親の世帯が住民税非課税になると、介護保険料の段階や、介護サービスの月の自己負担の上限(44,400円→24,600円など)が下がることがあります。施設の食費・居住費の軽減は、別世帯の配偶者の収入や預貯金も見て決まります。
- いつから:介護保険料は4月1日時点の世帯で決まるため、変わるのは翌年度からです。食費・居住費の軽減などは、別に申請しないと変わりません。
世帯分離とは:同じ家のまま、住民票の世帯を分ける届け出
住民票の「世帯」は、住まいと生計(生活費のやりくり)を一緒にしている単位です。同じ家に住んでいても、親は自分の年金で、子は自分の給料で暮らしているなど、生計が別なら別の世帯として届け出られます。北九州市は、住所が変わらずに子が生計を別にした場合を、届け出が必要な例に挙げています。
反対に、暮らしの実態が変わらないのに届け出だけを出すことはできません。北九州市は「実態を伴わない届出は認められません」としています。保険料を下げることだけを目的にすると、窓口で生計の様子を聞かれることがあります。
同居を始めるかどうかの考え方や、同居したときの住民票の扱いは、親の介護は同居か別居かでも整理しています。
介護のお金はどう変わるか
65歳以上の介護保険料、介護サービスの月の自己負担の上限、施設の食費・居住費の軽減は、どれも「本人の世帯に住民税を払っている人がいるか」で区分が変わります。親が非課税でも、同じ世帯の子が課税なら、親は「課税世帯」として扱われます。世帯を分けると、親の世帯だけで見られるようになります。
ただし、親本人が住民税を払っている(年金などの収入が多い)場合は、世帯を分けても区分はほとんど変わりません。親が非課税かどうかの目安は、年金暮らしの住民税非課税の目安で確かめられます。
65歳以上の介護保険料
保険料の段階と金額は市区町村ごとに違います。本人の年金収入などが年82.65万円以下の人で比べると、世帯に課税者がいるかどうかで、年額が次のように変わります。
名古屋市など愛知県内の保険料は、65歳以上の介護保険料はいくら?にまとめています。
介護サービスの月の自己負担の上限(高額介護サービス費)
1か月に払った介護サービスの自己負担が上限を超えると、超えた分が払い戻されます。上限は世帯の課税状況で変わります。
施設の食費・居住費の軽減(負担限度額認定)
特別養護老人ホームなどの食費・居住費は、住民税非課税世帯で預貯金が基準以下の人だけ、軽減を受けられます。この判定では、世帯が別でも配偶者の収入を合わせて見ます。夫婦の一方が課税なら、子と世帯を分けても対象になりません。
実際の1日あたりの金額や、特養の月額の目安は老人ホーム・介護施設の費用2026で計算しています。
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国民健康保険・後期高齢者医療への影響
医療保険の保険料も、世帯の組み合わせで変わることがあります。介護だけで判断せず、こちらも一緒に確かめます。
- 75歳以上の親(後期高齢者医療):保険料は一人ひとりにかかります。ただし保険料の均等割の軽減は、同じ世帯の被保険者全員と世帯主の所得の合計で判定し、4月1日時点の世帯で見ます(東京都の案内)。所得のある子が世帯主のままだと、軽減に当たりにくくなります。
- 国民健康保険:保険料は世帯ごとに計算し、世帯主に届きます。軽減の判定には、国保に入っていない世帯主の所得も含めます(西宮市の案内)。分けると判定に使う所得の顔ぶれが変わります。
- 1世帯ごとにかかる額がある市区町村:国保の保険料に「平等割」(1世帯ごとの定額)がある場合、親と子がどちらも国保なら、分けたあとは両方の世帯にかかります。合計の保険料が増えることがあります。
- 70歳以上の医療費の上限:高額療養費にも「住民税非課税世帯」の区分があります。世帯が変わると区分が変わることがあります。
どの保険料がどう動くかは、家族の年齢や加入している保険で変わります。窓口では「介護保険の担当」と「国保・後期高齢者医療の担当」の両方に聞くと確実です。
世帯分離の手順と持ち物
- 家計が本当に分かれているか確かめる。食費・光熱費・家賃を誰がどこから払っているかを整理します。
- 分けた場合の影響を先に聞く。市区町村の介護保険の担当と国保の担当に、親と子の課税状況を伝えて、段階や保険料がどうなるかを聞きます。
- 新しい世帯主を決める。分けたあと、親の世帯の世帯主は多くの場合、親本人です。
- 住んでいる市区町村の窓口で世帯変更届を書いて出す。横浜市のように、住んでいる区の区役所でしか受け付けない市もあります。
- 保険の書類の差し替えを確かめる。国保や後期高齢者医療に入っている人は、資格確認書などを持っていくよう案内している市があります(北九州市)。
- 必要な申請を続けてする。施設の食費・居住費の軽減や、介護サービスの払い戻しは、別の申請が要ります。
窓口に持っていくもののチェックリスト
- □ 窓口に来る人の本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど)
- □ 代理の人が出すときは委任状
- □ 国保・後期高齢者医療に入っている人の資格確認書など(市区町村の案内に従う)
- □ 親と子それぞれの生活費の分け方を説明できるメモ
※北九州市は、従来の健康保険証は2025年12月2日から、住民基本台帳カードは2026年1月1日から、本人確認書類として使えないとしています。
届け出できるのは、本人、世帯主、本人と同じ世帯の人です。同じ世帯の人が出すときは委任状は要りませんが、それ以外の代理人は委任状が必要です(横浜市)。届け出に手数料はかかりません。同じ日に住民票の写しを取るときは、その分の手数料がかかります(北九州市)。
期限と、届け出ただけでは変わらないこと
世帯変更届の期限は、世帯が分かれた日から14日以内です(横浜市・北九州市)。住民基本台帳法には、正当な理由なく届け出ない場合の過料(5万円以下)の定めがあります。分けると決めたら、早めに出します。
自動では変わらない・申請しないと受けられないもの
介護保険料は4月1日時点の世帯で段階が決まり、年度の途中で世帯が変わっても、その年度の保険料は変わりません。変わるのは翌年度からです(世田谷区・秋田市)。
施設の食費・居住費の軽減は、申請して認定を受けないと適用されません。多くの市区町村で毎年8月に更新があります。
介護サービスの払い戻しは、初めの1回は申請が要るとする市区町村が多くあります(仙台市は原則初回のみ)。
ほかにも、分けたあとに気づきやすい点があります。
- 同じ世帯でなくなるため、子が親の住民票の写しを取るときに委任状を求められることがあります。
- 介護保険料の通知や納付書は、親の世帯あてに別に届きます。誰が管理するかを決めておきます。
- 勤め先の家族手当・扶養手当は、会社の決まりで「同一世帯」を条件にしていることがあります。就業規則で確かめます。
- 介護サービスを使う人が同じ世帯に2人以上いる場合、世帯で合算していた上限が別々になります。
今日できる一歩
- 親の「介護保険料額決定通知書」を出して、今の段階を見る。
- 親と子、それぞれの住民税が課税か非課税かを、住民税の通知書で確かめる。
- 市区町村の介護保険の担当に電話して、「世帯を分けた場合、来年度の段階はどうなるか」を聞く。
世帯分離と「扶養」のちがい
世帯分離と扶養は、よく混ざって語られますが、別の制度です。住民票の世帯を分けたことだけで、扶養から外れるわけではありません。
健康保険の被扶養者で、同居している親の場合は、収入が被保険者の収入の半分未満であることも条件です。別居なら、仕送りの額より親の収入が少ないことが条件になります(日本年金機構)。
よくある質問
同じ家に住んだままで世帯分離できますか
生計が別なら、同じ住所のまま届け出られます。北九州市は、住所が変わらずに子が生計を別にした場合を届け出が必要な例に挙げています。生計が一緒のままでは認められません。
夫婦で世帯を分けられますか
同じ家に住む夫婦は、原則として別の世帯にできないとする市があります(北九州市)。また、施設の食費・居住費の軽減では、世帯が別でも配偶者の収入を合わせて判定します。
世帯分離したら、介護保険料はいつから下がりますか
介護保険料の段階は4月1日時点の世帯で決まります。年度の途中で分けても、その年度の保険料は変わらず、翌年度から反映されます(世田谷区)。親本人が住民税を払っている場合は、分けても段階はほとんど変わりません。
親の代わりに子が届け出られますか
世帯主や同じ世帯の人なら、委任状なしで届け出られる市があります(横浜市)。それ以外の人が代わりに出すときは委任状が要ります。
あとで世帯を元に戻せますか
戻すときも、同じく世帯変更届(世帯をひとつにする届け)を出します。家計を一緒にした日から14日以内が目安です。保険料などは、戻したあとの世帯で改めて判定されます。
参考にした公的情報
- 横浜市「世帯分離(世帯変更届)」https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/koseki-zei-hoken/todokede/koseki-juminhyo/todokede-touroku/jyumin/setai-bunri.html
- 北九州市「世帯変更届」https://www.city.kitakyushu.lg.jp/shimin/14900061.html
- 厚生労働省「補足給付の現状について」(2026年5月)https://www.mhlw.go.jp/content/12303500/001716641.pdf
- 仙台市「利用者負担の軽減」(2026年度版)https://www.city.sendai.jp/kaigohoken-kanri/kurashi/kenkotofukushi/korenokata/kaigohoken/kisojoho/documents/07_genmen_r8.pdf
- 目黒区「65歳以上のかた(第1号被保険者)の介護保険料」https://www.city.meguro.tokyo.jp/kaigohoken/kenkoufukushi/koureisha/65ijo.html
- 横浜市「65歳以上の方の介護保険料」https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/fukushi-kaigo/koreisha-kaigo/kaigo-hoken/kaigo-hoken-hiyo/kaigohokenryo.html
- 世田谷区「65歳以上の方の介護保険料」https://www.city.setagaya.lg.jp/02061/2287.html
- 東京都保健医療局「後期高齢者医療制度 保険料の軽減策」https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kenkou/kokuho/kouki/keigennsaku
- 西宮市「国民健康保険料の軽減」https://www.nishi.or.jp/kurashi/kokuminkenkohoken/hokenryo/keigen/kokuho-keigen.html
- 日本年金機構「従業員が家族を被扶養者にするとき」https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20141202.html
- 国税庁「所得税基本通達2-47(生計を一にするの意義)」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/01/07.htm
※本記事は2026年10月時点の公的機関の公開情報にもとづく一般的な整理です。世帯分離が認められるかどうか、保険料の段階や軽減の扱いは、市区町村や家族の事情で異なります。届け出の前に、住んでいる市区町村の窓口でご確認ください。
本記事はFP(ファイナンシャル・プランナー)・生命保険募集人 門田 博之監修のもと、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の税額の計算や法的な判断は、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
